ザ・グレート・展開予測ショー

檻の中のピート(前)


投稿者名:NEWTYPE[改]
投稿日時:(00/ 7/22)

『いかしたルックス ポーズ決めて ビジネスにくりだすのよ
 スーパーリッチな ギャランティ 一歩も譲れないわ
 危険なほど燃えるの どんな相手だって ×××しちゃうから
 you don't cry anymore 逃げないで・・・・・・』
FXが、やけに際立ったその曲は何かのエンディングテーマ曲だろうか(笑)
女性ボーカルの声がコックピットの隅々にまで充満していた。
通勤の往復で、その曲を聴くのが、ピエトロ・ド・ブラドー(以下ピート)の習慣になっていた。
ピートは、基地と自宅の間の行き来に手作りの飛行機を使っていた。
この時代でも、エリートにしかできない趣味である。
その小型の飛行機で、三十分ほどの時間をかけて通勤するのである。
勤務先は、シャイアンの地球防空司令基地であるが、それも名前だけの基地であった。
現在は実用には使われていない。
昔のままの状態で残された地下の防空監視システムは、監視衛生とレーダー網が分断されてしまった現在ではほとんど機能していないのだ。
北アメリカ大陸の光ケーブルが繋がれた地域の情報だけを収集し、監視するだけである。
ピートと数人の老軍人が、施設の管理をしているだけであった。
しかし、そのピートにも多少の仕事はあった。
地球連邦軍の士官候補生が、研修のために派遣されて来た時の教育である。
地球連邦軍も、終戦直後にニュータイプとしてもてはやされたピートの処遇には苦慮したのである。
ニュータイプは危険分子かもしれない。
『ニュータイプがその能力を発揮して、軍と政治のトップに食い込んだら、ニュータイプでない人々はどうなるのか?』
その単純な不安が、一般の軍人と政治家の間にニュータイプを排除すべしという結論を生んだ。
その結果、木馬のクルーのほとんどが、閑職を与えられて、個々の連絡も監視がつくような扱いをうけたのである。
その殺すもならず、生かすもならずの処遇の最も端的な軍務が、ピートのシャイアン勤めであった。
ピートは、その軍の処遇に不満を抱いてはいたが、宇宙に戻る衝動も湧かなかった。
疲れていたからだろう。
結局、安穏と士官候補生の前で、ニュータイプの落ちゆく姿を見せていたのだった。


夕方の太陽の光を受けたシャイアンの山並みを背に、ピートの飛行機が高度を下げていった。
ピートは、地球連邦軍の正規の軍服を着ていたが、さすがにくつろいでいた。
ピートの屋敷が、牧場越しに見えてきた。
下の牧場もピートのものである。
数頭の馬が、飛行機の音も気にせずに草を食んでいた。
小さな滑走路には、ライトが入り、ピートの雇っている執事の几帳面さがわかる。
ピートは、ディスクを切って着陸態勢に入った。
軽いショックがあって、ピートの軽飛行機が滑走に入った。
「・・・・・?また軍の連中か?」
滑走路の正面に幾つかの人影が見えていた。が、近づくとそれは女と子供だとわかった。
四人だ。
ピートは、その姿の識別がついた時に、
「・・・・・!?まさか・・・・本当に・・・・?」
と、驚きの声を上げていた。
軽飛行機の脚を止めると、ピートは慌てて制服の第一ボタンをかけて、コックピットから降りた。
「おかえりなさい〜」
四人の人影の中から、間延びしたあたたかい声が聞こえた。
「冥子さん!」
ピートは、駆け出そうとして、エレカで近づく黒人の執事に気づいた。
『頼む』と手で示して、冥子のほうに足早に近づいていった。
「ジーク、童子!それに鈴女も・・・・!」
ピートの声に、冥子はわずかに前に出たが、三人の子供達は動かなかった。
彼女はもと木馬のクルーの一人であった。
そのクルーの一人、鬼道政樹と結婚し、その時に難民の子供のジークと天龍童子(以下童子)と鈴女を養子として引きとったのである。
「よく来てくれたね・・・・・」
「ピートも、変わりないわね〜。」
「ありがとう。ここの生活では変わりようがないよ。みんなも大きくなって・・・・!」
鈴女が、愛想笑いをしたが、童子は怖い顔を崩そうともしなかった。
緊張してるせいだとピートは思った。
冥子と政樹の結婚式以来会っていないのだから・・・・・。
一番年上のジークは、手をちょいっとあげて形だけの挨拶を返した。
「またどうして・・・・?」
「話したい事は山ほどあるわ〜。今夜はお邪魔させてもらっていいかしら〜?」
「大歓迎だよ。冥子さん・・・・・」
ピートは、軽飛行機を格納庫に引いてゆく執事を見た。
『奴はどういうつもりで、この親子を屋敷にいれたのだ?』
しかし、執事はそんなピートの思いなどは知らぬ気に、軽飛行機を格納庫の中に引き入れていった。
「さっ、家に入ろう!」
ピートは、子供たちを促した。
鈴女と童子が前に立ち、ジークは、ピートと冥子の後から従った。
正面の庭にあるプールを回って、鈴女と童子は、屋敷のリビングルームに上がった。
黒人の召使いの夫人の方が、鈴女を迎えた。
「新鮮なハチミツがありますが、お嫌いでない?」
「ありがとう!!」
鈴女は夫人に無邪気に笑い返した。
童子が、あらためて豪華な室内を見まわしながら、暖炉の方にまわった。
ロココ調のロッキングチェアがあり、マガジンラックには、高価な雑誌が入っていた。
暖炉の左右には、美術品らしい壺が幾つも置かれ、壁にも抽象画、裸体画、風景画が乱雑に掛けられてあった。
が、童子にも決してピートの趣味が良いとは思えなかった。
窓際と奥にふたつのリビングセットが置かれて、鈴女は奥の方で、メイドからお茶をいれてもらった。
ジークは、あらためて暖炉の上に置いてあるスチールが、昔の木馬で撮影したものであることに気がついた。
複写でもしたのだろう。画像は荒れていたが若い木馬のクルー達の写真であった。
「六ヶ月って、まだ大事にしなくっちゃいけないんだろ?」
「もう安定期よ〜。なにも知らないんだから〜!」
ピートと冥子が入って来た。冥子が妊娠している事を言っているのだ。
冥子が、窓際のソファに座って、
「結婚しなさいよ〜。そうすれば〜・・・・」
「軍がさせてくれると思うかい?」
「フフフ・・・・まだ愛子ちゃんのこと好きなんでしょ〜?ウジウジしてるんだから〜」
ジークが遅れて入って来て、童子と一緒に鈴女の座るソファの方に行った。
子供達にとって、冥子がピートと仲が良いのを見るのは黙認できることだった。そのことで疑義のありようはない。
もともと、ピートと冥子の仲は、政樹以前の事実としてあり、そのうえで政樹と一緒になった冥子の事情を子供なりに理解していた。
苦労をしてきた子供達なのである。
が、自分達にとってヒーローであったピートが、未だにこのような豪邸で暮らしていることが不満であったのだ。
だから、口を利かない・・・・。
「しかし・・・本当に久しぶりだね。何年ぶりだろう・・・・・」
「そうね〜・・・・」
「思えば7年前のあの戦争は冥子さんに苦労させられっぱなしだったなー。」
「・・・・それは〜言いっこなしよ、ピート〜」
冥子がはにかんだ表情を浮かべる。
「で・・・・・あの時の冥子さんの出した化け物の正体は分かったのかい?」
「化け物なんてひどいわ〜。みんな私のお友達よ〜。」
「でもさ、木馬が撃沈しそうになる時っていつも彼らが暴れてたよね。冥子さんが泣き出しちゃってさ。」
「んもう〜、いいじゃない〜。戦争は終わったんだし〜。」
「ふふ・・・・そうだね。」
二人の含み笑いが微かに漏れた。
だが、二人とも顔はさほど笑っていなかった。
 

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