ザ・グレート・展開予測ショー

一人じゃない


投稿者名:ろろた
投稿日時:(06/ 9/17)

夜の教会は、静かな暗闇に包まれていた。
それに今日は新月の為、いつも以上に暗い。

よく目を凝らさないと、目の前の座席も見えづらい。それほどの暗闇の中に一組の男女がいた。

横島とシロだ。横島はムスッとした表情で、腕を組み、ただ黙って座席に座っていた。

(ムード満点やな〜。これで隣がシロでなく、美女だったら良かったんだが)

チラリと隣を見る。
シロはまだ熟睡中で、彼の左肩に寄り掛かっていた。

唐巣神父の教会で、美神夫妻の馴れ初めを聞いていたのだが、あまりにも長い話だったために令子と唐巣以外全員居眠りしてしまったのだ。

それで横島が目覚めると、ただ一枚のメモだけが残されていた。

『横島さんへ。私とタマモちゃんは先に帰っています。シロちゃんが目を覚ましたら、事務所に来て下さいね』

こういった内容であった。
何故、起こしくれなかったのであろうか?
やはり起こそうとしても、無駄だったせいだろうか。それはありうる。
横島の目覚めは決してよくない。何かイベントがある日でもない限り、時間通りに目が覚めないのだ。


困った事に、シロが一向に目が覚める気配がない。
起こしてやろうと思ったが、こうも気持ちよく寝られると逆に気が引けてしまうのだ。これが男だったら、殴ってでも起こすが、曲がりなりにもシロは女の子。
手を出す事を躊躇ってしまう。

はあ、と溜息一つ。
こう暗闇だと、気が滅入ってしまう。気を紛らわすものが、一つでもあったら助かるのだが、教会の礼拝堂にはそういったものは何もなかった。

気が利かないと憤慨するが、テレビやゲームがあったならば、それはそれで雰囲気をぶち壊しているだろう。

(あ〜、ダメだ。思考が纏まらん。ひっぱ叩いて起こしちまうか?)

と、シロを見やる。
彼女は幸せそうに寝ていたので、どうにも良心に呵責を覚えてしまう。
それに寝息がこそばゆい。

「ちちうえ……」

突然の一言に、横島は目を見開いて驚いた。

(起こせなくなっちまったなぁ)

空、ではなく天井を見上げる。そうだ。令子の父親の話をしていたのだ。それでシロが、亡き父を思い出しても仕方がない事。
今頃、シロは夢の中で父に会っている筈だ。起こして邪魔する事など、横島には出来なかった。

今ならば、あの時の彼女の心情を大雑把にだが、理解出来る。
大切な人を失った絶望感。たった一人で、孤独に苛まれ様とも仇討ちに走った。

そう思った時、シロの頭を撫でていた。
まだ寝ている彼女は、こんなにも小さい。小さいのに、立ち向かっていった。
きっと寂しかった時には、一人で泣いていたであろう。

今にも壊れそうな彼女に、横島達が出会えたのは正に幸運だったと言えよう。
まあ、牛丼を引っ手繰ろうとしていたが、そんな事は小さな問題だ。

やさしく頭を撫でると、シロの顔が綻んでいく。
よほどいい夢を見ているのだろう。彼女は一人ではない。タマモがいて、美神さんがいて、おキヌがいて、そして横島がいる。
彼女は、そしてみんなは一人ではないのだ。意識しなくても、誰かと繋がっている。新月の様に、例え見えはせずとも確かにそこにいるのだ。

(しばらくはこうでもいいか。思う存分寝させてやろう)

一頻り頭を撫でた後、横島は目を瞑った。
やる事がないのだから、寝ればいい。横島は夢の世界へと飛び立っていった。




「せんせ……」

その小さな呟きは、寝てしまった横島には聞き取れなかった。


全くの予断だが、翌日、般若の形相をした令子にしばき起こされたそうだ。

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