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GS物語 〜除霊の代償〜 後編

 

 昨日と違い、昼過ぎまで寝ていた。
 慣れない事務仕事をしていたせいもあって、絶好調な夢は見ていない。布団を抱き枕のように抱え、だらしなく涎を垂らしている。

「横島さん……起きてください、横島さん」

 体を揺すられ、顔を上げた。だが何も見えない。

「誰?なにも見えんが」

「見えるワケないでしょ。その気持ち悪いアイマスク外してくださいよ」

「寝起きに男の顔見るの嫌なんだよ」

 言い終わらないうちに、再び横になった。

「起きてくださいよ。僕だって仕事で来てるんですから」

 背広のポケットに入れていた書類を、横島の顔に当たるようにヒラヒラと振った。

「何も見えんぞ」

「だ・か・ら!アイマスクとってくださいって!!」





 トイレからでてくる。口には歯ブラシを突っ込んだままであった。
 
「め、まんももうまも」

 言葉(?)と同時に歯磨き粉を飛ばした。

「なんて言ってるのか分かりませんよ。ちゃんと濯いでから言ってください」

 ICPOオカルトGメンの制服に身を包んだ金髪の男が、呆れたようにそういった。
 手にしたコップでうがいをすると、それをそのまま飲み干す。金髪の男は思わず顔を歪めた。

「あいかわらず生真面目っつーか、融通利かねぇなぁ。そいつ脱いで身軽になってみたらどうよ?ピート」

 まだ泡のついた歯ブラシで制服をさしてみせると、ピートは胸のバッジに手を当てた。

「僕はこれに誇りを持っていますから、これでいいんです」

「んなこといったって、西条のバカは私服じゃねぇか」

 台所にコップと歯ブラシを置いた。

「西条先輩はいいんです。支部長ですから、いろいろとあるんです」

「美智恵さんも、オカGにいるときは制服だったじゃねぇか」

 コンロにかけていたヤカンの湯を、ペーパーフィルターにかける。コーヒーの匂いが、部屋の中を漂った。

「飲む?」

「あ、いただきます」

 サーバーに溜まったコーヒーを二つのカップに注ぎ分け、一つをピートに手渡した。
 コーヒーに口をつけたのを確認すると、応接用のソファに腰をおろした。

「で、貴重な俺様の睡眠時間を妨げた用事はなんなのよ」

 コーヒーに口をつけると、タバコを咥えた。

「用件はこれです。会長と日本支部に苦情がきてます、反省文通告書です」

 テーブルの上に、先ほどの書類が置かれた。手に持っていたタバコを咥えると、書類を手元に引き寄せる。

「あぁこの件ね。やっぱりきたか」

「やっぱりって……分かっててやったんですか?依頼者のプライバシーを侵害してるんですよ」

「だってあの女、一筋縄ではいかねーんだもん」

 通告書を目の前でヒラヒラと動かしてみせると、そのまま後ろに放った。ピートは思わず溜息を漏らす。

「いいんですか、無視して。西条先輩、息巻いてますよ。『これであいつの免許は剥奪だ〜』って」

「いいんじゃない、やらせておけば。後がむちゃくちゃ怖いと思うけどさ」

 紫煙を天井に向けた吐き出す。

「……美神元支部長の依頼ですね、その余裕は。まぁ先輩には一応報告だけはしときますね」

 ソファにふんぞり返ったまま、目線だけピートに向けた。

「報告はするなよ。美智恵さんに事後報告して、後でおしおきしてもらうから」

「そういうわけにはいきませんよ。横島さんの報告もあるし」

 ピートが立ち上がろうとすると、横島もソファから体を起こした。

「んじゃ、ちゃんと“事実”を報告しろよ。横島に買収されたって」

「いつ僕が買収されましたか!」

 テーブルに両手を叩きつけ、声を荒げた。

「いつって、さっき」

「さっきって……」

「お前、俺が勧めたコーヒー飲んだじゃん。いやぁ〜さすがピート君♪コーヒー一杯で自分を罰するとは、さすが公務員の鏡だねぇ〜」

 満面の笑みを浮かべながら、コーヒーに口をつけた。ピートは何か言葉を発しようとしたが、諦めるように溜息をつきソファに座った。

「そう長くは誤魔化せませんよ。先輩、異様に喜んでいましたから」

「仕事は今日で終わり。結果は二、三日中にでるだろうよ」

「もう、結末見えてるんですね」

 ピートが温くなったコーヒーに口をつけた。

「あぁ、美智恵さんが話もってきたときに終わってんだよ。俺はただの幕引きさ」

 温くなったコーヒーを一気に飲み干した。そして音をたて紫煙を吸い込むと、タバコを灰皿に押し付けた。山になっていた吸殻が崩れていく。
 ピートはもう一度溜息を吐き、喉まで出掛けた言葉をコーヒーで押し込んだ。






 左手のローレックスデイトナに目を向ける。午後十一時四十分。頃合である。
 トレイクから降りると、後部シートに座っていたタマモもそれに続いた。一瞬、頬が引きつり舌打ちが聞こえた。

「サービス悪いなぁ」

 ヒップハングジーンズのタマモの足を眉間に皺をよせて見つめた。

「当たり前でしょ。なんでアンタにタダでパンツ見せなきゃいけないのよ」

「んじゃ有料?」

「当然」

「見るだけで金取るなんて、怪しいサイトかよお前は」

 ぶつくさといいながら駐車場の方をチェックするが、一昨日の車は停まっていない。
 ポケットから鍵を取り出し、セキュリティの効いているはずの入口を開けた。タマモはモニターをじっと見詰めると、舌をだしてみせた。エレベーターに乗り込むと横島が百円玉を親指で弾き、タマモに放った。

「なによ、これ?」

「見料」

 タマモが横島の目線を追うと、ジーンズとシャツの間をじっと見ていた。悪戯っぽく笑うと、百円玉を同じようにして放る。

「これ、見せパンよ。ワザと」

「わざとなのかよ。ずいぶん派手なパンツだねぇ、今時の高校生ってやつは」

「学校にこんなの履いていくわけないでしょ」

「そりゃそうだ。見えてる部分ヒモじゃねぇか、フンドシTバックなんて履いてりゃ痴女だと思われるもんな」

「Gストリングっていってよ。センスないわね」

「名前知らずとも、鑑賞できればそれでよし」

「そうねぇ……豆腐懐石おごってもらうことだし、タダでいいわよ」

 妖しい光を含んだ目を向けた。口元は軽く微笑みを携えている。

「俺が、見るだけで済むと思う?」

「思わないから、言ってるのよ」

 一瞬狭い空間に沈黙が訪れるが、エレベーターが止まった。

「死にたくないからやめとく」

「はいはい。“誰に”とは聞かないでおくわね」

 僅かに口の端を緩めると、インタホーンのスイッチを押した。

『こんな時間に誰?』

「除霊屋です」

『何しに来たのよ』

「ご挨拶ですね、仕事しにきたに決まってるじゃないっスか。今夜が期日でしたよ」

 スピーカーから音が止まり、足音が玄関に向かい聞こえてくる。

「アンタがいってた通りね。私じゃなきゃダメだわ」

「だろ。シロがいたならキレてムチャクチャやっちまう」

 玄関のドアが開くが、チェーンロックがされたままである。

「これで時間とられて期日に間に合わなくても、保証はしませんよ」

 口の端を緩めると、宮崎の頬が歪に引きつった。

「その女性は?」

「助手ですよ、今回は道具よりもスペシャリストが必要なんでね。それに、助手が女性だとあんたも安心できるでしょ?」

 一度、ドアが閉まりチェーンロックを外す音が聞こえた。

「さすが横島、怪しさNo1ね」





 十二時十分前。テーブルの上に置かれていた灰皿を片手に持つと、寝室に入っていく。
 タマモが部屋の中で匂いを嗅ぐしぐさをとった。横島は寝室の入口に腰を下ろす。

「大丈夫なの、あの娘」

「犬神の血を引いてますからね。免許持ってないとはいえ、並のGSなら足元にも及ばないっスよ」

 タマモの動きが止まった。

「来るわよ」

 タマモの声に、呼応するかのようにタバコを咥えタマモンで火をつけた。部屋から逃げ出そうとした宮崎の手を掴んだ。

「逃げんじゃねぇよ。滅多に見れない代物だ、見物しとけ」

 宮崎は掴まれた腕から、ある種の力を感じた。素人の宮崎は、その力がなんたるかは分からなかった。
 暗い部屋のはずなのに、蒼白い仄かな影のようなものが立つ。それはやがて人の姿を模っていく。
 何度かこの霊を見ているはずの宮崎は、声にならない悲鳴をあげその場に座り込んだ。タマモがちらりと宮崎に一瞥をくれる。

「増田智紀さんだね」

 咥えタバコのまま話かける。霊となった増田は、ゆっくりと頷いた。宮崎の口が震えながらも、開こうとしていた。タマモの体が一瞬光を帯びる。

「ねぇアンタ、GSなんでしょ!はやく祓ってよ!!お金なら出すから!早くこの気持ち悪いやつ祓って!!」

「本当にいいんですね」

 宮崎の方は見ずに、タマモの方を見ている。タマモは右手の親指と人差し指をくっつけて、それから離した。

「増田さんはアンタに訴えられた後、警察の勧告を受けてもここに来た。そしてその帰り道に、事故で亡くなった……増田さんのツラ見てるんだったら、なんでアンタ知らないっていったんだよ」

「関係ないじゃない!私は被害者なのよ。ストーカーの被害にあって、死んでもストーカーになるって奴……こんな奴さっさと祓ってよ」

 宮崎は髪の毛を振り乱しながら叫びまくる。顔が歪み、写真で見た面影はすでに消えていた。
 タマモの方を向くと、指で丸を作っていた。

「もう一度聞くぞ。本当にいいんだな?」

「金なら出すっていってるでしょ!早くやってよ!!」

「仰せの通りに、御祓い致しましょう。特級でね」

 ポケットから瑠璃色の珠を取り出した。それに目を向けると、珠に文字が浮かび上がる。増田の方を向き、その姿を見て眉を歪めて口元だけ笑った。『浄』という文字の入った珠を増田に向けて放る。
 珠から光が放射されると、増田の体が薄くなっていく。横島と宮崎の方を向き、増田は笑った。右手を上げ軽く手を振ると、増田の体は光りに溶けるように消えていった。
 光が無くなり、部屋が再び暗闇に閉ざされた。タバコの火だけが、蛍のように部屋の中に光っている。
 暗い部屋の中にも関わらず、横島は胸ポケットのサングラスを取り出し目頭を押さえるようにそれをかけた。タバコの光が強くなり、横島の顔をくっきりと映し出す。一呼吸間を置くようにゆっくりと紫煙を吐き出した。

「終りました。経費と残金は、計算して後日請求します」

 荒い呼吸を漏らしながらその場に座り込んでいる宮崎を無視するかのように、タマモが玄関から先にでていく。横島はドアで一度立ち止まり、振り向かず頭を少しだけ傾けた。

「この部屋は浄化されました、ご安心下さい」

 シャッポに手をやりながら、ドアが閉められた。やけに静かな廊下にドアの閉まる音だけが、響いた。









 二日後、新宿の豆腐懐石屋。
 街並みに似合わず和式の古い割烹を思わせるその造り、横島にとってかなりの高額な店だ。その店のさらに高額な個室、悪巧みをする政治家が密談をするかのような代物である。
 その個室に何故か、横島とタマモは並んで座っていた。正面には美智恵が料理を美味しそうに頬張っている。

「あら、食べないの?」

「いや、そりゃ食いますけど……まさか払いは俺だなんて言わないでしょうね」

「横島君、払ってくれるの?」

「勘弁してよ〜」

 頭を抱えて項垂れる。覚悟を決めたのか、タマモは料理を美味しそうに食べ始めた。

「宮崎さんね……苦情ではなく、異議申し立てを上げてきたわよ。弁護士を通じて、あなたを告訴してきたわ」

 横島は顔を上げ、タマモは箸を咥えたまま動きを止めた。

「ピートから聞きました。なんでも西条がえらく喜んで、踊りまくって女子職員に引かれてたって」

「困ったものね」

 全然困った様子もなく、美智恵は料理に箸をつけた。

「で、増田さんのお友達からはお礼がきてたわよ。ありがとうございますって」

「まだ完全に終わったワケではないですけどね。ギャラまだみたいだし」

 美智恵に一瞬だけ目を向けると、横島も料理に箸をつけた。

「仕事的にはどうだったの?」

「GSの仕事じゃなかったっスね。除霊以外のやることが多過ぎましたよ」

「まぁ相当なものだったようね、彼女は」

「資料を元に、警察、会社、友人関係調べました。もぉねぇなんつーか、言葉にできなかったっスよ」

 溜息混じりに言葉を吐くと、箸を止めた。タマモが横島の皿の料理を狙うが、それを手で追い払った。

「自意識過剰の厚顔無恥な自己中女。前世の私より、ヒドいわよ。あれは」

 隙をみて、皿から料理をかっさらい満面の笑みで口元に運んだ。

「ヒドいと思ってんだったら、盗るなよ……三年で八人のストーカー行為告訴。警察の係のおっさんも呆れてましたし、告訴された相手に同情してましたからね」

 タマモの皿から同じものをかっさらいニヤリと笑い口元に運ぼうとするが、手を掴まれそのまま食べられてしまう。悲しそうな顔を浮かべながら言葉を続けた。

「会社では上司の評価は高かかったようです、仕事は出来るようでした。あくまで固定の上司だけでしたけどね。同僚の評価は人によりけりって感じでなく、イケメン系にだけ高かかったっス。センスの悪いというか今風でないというか……」

「ブサイクっていえば?」

 言葉を挟んだだけでなく料理を狙っていたタマモを、歯を剥いて威嚇した。

「……まぁいわゆるそんな感じの男には、大不評。毛嫌いどころか恐れていましたね、ちょっとしたことでもセクハラで処罰された人間もいましたから。仕事の出来も、そいつらにたかってというか騙して仕事をさせて手柄は自分という感じでした。そんな感じでしたから、同性の同僚からは毛虫の如く嫌われていました」

「で、合コンのセッティングは上手くいったの?」

「とりあえずはな」

 あわてて口に手をやるが、時すでに遅し。タマモはニヤリと笑いメニューを見て、部屋にある電話をとった。

「すいません、追加お願いします」

「タマモちゃん、私も大吟醸お願いね♪」

 満面の笑みを称え、美智恵も便乗した。二人の言葉にがっくりと項垂れる。

「……そういう女ですから当然男遊びも派手。しかも使い捨て、飽きたらポイ」

「横島の女版?」

「俺がいつそうやった?」

「事務所の皆を都合よく利用して、飽きたらポイ」

「利用されてるし、たかられてんのは俺だろうが」

 タマモと美智恵を睨みつけるが、二人は素知らぬ顔で料理に箸をつけた。

「……男と手を切るときも、かなりヒドいものだったようっスよ」

「ロクに話もしないでお終い。相手が話をしようとするとストーカー扱いで警察に訴える……か」

「ええ、訴えた八人全員が元彼でしたよ。最初一緒になって笑っていた彼氏なんて、後になって自分が同じことで訴えられるなんてと愚痴ってました」

「明日は我が身か―――横島みたいに」

「だから俺がいつ」

「何色だった?」

「白のTバック」

 電話をかけたときにしっかりと見ていたらしい。二人は顔を見合わせ、タマモはにっこりとそして横島は引きつって笑った。

「ななさん亭のキツネうどん追加と……」

 メモ帳を取り出し、記入した。

「マジで金取りやがったコイツ……まぁその中の一人だったんですね増田さんは。そして彼は、ケリをつけようと宮崎のマンションへ行き、門前払いを受け帰宅する途中で事故にあったと」

「増田さんの友人や家族がが想像していた答えと同じだったわけね。で、増田さんはどんな霊になっていたの?」

 追加の幻の大吟醸がテーブルの上に置かれると、猪口を手にして横島の方をみた。横島は徳利をもつと、美智恵に酌をした。

「悪霊や自縛霊どころか、守護霊になりかかってました。さすがの俺も誰かの娘さんじゃないですから強制的に除霊するのは気が引けましたんで、騙させてもらいました」

「どんな幻見せたの?」

 タマモに猪口を渡した。タマモはにっこりと笑い、横島に酌をするように勧める。項垂れながら、タマモに酌をした。

「あの女に土下座させて、私が悪かったあなたのご両親のために成仏してくれって。まぁ月並みだけどね」

「要は納得してもらえればよかったようですけど、実際はまったく真逆でしたけどね」

 タマモの猪口を奪い手酌で飲もうとすると、それを美智恵が奪った。

「……んで言質っつーか、承諾も貰いましたんで、危険を知らせてくれていた守護霊を除霊しました」

 ほんのりと顔くなってきた美智恵は、ようやく猪口を横島に渡し酌をした。

「守護霊の増田さんは、なんて言ってたの?」

「今、付き合っている男。お前に危害を与えるぞって」

 表情を変えずに、猪口の中の酒を一気に飲み干した。辛口だったようだ。口の中には苦さが漂った。

「自業自得ね」

「予想通りですね。あのマンションに行った初日に『イカせずの男』は霊が増田さんらしいと聞いて完全にイモ引いてますから、近日中に事は起こるでしょうね」

 タバコを咥えた。タマモンでなくタマモが直接狐火で火をつけた。

「ところで……ここ、美智恵さんの奢りでしょうね。この金に手をつけるワケにはいきませんから、俺金無いですよ」

「ここは私が払うわよ」

 美智恵がにっこりと微笑みと、横島は安堵した表情をみせる。

「ギャラ渡すときに引いとくわね♪」

「勘弁してよ〜〜〜〜〜」

 テーブルに激しく頭を打ち付けた。












 三日後、美智恵から電話がかかり横島は病院へ向かった。
 病室のプレートには『宮崎早紀』の名前が記してあった。おざなりのノックをして病室に入る。

「『イカせず君』に別のもので刺されるとは、災難だったね」

 サングラスを外し、胸ポケットに入れた。

「何の用?あなたに用はないわ」

 顔の半分に包帯を巻いた宮崎は強い口調でそういった。

「アンタには無くても、俺の方が用があってね。経費の請求書です」

 ポケットの中から封筒を取り出し、ベットの上に放った。

「こんな時に非常識な人ね」

 蔑んだ目を横島におくりながら、封筒の中の書類を取り出した。血の気が引く音が聞こえてくるようであった。

「な、なによこれ!」

「なにって、請求書ですよ」

「あれだけのことで一億?ぼったくるのもいいかげんにしてよ」

「『いいかげんにしてよ』で、また訴えますか?裁判所でもGS協会でもオカルトGメンにでも、ご自由にどうぞ。どこも取り合ってもらえませんけどね」

 ポケットの中から瑠璃色の珠を取り出して、掌で転がしてみせた。

「こいつは『文珠』といって霊力を凝縮しているアイテムでしてね、キーワードを一文字入力すれば、その文字通りの機能がつかえるんですよ。その効力はこの前お見せした通りです」

 指で弾き上げると、ポケットの中にしまった。

「こいつはこの前説明した精霊石みたいに希少石なんかじゃない。人が作るものでしてね、作れるのは現時点人間界では俺一人なんスよ。俺にとっちゃ安いものでも、他のGSにはものすごく貴重なものでしてね。俺が請求した額そのものが相場なんですよ。精霊石に比べると、これでもかなりサービスしたつもりなんですけどね」

 ベットから離れ、窓の方に向かった。

「こ、こんな、こんな額なんて」

「宮崎さん。アンタいったじゃないか『お金なら出す』って。俺みたいな場末のGSなんて協会の信用ないから、こんな時に備えて除霊の現場をビデオに撮ってますけど、再生してみせましょうか?」

 窓を開け外の空気を病室にいれるが、宮崎は青褪め震えたままであった。

「あぁそれから、報告がありますよ。霊となってアンタの部屋に現れていた増田智紀、あんたの守護霊になりかかったんですよ。彼、こう言ってましてね『今の男に気をつけろ、早紀に危害を与える』って。ストーカーの守護霊なんてさぞ気持ち悪かったでしょうね」

「アンタ、知っててワザとやったわね」

「二度、確認取りましたよ。『本当にいいんだな?』って。アンタがそれを『金なら出すっていってるでしょ!早くやってよ』って言ったじゃないっスか」

 窓を閉め、宮崎の方を振り返った。

「でもね、気持ち悪かろうがなんだろうが守護霊は守護霊。それを祓っちまったんだ、これくらいの災難で済むわけないだろうなぁ。増田さんが何故どういう経路でそうなったかとか色々と調べたんだけど、まぁ俺ぁアンタにそれをプライバシー侵害とかで訴えられて、もう時期裁判を待つ身だ。何もできない身の上だけどな」

「取り消す!取り消すから、助けてよ」

 泣きじゃくり、半狂乱になりながら横島の背広の袖を掴んだ。

「なんでもやるか?」

「なんでもやる!なんでもやるから助けて!!!」

「警察に行って告訴取り下げて、増田さんの家族と墓前に土下座して許しをこうことだな」

 手を振り解きポケットから手付けの金を取り出し、バラ札のままベットに放った。

「出血サービスだ。文珠二個分、随分高い命でよかったな」

 背広をの襟を整え、ドアの方を向きサングラスをかけた。

「今度は口だけでも構わねぇよ。どうせ責任とるのはアンタ自身だしな」

 吐き捨てるように言うと、病室を後にした。






 病院の外にでると、タバコを咥えタマモンで火をつけた。シャッポを押さえ上を見上げると、雲ひとつ無い青空が広がっていた。
 これで本当の依頼は終わった―――空に向け紫煙を吐き出すと、雲の代わりにはならずすぐに消えていった。






 目の端に、看護士が談笑しながら歩いていく。

「ねぇねぇオネーさん、合コンやらない?……あ、やっぱいいや」

 正面に周り、顔を確認すると思わずそういった。

「どういう意味よ!!」

 気持ちいい青空に、澄んだ打撃音が吸い込まれていった。

かなり試験的要素の強い作品です。
題名を見れば分かる人には分かりますが、往年の名作『探偵○語』の要素がかなり強いです。
あの番組のように、オシャレでジョークの効いた会話で話を進めるというのに挑戦してみました。

この作品を投稿する際、かなり迷いました。
実際、今現在も悩んでいます。
理由としましては、この設定、会話の内容はクロスになるのではないか?
会話のネタが少年誌の枠ではないのではないか?です。
自分としては、ギリギリのラインか?と思っているので投稿してみたのですが、いかがなものでしょうか?
忌憚なき御意見をお待ちしております。

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