ザ・グレート・展開予測ショー

永遠のあなたへ(49)


投稿者名:馬酔木
投稿日時:(00/ 7/23)

「ピート君!?」
 懐中電灯の白い光の中に照らし出された、人気の無い部屋。
「魔力は感じるわ〜。数時間前のものよ〜」
「じゃあ、一体どこに・・・」
「隣の部屋にもいないアルよ!」
 クローゼットや浴室の扉を見つけ、開いて見るが、どこにも姿は見当たらない。
「でも〜、魔力は感じるのよ〜」
「冥子ちゃん。どの辺りに一番強く感じるの?」
 一通り部屋の中を捜し回って、冥子に尋ねる。
 クビラでしばらく部屋を霊視した冥子は、少し迷った後、ベッドの方を指差した。
「えっと〜、そこの、ベッドの辺り〜」
 冥子に言われるままに、ベッドに駆け寄る。
 しかし、天蓋から垂れ下がるカーテンを開いて寝台の上を見ても、そこにはきれいに畳まれたシーツがあるばかりだ。
「一体、どこに・・・」
「もしかして、場所を移したアルか?」
「可能性としては否定できないけれど・・・考えにくいわ。今日は夕方に神父がここの住所を確かめに来て、それからずっと捜査員が張り込んでいたんですもの。包囲されている中を素人が、人間一人を連れて移動するなんて・・・」
 何かないかとベッドのシーツをめくり、下にあった引き出しを引き出して中を探る。
「おかしいわね・・・まさか、まだ隠し扉でも・・・?」
「・・・小娘。ピートの魔力は確かに寝台から感じるんじゃな?」
「え?ええ〜、そうなんだけど〜」
 カオスに聞かれて冥子が頷く。
「そうか。・・・ちょっと見せてみろ」
「え?ええ」
 すると、カオスはしばし思案した後、引き出しを覗いて見ていた美智恵を横にどかせ、引き出しを開けて見た。寝台は結構大きな物なのに、引き出しの深さはやけに浅い。それに気づいて、カオスはふと美智恵に振り向くと言った。
「・・・この引き出し、やけに浅いな。下に何か隠すスペースがあるんじゃないか?」
「あ・・・!冥子ちゃん!」
「クビラ〜、お願い〜!」
 冥子のお願いに、クビラは、キィッ、と一声鳴いて飛び跳ねると、ベッドに向けて光線を放った。隠されている霊的な何かを具現化して見せるクビラの霊視能力の光を受け、寝台の表面に、見えなかった魔術のからくりが、光の線となって具現化して現れる。
「よし、わかった!」
 魔方陣となって具現化したからくりの鍵を、カオスが解除する。
 直後、バクン、と音がして、寝台の上半分がトランクのように開いたかと思うと、その下に隠されていた「もう一つのベッド」に横たえられているピートが、四人の目の前に現れた。
 月の光に映える青白い顔に、長い金髪。
 黒い三つ揃えを着せられ、胸の上で組まれた手には、何か白い紙片を持たされている。
 何年も離れていたわけではないのに、無性に懐かしいその顔―――
「ピート君!!」
「良かった〜、無事だったのね〜」
 異常なほど伸びた髪に驚かされ、一瞬、戸惑うが、すぐにピートだと認め、この中では一番感情表現の激しい冥子が、真っ先にピートに飛びつく。
 眠っている―――と言うより、眠らされているのか―――ピートは目を閉じて横になったまま動かないが、外傷は無いようだ。
「皆心配してたのよ〜。早く一緒に帰りましょ〜・・・?」
「・・・冥子ちゃん?」
 無事な姿を見た安堵から、すぐにもピートを抱き起こして、起こそうとしていた冥子の声が途中で途切れたのを聞きつけて、ピートを運ぶために救急隊員を呼ぼうとしていたみ知恵が、ふと、冥子の方を振り向く。
 見ると、冥子はピートを起こそうと、その服の上から肩を掴んだまま、硬直していた。
 心なしか、その唇は、あうあうと引き攣っているように見える。
「どうした?小娘」
「・・・カオスさん〜、あのね〜・・・」
 近づいて尋ねてきたカオスに、どこか舌の根が回っていない、引き攣った声で答える。
「・・・ピートくん、冷たいの〜・・・冷えて〜・・・硬くなってるの〜・・・!!」
「え・・・何ですって!?」
 その冥子の言葉を聞いて、美智恵の顔が、サッと青ざめる。
 急いで駆け寄って、ピートを起こそうと肩を掴むと、ギシッ、と言う感じで微妙な抵抗があった。
 鼻先に手をかざしてみるが、息は感じられない。頬に触れてみると、滑らかな皮膚は異様に冷たく、軽く押さえてみると、硬直した筋肉が硬いゴムに触れたような感触を美智恵の指に与えた。
 ・・・死後硬直―――!?
 自分で考えたその言葉を頭の中で反芻した直後、ざわ、と、全身に鳥肌が立つ。
 しかし、半分ボケているようでも、やはり、ヨーロッパの魔王と言ったところか。
 思わず硬直した三人とは別に、何かを考えていたカオスは、ふとピートに近づくと、その手に握らされていた紙片を抜き取って、三人に見せた。
 ―――見ると、それは、破魔札である。
「は・・・破魔札?」
「・・・大丈夫じゃ。死後硬直に似た硬直、体温の異様な低下、無呼吸―――これらはどれも、昼間の吸血鬼の状態に似ておる。要するに、仮死状態で眠っておるのじゃ。こいつは半分人間じゃから、そんな風に眠る事は無い。じゃから、恐らくこの破魔札でダメージを与え、さらに札を持たせておく事によって、人為的に吸血鬼の仮死状態を作り出したんじゃろう。電気ショックの要領で霊気を与えてみろ」
「え・・・あ。わ、わかったわ」
 ピートの、心臓のそばに手を置いて、瞬間的に強い霊力を放ち―――それを、二、三回繰り返す。
 厄珍が掲げ持つ懐中電灯の明かりの下、最初はただ与えられる衝撃に僅かに震えるのみだったピートの胸が、呼吸を取り戻して軽く上下し始めたのを見て、美智恵は、口元を綻ばせると霊気のショックをもう少し続けた。
「・・・っ、・・・う・・・」 
「!ピート君っ!!」
「良かった〜!!」
 ごく小さく咳き込んだ後、唇が震えるように動いて開き、薄く、目が開いたのを見て、今度こそ冥子が喜びの声をあげる。
「良かった〜、冥子、もうびっくりしちゃったのよ〜!?」
「冥子・・・さん?あ・・・僕、は・・・」
「無事で良かったわ。頑張ったわね」
「ふむ。元気そうじゃな」
「隊長さん、カオスさんも・・・?」
 ひょい、と、顔を覗き込んできたカオスの名を呼びながら、起き上がろうとしたピートの足元で、チャリ、と言う音がしたのを聞きつけて、美智恵が顔をしかめる。
「ピート君。足、見せて」
「あ・・・」
 ピートが答えるより先に、足の方に回って見た美智恵は、その足首に精霊石の鎖が巻きつけられているのを見て、腹立たしさから、さらに顔をしかめた。
(これは・・・随分と魔力吸収力の高い精霊石ね。だから、ピート君の魔力を封じておけるんだわ・・・)
 精霊石は普通、僅かな魔力・霊力を起爆剤にして、石の中にある魔力を爆発させる武器である。恐らく、今ピートの魔力を封じているこの鎖の精霊石は、魔力の許容量が恐ろしく高いのだろう。爆発しない精霊石など武器として役に立たないが、その魔力の吸収力を利用して、こんな使い方があったとは・・・と、感心している場合ではない。
(封印のタイプは・・・付けた本人にしか外せないタイプね。一点に霊力を集中させて、一箇所だけ壊す事が出来れば・・・!)
「ピート君、ちょっと我慢してね」
「あ、はい」
 ピートは半分魔物だ。下手に霊力を注いで石を爆発させてしまえば精霊石の光で大怪我を負いかねないが、これしか方法が無い。
 万が一の場合を考え、少しでもピートのダメージを軽減出来るように、鎖とピートの足の間に片手を滑り込ませると、美智恵は、もう片方の手に霊力を集中させた。

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