ザ・グレート・展開予測ショー

[第二章]重力の井戸の底で(前)


投稿者名:NEWTYPE[改]
投稿日時:(00/ 7/18)

降下するバリュートの航跡がオレンジから白に変わると、空は深い蒼色から抜け出す。
MS隊は、編隊を組んで降下したのであるが、地上で考えるほどに各機は接近していない。
それはできないというのが正しい。
音速の何十倍もの速度で降下するものが、編隊を組むことは不可能である。
横島は、激震の続くMK-Uのコックピットで味方のバリュートを捜してみたが、左に数個のバリュートの光を見ただけである。
それで敵味方の識別などつくわけがなかった。
機体のコンピュータに記憶されているバリュートのデータは、カオス教もICPOも同じものである。
バリュートに包まれて降下するMSの機体の識別は不可能である。


アマゾンの蛇行する形が雲の下に識別がつく頃から、横島は地上の防御網の攻撃を心配しなければならなかった。
そしてなによりも、ジブローという一点に降下しなければならない。
コックピットのコンピュータが地上の地形読みとりを始める。
勿論雲を排除するぐらいの芸当はできる性能を持っていた。
が、すべて機械のやることである。ミスの確認はパイロットがやるしかない。
そのために、降下する全てのMSのパイロットはこの瞬間が一番忙しかった。
そして、敵の迎撃に出会うことができれば正確に降下した証明になるのだ。
それは追撃する雪之丞たちカオス教のパイロットも同じであった。
アマゾンの上流は、その川幅が狭くてジャングルの間を幾筋にも蛇行している。
さらにその上流にはアンデスの山裾が伸び、それを見渡すことのできるジャングルの下に巨大な鍾乳洞が広がっていた。
それは地球連邦軍が地下基地として使っているジブローである。
その地上部には、地球上に残された数少ない原生林を切り拓いて巨大な滑走路が建設されていた。
ガルーダ(地上で使われている巨大空母)用の滑走路である。
そこは今、使用中であった。
カオス教がジブローを支配するようになってから、その戦力を分散するためにジブローは引越し中であったのだ。


七十機ほどのICPOのMS隊が、各個にバリュートを放出しはじめ集結ポイントに向かって滑空体制入った頃、ジブローの地下では警戒警報が鳴った。
そのジブローの中枢近くのビルの一室で警戒警報を聞いた人影が立ち上がった。
「・・・・・・・?」
その眉はつりあがりきつい表情をした女性である。
アーギャマから、ひとりカプセルで地球に降下したメドーサであった。
「何かあったのかね・・・・?・・・・ったく、あたしともあろーもんがこんな連中にとっ捕まっちまうとはね・・・・・・それもこれも全部あのバカ西条のせいだよっ!!『僕には恋人を持つ資格は無い』だぁ〜〜!?はん、なめんじゃないよっ!!そんなのこっちから願い下げだよ!ったく・・・・」
メドーサは苦虫を噛み潰したような表情でドッとベッドに寝ころがった。
「こんなことなら始めからあの横島ってのにしとけばよかったかな・・・・・」
メドーサが何気なく呟いたその時である。
ドドーーン!!!
爆音と共にビル全体に強烈な震動が走った。
「なんだっ!?空襲かいっ!?」
メドーサはバッとベッドから飛び降りると、看守に事情を聞こうとドア窓に近づいた。
「おい、看守っ!!外で何が起こってるんだいっ!?」
「く、空襲だ〜〜!!た、た、た、助けてくれ〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
看守は、パニクった顔をしながらおぼつかない足取りでヨタヨタとその場から去っていった。
「空襲だ〜!?はん、ゾッとしないね。だってあたしゃ魔族・・・・・・いや、違う!あたしゃ今は生身の人間だった。くそ〜〜これじゃ爆弾一発でお釈迦だよ!!せめてドア開けてから逃げろっつーんだよ、看守のヤロー!!・・・・・ち!どうしようかね〜〜。」
メドーサは困惑した表情でその場に座り込んだ。


横島は、フライングアーマーに乗ったまま、眼下の雲の切れ間に見えるアマゾンの一点に向かって突進していた。
が、速度を落とそうとフライングアーマーを仰角にすると激しい振動をうけた。
いかにも機体の降下を妨げる大気と重力の葛藤が感じられた。
「くそっ!・・・・これが地球の重力か!」
前面モニターには、高度と姿勢制御のデータ、バーニア噴射時のタイミングを指示する秒数などが刻々とカウントされていた。
その周辺のジャングルの中に隠されたミサイル発射台が、ようやく迎撃ミサイルを発射し始めた。
ジャングルの陰のカタパルトからも迎撃戦闘機が発射し始め、降下するICPOのMS隊に向かった。
「来たかっ!」
西条の十式が、バリュートのカプセルを放出し、上昇にかかる戦闘機を狙撃した。
そのバルカン砲の狙いは正確だった。
アマゾンの上空に閃光の華が咲いた。
ICPOのMS軍のさらに上空からは、カオス教のザックを主力にした追跡隊が現れ、バリュートを切り離し降下態勢に入った。
雪之丞のマラッサとザック隊は、腹部と足につけたバーニアで降下スピードを落としながらも、その滑空角度を変えて急降下をかける。
「MK-Uはどこだっ!!」
雪之丞はモニターの索敵カーソルを必要以上に移動させた。
そして、カーソルの指示に合わせるようにマラッサの機体を横に流していった。
その時は、MK-Uのフライングアーマーは、ジャングルの木々の上スレスレを滑空して、前方の木の間から飛び出すように接近する戦闘機を見つけていた。
「このやろうっ!!」
横島は、MK-Uのバルカンを斉射した。そして、MK-Uの乗ったフライングアーマーが、落ちるように川面を打った。
その周辺の川面が爆発的に水柱になりMK-Uとフライングアーマーがその水柱に包まれた。
フライングアーマーにはホバー機能がついていて、それに乗って川面を走るのだ。


横島は、フライングアーマーを第一滑走路の方位に向けて滑らせている時、火を噴いているICPOのジェムを見つけた。
「・・・・・・!?」
横島がそれを見た時、そのコックピットのハッチが弾けて炎が噴き上がった。
「!!・・・・あの中に・・・・?」
横島は逃げることのできなかったパイロットのことを思った。その一瞬の静寂の中に声が飛び込んできた。
「横島君、どこだ!?生きていたら返事をしろ。」
西条の声がノイズの中から聞こえてきた。
「ここっス!」
「何している。ポイント203に集結だぞ。」
「すぐに向かいます。」
MK-Uはフライングアーマーの上でライフルのエネルギーパックを交換しつつ、蛇行する川を進み泥濘地帯に出た。
そこは土色の爆発の渦が起こり地は煮えたぎっていた。
ジャングルの奥から狙撃してくる敵に、足を止められている西条の部隊があったのだ。
何機かのノモとジェムが泥の中に倒れ、それを盾にして後退を我慢する銀色の西条の十式と数機のMSがあった。
一機のディアスがジャングルの中に突進をかけた。シロ機だ。
「横島君はっ!」
西条は横島の接触が遅いのを罵った。
と、その背後の川面を三機のザックが、巨大なバズーカを持って滑り込んだ。
そこに、MK-Uのフライングア−マーが滑り込んできた。
「あれか!?」
横島は、MK-Uの腰の後ろ装着してあったバズーカを左手に持つと、川面をなぎ払うように斉射させた。
敵の砲撃が止まった。
ザックの二機は爆発するが、倒れこんだザックのハッチからはパイロットが逃げ出すのが見えた。

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