ザ・グレート・展開予測ショー

永遠のあなたへ(46)


投稿者名:馬酔木
投稿日時:(00/ 7/15)

   ―――ピュリリリリーッ!!

さわさわ、さわさわ、さわさわ―――
おキヌの笛が響く中、心地よさげに梢を揺らす木々とは全く対照的な感想をその笛の音に抱きながら、加奈江は歯軋りをしていた。
口を閉じているため、表面にはそう見えないが、頬の輪郭がブルブルと震えている。
体の両脇に下ろしたままの手は握り締められたまま固まっており、手の甲には血管が浮き上がって見え、歯軋りした弾みに口の内側を噛んだのか、固く結んだ赤い唇には、口紅の色に加えて、血の赤がうっすらと滲んでいるのが、満月の光の下でも妙にはっきりと分かった。
周囲を取り巻く蝙蝠達の数は、すでにかなり減っており、残っているものも動きが妙にぎこちない。
無論、エミの方に向かってきたものなど、とっくに統率を失って散開―――もしくは、動きが鈍ったところを叩き伏せられており、エミは、中空に浮かんだまま、怒りに硬直している加奈江を見上げて言った。
「加奈江・・・とか言ってたわね。いい加減、観念なさい!!笛はあんたの使い魔を封じるし、結界はあんたを逃がさない。―――あんたはもう、おしまいよ!!」
「・・・ツケを払ってもらうぜ。ダチに迷惑かけた分のな!!」
「くっ・・・」
言うと同時に飛び掛ってきた雪之丞の拳を避けると、まだ残っている蝙蝠やカラス達を操ろうと魔力を向けるが、どうも反応が鈍い。
こちらも満月で魔力が高まっている筈なのだが―――タイガーの精神感応力によって増幅されたキヌの笛の音が、予想以上の影響力を与えている。
(普通に吹けば笛の音なんて届かない筈なのに―――タイガーと、横島の力を甘く見ていたわね―――)
横島の事もキヌの事も、無論、タイガーの事も事前に調べて理解していたつもりだが、三人の能力を合わせて使われる場合までは、加奈江もさすがに想定していなかった。
一個一文字とは言え、数さえあれば霊力の使い道を異常なまでに多様化出来る能力―――文珠。もっと警戒しておくべきだったと後悔しても今更遅い。今は、この現状をどう突破するかに思考を回さなければならない。
(要はタイガーの精神感応力ね―――タイガーを何とかしないと・・・)
笛の音を結界の中一帯に広げているのは、横島の文珠によって強化されたタイガーの精神波だ。強力な媒体となっているその精神波をどうにか出来れば、笛の音を止める事が出来る。
雪之丞とエミの猛攻をかわしながら、そんな事を考えて―――ふと、加奈江は、発想を転換した。
(タイガーの精神波に笛の音を乗せて―――と言う事は・・・今、笛の音が聞こえる範囲には、タイガーの精神波も直接届いている・・・)
幻覚・テレパシーなどといった精神感応力は、一種の精神攻撃の武器だ。
他人の精神に直接働きかけ、意識の底から相手を揺さぶる。そして、タイガーの力は、百パーセント幻覚だと言う確信が持てなければ幻覚の中の出来事で本当に死んでしまうほど、相手の精神に強く働きかける事が出来る。
(・・・なら、その逆は?)
使い魔の大半を奪われ、結界で閉じ込められ、追い詰められていた加奈江は、徐々に冷静さを取り戻してくる頭の中で、暗く笑った。
精神波を放射して相手の精神に働きかけると言う事は、放射している側も自分の精神を剥き出しにして相手の精神と触れ合わせていると言う事―――なら、こちらから相手の精神に干渉して、利用する事も―――!!
加奈江は、使い魔の制御に費やしていた魔力の向きを変えると、自分に向けて流れ込んでくるネクロマンサーの笛の音色にそれを向けた。
笛の音色を支えるタイガーの精神波に、魔力で干渉する。
その干渉現象は全く目に見えないものだったが―――確かな手応えを感じてほくそ笑むと、加奈江は、タイガーの精神波を利用して、『声』を飛ばした。

『ふふふ・・・聞こえるかしら!?』

「えっ!?」
タイガーの精神波を逆利用して飛ばされた『声』を最初に聞いたのは、霊的感受性が一番強い、キヌだった。
突然聞こえた耳慣れない女の声と、その声が、耳ではなく直接脳神経に繋がってきたような異様な聞こえ方をした事に驚き、思わず、笛から口を離してしまう。
『ちゃんと聞こえたみたいね。私は加奈江。織茂加奈江よ』
「えっ!?テ、テレパシー!?」
「バカな!!いくら何でもそんな能力―――」
キヌの次に、精神波を放射しているタイガー本人、令子、西条と、ほとんど気づかないような微妙な時間差をもって、次々に『声』が届けられていく。
それは、加奈江のすぐ近くにいるエミ達にとっても同様だった。

『ふふ・・・上手くいってるみたいね』
「な・・・!?」
魔力で西条達の方を探らずとも、目の前にいるエミと雪之丞が、明らかに驚いた表情を表してくれたのを見て、加奈江は、口は動かさずに嘲笑の笑い声を全員の精神へと送った。
『相手の精神波に干渉・・・魔力ってこういう使い方もあるのね。またひとつ賢くなれたわ』
「うるさいわね!!テレパシーぐらいであたし達をどうこう出来ると思ってるワケ!?」
『ええ。・・・だって、言葉は重いものよ。あなたにならわかるんじゃなくて?』
「・・・!!」
暗に、先日電話で言い負かされた事を示されていると理解し、怒る。そして、それと同時に、確かにこの女は力技よりそういった方面の攻撃の方が強い事を思い出し、エミは、キッと唇を結ぶと、あの、どこまでも読めない微笑を取り戻した加奈江を睨みつけた。

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