ザ・グレート・展開予測ショー

とある真相の系譜(絶チル)


投稿者名:フル・サークル
投稿日時:(06/ 9/25)




「おい、どうしたと言うのだ」

 男は呼び掛ける。
 男の目の前には、細く、少女の様な顔立ちの見目麗しい男の子供が立っている。年の頃8・9歳ぐらい、少年と呼ぶにも幼げなその子供は、立ち尽くしたままで泣いていた。

「何を泣いているのだ。何かあったのか?」

 男が再び訊くと、子供は顔を上げる。

「お父・・・さん」

 そのまま父と呼んだ男の顔を数秒ばかりじっと見つめていたが、再び声を上げて泣き出した。

「う・・・うわああああんっ」
「だから、一体何があったのだ。泣いているばかりじゃ分からんではないか」

 さすがに男の問いにも困惑の色が見え始めていた。やがて子供は泣きながらも震える声で話し出す。

「やっぱりそうだったんだ・・・ぐすっ・・・ぼく・・・ひぐぅ・・・お父さんの子じゃなかったんだあ・・・」
「――何だとっ!?」

 男は驚いて聞き返す。その内容以上に、息子がいきなりそんな事を言い出したのに驚いたのだ。

「な、何をバカな事言ってるんだ。お前は、こんなに父さん似じゃないか」

 子供は父の顔へ、涙に濡れた端正な目元を向ける。男を見ながら息子は涙声で言った。

「うそつき・・・ぜんぜん似てないよぅ・・・」
「――――!」

 目の前の美少年とは似ても似つかない、巨体に岩石顔のその男――ヤマダコレミツは、息子の返答にしばし言葉を失う。



      ◇◆◇◆◇ とある真相の系譜 ◇◆◇◆◇



「いいか、お前はまだ子供だからこんなに大きくないし頑丈でもないと言うだけなのだ。成長して大人になって行くとだな、変わって・・・」
「うそだぁ・・・だって、骨格が違いすぎるもん・・・」

 コレミツの説明は子供の泣きながらの反論で遮られた。コレミツ自身、どうして自分がここまで変貌したのか理論的には良く分かっていなかったので、何も言えなくなる。

「うわああんっ、やっぱりぼく、お母さんがどこかのいけめんぎゃるおと浮気して出来た子供なんだあっ」
「誰だっ、そんな事言うのは!?」
「・・・せつこねーちゃん」

 後でシメる。そう心に決めるコレミツだった。
 黒巻・・・悪質なデマで隊の不安を煽る兵士は、どんな処分を受けるものだか知っているか?
 ここでふと、コレミツは自分と息子とが今どんな方法で会話しているのかについて思い至った。口がきけない彼はテレパシー送信で話し、息子は受信能力のない父へ口で話している。
 だが子供も本当はテレパスであり、送受信の両方が出来た――かつてコレミツがそうであった様に。

「そうだ。お前には父さんと同じテレパシー能力があるじゃないか。これこそ、お前が父さんの子だと言う証拠だと思わんか?」

 しかし子供は、コレミツのその指摘にも激しくかぶりを振る。

「だってだってぇ、ぼくはお母さんがどこかのテレパスのいけめんぎゃるおと浮気して出来た子供だって、みおねーちゃんが言ってたもん・・・」

 澪にとっては生命線とも呼べるだろう、彼女のお菓子とカップ麺の入手ルートをことごとく潰してやろうと心に決めるコレミツだった。
 兵糧の途絶した部隊に待ち受けているのは、この世の地獄のみ。
 だが、憤怒のオーラを漂わせて報復手段ばかりを浮かべていられる局面ではない。コレミツはしばらく考えた後、何を思い付いたか、少し待つんだと言い残しどこかへと歩いて行った。
 程なくして戻って来たコレミツの手にあるのは一枚の写真。そこには、目の前で泣く子供と瓜二つの、たおやかな美少年の姿が写っていた。

「ほら見るんだ、息子よ。これは父さんが十才の時の写真だぞ。どうだ、本当にそっくりだろう」

 今度こそ納得してくれる筈。そう確信していたコレミツへ、子供はさらに激しく、泣きながら責め立てる。

「ううう・・・わあああーーーんっ。やっぱり大人はウソつきなんだあっ。お父さんはぼくやせけんていをゴマカす為に、お母さんの浮気相手だったいけめんぎゃるおの子供の時の写真を、自分の子供の頃って事にしてるんだって・・・きょうすけにーちゃんの言った通りだった〜〜〜〜っ」
「アレはにーちゃんではないっ、じーちゃん、もとい腐れジジイだ! アレが嘘つきな大人のトップクラスなんだっ!」

 思わず念話で叫ぶコレミツ。何て子供の教育に向いてない組織なのかと呆れるばかり。
 子供は尚も泣き続けていた。コレミツは肩を竦めると息子の前で身を屈める。屈めても彼の巨体では目の高さを合わせる事は出来なかったが、彼は静かに語り掛けた。

「どちらにせよ、いつまでも泣いてるものじゃない・・・男だったら泣くな」

 その言葉に泣き声は止まった子供が、しゃくりあげながらもまだ少し上にあった父の顔を見上げる。

「いいか息子よ、父さんはな、体を鍛えて鍛えて鍛え抜いてこうなったのだ。お前だって、父さんと同じ位鍛えて逞しくなれば必ず今の父さんそっくりになる」
「・・・本当、なの?」
「ああ。信じられんと言うなら、今度から父さんと一緒に鍛えてみるか? それで分かる筈だ」

 息子に問いながらコレミツはふいに、自分の子供時代の事を思い出していた。
 そうだ。俺も子供の時、似た様な事を言って今の俺そっくりだった親父に同じ様に泣きついてたんだ。
 そんな俺に親父は、やっぱりこんな風に答えてその日から俺を鍛え始め、そして・・・・・・と言う事は、きっと親父もまた。
 涙目のままだったが子供は一回、大きくコレミツに頷いていた。

「多少子供には厳しいメニューとなるが、俺も通った道だ。お前は心身共に少し弱過ぎるからな・・・昔の俺の様に。これは良い機会だったのかもしれん」

 息子がもう一回頷く。かつて父が、その父が、そうした様に。
 血は争えんと言う事か。コレミツはそんな言葉を思い浮かべながら立ち上がり、やはりヤマダ家の男が代々そうして来た様に無言で息子の頭をくしゃくしゃっと撫でた。



   【 後日談 】



「あああーーーーーーッ!?」
「いかがされましたか少佐?」

 叫ぶ兵部。コレミツはしれっと尋ねる。

「ディ、ディスクに保存しておいた僕の、“クイーン隠し撮りコレクション”が一枚残らず上書きされて、き、“桐壺クンマッスルコレクション”にーーーッ!? 一体、誰の仕業だと言うんだあああっ!?」

 顔面蒼白になった兵部の指差すモニターには、何が陶然とした表情――催眠状態であるかの如くに――で様々なポーズを決めているバベル局長桐壺の、肉体美画像が夥しい数並べられていた。
 動揺の浮かんだ顔をガム風船の後ろに、デジカメは後ろ手に隠している黒巻。その隣の澪は、両手で頭を掻き毟る兵部の背中から目を逸らしつつ、心の中でブツブツ呟いている。
 ごめんなさいごめんなさいごめんなさい許して少佐・・・私、ジャンクフードなしでは生きられない女なの・・・でも、アナタも悪いのよ。あんな女の写真なんか大事そうに集めてるから・・・
 二人の背後でえも言われぬ圧迫感を醸しつつそびえ立っていたコレミツは「ほう、それは大変ですな」と一言、重厚でありながらこれっぽっちも大変だと思ってなさそうな声で、ボスを見舞った悲劇へとコメントしていた。



  ▽▼▽▼ 終われ ▽▼▽▼

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