ザ・グレート・展開予測ショー

ただいま!(ver.S)


投稿者名:S
投稿日時:(06/ 9/24)

※下に投稿されているveldさんの「 ただいま!」を読んで、私もその題で書いてみたくなりました。









「美神さん、次の仕事はどこですか?」
「あのねぇ、あんたはたった今帰ってきたばかりでしょうが」

ただいまよりも前に言うことがそれか?
すっかり仕事中毒になってしまった彼。何時からだろう――ってそんなこと分かってる。彼女が消えてからだ。
上手く言葉が見つからなくてこめかみを揉む。

「疲れてるんならいいですよ、俺だけでやりますから」

そういうことを言ってるんじゃない と、頭から怒鳴りつけるべきなんだろうか?

「横島君、オーバーワークはいずれ自分に跳ね返ってくるわ。今は休むのがあなたの仕事よ」

本当にしぶしぶと言った感じで部屋から出て行く彼。
調子が狂ってしょうがない。いい加減元に戻ってくれればいいのに。
何かに追い立てられるように除霊に励みだした彼のために、今までは見向きもしなかったような小口の仕事も請けるようになってしまった。
やる気があるからと言って、いきなり強くなるわけじゃない。あの時が特別だっただけだ。
それでも塵も積もれば山となるとはよく言ったもので、収支的には前期よりも11%も増益。
経営者としては文句を言うことじゃない、そうやって自分を誤魔化すのも疲れた。

「おキヌちゃん、悪いんだけどお茶入れてくれない? それと甘いものがあったら」
「はい」

横島君を見送って戻ってきたばかりのおキヌちゃんにお願いしてしまう。
いい加減彼女もいっぱいいっぱいだろう。

「夕ご飯はどうしてるの?」

誰の、と言わなくても二人の間ならそれで通じる。

「週に2回くらいは私が作りに行ってますけど、後はコンビニのお弁当だそうです。お給料が増えても、そんなに変わらないって言ってました」

彼らしいというか、そういうところにほっとする。
だったら何とかできそうじゃない。

「……いっそのこと、押し倒しちゃえばいいのかしら……」
「え?」
「ううん、何でもないわ」

それは最終手段だ。
おキヌちゃんの手作りのスコーンに杏ジャムをたっぷりと乗せる。いつもならこんなことはしないんだけど、こういう時くらいはしょうがないと自分を許す。

「美味しいわ。うん、元気が出たかも」
「よかったです。本当に美神さんが頼りなんですから」

二人とも分かってる。私が戸惑っている間、おキヌちゃんがあいつをしっかりと支えてくれてた。
だから、今度は私の番。
おキヌちゃんが横島君を支えて、私が引っ張る。これが私たちのスタイルだから。

「一度とっちめて、それからしっかりと話をするつもりよ」

腫れ物に触れるばかりが優しさじゃないと思うから。
赤のマーカーで、明後日のところに大きく印をつけ――









で、ボコった。










……夢を見たんです

俺がどうしてもルシオラに逢いたい。生き返らせたい。俺にはルシオラの命が重過ぎるから。
あいつ、困ったみたいに笑って、

『だったら、10000の悪霊を除霊して そうすれば私生き返れるから』

ああ、分かってますよ。あいつはそんなことを言う女じゃないって。そんなこと俺が一番知ってる……あれ? だったら俺はどうしてこんなアホみたいにむきになって除霊してたんでしょうね?
美神さんの言うとおり、何でもよかった んですよ 多分 夢だろうが妄想だろうが。
何かしてあげてるつもりでいられれば、楽じゃないですか
それで、どうですか、俺、少しは強くなってましたか?……あ、やっぱりだめ? 前の方が動きも技のキレもよかったし、トリッキーな動きが持ち味なのに正面からなんて馬鹿じゃないのって、そこまで言わんでもっ
あたた 何か久しぶりっすね、この感覚。
久しぶり……か、やっぱ俺変だったんすねぇ……うーわ、今にして思うと、俺何恥ずかしいこと言ってんだって感じで……あああやべぇ俺おキヌちゃんにどんな顔して会えばいいんだろ
え?
ああ、やっぱり……痛いっすよ
だって、そりゃしょうがないっしょ。一生背負ってくって決めてるし。
どーせ、やせ我慢ですよっ!

はぁ
ありがとございます。
おかげ様ですっきりしました。
あ、先に帰ってもらっていいですか?
2時間……2時間したら事務所に帰りますから。
今度こそもう大丈夫ですって。
流石にこれ以上うじうじしてたら、あいつに悪いですから。










背中越しに、微かに嗚咽が聞こえたような気がした。










「あっ お帰りなさい、どうでした?」
「ただいま。うん、まぁ大丈夫だと思うわ。もうちょっと休んで起き上がれるようになったら戻るって」
「よかった」
「おキヌちゃんへのお礼は、ちゃんと自分の口で言うからってさ。だから伝言はなし」

くすくすとおキヌちゃんが笑う。

「じゃあ、ご飯の支度はもうちょっと後でもいいですね」
「明日からまたばんばんこき使うつもりだから、精のつくメニューにしてあげてね」
「ふふっ 分かりました」

ふと、おキヌちゃんが呟いた

「なんだか、自転車の三人乗りみたいですね」

また妙な例えね。
でも
想像してみたら、笑えた。

「誰かがバランスを崩して転びそうになったら、他の二人が支えて、励ましてくれる、そんな感じがしませんか?」
「自転車操業みたいで、所長としては複雑だけどね」
「あっ ええと、経営の話じゃないですよ、つまり――」

こうやって、からかわれてわたわたと手を振るおキヌちゃんも久しぶりだ。
やっぱりこうでないと。

二人して笑って
そして、帰ってきた彼と、今度は三人で笑おうと思った。



Fin

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