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いつか回帰できるまで 第九話 悪夢が望みし夜明け

『おのれっ』

 男は毒づく、彼がここに来てどれほど時間がだったというのだろう?
 神に封じられ、この結界の中で幽閉されてから。

『忌々しい』

 怨霊は闇の中で唇をかむ。

『我を生み出しておきながら、我を切り離すか。我は己の分身ぞ』

 神に張られた結界は幾重にも重ねられ、解放を許さない。
 時が来れば解放される物ではない。『神の分身であり怨霊』という存在故に、括り付けられ解放されることはない。

『我は影、神格を得た貴様に存在を定義され抜け出せぬ』

 幽閉されることも彼の意識を著しく怒りに駆り立てる。

『京での戦いの時も、貴様の文珠が我の意識を奪い、我が覚醒し不安定な内に、メフィスト達を逃した』

 かつては京の鬼と恐れられ、魔神アシュタロスに仕えていた。
 だが、怨霊はほどなくして捕らえられた。

『憎し憎し憎し憎し……っ!! おのれ天神、おのれメフィストっ!!』

 結界の壁に拳をたたきつける。
 結界はさざ波を立てただけでほどなくして静けさを取り戻す。

「くそっ」

 吐き捨てる声は短い。
 何百、いや、何千回と繰り返してきたその行為の無意味さを改めて噛みしめたからだ。

「おのれぇっおのれ天神っ!!」

 新たな憎悪に身を焦がしながら怨霊は眉をつり上げていく。

 ほどなくして大きな溜息がもれだしていた。

「口惜しい……我を縛るこの縁が」

 怨霊の脳裏にかすかな記憶が蘇る。

「なれば、どうする?」

 かすかな自問と共に怨霊は思索に耽りだしていた。

「我が我として在るためには」






〜 いつか回帰できるまで 第九話 悪夢が望みし夜明け 〜






「おっけー、お互いそこそこ把握できたわ。申告漏れとかないわね?」

 状況・戦力の確認を終えて美神が面々に念を押す。

「大丈夫よ。むしろ、お姉ちゃんが聞いたそばから忘れてないでしょうね?」

 ひのめが素早く返答する。

「……あんた、可愛げ無くなったわね」

「4歳児の時と一緒にしないでよ」

 肩をすくめるひのめに美神も苦笑を浮かべるだけだった。

「じゃ、チーム決めて時間稼ぎ班に合流でいいわね?」

「了解でござるっ」

「あ、私、シロと違って直接戦闘は自信ないからパスさしてね」

「タ、タマモ?」

 タマモは全くひるまない。

「だってさぁ、下手に掴まったりしたら後が大変でしょ? こういうのははっきり言っておく方がいいの」

「確かにね」

 タマモがコメントに美神の後頭部に冷や汗が浮かびカクッとコケかけたのもつかの間のことだった。

「あ、俺は急に体調が……」

 赤バンダナの男が急に己の腹を押さえてうずくまろうとした瞬間、亜麻色の髪をなびかせ般若が振り返る。

「ほー?」

「あ、いや、美神さん? ちょ? まっ!!」

 瞬間、鮮血が虹のような弧を描きながら虚空を閃いていた。





「じゃ、みんな準備は良いわね?」

 美神が全員を見回す。

「えーと……」

 青ざめた絹香が冷や汗を流しながら祖父を見下ろしていた。
 心なしか足下が赤い液体の水たまりができあがっている。
 モザイクのかかった肉塊を彼女の祖父と呼んで良いものか悩み所ではある。

「兄ぃにがいきなりダメージ負ってるのは良いの?」

「そこのバカはもう忘れてしまえっ!!」

 さして心配した様子のないひのめの問いかけに半眼の美神は柳眉を逆立てていた。

「だ、大丈夫なの?」

 恐る恐る絹香が問いただす。

「ねぇ絹香、兄ぃにの生命力を甘く見ちゃ駄目よ。忠彦の、父さんの……父親なのよ」

「そ、そっか、それなら大丈夫かも?」

「あんたの旦那って、一体どんな扱い受けてるのよ」

「概ねお姉ちゃんが兄ぃににしてたのと似たようなモンよ」

 シレッと答えるひのめにシロとタマモが青ざめて身を寄せ合っている。

「ま、真でござるかっ?」

「うっわー、不っ憫〜」

「あんたらは一体何をイメージしとるかぁっ!!」

 美神がビシィッと地面に神通鞭を叩きつけたのもそこそこに、二匹はプイッと逃げるようにそっぽを向いていた。

「ったくっ、で、一つ聞きたいんだけど絹香ちゃんとひのめの炎って重ねたら効果上がる?」

「え? うん、同時攻撃とかやったことあるし」

「絹香との相性は良いわよ? 鉄くらい溶かせるし、多分そっちとも悪くないんじゃないかしら?」

 ひのめがタマモを見ながら楽しげにウィンクしてみせる。
 それを受け美神はニッと笑っていた。

「おしっ、おキ……じゃなかった、絹香ちゃん、隙を作るから思いっきりかましてやってっ」

 言って、美神は拳で顔を殴るジェスチャーをする。

「え?」

 思わず呆気にとられる絹香を置いて、ひのめに向き直る。

「ひのめ、タイミングは任せるから」

「分かったわ」

「さぁ、横島クンっ、タマモ、準備は良い? 手順は文珠やら何やらで説明した通りよっ!!」

「た、多分大丈夫です」

 鼻血を押さえつつ横島がむっくり起きあがっている。

「オッケー任せてっ」

「じゃ、そこまでアドリブっ!!」

 美神達は陣形を整え、忠彦達が激戦を繰り広げる戦場を向き直る。

「にしてもさ」

 美神が横目で横島を見ながら声をかける。

「な、何すか?」

「あいつ、何しに来たのかしらね?」

 視線で道真の方を示す。

「へ? いや、あいつアシュタロスの敵討ちに来たんじゃ?」

 鳩が豆鉄砲を食らったような顔の横島を美神が不満そうに見ている。

「今更なのよ。胡散臭いと思わない?」

「それは美神さんの見方が偏ってるだけなんじゃ?」

 横島のコメントに軽く溜息付きながら美神は肩をすくめる。

「ま、何事もなきゃぁいいのよ」

 美神は神通鞭を臨戦態勢に構えると、視線の先にある道真を睨み付けていた。

「っしゃぁ行くわよっ!!」

 かけ声と共に各々は得物を手に駆けだした。





「主よっ!! 汚れたる背信者に裁きの光をっ!! アーメンッ!!」

 実体化したバンパイアハーフの聖言による霊力が重ねて飛ぶ。

 ギィッ!!

 展開する障壁にかすかな揺らぎが現れる。

「そこかぁっ!!」

「遅いっ」

 道真の右腕から小規模の雷光が放たれる。照準にいたはずのピートは一瞬早く全身を霧化させていた。

「くぅっ!!」

 同時に横合いから鋼鉄の娘が重苦しい音を立て右腕を構えていた。

 ガキョンッ

 手首から収納式マシンガンが飛び出す。

「……ファイア」

 ガガガガガガガガガガガッ!!

 それが一気に金属の弾丸を吐き出していた。
 ピートが与えた障壁に揺らぎを強引にこじ開けていく。

「ちぃっ!! どんな仕掛けをすればこんな霊力のある鉄塊がっ」

 毒づく暇もあらばこそ、弾幕の切れ間、正面に更に空を切る轟音が響き渡る。

 ゴッ!!

「うおりゃあああああああっ!!」

 二人の死角から飛び出すのは漆黒の霊気鎧、顔面色をなす道真に特攻をかけ、障壁の隙間から鉄拳をたたき込む。

「ぐふぅっ!!」

 道真の体がくの字に折れ曲がった。

「このっ!!」

 だが、憎悪に歪んだ目がギロッとにらみ返し、扇子を持つ右腕を跳ね上げていた。

「おっとぉっ!!

 忠彦はすかさずバックステップで距離を置く。
 霊力で強化された扇子は空しく空を切っていた。

 忠彦達は全ての攻撃を必殺の意志を込めて道真に叩きつけている。
 容易に障壁を弱めるわけにはいかなかった。
 現状でさえ、完全に打破するに至ってはいない。
 防御力が桁違いのアンドロイドに霊気鎧、その上、バンパイアハーフである。
 さしもの道真にとってもおいそれと退けきれるものではなかった。
 しかも余力を考えずに仕掛けてきている。
 美神達の存在が分かっている以上、無闇に全開での攻撃を仕掛けられないジレンマに道真は身悶える。

『くそ、メフィストさえいなければ距離を取ってやりたいところだが、今更、しかもよりにもよってこの時にっ』

「目障りだ貴様らぁっ!!」

 こめかみに青筋を浮かべ道真が絶叫する。叫びと同時に障壁が消え、怨霊の全身を雷光が迸った。
 かすかに中を浮く道真がマリアとの間合いを一気に詰める。

『『隙ありっ!!』』

 霊気鎧とダンピールが同時に意志を固める。

 ザッ

 互いの視線を確認し合って道真の三方を取り囲む。
 霊気鎧とアンドロイドが足を止め、ダンピールが実体化し、同時に道真に全力を放たんとした瞬間に全員の動きは止まっていた。
 道真の半径数メートルは発光する網のようなもので円を描かれていた。

「な、なんだこれは?」

 忠彦の全身を霊力の網のようなものが絡め取っていた。

「金縛りっ!?」

 ピートも同じく光る網に囚われて身動きが出来ない。顔中ににじむ汗が焦りを象徴していた。

「ノー・障壁ノ変形・霊力ノ繊維・挟マレテイマス」

 淡々と答えるマリアを捉える網も徐々に輝きを増してくる。

「正解だ。お前ら雑魚ごときにコレを使わされるとは不愉快な……失せろぉっ!!」

 カッ!!

 雷光に似た輝きが網膜を焼く。

「がぁっ」

「ぐっ!」

 魔装が解けた忠彦と、白目をむいたピートが全身を仰け反らせ硬直し、そのまま背中からドサッと地面に沈む。

 ガシュンッ

 唯一立つ影は黒くすすけたマリア、片膝をつきつつも右腕を道真に向けようとしていた。

「しぶといな」

 さして興味もなさそうに道真は扇子を放つ。ブーメランのような弧を描きマリアの右腕をかすめていた。

 ゴトッ ドシンッ

 その右腕が重い音を立て、地面に沈み込むとマリアも前のめりに倒れ込んでいた。
 ピー、ガー、ジー、と不穏な音を立て、マリアはピクリとも動かない。

「ふんっ」

 道真の三者をグルッと見下ろす。

「もっともよくここまで粘ったものだ。とどめをくれてや……」

「待たせたわね道真っ!!」

 だが、道真にとっては喜ばしくない状況は続く。

「ちぃっ」

 道真が振り返った先には美神達GS達が殺到していた。

「メフィスト」

「さぁて、覚悟はオッケーかしら? まぁそっちがどうだろうとイヤでも退場してもらうけどね」

「生意気な口を」

 美神と道真のやりとりをよそに駆け出す人影がある。

「うおりゃああああああぁぁぁっ!!」

 先陣切って駆けていくのは霊波刀を具現化させた横島だった。

「小僧っ!!」

 鋭い眼光を向けてくる怨霊の脇を、横島はそのまま走り抜けていった。

「……」

 全員が置き去りにされたまま十数メートルほど駆け抜け、彼はクルッと振り返って手を振っていた。

「よしっ!! みんな後は任せたぞっ!!」

「お前も戦わんかぁああぁぁぁっ!!」

 全員がコケる中で美神だけが律儀にツッコミを入れていた。

「あ、ああぁぁあぁぁぁぁ」

 かろうじて体を起こしながら絹香が頭を抱えている。

「ったくっ、シロ合わせてっ!!」

 美神は叫びながら神通鞭を道真に向かって鋭く振るった。道真の胴に鞭がしなう。

 キィッ!!

「効くかっ!!」

 嘲りと力を込め、障壁が光を放つ。
 だが、霊力同志のせめぎ合いを座して待つような状況ではない。

「おぉおおおおおおぉぉぉぉっ!!」

 すかさず銀髪をなびかせるまま少女の姿をした狼が大地を駆けていた。
 障壁とせめぎ合う鞭の先端へ、鞭と等しい俊敏さで鋭い霊力の切っ先が切り込んでいく。

「りゃああぁぁあぁぁああぁあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 ギィンッ!

「ぐっ」

 金属同士がぶつかり合うかのような硬質な音を背景に障壁を支える道真の全身に苦渋の色が浮かぶ。

「ここでもう一丁っ!!」

 突如響く男の声があった。

「なにっっ!?」

 驚愕の声が漏れいでた。
 目の前には先ほど通り過ぎていったはずのバンダナ青年がいる。

「蜂のように刺〜すっ!!」

 道真の背後から回り込むように現れ、霊力せめぎ合う障壁に重ねて霊波刀をたたき込んだ。

 ゴッ!! ギィッ

「ぐっ!! まだ完調ではないかっ」

 先ほどの戦いより弱い光しか持たない障壁に道真は毒づく。
 霊力せめぎ合う障壁の亀裂が瞬く間に裂け、思わず後ずさる道真からシロと横島は追撃をかけずサイドステップする。
 横島は忠彦のそばへ、シロはピートのそばへ移動していた。

「ピート殿っ」

 襟首掴んで呼びかけるとかすかに反応はあるらしいかった。

「やれっ!! 絹香ちゃんっ!!」

 横島は一声叫ぶと体を捻って見せる。

「せぇぇぇっ!!」

 開いた空間から高速の何かが道真を追いかけていく。
 凛としたそれでいて可憐さを思わせる声が霊鞭と共に大気を切り裂く。

 ヒュッ

 空気の壁を突き破り、音速でしなう絹香の炎の鞭が無防備な顔面を捉える。

 パァンッ!!

「がぁっ!!」

 道真は苦痛と言うより憤怒に顔を歪ませる。

「このっ!!」

「燃えろっ!!」

 怒りを隠そうともせず睨み付けようとした瞬間、すでに視界は紅蓮に染まっている。

「ガァッ!!」

 絹香の隣で指先を突きつけたひのめの声が響き、収束した炎が打鞭箇所にたたき込まれる。
 仰け反った道真の顔面に炎が残る中、飛びかかるのは金髪の少女だ。

「こいつも食らえっ!」

 体の回りに無数の火球を生み出していたタマモが着弾点を違わずたたき込んでいた。

「がっ!! 貴様らぁっ」

 度重なる炎と霊力の衝撃にたたらを踏む道真の視界に小さな何かが飛んでくる。

 それは何の変哲もないガラスの小瓶。

 炎の隙間から見たそれに一瞬意識を奪われてしまっていた。

「何だ?」

「おまけよっ!!」

 美神の声と共に疾る神通鞭が小さな何かを、瓶詰めの何かを叩き割り爆裂させる。

 パァァァァンッ!!

 赤色の飛沫が道真に降り注いでいた。

「ぐわぁぁああぁぁぁあぁぁっ!!」

 道真が両手で目を押さえて仰け反っていた。

「どーよ? 七味唐辛子爆弾の味は?」

 底意地の悪い笑みを浮かべた美神が神通鞭をパアンッと引き延ばしながら仁王立ちしていた。

「うっわぁ……」

 青ざめた横島が思わず後ずさる。

「き、効くの? あれが」

 絹香は思わず、隣にいる母に尋ねていた。

「んー、考えてみれば霊薬の原料になりそうな物も入ってるし、効能的にはアリなのよねぇ」

 半信半疑の絹香に、ひのめが顎に手を当て感心を示す。

「まー、ともあれ忠彦起きなさ〜い」

 そういってペシペシと亭主の頬を叩いていた。
 そんな美神一家のそばで青ざめた横島が恐る恐る口を開いていた。

「それ一体どこから持ってきたんスか?」

「あー、さっきマリアの持ってたタッパーからガメといたのよ」

 美神は軽くウィンクしてみせる。
 そして、親指で道真を指し示す。

「あいつは人間ベースの魔族だからね。無意識だけど肉体をイメージするの。目で物を見てるのもその名残よ」

 ニッと笑いながら美神は人指し指を立てる。

「で、復讐しようって奴は。裏返せばプライドの固まりよ。そんな奴がコケにされて大人しくしてると思う?」

「おのれ、おのれぇえぇぇぇぇぇっ愚弄しおってぇっ!!」

「あぁっそれっそれよっ♪ あんたのその声聞くために、ど・ん・だ・けっ、苦労したことかっ」

 美神は両手を握りしめて恍惚の表情を浮かべていた。
 それがもっとメルヘンなシーンであればどれほど見る物を癒すことが出来ただろう。

「ホントに楽しそうだなこの人……」

 ダラダラと冷や汗流す横島が後ずさっていた。他者の反応も推して知るべしである。

「おのれっ!!」

 道真は赤く張らした両目で美神の姿を認める。その周囲にひのめと絹香らがいるが彼には関係ない。
 そちらに向かって印を切った。

「わが最大の雷撃でもって貴様を屠ってくれるっもはやこれをかわす術などあるまいっ!!」

「かかった。下がって絹香ちゃん、ひのめちゃんっ!!」

 道真の視線を確認し小さく声を漏らす。

「で、でも」

「いいからっ!!」

「絹香引くわよっ」

 ひのめが素早く絹香と忠彦を引っ張って離脱する。

「消し炭になるがいいっ!! もはや時間移動も意味はないっ!!」

「道真っ、てめぇの負けだっ」

 バシュッ

「バカな!?」

 道真が見ていた美神の姿がかき消え、予想だにしない人物がその場に現れる。いるのは上下デニムの赤バンダナをした男。

「何故っ!?」

 離れた場所、マリアの傍でタマモが呟く。

「あんたみたいな強力な魔物に複雑な幻術は無理だけど」

 ニッと笑う。

「視界が曖昧なら、『追いたい人間の姿をすり替える』なんて簡単よ」

「ぬぅっ」

 既に照準された的に目がけて全力の雷撃が放たれた。
 轟音を伴い空間を浸食するかのように白光が駆け抜けていく。

「くっ!!」

 道真の顔が苦渋に歪む。

「うりゃああぁぁぁぁっ!!」

 横島の霊波刀が金色の輝きを帯びる。文珠が二つ栄光の手に重なって凄まじい閃光を放っていた。

 ザムゥッ!!

 栄光の手に仕込んでいた二つの文珠『雷』『切』が光を放つと、雷を切り裂いた。

 名刀・雷切。戦国武将・立花道雪が雷神を切り伏せたと言われる刀の銘である。

 美神からのイメージ共有で確固たるアイデンティティを備え、雷神に相克の威力を発揮する。

「往生せいやぁぁぁぁっ!!」

 絶叫と共に、全力攻撃で無防備となった道真の懐に切り込んでいく。

 ズッ、シュゥッ!!

「なっ!! ぐぬあぁあぁぁぁっ!!」

 袈裟懸けに振り下ろされる栄光の手が道真の肩から腰を凪ぎ、鳩尾あたりを貫通したまま止まった。

「ぐ、この、ぐぉぉぉぉっ!!」

 道真が壮絶な形相で目の前の横島を睨み上げる。

「ま、まだ生きとんのか? だーっ、しつこいっ!!」

 突き刺さった霊波刀を斬り進めることも、引き抜くことも出来ず。横島ももがく。

「く……不覚」

 苦り切った目で見上げてくる道真の体から力が失われていく。
 空をもがく手が小さく震えガクッと垂れ下がった。
 道真の全身が塵に変わり、風に融ける。

「よ、よかったぁ〜……」

 霊波刀を鎮めて、横島がヘタッとその場に座り込んでいた。

「それにしても『雷』『切』ですか、確かに複数文珠に霊波刀、横島さんならでは武器を道真の相克に出来ますね」

 ようやく体を起こせたピートが感心した声で呟く。

「でも……雷切の持ち主・立花道雪が雷を切り裂いた後、半身不随になったって話はしてたんですか?」

 冷や汗を張り付けつつ、美神に確認していた。

「なぬっ!?」

「そんなの省いてるに決まってるでしょ?」

 美神はさも当然と言わんばかりの顔である。

「あんた、なんちゅうとこを省いてくれやがってるんやああああっ!!」

「それにね」

 ペチッと横島の額を軽く叩いて楽しげに笑う。

「このバカが道真の雷で黒焦げになってるところは想像できなかったし」

 軽くパチッとウィンクしていた。

「み、美神さん」

 グッと振り返り。

「それはもう俺への愛の告白と……っ!!」

「どこがどうなったらそう言う結論を導き出せるんじゃおのれの脳味噌はっ!!」

 ゴガッ

 握り拳が飛びかかる横島を空中で撃退していた。

「つつつ……ん?」

 地面と熱い抱擁を交わしたのもつかの間、肩越しに横島の背筋に寒気が走った。

 霊感に障る予感、この手の予感は大抵良くない予兆である。

「く、くくくく、よもやこうくるとはな……」

 電光迸る右手が横島の肩をガシッと掴んでいた。

「へ?」

 ギギギッと油の切れた人形のような動きで横島は振り返る。

 そこには先ほど塵になったはずの怨霊がいる。
 下半身は蛇の胴体が如く変じて、横島に巻き付いていた。

「いっ!?」

「小僧……」

 道真の全身が光を帯びていく。

「げっ!!」

「もはや是非も無い貴様は道連れよっ!!」

 道真が血走った目で横島を強く睨みつけていた。

「い、いやぁぁぁぁぁっ!! おっさんと心中はいやああぁぁあああああぁぁぁぁっ!!」

 背後から組み付かれ、必至にふりほどこうとするが最後の力とばかりに平安貴族は離れない。

「くっくっく、くくくっ、はーはっはっはっはっはっはっはっ!!」

「だぁあっ!! 離れろっはぁあなぁぁれぇろぉぉっ!!」

 泣きながらジタバタ暴れる横島に構わず、道真の全身に雷が収束していく。

 カッ!!

 二人を中心に周囲を閃光が焼いた。

「お、おじいちゃんっ!!!!!」

 何もない。そこには何事もなかったように横島一人が立っている。
 道真の影はなく、そこに居たことすら嘘のようだった。

「おじいちゃんっ」

 呼びかけに反応はない。ただ一つ、はっきりした何かがあった。
 絹香や周りの人間に汗を滲ませるだけの何かがある。

「何? この霊感に障る感じ……」

 青ざめたひのめが呟く。

「奇遇ね。あたしもそうなのよ」

 気楽そうに美神も答えるが寒気を堪えるその表情に余裕は見えない。

「くっくっくっくっく、やはり……」

 横島の口から漏れてきたのは彼本来の声と異なる。暗く低い声だ。

「おじい……ちゃん? 嘘、そんな、これって?」

 絹香の呆然とした声がその場全員の思いを代弁しているといって良かった。
 横島から障気に似た黒い気配が立ち上っていた。

「ふふふふふ、馴染むっやはり馴染むぞこの体はっ、ふぁーっはっはっはっはっはっはっ!!」

 両手を広げ、哄笑をあげる。驚喜に歪めた笑い声が周囲を満たしていった。

「まさか、まさか道真の目的って」

 美神が脂汗を滲ませていた。

「こういう強硬手段はとりたくなかったのがな。リスクがゼロでない以上、もっと慎重にいきたかったのだがな」

 ニヤッと笑う顔に横島の気配はない。

「さぁ、ここからが……我に始まりぞ」

 黒く染まった笑みを浮かべ。禍々しい霊気が場を圧倒し始めていた。
こんばんわ。長岐栄です♪
遅くなってしまいましたっ、『いつか回帰できるまで』第九話をお届けいたします。
何とか七夕投稿ですわ
さて、今回投稿が遅れた理由なんでしょう?
1.忙しかった
2.ネタにつまった
3.逮捕・拘留さ(ry

……さて、今回は道真の狙いが明らかにっ……なったのかなぁ (´・ω・` )
では、レス返しをば

>アミーゴさん
いやいや、感じたことがあれば書いていただければオッケーなので焦らずに♪
おキヌちゃんは今回出番無しですのぉ……せっかく七夕なのに〜

>wataさん
楽しんでいただけて何よりです♪
今回の裏技は好評で何よりっ、横島とおキヌちゃんはどうなるのかっ。次回も乞うご期待ですっ

>akiさん
平安メンバー揃ってましたねぇ
そーいやヒャクメ様ってどこいったんでしょ?
いや、そんな忘れてだなんてそんなこと……そんなこと……(焦っての方向を見つめつつ

>びくとるさん
原作的裏技感楽しんでいただけましたでしょうか?
やはり、美神のバトルは反則御免ですからね♪
今回も楽しんでくださいな

>とおりさん
お待たせいたしました♪
反則の続きです。原作に負けず劣らずの反則をしたかったのでこの評価がホントに嬉しいです。
九話も楽しんでいただけましたでしょうか?

道真の狙いが明らかに……さぁ、GS達はこの事態を覆すことができるのか? でわでわ、十話をお待ちくださいませ♪

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