永遠のあなたへ(47)
投稿者名:馬酔木
投稿日時:(00/ 7/21)
「一階大食堂、および全個室を確認。誘拐された少年の身柄は発見できず。生活痕跡もありません。現在、隠し扉などが無いか、捜索を続行中です」
「二階、東棟の全室の捜索を完了しました。引き続き、西棟の捜索に移ります!」
「了解。一階を捜索中の第三班、第四班は、半分を二階の捜索に回して。第五班は三階の捜索に当たって!」
「了解!」
加奈江の屋敷―――その、玄関から入ってすぐの、玄関ホール。
三階までぶち抜きになった吹き抜けの、一番上の天井には、ほこりを被って汚れてはいるが、クリスタルガラスで飾られた壮麗なシャンデリアが飾られている。
そのシャンデリアのほぼ真下の、玄関ホールの真ん中で、美智恵は、次々と経過報告に来る捜査員達に采配を振るっていた。
捜索が始まって、すでに一時間―――そろそろ、何かがわかってもいい頃なのだが。
「冥子ちゃん。クビラの霊視はどう?」
「ごめんなさい〜。加奈江って人の魔力が屋敷中に充満してるせいで〜、まだちょっとわかんない〜」
口調はのんびりでも、先ほどから、ずっと冥子は屋敷中を霊視してくれている。
「・・・わかったわ。何かあったら教えて。私は外の様子を見に行くから」
その、冥子の一生懸命な気持ちを汲み取って、美智恵は冥子の肩をポンと叩くと玄関から庭の方に出た。
庭では、二十人からの捜査員が、人海戦術で草刈りをしている。
家の外に、地下室への隠し扉などが隠されてはいないかと、伸び放題の下草を刈り取って、捜しているのだ。
「こっちの様子は?」
「隊長」
いかにも「現場で頑張ってます」と言う感じの班長が、美智恵の声に振り向く。
別に、やたら体が筋骨隆々としているわけではないが、顔つきや目元は精悍で、ついぞ見かけない完全硬派な男らしさと誠実さが、そこかしこに滲み出ている―――そう言ったタイプの男だ。
「・・・正直、何も見つかりません。・・・もう、一時間になりますね」
「・・・そうね」
この様子を見る限り、荒れ放題だった庭の下草は、あと一時間もすればきれいに刈り取られてしまうだろう。
「・・・あの・・・隊長、それで・・・」
何か、言いにくい事なのか、こちらを向いて話し掛けてきた班長は、彼らしくもなく言葉の途中で口篭もった。
その表情から、彼が言わんとしている事を読み取り、先回りする。
「・・・そうね。検土杖も使って捜索して」
「あ・・・は、はい」
自分が言いにくくて口篭もっていた事を、こちらを気遣うような微笑と共に言われて、思わず敬礼する。
検土杖―――それは、地面に突き刺して使う道具で―――最もわかりやすく、端的に言ってしまえば、地面に埋められた「死体」を捜す道具である。
・・・ピートは日本では、建前上未成年であり、唐巣神父の扶養家族となっている。なので、今回、捜索に関わっている捜査員の中には、その辺りの事情をよく知らないため、ピートを本当にただの高校生だと思っている者もいる。
この男は、その辺の事情を、ある程度知っている。ピートが、美智恵達と懇意にしている人物である事も、知っている。
だから、この男は、美智恵の心情を慮って、「検土杖を使わせてくれ」の一言を、言いあぐねたのだ。
「・・・あの。新しい土盛りをしたような痕跡はまだ見つかっていませんから、念のためと言う事で―――」
「いいのよ。気遣ってくれなくて。・・・賢明な判断だわ」
誰もがそう思っているように、美智恵も、ピートがすでに殺されている可能性など考えたくない。考えたくは無いが、しかし、プロとして、考えておかなければならないと言う面もある。
そのため、どうしても払拭出来ない嫌な想像に、美智恵が首を横に振った時、不意に、斜め後ろからカオスの声が聞こえた。
「おーい。隊長さんよー」
「?」
何か見つけたのかと思い、上を向きつつ振り向くと、二階のとある部屋のベランダに、カオスが出て来ていた。
「厳重に鍵をかけられとった部屋じゃよ。面白い・・・と言うと不謹慎かも知れんが、まあ、変わった部屋じゃ。見に来い」
「・・・?」
一体何があったのかと思いつつ、屋敷の中に戻ると、何かあった時に霊視させるため、冥子も連れてその部屋に入る。
そして、その部屋に並んでいるものを見た途端―――冥子はいつものようにキョトンとした顔で小首を傾げ、その一方で、美智恵は思わず口元を引きつらせた。
「なっ・・・!!」
「まあ〜。ピートくんがいっぱい〜」
壁はおろか、天井まで埋め尽くすような勢いで飾られているピートの写真や、パネルに引き伸ばされた大写真を見て呑気に笑う冥子の横で、美智恵は言葉を失っている。
誘拐された時にピートが着ていたものであろうか―――黒い学生服が、ガラスケースの中に美術品よろしく丁重に飾られているのを見て、美智恵は鳥肌が立つのを感じ、制服の布地の上から二の腕をこすった。
「加奈江さんの部屋・・・なのかしら?」
「恐らくな。見てみい、こんなのもあるぞ」
そう言ってカオスが差し出した小ぶりな写真立ての中には、窓を開けて伸びをしているパジャマ姿のピートがいた。
写した角度にかなり強引なものがある上に、レンズの手前に葉っぱか何かあったのか、それらしい影が隅に写っていて―――どう見ても、隠し撮りされたものとしか考えられない。
「・・・見目が良いのも考えものってトコかしら?」
「さあな」
カオスが見せた写真から目を外し、室内を見回す。
カオスと一緒に突入したらしい捜査員達は、隠し扉のような物が無いかとパネルを外してはその後ろの壁を点検していた。
緊張感が漂う空気の中で、写真の中のピートは、どれも和やかに笑っている。
確かに、ピートが相当容姿端麗な少年だとは、美智恵も感じるところではあるが―――
(ここまで執着する相手がいるなんてね・・・これも、吸血鬼の魔力のひとつ、なのかしら・・・)
一般に吸血鬼は、魔力が強い者ほど美しい外見をしている。
それは、彼らにとっての餌である人間を魅了するため、と言う説があるが、確かにそうかも知れない、と思う。
吸血鬼と同じように、妖狐も、人間の生気を吸い取って自分のエネルギーにする能力を持っている。そして、その妖狐であるタマモも、その外見はかなりの美少女だ。
魅了するための端麗な容姿―――
ピートの外見をひがむ男や、タマモの可愛らしさをねたむ女子はいても、彼らの顔の作りそのものを嫌いだと言う者は、まずいないだろう。
ひがんだり、ねたんたんだりする反面で、「私もあんな顔だったら」と言う、羨む気持ちが必ずどこかにある筈だ。
(まあ確かに、好ましい容姿である事はわかるけれど・・・)
美智恵も確かに、ピートの容姿を可愛らしいとか、格好いいと感じる。
しかし―――綺麗だから、可愛いからと言って、自分の理想に勝手に当てはめ、連れて来るのでは、隣の家の子の人形の方が可愛いから盗んでくるようなものではないか。しかも、連れて来た相手は本人が思い描いている理想の人形ではない。自分の意志と思考を持った一個の存在だ。
加奈江が、ピートに対してどんなに深い愛情を持っているかは知らないが、相手の意志と思考を無視して押し付けるのでは、話にならない。
お互いの心を理解し、繋ぎあおうと言う気持ちが大切なんだから―――と、それぞれ居場所は離れていても、心を繋ぐ体験を共有した伴侶がいる美智恵は、心の中で呟く。
(・・・だから、こんな事は許せない・・・)
神父を安心させるためにも、早くピートを捜さなければ。
こちらに振り向いて、微笑んでいるピートのパネルを持ち上げて、背後にある壁を確認する。
「あの〜。おば様〜」
その時、ベランダに出ていた冥子が、その美智恵の背中に呼びかけてきた。
「なあに?何かわかったの!?」
「ん〜。よくわかんないんだけど〜、クビラちゃんが、そこの井戸が何か気になるって〜」
「・・・井戸?」
ベランダに出て冥子の隣に立ち、その指さす方を見る。
すると、まだ草が残っている庭の隅の、建物の壁のそばに、木と下草で周囲を囲まれた石積みの丸井戸があるのが見えた。特に草が深い場所なので、上から見下ろさなければわからない。
(井戸・・・井戸って、まさか・・・!?)
しかし、今の美智恵の頭はそんな事よりも、「井戸」と聞いて、再び湧き起こってきた不吉な光景に支配されつつあった。
それを打ち消すように頭を振ると、ベランダから身を乗り出して、一番近くで草を刈っていた捜査員に呼ばわる。
「ちょっと!そこの井戸を調べて!・・・・そう、その先に、井戸があるの!」
井戸と聞いて、その捜査員も同じような事を想像したのだろう。一瞬、躊躇するように動きが止まったが、近くにいた仲間二人に呼びかけると、一緒に井戸の方に向かう。
美智恵が庭に向かって叫んだ「井戸」の一言は、当然、他の捜査員達にも聞こえており―――
一瞬、全ての動きが止まった静寂の中に、井戸を覗き込んだ捜査員の、驚愕の声が響いた。
今までの
コメント:
- 加奈江の屋敷捜索組の話です。
ちょっと私用でごたごたしてたら間が空いちゃいました。ごめんなさーい。
・・・てゆーか、こんな極道なところで止めるなよ、と、自分でも思います(苦笑)
・・・ごめんなさーい・・・ (馬酔木)
- いやはや、実に見事な引きです。もう、この先が気になっちゃって気になっちゃって(笑)。
大食堂なんてものが在ったりして、加奈江さんのお屋敷ってこれまた随分とご立派だったんですね。
それにしても加奈江さんの部屋をみて顔色一つ変えないどころか笑ってすらいる冥子って一体……(笑)。 (Iholi)
- うわ〜〜続きが気になりますけど、そろそろネットもできなくなります(泣)
できれば月曜日位までに続きが読みたいです(願望)
ってそれまでに完結しませんよね(笑) (NEWTYPE[改])
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