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いつか回帰できるまで 第八話 それぞれの戦場 後編

 透明な板に挟み込まれたような空間。左を見れば住宅街、右を見れば荒野という異常な光景が覗かれていた。

「しかし、まいったね、こりゃ」

 身動きのとれないような状況の中で金色がかったオレンジ色の長髪を掻く美女がいる。
 アイシャドウのようなフェイスペイント、黒い鋭角な触覚、そして、黒く肌にフィットする戦闘服に身を包んでいる。

「ベ、ベスパ、余り動くな」

 下敷きになって困ったような声を出すのは魔族正規軍の軍服に身を包んだ青年仕官だった。
 普段は紫がかった肌も微妙に紅潮しているように見える。

「ちょ、ちょっとジーク変なとこ触ってるんじゃないよっ!!」

「触ってないっ、そっちが動いてるからだっ」

 透明な壁に挟み込まれるように密着する二人。ただしお互いの頭の位置は遠く離れている。上下逆さまサンドイッチな状況だった。

「全くせっかく休暇を取ってまで訪ねてきたというのに一体何があったというのだ?」

 努めて冷静な声を出すのは鋭いつり目の女魔族だ。

「姉上っ、さらっと無視しないでくださいっ」

「ふむ、ここは結界の隙間のようじゃの。ワシらはちょうど結界が張られた瞬間、中間点におったんじゃろうて」

 黒マントに身を包んだ老人が淡々と解答する。

「マリア、スキャンの結果は出とるか?」

 隣にいるショートボブのアンドロイドに問いかけていた。

「イエス・ドクターカオス・積層結界・類別『和』・神道系の式・です」

「かなり念入りに練ってありますね。ざっと見て3層以上ありますよ」

 一人だけ天地逆転のジークがかなり困った様子で声を絞り出していた。

「5層・です。ミスター・ジークフリート・現在地・3層と4層の・隙間」

「じゃぁ、外に出るかい?」

 ため息混じりにベスパが漏らす。

「そりゃ、無理じゃな」

 不意にベスパの抱えていた陶器の首がしゃべっていた。

「どういうことだい? 土偶羅様?」

「こりゃ中の連中を逃げないようにするための結界じゃわ」

「ふむ、逆に外から内側に入る分にはさして抵抗はなさそうじゃのぉ」

 横でマリアからの報告を受け取りながらカオスが分析している。

「どっちにしてもボクとしては早く何とかして欲しいんですけど?」

「あたしもだよっ」

「しかし、お主ら」

 不意にカオスがベスパとジークフリートの方に目を向ける。

「なんかツイスターゲームでもやってるようじゃのぉ?」

「「やかましいぃっ!!」」






〜 いつか回帰できるまで 第七話 それぞれの戦場バトルステージ 後編 〜







 私はおばあちゃんが大好き。

 優しいおばあちゃんが大好き。

 綺麗で温かくて、幼い頃から私を可愛がってくれて、すごくすごく大好きっ。

 でも、おじいちゃんが居ない。

 幼かったとき「なんでいないの?」って聞くとおばあちゃんは凄く寂しそうな顔をする。

 だから、私はおじいちゃんのことを聞くのはやめにした。

 いつの頃か私は高校生になっていた。

 おじいちゃんの事が気になった私はピートお兄さんに聞いてみた。

 なかなか話してくれなかったけど、ついにお兄さんは観念して話してくれた。

「まったくそういう押しの強いところは誰に似たんだろうなぁ」

 困ったような、それで居て嬉しそうな苦笑いを浮かべていた。

「絹香ちゃんのおじいちゃんは横島忠夫って人でとても優秀なGSだったよ。絹香ちゃんのおばあちゃんと横島さんは凄く好きあっていたんだ」

 遠い目をしてお兄さんは話してくれた。

「でも、もう45年になるかな……ある魔物と戦ったときに、行方不明になった。でも、生きてるはずだ。僕はもちろん、絹香ちゃんのおばあちゃんも生きてるって信じてる」

 ピートお兄さんは悲しそうな顔をする。

「絹香ちゃんのおばあちゃんはずっと待っているんだ。横島さんの帰りを、ね」

 私は何も言えないまま、帰ってから一人、部屋の中で泣いた。






「おじいちゃんっ!!」

 思わず絹香は吹っ飛ばされた祖父を見送る。
 駆け寄るヒャクメが呼びかけている光景を目にしていると背後の気配が動くことに気づいた。

「く、一体何があった。メフィストと言いあの小僧と言い大人しく八つ裂きにされればよい物をっ」

 男の声を聞いた瞬間、絹香のこめかみがピクリと震えた。

「ねぇ」

 低い声だった。やや俯き加減に、小さく振り返って呼びかける。

「ん?」

 道真は怪訝そうな面もちで黒髪の女性に目をやる。

「さっきの話、本当なの?」

 静かだが有無を言わせない重みを帯びた声。

「何のことだ?」

「50年前……あなたがした事よ」

 目線はまだ上がらない。

「ふん、何かと思えば。まぁ、そこの小僧は殺し損ねたがな」

「そう、そうなんだ」

 小さく呟く、その肩は手はブルブルと震えている。

「だから、何だ?」

「あんただけは」

 絹香の脳裏に優しく暖かな祖母の、言いようのない寂しそうな顔が蘇る。

 離ればなれの50年、そして、今また引き裂こうとしている。

「絶対に許さないっ!!」

 怒りに満ちた双眸が道真を強烈に睨み付けていた。

「許さない……だと?」

 嘲るように鼻で嗤っていた。

「美神の女を舐めんじゃないわよっ!!」

 愛用の鞭をビッと引き延ばす。





 ガキィッ!!

 何度目になるだろうか? 小竜姫は神剣で攻撃を仕掛け、はね飛ばされ、敵の攻撃で何度もかすめられたのは。

「くっ」

 小竜姫は満身創痍になりながら、まだ神剣を構えようと踏ん張っていた。
 相手は正面からゆっくり向かってくる。

「あぅっ!!」

「パピリオッ」

 背面から攻撃を仕掛けていたパピリオが魔獣の尾に殴り倒され小竜姫に向かって吹き飛ばされていた。

「くっぅ」

 ドンッ

 はじき飛ばされてきたパピリオを小竜姫が受け止める。

「パピリオっ?」

「う……」

 身をよじるパピリオも既に満身創痍と言っていい。
 そして、小竜姫は正面から突きつけられた殺気を感じ取っていた。

 魔獣の口が大きく開かれる。何度と無く見た霊波のブレスであろう。

 もはや直撃は避けられまい。

「おのれ……」

 パピリオをかばうように全身で抱きしめる以外、もはや出来ることはなかった。





「こっちも忘れちゃ困るわよっ!! 燃えろっ!!」

 ひのめが鋭く声を発すると、紅蓮の炎が障壁を焼く。

「むぅっ」

「嫁や娘にばかり良い格好はさせてられんだろっ、旦那としちゃあなっ!!」

 特攻をかける霊気鎧が凄まじいスピードで霊力を帯びた打撃をたたき込む。

「ふんっ!!」

 道真は苦し紛れのような体勢で掌圧を霊気鎧にたたき込む。

「ぐぅっ」

 わずかに体勢を崩したところにすかさず扇子を投げつける。
 忠彦が首を捻ってかわすが、扇子が鋭い勢いで飛んでいき絹香の額をかすめる。絹香は構わず鞭を振るっていた。

「このぉっ!!」

 炎の鞭が道真の装束を切り裂いていた。

「ゴーストスイーパーは決して悪魔に屈しないっ!! 私は絶対あんたになんか屈してやらないっ!!」

 額の傷口から流れる血に構わず、絹香は鋭い視線を道真に叩きつけていた。

「ふ……くくくく、くっふっふふふっ、かーはっはっはっはっは!!」

 両手を広げ、どこまでも届くような哄笑が辺りを満たした。
 片手を額にあてて、睨み上げる目は徐々に狂気を帯び始める。

「面白いことを抜かしてくれるな小娘。なるほど面立ちは違うが、お前の目はとある誰かを彷彿させてくれるわ」

 道真の目に狂喜じみた色が浮かぶ。
 脳裏に浮かんでいるのは、常に挑戦的な目を向けてきた亜麻色の髪を持つ退魔師の女だった。

「メフィスト同様、うぬも我の贄になるが良い」

「絹香さん、離れてっ!!」

 道真の背後に、霧から実体化したバンパイアハーフが霊波砲を放つ。

「笑止っ!!」

 ギィッ

 障壁が淡い輝きを放ちながらピートの霊波砲を弾いていた。

「どうやらお主らには格の違いという物を教えてやる方が良さそうだな」

 ゴォッ

「なっ、これはっ!!」

 道真を中心に風圧のような物がGS達に浴びせられる。

「霊力の圧力? 桁違いね」

 ひのめが背中に汗をにじませる。
 しかし、その目は怖じ気づくどころか不敵な色を浮かべている。

「やってやろうじゃないっ!! いくわよ。忠彦っ、絹香っ!!」

 懐から数枚の霊符を取り出し、反対の手に神通棍を握りしめる。

「おぉっ!!」

「絹香、ちゃんと考えて攻め込むのよっ!!」

「母さんこそ、間違って父さん燃やさないでよっ」

「呑気なことをっ!!」

 道真が構えている。

「「これでも食らえっ!!」」

 ひのめは霊符を投げつけ、絹香は鞭を振るう。
 数枚の霊符が同時に火球に変じ、道真に襲いかかった。
 さらに美神母娘が同時に動き出す。開始のゴングは鳴らされた。





「くぅっ」

 最後の攻撃に抗う術がない。小竜姫は歯がみしながら魔獣を見上げるしかできなかった。

「おらぁっ!!」

 ゴガァッ!!

 凄まじい声と共に魔獣の顔面を横殴りに吹き飛ばす人影があった。オレンジ色の長い髪をなびかせ黒い戦闘服が黒い弾丸を思わせる。
 鈍い衝撃音と共に魔獣の体勢が大きく揺らいでいた。

「え?」

 小竜姫は思わず我が目を疑っていた。

−グォオオォォォォォォ

 魔獣が再び起きあがろうとしている。

 ドウッ ドウッ ドウッ

 精霊石銃が魔獣の顔面をかすかに弾き、正面を向かせない。

「まったく、せっかく休暇を取ってきたというのに、人界というのは魔界よりも治安が悪いというのか?」

 ぶっきらぼうな口調で誰かが歩いてくる。

「小竜姫よ。貴様弱くなったのではないか?」

「……面目次第もありませんね」

 振り返った先にいたのは、黒い翼を持ち精霊石銃を構える戦乙女の姿。

「助かりましたワルキューレ」

「とにかく生きていて何よりだ」

「ったく、信じられないくらい頑丈な奴だね」

 スタッと着地してきたのは殴りつけた右手をプラプラとさせるべスパだ。

「べ、べスパちゃん」

 姉の姿を認めてパピリオの相貌が急速に潤んでいった。

「ったく、メソメソするんじゃないよ。体はでかくなっても中身は変わってないね」

 苦笑しつつも、妹の頭を優しくなでてやる。

「でも、よく踏ん張ったよ」

「ふ、ふえぇぇぇぇぇんっ」

 パピリオがべスパにしがみついてワンワンと泣き始めていた。

「さて、仕切り直しと行きましょうか」

 ユラッと小竜姫が神剣を構え直す。

「もう良いのか? しばらく休んでいても良いぞ」

「お申し出は嬉しいんですが……休んでいては足止めできませんので」

 ともすればワルキューレ達が戦力的に劣るとも取れる言だが、こと小竜姫がそんな些末な矜持を気にするはずがない。
 ワルキューレもそれは良く知っていた。

「……なるほどな、結界発生から短時間でお前ほどの者がそんな状態ではあながち冗談とも思えん」

 特に反駁することもなく肩でため息をついていた。精霊石銃のマガジンを換装し次弾を装填する。

 体勢を立て直した巨獣はワルキューレ達を見ている。

「ったく、体勢崩しただけかよ。さっきの奇襲は思いっきり手加減無しだったってのに」

 ベスパが吐き捨てる。

「そうか、ならばなおのこと本気でいくぞ。いいなベスパっ!!」

「おおさっ!! パピリオを虐めてくれた分倍返しだっ!!」

 パァァンッと右拳を手のひらに打ち付けると、ベスパが、小竜姫が大地を蹴った。







「っ!」

 それまでピクリとも動かなかった横島の目が突然見開かれる。

「美神さんっ!!」

「横島さんっ」

「っ!? ヒャクメ?」

 一瞬いぶかしげな顔をするが、その目に理解の色が浮かぶ。

「俺はどんくらいぶっ倒れてたんだっ!?」

「数分ほどです。その、私も視てましたから」

「あ……ってことは、説明不要か?」

「はい、さすがというか何というか……目の付け所が美神さんですねぇ」

 困ったように冷や汗流しながらヒャクメがこぼす。

「できるか?」

「いけると思います。」

 ヒャクメがグッと力強くうなずく。

「くぅっ!!」

 横島の背中から女性の短い悲鳴が聞こえていた。
 振り返った場所には、ある意味予想通りの光景がある。

「さぁ、小娘、貴様が最初に冥府に落ちるか?」

 道真につり上げられた絹香の姿が目に飛び込んできていた。

「やばいっ!!」

 横島はとっさに手のひらに霊力を集中させて閃光を放つ。

「いそぐしかねぇっ『今』だっ」

 カッ ヒイィィィィイィィィィィィッ




「来たっ期待通りねっ」

 彼女は快哉を上げる。




「何だっ!?」

 一変した周囲の様子に道真が思わずいぶかしむ。

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 空間が盛大に身を震わせていた。
 揺れる荒野が砂塵を巻き上げ、視界を狭めていく。
 そして、道真の意識は絹香から離れていた。

「返してもらうゼっ!!」

「なにぃっ」

 できた隙は逃さない。横島の声が道真の耳朶を打ち、栄光の手が絹香を捕まえていた左腕にたたき込まれた。

 ドッ

「お、おじいちゃん?」

 落下する絹香を抱き留め、道真から一気に距離を取っていた。

「ったく、無茶しやがって、一体誰に似たんだよ?」

「おじいちゃん……」

 腕の中、ギュッと服を掴み泣きそうな瞳で見上げてくる絹香の顔に横島の頬も軽く紅潮しかけていた。
 はっと、気づいたように横島は片手で自分の頭を抱えこむ。

「あかん、あかんぞ、これは孫や、孫なんや。してないっ、俺はドキドキなんてしてない、してないぞ……」

 顔に縦線浮かべて、自分に言い聞かせるような声に、絹香もさすがにタラーッと冷や汗を一筋流す。

「えーと……」

 困った顔のまま固まっている二人を置いて、少し離れた場所の平安貴族が眉をつり上げる。

「貴様ぁっ一体何をしたっ!!」

「へんっ、いちいち教えてやる必要なんてねぇな」

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 時空震は収まらない、砂煙さえ巻き上げて凄まじさを響かせる。

「このっ」

 道真が右腕で印を切ろうとした瞬間だった。

 ヴァッ!!

 すさまじい勢いで霊力を帯びた何かが空を切り裂く。

「これはっ!?」

 振り下ろそうとしていた道真の腕が、縄のようなモノでからめ取られていた。

「やっぱりね。道真、あんたならきっとこの結界を張ってくれると思ったわ」

 砂埃が煙のように視界を遮る。声の主はその砂のカーテンの向こうから凛とした声を響かせていた。

「うぅっ、げほっげほっ」

「砂がっ砂が目に入るでござるぅっ」

 途中別の声も混ざってきていた。

「だぁぁっ、あんたら少し黙っとれっ!! とにかくっ、神魔族に閉じられてる時間移動の出入り口、あんたのおかげで裏口通過よ」

「なんだとっ!? 馬鹿なっお前はっ!!」

「少しは私の役に立ったけど……ちょっとオイタが過ぎたみたいね」

 煙の向こうから美しい女性の声、徐々に晴れていく視界の向こうに亜麻色の髪をなびかせる彼女が姿を現す。

「この、ゴーストスイーパー美神令子がっ!! 極楽に、いかせてあげるわっ!!」

「メフィストォォォッ!!」

 臓腑が煮えくりかえらんばかりの怒号が響き渡っていた。

 道真は顔を歪めたまま混乱の局地にいる。

「横島クン、サンキュ」

 美神が笑顔でパーンッとハイタッチする。

「み、美神さん」

 そして、横島はニヘラッとだらしない笑いを浮かべる。

「どーっすかっ俺役に立ったでしょ? そんなわけで一晩俺の物……っ」

「そもそもおのれが行方不明にならんかったら事態がここまでややこしくなっとらんことをしっかり思い出せぇえええっ!!」

 迷いのないストレートが横島の顔面を打ち抜いていた。

「へぶぅっ!!」

「自業自得……」

 絹香が半眼で祖父の倒れる様を見つめていた。

「とにかくおキヌちゃんまでなんで居るのか分からないけど」

 横島にさっきまで抱きかかえられていた黒髪の女性と目が合う。

「あ、れ?」

 美神は思わず首を捻っていた。

「おキヌちゃん、じゃない?」

「あ、私、孫の絹香です」

「美神さん、詳しい話はあとっす。まずはあいつ何とかしましょうっ」

 鼻血を手で押さえながら横島がむっくりと起きあがってきていた。

「先生っ!! 先生でござるーっ!!」

「のがぁっ」

 アオーンッとばかりに横島に飛びつくシロがペロペロと横島の顔を舐めたくっていた。

「こらぁっ、シロやめんかぁぁぁっ」

「バカ犬……」

 同じく砂煙の向こうから9つのポニーテールを持つ金髪美少女も現れていた。

「馬鹿なっ時間移動は移動する瞬間に時代を指定するはず……貴様がこの時を狙ってくることなどできるはずがっ!!」

 動揺を隠しきれない道真の声が震える。

「それができちゃうのよね」

 美神はバサッと長い髪を掻き上げる。ウインクするその笑みは非常に楽しそうだ。

「私、時間移動能力って持て余しちゃってるの。カオス曰く、行き先の時代を明確にイメージできないせいだってさ」

「何だと」

 道真の声がかすれていた。

「ならば、ならば何故あの時ためらい無く時間移動などっ」

 そう、不可能なはずである。

「無理ね普通なら、けど、横島クンのサポートがあれば……ね」

 美神は手のひらの文珠を見せびらかすように持ち上げる。
 ダラダラと冷や汗を流す横島も美神にならって文珠を見せる。
 それは力を発揮し今にも崩れそうな文珠だ。しかし、込められた文字はまだ見えていた。
 横島の文珠には「今」、美神の文珠には「心」、この二つを重ねた字が意味する物。

「『念』すなわち、降りるべき『今』をイメージすることができるのよっ」

 ニッと勝ち誇った笑みを浮かべる。

「私は未来に向かって直進する。横島クンが『今』を発動してくれたところが交点になって到着点イメージ『念』が成立するって事よ」

「馬鹿な……そんな馬鹿な。その小僧がおらんというのにそんな馬鹿なことを」

「答えは簡単っ!! 神魔族の感知をかいくぐるこの結界っ、あんたがこれを敷く瞬間、つまり、私が戻る絶好のチャンスはあんたが横島クンを襲うとき以外ないってことよっ!!」

 ビシッと指を突きつける。

「ちょうど帰ってくることができるってわけよ。横島クンが居るなら、確実な伝言さえできればねっ!!」

「馬鹿なっ小僧は死んだと言ったはずっ!!」

 道真はそれこそ信じられないと言わんばかりに反駁する。

「あのねぇ〜」

 美神は小馬鹿にしたような呆れ返ったような顔で道真に半眼を向ける。

「大体にして、このバカが死ぬわけないでしょうが」

 横島を肘でグリグリしながら、思いっきり鼻で笑う。

「特に待ってくれてる女の子が居るときに……ね」

 ニヤッと含みを込めた。

「おキヌちゃんを待たせてるんだから、おっさんはさっさと退場しなさいっ」

「貴様〜っ!!」

 思わず手を振り上げようとした道真に、何かが阻む。

「ロケットアームッ!!」

 ゴォッ

 うなりを上げた右腕が道真の顔面を捉えていた。

「ぐぉっ!!」

「マリアッ!?」

 ゴーッとかかとのジェットを吹きながら、アンドロイドの美女が着陸してくる。

「イエス・マリア・救援・来た」

「く、くぅ」

「よっしゃ、いいところにっ!! シロ、ピート、後、マリアとそこの雪之丞もどきは少しだけ時間稼いでちょうだいっ」

「雪之丞さんの『もどき』ってなんだぁぁぁあっ!!」

 絶叫する忠彦を置いて、美神は他のメンバーを手で招く。

「あんたは戦闘方法が予想付くから時間稼いでってことだけよっ、後はこっちに来てっ状況整理と戦力確認よっ」

「ミス・美神」

 何故かマリアがそばに来ていた。

「へ? な、何?」

「コレ・しばらく・預かって・欲しい」

 手渡されたのはタッパーだった。

「は?」

「ドクター・カオス・これないと・ご飯・無い」

「……まだ貧乏なのね」

 戦場に向かっていくマリアの背中を眺め、溜息つくとタラッと冷や汗が流していた。
 しかして、不意にタッパーの中の『ある物』に気づいた美神はニヤッと笑みを浮かべていた。

「へー、こりゃいいモン持ってるじゃない」

「……お姉ちゃん?」

「え?」

 呼びかけに振り返る。美神の視線の先にいるのは亜麻色の髪をひっつめた壮年の女性ひのめ。

「え? お姉ちゃんって、あんたまさか」

「お姉ちゃんだ……生きて、たんだ」

 思わず口元を押さえて、ポロポロと涙がこぼれ落ちていた。

「ひのめ?」

 ギュッと泣きながらひのめは美神にしがみつく。

「お姉ちゃん」

「ひのめ……待たせちゃったわね」

 労るような慈しむような目で年上となってしまった妹を優しく撫でる。

「お母さん、良かったね」

 絹香の声に、美神が目を更に白黒させる。

「はい?」

 美神の目が点になる。

「えっと、おキヌちゃんと俺の息子がひのめちゃんと結婚して絹香ちゃんが生まれてるそうです」

 後頭部をポリポリ掻きながら横島が顔を引きつらせていた。

「ど、どういう人物相関図になってるのよ?」

「俺に聞かれましても、昨日ついたところですし」

「と、とにかく、絹香ちゃんね? えっと、よろしく」

「よろしくお願いします。令子叔母様」

 ヒクッと美神のこめかみが固まっていた。

「んーとね、絹香ちゃん」

「はい?」

 美神は笑顔に青筋張り付けながら絹香ににじり寄っていた。
 優しく、本当に優しく肩をポンと叩く。

「確かに血縁上そうなるんだけどね。年齢的にはせめて『令子お姉さん』くらいにしておく方が多分お互い幸せだと思うの」

「絹香ちゃん、謝れっ、謝るんだ。すぐ謝れっ、この人だけは怒らせたらあかんっ」

「へ? え、あ、あのすいませんっ。よろしくお願いします。令子お姉さん」

「よろしくね♪」

 一転してごく普通の笑顔に戻っていた。

「じゃ、改めて揃ったところで」

 ニッと笑って、この場にいる全員の顔を見回し、最後に忠彦たちと戦う道真に視線を向ける。
 他のメンバーも、それに倣って道真を睨み付けた。

 役者は揃った。
 戦力は十分――あとは、いかにして目の前の敵を叩きのめすか。

「道真の野郎……ブッ倒すわよっ!」

 声高に宣言するその声は、勝利に対する絶対の確信に満ちていた。
こんばんわ。長岐栄です♪
二日連続投稿となりますが、『いつか回帰できるまで』第八話をお届けいたします。
今回はついにっつぅいぃにっ、合流編です。 (´・ω・` )

>akiさん
 ようやく美神の裏技攻勢ですっ
 やはりGSはいかに相手の裏をかくかですよね♪
 敵の罠だけでなく色んな物を利用してくれそうですw


>アミーゴさん
 シロとタマモは生き残っています。
 今回でもしっかり元気ですw
 おキヌちゃんは……さぁ、どうなるのでしょう?


ついに集合したGS達。ついに1000年に渡る戦いに終止符が打たれるのかっ九話をお待ちくださいませ♪

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