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テイルコンチェルト




 ジャーザバザバザバ…


「ふぅ…これで終わりっと…」

 夕食で使用した皿の山を片付け終えた明が、手を拭きながらリビングへ戻ってきた。
 リビングでは、初音がソファに寝そべりながらテレビを見ていた。

「なんだ、古いアニメやってるんだな」

 初音がソファを占領しているので、ソファに背もたれつつテレビを眺める明。

「んー…懐かしのアニメ大特集だって」

 明の言葉に初音が答える。
 テレビには古くから人気のある、青色の狸型ロボットが映っていた。

「ほ〜…。
 にしても俺らにしては懐かしいと言うか…見たこと無いな…」

 対象年齢が高めなのであろう、気付けば明の知らないアニメに切り替わっていた。
 今流れているアニメは、ピンク色の金魚が空を飛んでいるアニメであった。

「おいしそう…」

 じゅるり…と、よだれを垂らしつつ初音が言う。

「いや、その感想はどうかと思うぞ…」

 それに今メシ喰ったばっかだろ…とツッコミを入れる明。

「デザートは別腹だよ」

「アレをデザートか…」

 呆れながら呟く明であった。






くー…ぽふんっ…くー…ぽふんっ…


 しばらくすると、明の背後から微かな寝息が聞こえて来ていた。
 それに合わせるように、明の後頭部に何かが当たって来る。

「なんだ…って尻尾か…」

 明が後ろを振り向くと、初音はソファの上で犬耳と尻尾を出した状態で寝息を立てていた。
 どうやら寝ぼけて半分変化しているようだ。

「ったく…まぁいいや、テレビ終わるまでほっとこう…」

 そう呟くと、明はテレビに視線を戻した。


『お前の弱点は知っておるわ、ほぉれ』

『ち、力が抜けるぅ…』


 明がテレビに視線を戻すと、そこでは明も知っている有名なアニメが流れていた。
 場面はキツネのお面を付けた対戦相手が、主人公である少年の尻尾を掴んでいるシーンであった。
 どうやら主人公は尻尾が弱点で、掴まれると力が抜けてしまうようだ。

「…尻尾…ねぇ…」

 『尻尾を掴む』と言うところから、明は何か思うことがあったらしい。
 そう言えば先ほどからぽふぽふと、明の後頭部に当たっているのは初音の尻尾である。

「…そういや、こいつの尻尾ってどうなってるんだ?」

 よくよく考えれば、初音の尻尾は合成能力によって作り出されたモノだ(犬耳もだが)。
 尻尾は普通、人間には存在しないものである。
 柔らかいんだろうか?硬いんだろうか?それとも意外とスカスカしてたり…?
 いや、先ほどから後頭部に当たっていたから、それなりの質量はあるはずだが…。

「…………」

 じぃぃぃ〜っと、初音の尻尾を見つめる明。
 明が見つめている間も、パタパタと左右に振られている。

「…今まで詳しく見たこと無かったが…綺麗な毛並みしてるんだな…」

 改めて初音の尻尾を観察した明が呟く。
 確かに、初音の尻尾は美しい毛並みをしていた。
 美しい脚で『美脚』という言葉があるが、美しい尻尾だと『美尾』であろうか。

「…触ってみるか…?
 いや…でも…駄菓子菓子…」

 人間とは面白いものである。
 してはいけないこととわかっていればいるほど、してみたい衝動に駆られてしまう。
 最終的にそれを抑えることが出来るかどうかで、その後の人生が変わっていくのであるが…。

「…まぁ…尻尾だからな…触ったところで何があるわけでも…」

 自分に都合のいい介錯で、ワキワキと初音の尻尾に手を伸ばす明。
 ちなみに、これが一番悪いパターンである…。


もふもふ…


 恐る恐る初音の尻尾に触れる明。
 さわり心地は本物の犬と同じで、きめ細かな体毛までも作り出されていた。

「ん…」

 触られている感覚までもあるのだろうか、寝ている初音が小さく身じろぐ。

「っと…」

 尻尾から手を離す明。

「ん〜……すー…」

「…大丈夫だな…」

 寝息を立てる初音に安心し、なおも尻尾に触れていく。


 撫でる

 握る

 丸める

 毛を逆撫でる


 一度禁を破ってしまえば、なかなか止めることが出来ないのが人間と言うモノ。
 それは明も同様で、初音の尻尾を触るのを止めれなくなってしまっていた。

「んふぅっ…」

 初音が大きく息を吐いて身体を起こす。

「あ…悪い、起こしちまったか」

 尻尾から手を離し、初音に言う明。

「………」

「どうかしたか?」

 ぽや〜んと、何処か焦点の合わない目を向けてくる初音に明は問う。


「……明のえっち」


 顔を上気させつつ明へ言う初音。

「はっ!?」

「……初音が寝てる間に尻尾いじってたでしょ」

「あ、あぁ…。
 でもそれがなんで…」

 尻尾を触ったぐらいでなんだ…と言った感じで聞く明。

「う〜…。
 じゃあもう一回触ってみて、そしたらわかるから」

 そう言いつつ初音は明へ尻尾を向けた。

「あ、あぁ…」


きゅっ…


 本人の許可も得たこともあってか、明はしっかりと初音の尻尾を握る。

「じゃ、じゃあ尻尾消すから、そのまま握っててね」

 一瞬、ぴくりと身体を震わせてから初音が言う。

「わかった」

 うなずく明。
 すると、右手に握っていた初音の尻尾が、徐々に細くなりながら短くなっていく。
 そして、尻尾の根元である『尻』に吸われるように消えていった。
 尻尾を握っていた明の右手は、当然ながら初音の『尻』を……。


「……まさか……俺が触ってた尻尾の感覚は全部……」

 自分がした行動の意味を理解して固まる明。

「…明のえっち…」

「いや、これは知的好奇心と言うかだな……」

「明のえっち」

「だ、だから…」

「責任取ってね?」

 にこりと、満面の笑みで言う初音。

「…もう好きにしてくれ…」

 諦めた風に、しかしいつかこうなる事をわかっていたかのように明は言うのであった。




 コメリカには『Curiosity killed the cat』と言うことわざがある。
 直訳すると『好奇心、猫を殺す』。
 意味は『余計な好奇心を出して失敗すること』。

 さて、明が好奇心を出してしまった初音の尻尾…。
 実際のところ初音は『自分から』明の後頭部に尻尾を当てていたのだが…。
 これが寝ぼけてなのか、それともわざとなのかは本人のみぞ知るところである…。



(了)
おばんでございます、烏羽です。
久々な感じがする、明と初音ネタでございます。
最近忙しくてなかなか書けずじまいで…。
ちくしょーっ仕事なんかに負けるか〜!
明と初音への愛は不滅なんや〜!!(血涙)

と言うわけで短いですが楽しんで頂ければ幸いです。

ちなみに、途中で出てくる『美尾』と言う言葉は造語です。
『美脚』と言う言葉(これも造語っぽいですが)から連想して考えた言葉です。
なので美尾さんとも何の関係もありませんのであしからずw

もちろん、タイトルも同名のゲームとの関係もありません(ぇ
そのゲーム大好きですけどw

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