ザ・グレート・展開予測ショー

【夏企画SS】いつか思い出となるように 後編(絶チル


投稿者名:豪
投稿日時:(06/ 8/31)




「ナオミーッ! その格好は私の為と考えていいんだね! 
 よーしわかったよ今すぐ結婚しよグボァッ!」

「寝ろ! 速やかに!!!」



賑やかに騒いでいる二人に、皆本が出会ったのは
祭りにやって来てから、しばらくが過ぎてからだった。
チルドレンの三人はおらず、今は彼一人である。
人ごみの中を歩くうちに、どうやらはぐれてしまったらしい。
捜し歩き、何やら賑やかな音が聞える方へやって来たところ
其処に居たのは薫ではなく、同じサイコキノである梅枝ナオミだったわけだ。
その着物にあしらわれているのは、梅の花々だろうか。



「皆本さん、お一人ですか?」

「それが・・・・・・・はぐれちゃってね」



情けなさそうに、皆本は呟いた。
一人だけならともかく、三人纏めて見失ってしまったのは
保護者代わりの身として問題である。
こういった、やたらと人手の多い場所で
目の届かない所に居られるのは不安だった。
その心配は彼女らだけではなく、彼女らの周囲にも向けられている。



「でしたら、私が手伝いましょうか」

「え、いいのかい?」

「はい、いつも皆本さんたちにはお世話になってますから」



皆本にとって、ナオミの提案は有り難い。
一人よりは二人の方が、当然効率はいいのだから。
そして皆本の頼みであれば、ナオミの方に否やは無かった。
憎からず思っている相手、ポイントを稼いでおいて損は無い。
しかし、皆本は眉根を寄せた困り顔で



「いや、アレを放っておいていいのか、ってことなんだけど」

「え?」



彼の視線に沿って、首を回すナオミ。
そして、そこに馬鹿を発見した。



「くっ、この痛みは愛の試練か ・・・・・・・
 だが私は負けない!!!
 私の辞書に、後悔と反省と諦めという字は無いのだから!
 愛は地球を救う! そして、私は宇宙船地球号の乗員!
 ゆえに愛は私を救うのだ!!!」



妄言を垂れ流す中年というのは、存在のレベルが犯罪だろう。
同じ主任という立場と思うと、軽い立ち眩みを感じるが
それ以上に、それが担当というナオミの気持ちはおして知るべし。
ナオミと皆本、二人が浮かべた疲れたような表情は
まるで互いに鏡を見ているかのように似通っていた。



「・・・・・・・・・すみません。
 アレの面倒を見なきゃいけないので」

「・・・・・・・・・・・・・君も大変だね」



血の涙を流しそうな面持ちで、言葉を搾り出すナオミ。
憎しみで人が殺せたら、とでも言い出しそうだが
それでも放って置けないのが、彼女が彼女たる所以だった。



「帰ってきてくれたのだねナオミ!
 いや私達の間にもはや言葉は要らない!!
 夏に負けないほど熱く、愛の抱擁を交そうじゃないか!」

「召されろ天にーーーーーーーーっ!!!!」

「ヘヴンッ!!?」



半泣きの一撃が、本日最大の飛距離をマークする。
保護者と被保護者が逆だが、あれはあれでいい関係なのかもしれない。



「とはいえ、
 局長も似たような」



溜息と独り言とが、同時に漏れる。
もちろん独り言である以上、返答など期待していない。
だが――――――



「いやいや、君も中々のものだよ。
 手の早さという点じゃ、並ぶ者がいないんじゃないかな?」

「――――――――――!?」



背後からその声が聞えた瞬間、背筋が凍り付く感覚を得た。
身を翻しながら、相手の姿を確認したと同時に叫ぶ。



「兵部!!!!」



狼狽する皆本に向けて、くすくすと笑いながら
何時も通りに制服姿の兵部は、何でも無いかのように



「そんなにいきり立たないでくれよ。
 残暑も厳しいっていうのに、余計暑苦しくなるじゃないか」

「黙れ! 今日という今日こそは―――――――」

「おやおや、いいのかい?
 そんなモノを抜けば、この祭りは台無しになるぜ。
 ここに居る全員がBABELの関係者、ってわけじゃないんだろう?
 しかし今日のことは、情操教育の一環かい?」



懐に手を差し入れたままで、皆本は硬直した。
念のため、銃を携帯してはいたが
こんな人ごみの中では撃てる筈も無い。
そして、異変に気付く。
先程から、これだけ騒いでいるにもかかわらず
誰一人として、皆本達に注意を配ることなく
空気であるかのように無視して、彼らの横を歩いていた。



「おや、気付いたかな?
 ヒュプノの応用でね、周囲の認識を狂わせる。
 一夜しか持たないし、場所も此処ら限定だけどね。
 今なら解るだろうから、辺りを見てみなよ。
 懐かしい顔も幾つかある」



皆本の顔が顰められる。
つまり、この場には兵部以外の敵が居る。
パンドラと呼ばれる革命組織の者が。
その兵部の声に答えたわけでもないだろうが
二人の耳に雄叫びが聞えた。



「モガちゃん、僕に力をーーーーーーっ!!!!!」



何故、今の今まで気付かなかったのだろうか。
声の方を見てみれば、くじ引きの屋台で気炎を上げている男が居る。
恐らく狙っているのは、一位のモガちゃんランジェリーセット。
人形遣い、九具津隆は絶対の確信の篭った瞳で
引き抜いた籤を店主へと差し出した。



「はい残念ー。スカの毒サソリドリンクですねー」

「ノォォォォォォッ!!!」

「・・・・・・・・・・・」



見てるのが何か厭になって、視線をずらせば
木に凭れかかるようにして、すぴょすぴょと寝ている女性が。
わざわざ持参してきたのか枕まで使っている。
直接の面識は殆ど無いに等しいが、寝ている姿と写真ならば見覚えがある。
かつてバベルに所属していたこともあるドリームメイカー、黒巻節子だった。



「むにゃ・・・・・あと、五年」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」



咄嗟に確認出来たのは、その二人だけだったが
皆本は、兵部へと向き直って尋ねる。



「兵部・・・・・・・仲間の性癖に疑問を持ったことは無いか?」

「・・・・・・・その点では、キミとも仲良く愚痴り合えそうだね」



少しだけ兵部に共感しそうになり
皆本は慌ててその気持ちを打消した。
軽く咳払いをしてから、兵部は改めて言葉を紡ぐ。



「まぁ、今日のところは手を出す気は無いから。
 安心して、祭りを楽しんでくれていいよ」

「・・・・・・・どうやって信用しろと」

「他に選択肢が在るのかい?」



兵部の言う通り、この祭りはバベル主催によるものである。
目的は、確かにチルドレンへの教育という意味も込められていたが
皆本としては、ただ純粋に楽しんで貰いたいだけだった。



「相変わらずの偽善者だな。
 首輪を付けようとしてるだけじゃないのか」

「――――――っ、黙れ!!!」

「怒るって事は、少しは自覚があるだろう?
 なまじ頭がいいと悲劇だね」



睨み合う皆本と兵部。
片や怒りに顔を歪め、片や嘲るような笑みを浮かべ。
その間に流れる、無言で形成された一触即発の雰囲気。
それを破ったのはどちらでもなく、また会話に出てきたチルドレンでもなかった。



「少佐ーーーーーーっ!!!
 ここ凄いね、色んなのがたくさん在る!
 ヨーヨー釣り、取れなかったけど面白かった!
 ・・・・・・って、皆本!?」



いきなり空から現れた少女が、緊迫した空気を粉々にした。
毒気を抜かれたように、兵部も皆本から視線を反らす。
皆本にとって、やはり見覚えの在るその少女は



「澪!? 君も来てたのか?」

「む、来ちゃ悪い?」

「いや、そんなことは無いが・・・・・・」



どうやら認識操作は個々に掛けられているようで
テレポーターである彼女の登場も、周囲の視線を集める事が無い。
澪の登場で何かを思い出したのか、兵部が苦い表情で



「そういえばキミ、コレミツに何を吹き込んだんだ?
 澪の栄養管理がどうのこうのと、最近やたら煩いんだけど」

「・・・・・・・子供を見る身として、当然のことを伝えたまでだ」



伝えられた平和な内容に、ひとまず安堵する。
立場だけで見れば敵同士だが、澪に不幸になって欲しくは無い。
それは父性本能か、あるいはチルドレンと違う境遇への同情か。



「そーだ、コレミツ!
 アイツってば、この近くに居たりしない?
 食べ過ぎるなとか、お金使い過ぎとか煩くって」



だが不満を漏らす澪を見ていると、別にどんな理由でもいい気がしてくる。
子供の幸せを願うことは、決して間違いなどではないだろうから。
そして、皆本と兵部がそれぞれに答えようとしたところで



『澪! やっと見つけた!』

「やば?!」



少し遠くに、顔の下半分を包帯で隠した巨漢が見える。
その頭にお面を付けているのは何かの冗談か。
お姫様のお面のようだが、姫というにはえらく厳つい面相だった。
彼はこちらに向けて急いでやって来ているようだが
そんな速度では、テレポーターには到底追いつけまい。
少しだけ慌てた感じで、澪は皆本へと顔を回して



「ちょっと皆本! 女王に伝えときなさい!
 今度勝つのはあたしよ、って!!!」

「あ、ああ解った。伝えておくよ」



よし、と満足げに頷く澪。
そして中空へと溶け込むように、彼女の姿は掻き消える。
それに遅れて、コレミツが皆本達の元へと到着した。
遅かったか、と呟く彼の姿を兵部は呆れたように見て



「今日くらい羽目を外してもいいんじゃないかな?」

『いえ、それをほどほどで締めるのが私の役割でしょう。
 何より食べきれないほどの量は、流石に買いすぎかと。
 では、先程金魚掬いに興味を示してたようなので、ちょっと行ってみます』



伝えることを伝えた後、兵部に背を向け
皆本に気付くと軽く手だけを上げて、コレミツは去って行った。
そんな嵐が過去った後、残された一人、兵部はくすりと笑う



「君に会ってから、あの二人も変わったなぁ。
 エスパーを惹き付けるような超能力でも持ってるんじゃないか?」

「僕はただ、ちゃんと彼らと向き合っただけだ。
 変わったというなら、今までそうする相手が居なかっただけだろう」

「何とも耳が痛いね。
 でも、一応言っておくけど、澪が心を許してるのは君個人にだ。
 ノーマルにじゃない。バベルに誘ったところで無駄だよ」



心をあっさりと読まれていることに内心、舌打ちする。
それさえも読み取っているのだろう。くすくすと笑う顔には余裕が見える。
しかし、そんな兵部が次に口にしたのは、からかいの言葉ではなかった。



「・・・・・・なぁ、皆本クン。
 神話のBABELの塔、何故崩壊したのか知ってるかい?」

「何故、って、それは神が天罰を落としたからじゃないのか」

「じゃぁ、その天罰ってのは何かな?
 雷による一撃とかは不正解だ」



答えを返せずに、皆本は噤んだ。
歌うように、囁くように、兵部は続ける。



「神が下した天罰は、人の言葉を乱すこと。
 かつて人々は同じ言葉を使っていた。
 バベルの塔を見た神は、人の言葉が同じことが原因であると考えた。
 神の意志の元、砕き散らされた言葉の中で
 人々は意思疎通を行い得ず、次第に別れて行ったのさ。
 なぁ、皆本クン。君らはいつか破綻する。
 ノーマルとエスパー、最初から意思など通じ合う筈も無い。
 いつの日か、積み上げられた塔は崩壊する。
 それは、そう遠い未来の話じゃない」

「黙れッ!!!!」



激昂する皆本へと、兵部は一歩近付く。
怒りを気にしていないように、気にも留めないように。
一歩、一歩と歩くたびに、二人の距離は詰まる。



「希望を積み上げて、絶望に落とされる。
 それが君達の向かう未来の姿。
 絶望さえも糧として、希望を掴み取る。
 どんな災厄を目にしても、必ず未来を手にする。
 それが僕たち、PANDRAの理念だ」



既に、手を伸ばせば届く距離。
皆本は銃を出そうとしていない。
ただ視線だけは反らそうとせずに
兵部の眼光を真っ向から受け止めていた。
暫しのにらみ合いを経て、兵部の方から表情を緩ませる。
更に一歩。皆本の横に立つようにして



「今日来たのは、コレが主な理由だよ。
 一度は、君にちゃんと伝えておきたくてね。
 最後にいい事を教えてあげよう。
 不思議な不思議な、魔法の言葉だよ。
 これを言えば、どんなことでも許可される」



そして彼の耳元で、予言者のように呟いた。
忌わしい事実を告げるかのように。



「『仕方なかった』って言えばね」

「―――――――――――っ!!?」



弾けたように振り向くが、其処にはもう誰も居ない。
辺りに視線を配れば、九具津や黒巻の姿ももはや無かった。
まるで全てが、夏に見た一夜の夢であったかのように。











「ったく、気をつけろよ皆本。
 迷子なんて子供じゃねーだからさー」

「あら、たまにはいーじゃない。
 皆本さんを子ども扱いできるのも」

「あ、ああ」



少し歩いたところで、チルドレンとは再開できた。
今は、また一緒に屋台を回っている。
言うまでも無く、兵部に会った事は伝えていない。
しかし、その生返事を感じとったのか



「・・・・・皆本はん、何か元気無いな。
 こんな人多いし、変なんに絡まれでもしたん?」

「よし、相手の顔教えろ。
 ちょっとボコって来るから」

「いや待て、落ち着け薫。
 僕は別に大丈夫だから」

「私達と離れてて寂しかっただけよね」

「そーでもないっ!!!」



たしかに、葵の言葉も間違えちゃいないけどな。
気付かれないように注意しながら、皆本は心の中だけで重い息を吐く。
思い出していたのは、伊号中尉による予言。
成長した薫をブラスターで撃つ自分の姿。
中尉の予知は、現在に至るまで外れた事が無い。
実際にその未来がやって来た時、自分は口にするのだろうか。
―――――――――仕方なかった、と。



「・・・・・・いい嫌がらせだな。あのクソ爺」



苦虫を百匹ほど纏めて噛み潰したような表情で、小さく呟く。
兵部も予知の内容を知っている以上、あんな事を言い残したのに
皆本に対する嫌がらせ以外に、理由は無いだろう。
苛立ちを抑えるためにも、別れた中尉に想いを馳せた。



「また、どないしたん皆本はん。
 うちらの方、じっと見たりして」


はっ、と皆本が我に帰る。
思いに耽っていた間、チルドレンの方へと視線を固定していたらしい。
疑念の視線に対して、何かいい言い訳を考えるより先に
薫が大きく、うん、と頷いて



「そうか、あたしらに見惚れてたわけだな」

「いや違うしっ!?」

「いーからいーから、照れるな照れるな!
 あたしらとお前の仲じゃねーか!
 でも、残念ながら下着は履いてるんだ」

「何がどう残念だっ!」

「下着履かないだなんて、はしたない事しないわよ。
 ねぇ、葵ちゃん」

「え?」

「・・・・・・・ちょっと待て、その驚きの声は何だ?」



会話を続けるうちに、苦笑が自然と浮かぶ。
チルドレンと一緒では、皆本には落ち込む暇も無いようだ。
そうする内に空の方から、ドンと大きな音と光が降ってきた。



「わ、花火だ」

「おー、でっけー!」



人の邪魔にならない場所へ移動してから立ち止まり、空を仰ぐ。
夜に満ちた漆黒の空に、大輪の華が幾つも咲いた。
光と音で描かれる、一瞬の芸術。
一瞬が過ぎた後に、残るのは微かな煙ばかり。
美しさを後には残さず、ただ心にだけ焼き付けられる。
それはまるで、まるで―――――――――



「・・・・・・・なぁ、皆本」



その声は、頭の後ろから聞えた。
気付けば後ろから、首に手が回されている。
着物の姿では、いつものような肩車は出来ない
その代わりに、薫は抱きつくようにしながら



「あたしら、ずっと一緒だよな?
 葵も、紫穂も、もちろん皆本も
 ずっと、ずっと・・・・・・・・」



『今』は永遠に続くわけじゃない。
どれほど楽しいと感じていようとも、必ずそれは変わり続けるもの。
時間が止まってくれない以上、必ず終わりがやってくるもの。



「・・・・・・ああ、当たり前だよ。
 ずっと、僕たちは一緒だ」



けれど、皆本は薫の言葉にそう答えた。
葵と紫穂、二人の手を握り返しながら。
思い出すのは、ある島に設置されたホスピスでの出来事。
末摘花枝の能力、ヒュプノによるターミナルケア。
永遠に変わらない『今』なんかない。
けれど、何もかもが消え去る訳でもない。
それは形を変えて、ずっと残り続けるもの。
花火を見上げながら、チルドレンの温もりを感じながら、皆本は祈る。
願わくば将来において、彼女らがこの『今』を振り返られるように。
そう、この時間が



「いつか―――――――――――」



彼の声を隠すようにして、夜空に大輪の花が咲く。
何処か眩しそうに、皆本は目を細めて其れを見詰めた。



「・・・・・・・?
 皆本、今、何か言ったか?」

「・・・・・・来年も、再来年も。
 こうして一緒に花火を見よう、って言っただけさ」



彼の声に応えるように、葵と紫穂は手に力を込め
薫は首を締めるかのように腕に力を入れる。
飽きる事無く、四人はずっと花火を見続けていた。
その時間を心に焼き付けるかのように。



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