ザ・グレート・展開予測ショー

檻の中のピート(後)


投稿者名:NEWTYPE[改]
投稿日時:(00/ 7/23)

「ピートは、なぜジブローに行かんのじゃ?」
童子は、冥子との会話が核心に入らない苛立ちがあって、口を挟んでしまった。
「あ・・・・・?」
ピートは、口の中で言葉をのみ込んで童子を見、庭を振り返った。
黒人の執事がエレカを走らせて台所の方に行くのが見えた。
ピートは視線をもどして胸からボールペンを出すと、メモ用紙に向かって手を動かした。
童子は、そのピートの手元を覗く冥子の動きにさそわれるようにソファを立った。
ピートは、そのメモを冥子が読んだのを確かめると、童子にメモを渡した。
童子は、そのメモを読んだ。
「・・・・・・!?」
ここの使用人は軍のスパイだ、と書いてあった。
「ジークちゃんにも読んでもらって〜・・・・・」
童子は、頷くとメモをジークの方に持っていった。
ジーク、鈴女もそれを読んで、
「本当?」
鈴女は、ジークに聞いた。
「そうだろう・・・・本当さ・・・・・」
ジークは、そのメモをテーブルの上のライターで燃やしながら言った。
さすがに童子も鈴女も納得して、お茶を飲み始めた。
冥子はピートの耳元で、
「あのメイドさんも地球連邦軍の軍人なの〜?」
「広告を見てやって来たと言う夫婦なんだけど二人とも軍人だね・・・・・もっとも、もう5年も一緒にいれば家族同然だけどね・・・・・」
ピートは、着替えてくると言うとリビングルームを出ていった。
その夜の晩餐は、ドレス・アップをした華やかなものだった。
「フフ・・・・・どうだった?お母さん。久しぶりのピートさんは?」
鈴女の質問に、冥子はゆったりと微笑を返して、
「嬉しかったわ〜。変わってなかったから〜。」
「お母さんが変わっちゃったってことだろ?」
「お腹が大きいしね〜、人前でも平気でパクパク食べられるようになってしまったんだもの〜」
「今が一番食べなくちゃいけない時だろう?」
「そうね〜。」
ピートには、子供と会話する冥子に羨望を感じたのだ。
そこには、家庭そのものがあった。
それは、週に一、二度、軍が調達した女が送り込まれるようなシステムの中に暮らすピートにとっては、圧倒的な光景であったのだ。
その女達でさえ、二度と同じ女であるということがなかった。
そこには、陰険な地球連邦軍の官僚システムの網を感じるのだ。
だから、ピートは執事が冥子親子をよく迎え入れたものだと思うのである。
が、ポーカーフェイスを旨とする執事の顔色から、その事情がなんであるのか知ることなどはできない。
食後、ピートはジークに誘われて庭を案内してやった。
勿論、ジークが庭を見たいから出たのではない。
もう16歳になったジークは、ピートの生活の意味することを知っていた。
「道以外に踏み込まない方がいい。蛇を起こすことがある。」
そんなピートのアドバイスにもジークは応えなかった。
考え抜いた末に話そうとする少年の緊張感に囚われているからだ。
庭の外灯が、無数の虫を呼んでいた。
「・・・・義父上はジブローへ行きました。」
ようやくジークは、言葉を発見したようだ。
「・・・・・さっき、聞いたよ。」
ピートは立ち止まった。
「・・・・・なのに、あなたはなぜここにいるんですか?」
「ジブローに行って、何ができるのか考えていたんだ。僕は・・・・」
「何がって・・・・・。知らないんですか?ICPOが軍を動かしたって・・・・・」
「ICPOの話ぐらいは知っているが、ICPOがジブローに降下でもしたのか?」
「大分前から、作戦はあるって聞いていました。オカルトGメンから・・・・・」
「オカルトGメン?」
「知らないいんですか!参ったな・・・あなた・・・本当に腑抜けになったんですね。」
「はっきり言うな・・・・」
ピートは、苦笑した。
「でも、僕のように後方にいる者がいるから、君達は逃げ込めたんじゃないのかい?」
承知の上の強がりであった。
「逃げ込んだんじゃありません!母上を守るため仕方なくここまで従ってきたんです。」
「母を守る・・・・?」
「大体、今ピートさんが言ったことはキ弁(漢字出ない(泣))です!大人の使う言い訳です!」
「ジーク!」
冥子の少し怒ったような声が、屋敷の方からした。語尾が延びていないことから感情的になっていることが窺えた。
だが、ジークはそれを無視して言葉を続けた。
「本当は、このいい生活がなくなるのが怖くって軍のいいなりになっているんでしょ!」
ピートは、黙ってジークに背を向けて闇の中に入っていった。
冥子が駆け下りてくるのが音でわかった。
「ジーク!いいかげんになさい!」
「母上は黙っててください!」
ピートは、立ち止まって、その二人を見て呟いた。
「ここの生活は地獄だよ。」
「ピートさん!あなたは子供の僕にこうまで言われて平気なんですかっ!地球連邦軍の監視はゆるんでいます!本当の事を言ってください!」
ジークを追って来た冥子が、
「言える訳ないでしょ!軍は、あなたが思っているほどに甘くはないわ!」
「地球連邦軍なんて、浮き足立ってるからカオス教のいいなりなんじゃないですかっ!」
「僕は、もうあの戦いの怖さだけは嫌なんだよ。ジーク・・・・。一年戦争で僕は十分戦ったよ。」
「でも、あなたはまだ若いんですよ!」
ピートは、さすがにカッときた。
が、言葉の調子は押さえるようにした。
「ニュータイプは危険分子だと決め付けられて、僕はここに閉じ込められた人間だ。こんな風に見えるが、ここは牢獄だよ。シャイアンに来る若い士官達は、研修で来てるんじゃない。ニュータイプという人間がどういうものか観察に来ているんだ。そういう生活をすれば、いいかげん骨抜きになるさ。君の期待は迷惑だよ。」
「でもね、僕らにとってのあなたは、いえ、母上にとっては、あなたはヒーローなんですよ!そんなこと言わずに、地下にMSが隠してあるぐらい言って下さい!」
「ジーク!もう、やめなさい!式神だすわよ・・・・・」
「はいっ!」
ジークは、応えざま、パッと闇の中に走り出していった。
ピートは髪の毛を掻きあげるしかなかった。
本気で喋りすぎたように思えた。
冥子は、そんなピートを気の毒そうに見つめ、
「ピート・・・・私達、明日でるわ。」
「・・・・・どこへ?」
ピートには、外灯の光の中の浮きぼりになった冥子のお腹がひどく大きく見えた。
「日本へ行く予定なの。知り合いがいるの。」
「君の立場で出国できるのか?」
「なぜかビザは下りたわ。ジークの言う通り、地球連邦政府の組織がいいかげんになっているということでしょうね。」
ピートは、それには応えずに、冥子が追いつくようにゆっくりと屋敷に向かって歩き始めた。
「・・・・・便は?」
「ごめんなさい。四、五日は、ここでゆっくりしていられると思ったから、まだ・・・」
「よし、明日、僕が手配しておくよ・・・・・」
「ありがとう・・・・・」
冥子の手が、ピートの手を下からソッと握った。
その手は、冷たかった。
「部屋は二階に用意させたよ。せめて今夜ぐらいは、ゆっくり寝て・・・・」
「ごめんなさいね。生意気な子ばっかりで・・・・・」
「いいんだよ。ああ言われても仕方のない生活してるんだし。」
ピートと冥子は、そのままの形でリビングの光の届くところまで歩き、ピートは冥子の手から離れた。
「おやすみ。鬼道夫人。」
ピートの背中が、そう言った。
冥子は、部屋の光の中に佇んでいた。
涙が出なかったのが唯一の救いだった。
「おやすみなさい、大尉。」
そう口の中で言った冥子は、リビングの光がかすんでゆくのを見た・・・・・。

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