ザ・グレート・展開予測ショー

大気圏突入(終)[第一章・完]


投稿者名:NEWTYPE[改]
投稿日時:(00/ 7/15)

「チッ!オートマチックかっ!」
西条は、十式が勝手にバリュートを展開したので罵ったのだ。
タイガーや雪之丞、横島機以外のMSのほとんどが、バリュートを展開して下降に入っていた。
バリュートが発する光は、美しい尾をひいていた。
その中でMK-Uのフライングアーマーが、進路を急角度にかえながら索敵をしていた。
バリュートを使わずに大気圏突入をするMSがMK-Uなのである。
「この時のためのフライングアーマーか・・・・・」
横島は照準を動かし、映像を拡大してマラッサのバリュートを捜した。
が、光を発して降下するバリュートの中を識別できるわけがなかった。
「横島さん・・・・・」
激震が襲うアーギャマのブリッジの隅で、おキヌはオセロを抱くだけだった。
そのおキヌの周囲では、女達の声が飛びかっていた。
「後続はどうなっているの!?」
「ついてきてますねー!」
シートに頭を押しつけられたまま美神が怒鳴った。
「敵はっ!?」
「わかりません!」


降下空域では、まだバリュートを展開しないタイガーのマラッサが、機体を摩擦熱で染めながらもMK-Uに接近するコースをとっていた。
「見えたっ!」
タイガーはマラッサのライフルの照準を固定しようとしたが、震動が激しくて固定できない。
「あたるんジャッ!!」
タイガーはトリガーをひいた。
タイガーのマラッサのライフルが尾をひいた。
しかし、それはMK-Uに発見してもらう効果しかなかった。
「・・・・!?バリュートを使ってない!?」
横島は自分の目を疑った。
「そんなにもつのか!?」
当たらないと見るや、タイガーはマラッサにサーベルを抜かせて、MK-Uに斬りかかろうとした。
「フライングアーマーにバリュートではこっちの方が不利ジャッ!バリュートは使わんですノー!!」
「無茶だぞっ!」
横島は反射的にMK-Uのサーベルを抜いて、タイガーのサーベルをうけた。
が、フライングアーマーに乗ってる分だけ不利だ。動けない。
「タイガー、これ以上は無理だ!」
雪之丞の声だ。
「バリュートを展開したら討てなくなるケン!」
タイガーは現実と理論の違いを知っているパイロットである。
「くそっ!ここまでか!」
雪之丞のマラッサがバリュートを広げた。
「そんなことじゃMK-Uは倒せませんノー!!」
タイガー機がバーニアを噴かしてMK-Uに接近する。
「燃えるぞっ!」
横島は叫んでいた。
下の方のMS隊のバリュートは、灼熱し始め赤い炎に近い色を発し始めた。
が、タイガー機はバリュートなしで、さらに接近しようとした。
MK-Uはフワッと上昇してそれを避けた。
フライングアーマーの利点である。
「なんとっ・・・・・!!」
タイガーは、急速に距離が離れていくMK-Uのフライングアーマーを追うことができないでいた。
「ぐわっ!?」
今まで以上の振動がタイガーを襲った。
タイガーのマラッサのバリュートカプセルが突然開いてしまったのだ。
「ぐっ!オートマチックかっ!?」
タイガーのバリュートの周辺が瞬時に灼熱し始めた。
その上空をMK-Uのフライングアーマーが再度接近した。
MSのカメラは、正確に情報をコックピットにいるパイロットに伝えるだけの機能を持っている。
「これじゃやられるケンッ!!」
タイガーは愕然としたが急接近するフライングアーマーを止める手段はなかった。
「落ちろっ!!」
横島の気合は、MK-Uの乗るフライングアーマーを一気にタイガーのバリュートに接近させた。
フライングアーマーの速度は音速の二十倍を超える。
かすめるだけでタイガーのバリュートを破壊していた。
ドゥッ!バババッ!
タイガーのバリュートが炸裂した。
「ぐわーーっ!!」
バリュートの保護のなくなったマラッサの機体が、大気の摩擦熱で火を噴き始めた。
タイガーの視界の中には、地球の雲と海の色が迫った。
「こんなことで、やられるっ・・・・!!」
タイガーの視界の中にオレンジ色に染まった地球が見え、そして一つの居間の映像が重なった。
その部屋のソファに腰かけていた女が立ち上がり、タイガーの方を向こうとした・・・。
「魔理シャン・・・・・待っていてくれるのに・・・・・・!」
タイガーがそううめいた時だ。
マラッサの機体は、音を立てて火を噴き分解していった。
「タイガーッ!!」
雪之丞は、モニターの中でタイガーのマラッサが赤く染まって炎に包まれていくのが見えた。
「タイガー・・・もし俺が先に降りていたら・・・・。敵はとるぞっ!!必ずなっ!!」
雪之丞はコックピットの中で、硬く・・・硬く拳を握り締めた。


タイガーの燃える機体が、オゾン層に突入してバッと数条のオレンジ色の光を発した。
それが長い尾をひいてゆく・・・・・。
紫の深い空を背景に、数十条のオレンジ色の光が長く長く降下するのが見える。
その下には、南アメリカ大陸が雲の間に迫り、その一点にジブローのジャングルの色が浮き上がってきた。
アマゾンの黒く光る河の筋も見える・・・・・。
降下するオレンジ色の光の筋が、そのアマゾンの一点に向かって集中し始めた。
その中でも際立ってジグザグのコースをとっているのが、フライングアーマーに乗ったMK-Uの航跡である。
「これは・・・・・これは戦争なんだ・・・・・」
横島は震える手を必死で押さえ付けながらなんとか機体を制御していた。
そう―――戦いなど所詮こんなものなのだ。
ちょっとだけ冷静であったパイロットが生き延びるのだ。


静かになったアーギャマのブリッジを立ち上がったおキヌは、涙に濡れた頬を両の手で拭った。
「もう、泣かない・・・・・もう・・・・・・」
他人を当てにして生きてゆけるわけがないと分かりはじめたのだ。
それは、おキヌにも自明の理であると分かっていた。
おキヌは、アーギャマのブリッジの窓から地球の青い色が消えているのに気がついた。

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