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tea break 〜 絶チル 90th sense.より 〜

※ 「絶対可憐チルドレン 90th sense. 面影(2)」(07/27号)
 のネタバレが含まれています。未読の方はご注意下さい。

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    《配役》



 夕刻、皆本宅にて。

 リビングルームでテレビを見ていた葵が、ふと隣の薫に話しかけた。
「なあ。Bの5の衣装やけど。何にする?」
「Bの5? ああ、悪霊退治用かあ。ここはやっぱ巫女服だろ!」
「うーん。ウチはシスター服なんかも捨てがたいと思うけど」
 話題は最近ようやく様になってきた「サイキック・コスチュームチェンジ」の衣装について。お互いそれなりにこだわりがあるようで、あーでもないこーでもないと意見を交わすがなかなか決まらない。
 そうこうする内に話がずれてきた。
「ほら、巫女さんって下着着けてないんだろ? くーっ、それがいいんじゃねーか!」
「いや、襦袢ってもんがあるし。それに、ウチはノーパンなんていややで」
「……一体、何の話をしてるの?」
 キッチンからやって来た紫穂が呆れ気味に声をかけてきた。手にしたトレーには三人分のグラスとペットボトルを載せている。
「おっ。サンキュー、紫穂」
「悪霊退治用の服を何にするか話しとったんや」
「本当に用意しておくの? 私は別にいらないと思うんだけど……」
 葵の返答に紫穂はちょっとひきつりながら、それでも手際よくグラスにジュースを注いで二人に手渡す。 
「大体、悪霊なんてアニメの中だけの存在でしょ?」
 そう言う紫穂の視線の先にはテレビの画面。ちょうど悪霊退治を題材にした一昔前のアニメが再放送されていた。
「わからへんで。ほら、インパラヘンの巫女さんみたいなのもおるし」
「本当の幽霊がいてもおかしくないよなー」
 とか言いながら、両手を顔の前にたらして「うらめしや〜」のポーズをとる二人。
「こ、怖いこと言わないでよ、二人とも」
 子供じみた脅かし方も紫穂には有効なのか彼女はますます怯え、自分のグラスにジュースを注ぎ損ねそうになる。
 それを見て反省したのか、一転、薫は明るい表情で紫穂に意見を求める。
「ま、そんな訳で、巫女服とシスター服、どっちがいいと思う?」
「コスプレみたいなもんやと思えばいいから」
「そ、そう? コスプレねえ。なら――」
 そこで言葉を切り、紫穂はしばらく思案顔をする。そして何気なく目をやった先にはまたも先程のテレビアニメ。画面の中ではきわどい服を着た若い女が悪霊相手に得物を振り回している。
「――あのアニメのキャラと同じ格好っていうのはどう?」
「え? これの?」
「ああ。ウチらと一緒で、これも主役が三人組やな」
 紫穂の言わんとする所が分かった葵がポンと手を打つ。
「それじゃ、派手な格好のねえちゃんと、バンダナのにいちゃんと、あと巫女さんやな。どう振り分ける?」
 葵の言葉に、残りの二人はしばらく黙考する。
 数秒後、先に口を開いたのは紫穂だった。
「お金が好きな葵ちゃんは――えーと、この服『ボディコン』って言うの?――この人で、セクハラが好きな薫ちゃんがバンダナの人で、私が残った巫女さんっていうのは?」
 さっきの仕返しなのか、さらりと酷い事を言いつつ、しかも自分だけはまともそうな役を選んでいる。ちなみにアニメの巫女さんは実は紫穂が苦手とする幽霊なのだが、その辺りはアニメのキャラのしかもコスプレという事で割り切っているようだ。
「残り物とか言っておいしい所を取ってるじゃねーか!」
「お金好きやからって、なんでウチがあんな格好……」
 紫穂に食って掛かる薫とは対照的に、アニメの女主人公と同じ格好をした自分を想像した葵は少しげんなりする。
 普段は大人扱いを主張するものの、あの半裸の衣装は流石に今の年齢にはそぐわない。
 その様子に、期せずして紫穂と薫の視線が葵の身体の一点――正確には二点――に集中する。
「そうね。ボディコンに眼鏡は合わないし、第一その大きさじゃあ……」
「シリコン入れてもそれだもんなあ……」
「なっ! あの服着ればあんたらだって似たようなもんやろ! ってか、悪質なデマを流すなー!!」
 失礼な物言いに激昂して二人に躍り掛かりそうになる葵。
 だが、そうした所でますます二人にからかわれるだけだと考え、ぜえぜえと荒い息を吐きながら気を落ち着かせた。
 深呼吸を一つして、話の流れを戻す為に自分の案を出す。
「じゃあ、腹黒い紫穂がボディコンで、セクハラが好きな薫がバンダナで、ウチが残った巫女っつーのは?」
 やっぱり、こちらもさらりと酷い事を言いつつ、自分だけはまともそうな役を選んでいる。
「葵ちゃんも残り物とか言って、いい役どころ取ってるじゃない」
「セクハラ好きだからって、なんでまたあたしがバンダナに……」
 冷静に指摘する紫穂とは対照的に、今度は同じ理由で同じ役を割り振られた薫が打ちひしがれていた。
 セクハラ好きは否定しないが、あの「ちちしりふともも」と叫ぶようなバンダナ男と一緒にされたのはこたえたようだ。
 そして、そんな薫の様子に、期せずして葵と紫穂が同時に口を開く。
「そやかて、やってる事がそっくりやし」
「だって、してる事がそっくりじゃない」
「ぐっ!」
 二人の主張に反論できず、薫は言葉を詰まらせる。
 そして、気を取り直して自分の配役案を出そうとする。
「じゃ、じゃあ、私が巫女さんで……」
「キャラが全然違うやん」
「キャラが全然違うと思う」
 案は即座に却下された。
「……どちくしょー!!」
 泣き叫びながら、薫は二人の前から逃走したのだった。

     *   *   *

 結局、「巫女さんしかいい役がない」という事でアニメのコスプレはなかった事になったが、これがきっかけとなって悪霊退治用の衣装は三人揃いの巫女服に決定したとかしないとか。





     ― END ―
絶チルの世界では『GS美神』がアニメ放送されているそうなので、それから思いついた幕間劇です。

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