ザ・グレート・展開予測ショー

眠れない夜が続いた後に。


投稿者名:トンプソン
投稿日時:(06/ 9/26)

屋根裏からキッチンへ向かって来る足音がおキヌちゃんの耳に届いた。
ただ、その足音のリズムが変拍子なのが気になる。
「昨日も駄目だったのかしら。タマモちゃん」
可愛そうにと言いたげな表情をしたが、ドアノブが廻ったのを見たと同時に何時も通りの笑顔を作った。
「おはよー、タマモちゃん・・ってやっぱり眠れなかったの?」
「・・うん。だめ・・だった」
目の下にはくまが出ており疲労の色を隠そうとすらしないタマモである。
ふらついた足取りでキッチンにあるタマモ専用の椅子に座った。
「朝ごはん、どうする?」
タマモの背中越しからおキヌちゃんが朝食の要不要を尋ねる。
「・・うん。牛乳だけでいいや・・」
「冷たいの?温かいの?」
「ヌルめが・・いいな・・」
「はーい。ちょっと待っててね。なんだったら眠っててもいいから、ね」
「・・・私も出来れば眠って待ちたいけど・・ダメなのよ・・はぁあああ」
ため息が欠伸に変化したが、完全睡眠に襲われる事は無かった。
タマモの様子を見ているおキヌちゃんはため息と同時に。
「あぁ、どーしてこんな時に美神さんも横島さんもいないのよぅ」

遡る事4日前、上記2人に加え、シロが唐巣神父の請け負った仕事のアシスタントとして、
関東圏の最北に近いとある街で営業中である。
学校の関係でおキヌちゃんと、割り当てられた仕事の関係上、
タマモは少々使いにくい状況であったことから、この2人がお留守番役となっていた。
「馬鹿犬もヨコシマもいないのか。暫くは静かになりそうね。おキヌちゃん」
「えぇ、そうね。そーだっ、2人だけだし今日はピザでもとりましょうか!」
「さんせー!私は海老よりもカニがいいわ、あとナスが乗ってるのも」
横島を加えた5人で食事となると、大皿料理の場合は、大食漢のシロと横島とそれに負けじと美神の3人が争う光景がしばしば見られ、
はしっこ程度しか食べられない事があったのである。
「あとはー、私お風呂にジュース持ち込んで長風呂したいなー」
「えっと、じゃあ今日はタマモちゃんにお風呂譲るけど、明日は私の番ね」
「うん了解!」
と、初日は2人ともそれなりに人の少ない事を満喫していたのだが、
今はタマモが大変な事になっている。

かつて体内時計の作動不良による発熱経験があったが、その一事を除いては概ね健康であったタマモ。
ところが、ここ4日間はまったく眠れていないのだという。
不眠症になってしまったのだ。
おキヌちゃんも1日ぐらいなら大した事ないかな?と考えていたが3日目ともなれば話が違ってくる。
晩御飯もそこそこにしか口にしないで何時もの屋根裏に向かったタマモである。
「お風呂どうしようかな・・。いいや今日も外出てないし」
眠れないでも横になっていた方が楽なのか、ベットで目を瞑っていたタマモである。
どうせ眠れないなら、少しでも昔の事思い出さないかなと、自らの過去を探っていこうとした矢先、
おキヌちゃんがやってくる足音が聞こえてきた。
万一、タマモが寝ていたは申し訳ないと、小さなノック音が屋根裏に聞こえてきて。
【トントン・・・トントン】
「起きてるわ、おキヌちゃん」
「ねぇ、タマモちゃん今日も眠れないのなら睡眠薬、試してみる?」
日本国内で唯一医師処方が無くても良いとされる、言ってしまえば気休め程度の薬を買ってきたのだが。
「・・ゴメン、おキヌちゃん気持ちだけもらってくわ」
眠れないでも横になっていた方が楽なのか、ベットで目を瞑っていたタマモである。
「うーん。試すだけでも」
「その・・。私たち妖怪にとって人間の薬はその・・強すぎるのよ」
タマモの言葉に疑問が生じるおキヌちゃんである。
「例えて言うと、体がポカポカするからって子供に強いお酒を飲んじゃったら問題でしょ。それと一緒なの」
やや論点が外れてる気がするが、ここは素直に従っておいた方が良いとおキヌちゃんは判断した。
「うーん、タマモちゃんがそういうなら無理に勧めないけど、甘酒でも呑んでもる?」
「明日も眠れなかったら甘酒、試してみるわ、おキヌちゃんももう休んで、お休みなさい」
タマモ、おキヌちゃんの優しさが琴線に触れ少しは期待するトコがあったのだが、
結果は残念ながら眠れない夜であった。

さて、おキヌちゃんもこのままでは可愛そうだ、病院に連れてくとなると、どちらだろうか、
人間の病院か、村山動物医院か、迷う所である。
まぁ、考え事で手が止まる愚を家事を得意とするおキヌちゃんがするわけもなく、
人肌に温まった牛乳を深皿に流し、ほんの少量の砂糖と、チョコレートひとかけら、
そしてコーンフレークを真ん中に盛ってタマモの前に持ってきた。
「眠れないのなら、このぐらいは食べないとね、ゆっくりでいいからね、私洗濯してくるからね」
「うん・・・。ありがとー・・はぁ」
タマモとしてはコップに入った牛乳を食道に流し込もうと考えていたが、
これはスプーンを使って食べる事となる。
ため息をついて、視点の定まらぬ目を使い、少しづつ口に運んでいった。

タマモは音に敏感だろう思い、おキヌちゃん洗濯機をここ3日間使用していない。
溜まった洗濯物も今日が限度であり、ついに洗濯のボタンを押したおキヌちゃんである。
ピッピッと、洗濯量や洗物の質を一通り洗濯機に打ち込み、スタートのボタンを押す。
洗濯層がゴトゴト動いた後に小さな滝にも似た音が流れてきた。
「洗濯機ってけっこう音が響くのよねー、ってまさか」
何かヒントでも見つけたかのようなおキヌちゃん、すうと息を吸ってから。
「ねぇ、人工幽霊一号。聞きたいことがあるんだけど」
『何で御座いますか?』
「うん、今屋根裏でものすごい物音が響いてくるとか、妙な気配とか感じれる」
『その答えはNoで御座いますれば。ここ数ヶ月は私の結界も好調です』
「そう・・じゃあタマモちゃんの不眠症は、やっぱり精神的なのが問題なのね」
『斯様に存じます』
「はぁ〜、やっぱりお医者様に見せたほうが良いのかなぁ?」
何度目になるのか、他人(他狐?)の為に吐くおキヌちゃんのため息であった。
洗濯機のある部屋から再度タマモのいるキッチンへと向かう。
と同時にぴしゃっと鋭い水音の後に咳き込む音がおキヌちゃんの耳に入る。
「・・けほっ、ケッ!ケッ!」
「だっ、大丈夫?タマモちゃん」
慌ててタマモの背中を叩いていると。
「ゲホゲッゲッ、だ、大丈夫よ、ちょっとムセたダケだから・・ゲホゲホ」
「えっ?牛乳とコーンフレークで?」
「・・うん、一瞬クラッっときて、お皿に顔つけちゃったの」
なるほど、顔を見ると鼻先から牛乳が垂れている。
「あぁー。もー気をつけてね、ほら。お洋服にまで牛乳が付いちゃってるわ」
テーブルに有った布きんを使って牛乳で濡れた鼻先を拭き取るおキヌちゃん。
「・・そう、ね。今洗濯機回してるのよね?勿体無いから一緒に洗っちゃうね」
皿にはほとんど牛乳も残っていなかったので、食事は切り上げて。
簡単な気分転換にでもなると思ったのか、
「じゃ、私が洗濯場までいくわ。あ、いいわよ。おキヌちゃんの手は煩わせないから」
ひらひらと、多少は痛さで目が覚めてるからとアピールして、キッチンを出て行った。
おキヌちゃんは汚れたテーブルを先ほどタマモの鼻先を拭き取った布きんで奇麗にしてから。
「アレ?そーいえばタマモちゃんの洋服って・・あっ!ちょっと待って!」
慌ててタマモの後を追ったのだが。


「えっ!私の洋服もうないの??」
「う、うんほら、美神さん達が仕事に行く前にみんなの模様替えしたでしょ、その時にタマモちゃんのは」
古くなっていたり、擦り切れていたりで夏秋物を大量に処分しているのである。
まだ冬物には早かったので、先取りでクリーニングに出したり、残りの洋服は今正に。
「・・廻ってるの・・ね」
何処で購入したのか、かなり大型な洗濯機が轟音を出している。
既に上下の上着を洗濯機の中に放り込み、ついでに、柄違いの下着も入れようかと、
手にかけた寸前の時であった。
「・・じゃあ、私の下着が無いのは?」
タマモに限らず、全員の下着専用のケースは、洗濯場と同じ部屋にある。
無論のこと。
オーナーの美神令子を筆頭に(見た目を含め)若い女性のこと、所謂「勝負下着」は
各人の部屋、乃至は目の届く範囲にあるが、日常生活で使う下着は前述の通りである。
そしてタマモの下着専用ケースの中は下につけるものだけは数枚あるが、上につける物が一枚としてなかったのである。
「それは・・偶然じゃないかなぁ?・・」
「まさかヨコシマが盗んだとか?」
「ソレは無いと思うわ。横島さんが興味あるのは美神さんのだけらしいのよ」
「ふーん。で、おキヌちゃんはそれでいいの?」
「えぇ、一度横島さんに聞いたら『おキヌちゃんのを盗んだらそれこそ人として終っちまう」ですって」
にこりと笑顔を見せたおキヌちゃんを見て。
「ナニが嬉しいのよ・・」
聞こえるかどうかで呟いたタマモがいた。
それと同時に肌寒さがタマモを襲い始めた。下着一枚では。
「真夏とかお布団の中ならともかく、こんなんじゃあ風邪引いちゃうわ、ねぇバスタオルか何か無い?」
そうねぇ、と言いながら洗濯場を見回すおキヌちゃん。すると。
「あ、そーだ、仕舞い忘れたタオルケットがあるわ。これなんてどうかしら?」
「うん、そーね、何もないよりは」
と、存外にも器用にタオルケットを体に巻きつけるタマモ。
常人よりも上手に巻けたのは、尻尾を巧みに使った結果であった。
「意外とあったかいものね。・・それに」
置いてあった場所が朝日が登ってからずっと陽光を受けていたので、ぽかぽかと暖かい。
「気に入ったの?タマモちゃん」
「ほんのりあったかいのも悪くないわ、ねぇおキヌちゃん。私このままソファーで寝転んでるね」
「うん。どうぞ」
眠れるといいんだけどね、と心の中で付け足したおキヌちゃんであった。


不眠症の症状の一つに「夢なのか現実なのか曖昧模糊な状態」というのがある。
体は寝ているが、脳みそが起きている、というべきか。
目は確かに瞑っている感覚があるが、夢の中で色を含めて今いる場所が展開しているというか。
実際に体験した事のある諸兄も多いと思う。一度や二度ならともかく、
これが昼寝、転寝の毎に続いたら矢張り脳も体も疲労を隠せない。
タマモ、右腕が痺れたので寝返りを打ちたいが、脳みその命令を体が受け入れてくれない。
何度か起きた感覚はあるのだが、気が付くと同じ格好でいる。
聞きなれた声がする。あ、私の肩を揺さぶってる・・。
もううっさいわねぇ!今目をあけるから、ちょっと、待って。
待って・・・。
まるで魂が体に戻ってきたかのように、脳みその命令をダイレクトに聞き入れ、
タマモが目が開くと、其処にいたのは。
「只今。タマモ。聞いたぜ。不眠症なんだって?」
「キャッ!ってヨコシマ、アンタ何時からいるのよ!!」
目が冴えると今自分は下着姿にタオルケットを纏っているだけと思い出し、
さっと横島から身を引くタマモ。
「いや、ほんの今さっきだぜ、にしてもタマモ」
「何?」
頭からタオルケットを被ってるって赤ちゃんみてぇだな」
「!失礼な、ヨコシマみたいに万年同じ服の人とは一緒にされたくないわ」
「ははは、ひでぇ言われよう」
といいながら全く気にしてない様子である。
横島の格好は頭のバンダナはしっかりと装備されている。
長袖のシャツにジーパンの出で立ちで、少し汗臭く感じた。
タマモが横になっていたソファーの隣には大きな荷物があった。
「これ、ナニ?ヨコシマがお土産買ってくる訳はないだろし」
そういわれ一瞬むすっとした顔を見せたが事実買ってはきていないし。
「コレは美神さんとシロの荷物。先に帰ってきたんだ」
「え?ヨコシマ一人なの?」
普通に考えれば美神やシロと三人一緒で帰ってきそうなのだが。
「仕事先にエミさんも来てて、また何時ものように張り合いしちゃってさ」
どうやら二人の仲を取り持とうとして画策中の神父のようである。
だが、結果はいつもどおりで神父は自身の広い額に手を当てて嘆いていた。
あはは、美神さんらしいわね。とタマモがコロコロと笑い声を出す。
「もう仕事は終ったし、『早く帰りましょうよぉ〜』って言っても聞いちゃくれねーし」
それで付き合いきれなくなって帰り支度を始めた唐巣神父に便乗して横島も同乗したのだという。
「で、こーやって先に美神さんの荷物を持ってきたって訳さ」
「それじゃあ、馬鹿犬は?」
「馬鹿犬って・・・・。あぁシロの奴なら『折角なので、里に挨拶するで御座る』つって」
シロの神速を持ってすれば、関東圏の最北の町から人狼の里は行こうと思える距離であるようだ。
「そう、里に帰るんだ・・。いいな」
そう、タマモは妖怪の中でもオンリーワンな存在。
対してシロは人狼族なので、仲間も少なからずいるのである。
人間の感覚で言えば、
何処ぞの外国にひとりぽつんといる日本人、という所であろうか。
普段、仕事を手伝ったりしていればそんな寂しさは感じないが。
一度こうやって暇になると、急に訪れる侘しさ。
それが原因の一つとなって不眠症に陥ってるのではないだろうか?
もっともこの病気、複数の問題で眠れなくなるとされている。
「ま、いいわ、それよりもさヨコシマ、文殊で私をぱーっと」
眠らせて欲しいとお願いしたのだが、首を横にしか振らない横島。
「どうして駄目なのよぉ?もしかして文殊がないからとか?」
「いや、そーじゃなくてさ。文殊ってのは俺が「こうあればいいな」って文字が浮き出て強制的に行動させる技なんだよな」
「?それで」
「だからタマモに「眠」とか「寝」って文字を投げつけても、タマモは起きられない、状態になるだけ、って事だな」
「じゃあ私が文殊に押さえつけられるだけになるのね」
「そういうことさ。すまねぇ。タマモ」
横島も多少は疲れていたのであろう、欲情する事も無くタオルケット姿のタマモに哀れみを込めて頭を撫でようとした時であった。
タマモの鼻腔が横島の胸の辺りから漂う香、残り香に反応した。
「クンクン・・えっ?ねぇヨコシマあんたの体から馬鹿犬の匂いがするんだけど」
「んー、そうかもなー。今回の仕事ってさ、俺とシロがコンビ組んでから」
まる2日、軍隊行動並に同一行動を強いられた二人であった。
この仕事は横島にとっては出資者は唐巣神父なので些少の心配ではあるが、報酬は神父から直接手渡しと約束され、明日にでも唐巣教会へ向かおうと考えている横島であった。
シロはもう、日長大好きなお師匠様と一緒に行動できるので、これほど美味しい話はない。
何かにつけてベタベタする様子をみてると。
安全牌だと思っていたハズのシロを見る目が変わってくる女性。
美神令子嬢その人だったりする。
「そう・・ね。あの馬鹿犬もちゃんと仕事しているようね、へぇ、5メートルの高さの崖を登ったんだ」
くんくんと、匂いを嗅ぎ続けると少しずつ二人の行動が目に見えてくるのだという。
タマモに限らず女性、しかも結婚している女性ならばこのような能力をもっているのだという。
流石に人間は匂いではないが。
見慣れた旦那や子供の微妙な違いを見破り、突き詰め、解決のヒントを与える。それが母親という物だ。
「へー。食事は照り焼きチキンだったんだぁー。私たちはぁ。ピザたのん・・だ・・」
「お。おい!ってタマモ」
急に力なく落ちていったと思ったら横島の胸元を枕にするように熟睡といっても差し支えないぐらいに寝落ちたタマモ。
「お、おいどうしたんだよ、寝るなら部屋で」
と、言いながら屋根裏へつれてこうとして、タオルケットを外そうとすると。
「駄目ですよぅ、横島さん、タオルケットの下はその・・下着だけなの」
これが妙齢の女性であれば煩悩爆発間違いなしだが、タマモの場合はちがうようである。
「なんちゅー破廉恥なっ、てそんな格好で落ちるな」
今の今まで不眠症だったのが嘘のように引いて行く。
「・・そっか、シロの匂いを感じて安心したんだな。多分」
動物社会ではよくあることである。
群からはぐれた場合、全く眠らず捜索行動を起こし、群を見つけ戻れたら休むという習性である。
そんな事を口にしつつ横島は話を続けた。
「タマモは最初はつんけんして、今でも馬鹿犬なんていうけど、心底シロを信用してると思うんだ」
「それは、私も同意見です」
とおキヌちゃん。
「きっとシロがいなくなったから安心して眠れなかったんだろうね。ほら見てよこの気持ちよく寝てる姿」
このままじゃ重いと、横島もソファーの背もたれに体を預け、胸部をやや斜めにそらせてそこにタマモの頭を乗せている。
見た目、恋人同士の情事後にも見えなくないので、
やや面白くないと思うおキヌちゃんである。
「ま、よくねむれ・・・て、あいたた・・・・た・・・・た」
本当に眠り始めたのか、横島の二の腕を掴み、つめを立てて、
「ひゅー、う〜ん」と、快眠の続きを楽しんでいる。
「大丈夫?」
と、おキヌちゃん、声ではなく口の形で横島にといけると。
「う、うん、なんとか」
と、涙声が返ってきたという。
どうやら30分ぐらいは横島を枕にして寝ていたようだ、で少しだけ睡眠から戻ってきたタマモ、寝ぼけ眼である。
その時に聞き覚えのある、古風な物言いをする女性の声がした。
「とにかく、ここじゃあ風邪も引いちゃうし、屋根裏へ連れていくで御座る」
うん、よろしく・・・と声に出せたかどうか、怪しい所であった。



四日振りに、寝れている。例えるに泥遊びをした後に入るお風呂のように、温かさと共に流れ去っていく。そんな睡眠を得られたタマモであったが。
「いたったた!、ナニをするで御座るかこの女狐!」
快眠中に耳元で大声をだされれば誰でも目が冴えるというもの。
「なっなに!」
どうやら布団にくるまっているようなので、ふとんのへりで胸元をかくしつつ、上半身を起すと。
「いやん、で御座るぞ」
「・・・・え?」
今タマモ自身の格好は下着姿。で、今目の前にいるシロも下着姿。
辺りを見渡すと。
「ここは・・・。屋根裏で・・でこっちはシロ、あんたのベット?」
「正解で御座る。ではとりあえず、寒いので布団の中に入れて欲しいで御座るが?」
「う、んわ、判ったわ」
比較的大きめの布団なので、女の子二人程ならゲンコツ三個分ぐらいには離れれる。
「只今で御座るタマモ」
「・・えっと私ねぼけてたみたいだけど、どういう事なの?」
「あぁ、タマモがお師匠様の胸元で寝てると同時に爪を立てていたので御座る」
それが運の悪い事に横島の少ない霊力を吸い取り始めたのだという。
実際に狐の一族が幻を見せるとき、相手の霊力を借りて使う事があるのだ。
それでも、我慢してとおキヌちゃんに頼まれた横島は限界に近くなるまで我慢していたのだが。
「も。もう駄目だ、マジでヤバイ!」
タマモ、起きてくれ!と言おうとした矢先に人工幽霊一号が声を出して。
【横島様、おキヌ様。シロ様がお帰りになられました】
コレ幸いとおキヌちゃん、枕を横島からシロに上手に移動させたのである。
尚、不思議な事に。
横島の霊力は吸っていたが、シロの霊力には手をつけなかった。
ただし、乳房に歯をたてたのだという。
「だから、大声をだしたで御座るぞ。え?うそだ?じゃあ証拠を見せるで御座る」
シロも又下着姿なので乳房にかみつかれた後は直ぐに見せられる格好であった。
「・・で、なんでシロも下着姿なの?」
確かに疑問であるが答えは簡単明瞭。
「拙者もパジャマが全滅したで御座る。今洗濯機の中に有るで御座るよ」
「そ、そうなの・・・。うぅう」
思えば女二人で下着のまま同じ布団に包まってる状況で顔を赤くするタマモは正常といえるか。
「さてと、タマモも目を覚ました事だし、一度、いっせーのせーで、起きるで御座るぞ」
「う、うんわかったわ。いっせーのー」
「『せっ!』」
布団は足元のほうに落ち、上半身を立たせた下着の女の子が二人の光景。
最初はお互い意味も無くきょろきょろしていた。
ところが、今までの不眠症がたたってか、ふらっとよろめいたタマモ。
それを見て量の胸にタマモの顔を被せるようにして受け止めたシロ。
「大丈夫で御座るか?今日はこのベットで眠るで御座る・・トイレとかは先に」
「そーゆーのは問題ないわ・・・それよりもね・・」
「ん?何で御座るか?」
母親が子供をあやすように髪の毛をゆっくりとなでながら質問に答えるシロ。
「もっと、はやく帰ってきなさいよぅ」
「そうで御座ったな、済まぬで御座る」
「判ってるのならいいわ、さっ、寝よ」
「タマモ。このままで良いで御座るか」
「・・・このままがいいの・・・。駄目?」
「いや。オーケーで御座る」
そのまま、タマモはシロの胸元に頭を預けたまま同じベットの、同じ枕の住人へ移行していったようだ。


その下では。
「あいててて。おキヌちゃんもーちょっと優しくしてくれよぉ」
「駄目ですよぉ。ちゃんとお手当てしてかないと化膿しちゃいます、痛いけど我慢してくださいね」
タマモに霊力を吸われ、腕や胸やらに無数の爪傷をつけられた横島の治療中をするおキヌちゃんである。
その治療方法とは、1時間ごとにシップを内側に塗った包帯を横島の体に巻きつけるという作業を三回ほど続けている。
この時、美神令子がいなくてよかったと二人、それに人工幽霊一号は思っていた。
10代中半の男女が包帯を交えて絡みつく様は、嗜好者がみれば堪えられない図ではないのであろうか?
「どうでひゅか?きじゅ(傷)の具合は」
「うん。大分良くなってきてるけど」
今包帯を巻く関係上、おキヌちゃんは横島の後ろに周り肩から背中に手をかけ、
余った包帯部分を口に咥えている状況だ。
「おキヌちゃん、耳元で声出さないで・・はうっ!」
「我慢してください。コレを肩から通してっと」
なかなか包帯を巻くというのは難しい仕事やもしらぬ。
上から見た光景、多少はいやらしい一幕も垣間見えたが、オーナーへの報告義務はないと判断した人工幽霊一号。
最後の一匹、妖精の鈴女も。
「私の知ったこっちゃないわね」
と決め込んでいた。




夜の月に向かって秋の虫達が小さい自分たちの体をアピールし始めていた。




FIN

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