ザ・グレート・展開予測ショー

【夏企画SS】いつか思い出となるように 前編(絶チル


投稿者名:豪
投稿日時:(06/ 8/31)




「制服、という言葉がある」



あたかも宣言であるかの如くに、その言葉は紡がれた。
そして、直後に訪れたのは静寂。声と音とが纏めて消える。
まるで言葉の持つ神聖な響きを、誰も邪魔したくないかのようで。
ほんの僅かな溜めを経て、新たな声が先の続きとして放たれた。
いや、もはやそれは咆哮というべきであったろう。
閉じていた目をカッと開いて、彼女は盛大に喚き散らす。



「―――――――それは、制する服と書く!
 この夏という季節、一年で最も暑い季節!
 そんな夏の制服とは何だ! そう、水着だ!!!
 決して裸ではない! 裸とは違うのだよ裸とは!
 『はだか』じゃねぇ、『ら』と読め!
 局所的にではあるが裸じゃぁないんだ!
 しかし、肩や太腿が惜しげも無く露にされるのもまた事実!!
 肌をさらけ出した妙齢の女性の持つ戦闘力は
 夏の魔力という助力を得て、更に輝きを放つだろう!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」



拳を硬く握り締めて、暑く奇言を撒き散らす薫に
ある意味、優しそうにも見える視線を向けている皆本。
我関せずとばかりに、葵と紫穂はカップのカキ氷をしゃくしゃく食べていた。
窓際では、風鈴がちりんと涼しげな音を立てる。
考え込むようなポーズをとって、皆本は瞳を閉じる。
その格好のままで自問自答。自分は正常か? 正常だ。
体調にも問題は無い。最近は胃薬を呑むことも無くなったし。
確認を終えてから目を開けて、周囲を見渡してみる。
普段通りの自分の部屋だ。何も変わったところは無い。
時刻は昼下がり、日付は八月も半ばを過ぎている。
取り立てて気にすべき事柄の無い、実に平穏な午後。
よって、首を捻って皆本は呟いた。



「何やってるんだ、あのバ薫は」

「皆本さん、今なかなかに酷い事をさらりと口にしなかった?」

「気のせいじゃないか?
 これだけ暑い日が続いてるから、耳にも陽炎が掛かったんだろう。
 で、繰り返しになるけど何してるんだアイツは?」



チルドレンと過ごす毎日から、スルーという新技能を身に付けた皆本。
ぐるりと皆本の方へと首を回した薫は、噛みつかんばかりの勢いで



「アッチィんだよ皆本っ!!!!!
 何で、クーラー付けちゃ駄目なんだ!!?」



盆を過ぎて、夏の暑さも下り坂に差し掛かっていた。
少しは蒸すものの、耐えられない猛暑というわけではない。
かといって、まったく汗をかかないほどでもなく
葵と紫穂の二人も加勢するかのように、保護者へと抗議の視線を向ける。
しかし、皆本はそれらを意に返さず



「エアコンの使い過ぎは体に悪い!
 昔から、馬鹿は風邪ひかないって言うけど
 冷房のせいで夏風邪ひくのは、馬鹿のやることだぞ!」

「あたしは馬鹿じゃないからリモコンプリーズ!」

「既に一度体調崩しておいて、それを言うかっ!!!」



アイス用のスプーンを咥えて、紫穂が一言。



「アレ、遠回しに馬鹿って言ってるわよね」

「言うとるな。
 遠回しちうか、ほぼ直球な気もするけど」



ごちそーさま、と行儀よく手を合わせてから葵が一言。
ちなみに仲間外れと言うわけではなく、薫はとっくに食べきっている。
叫んでいたせいなのだろうが、彼女は汗をだばだばかいていた。
その姿を見れば、確かに暑そうにも見えたので
皆本は文明の利器を使って、いい風を送ってやった。



「ほーら団扇ー」

「わーいすずしー。
 舐めてんのかぁっ!!!!」



激昂する薫に向けて、皆本は更に扇いで風を送る。
団扇を馬鹿にしてはいけない。あるとないとでは大違い。
そして、体が濡れていればなおの事。気化熱万歳。
内心に渦巻く怒りでツリ目になっていた薫だったが
正面から風を受けて、次第に顔つきが柔和になっていった。



「くそぅ、口では何だかんだ言いつつも身体は正直だぜ」

「自分で言うな、というか黙っとけ」



薫以外の二人が羨ましそうな顔をしていたため、次いでそちらも扇いでやる。
放っといていいのかな、と少しばかり不安ではあったものの
サイコ扇風機ー、とか一人でやってるので、大丈夫だろうと結論付けた。



「しかし、さっきの主張はまだ泳ぎ足りなかったのか?
 今年はもう海に行って、何度も水着を着ただろうに」

「ちっちっち、甘いな皆本。
 確かに海には行ったさ、水着も着たさ。
 だぁがしかしっ! それでは足りん!
 何が足りないかというと、主にリビドー満足度がっ!
 やっぱさー、スクール水着は必須だろ!
 あたしの前世がソイツを着ろ、と叫ぶんだ!
 というわけで背徳の宴カモナベイベー!!!」

「よーし、しつこく黙れ。
 僕を犯罪者にしたいのか、お前は」



こめかみに井桁を貼り付けながら
オヤジ少女による妄言の生産を止めさせる。
苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた皆本は



「だいたいだな。
 夏の制服というなら、水着以外にもあるだろう?」



それを聞いて、チルドレンは顎に手を当てて考え込む。
そして、うち二人はすぐさま人差し指を立てて



「裸エプロン」「裸にコート」

「何故そーいう発想しか出来ないかなお前らわっ!!?」



声の主は大方の予想通り、薫と紫穂。
ようやく叫ばせてやったぜー、と仲良く二人はハイタッチ。
チルドレンの絆を感じさせる光景が、微笑ましくも憎たらしい。
再度、苦虫を噛み潰したような表情となった皆本の耳に
もう少しだけ長く考えていた葵の声が聞えた。



「あの・・・・・・ひょっとして、なんやけど」



もじもじと両手の指を絡め合わせた彼女は
何処か期待の篭った上目づかいで、皆本に答えた。



「着物、とか?」

「その通りダッ!!!!」



それに返したのは皆本ではなく、何処からとも無く現れた一人の中年。
予想外の登場に、チルドレンの三人と皆本の目が点になる。
別に呼ばれてないけどが局長惨状、もとい参上。
鍵を掛けていた筈の部屋にあっさりと侵入してきた不審人物に
とりあえず皆本は白い視線を送ってみた。効果が無かった。



「・・・・・・・・・」

「皆本クン、その目は止めないカネ?
 ほら、昔の素直だった君に戻って!」

「僕がこうなったのは誰のせいだと思ってんです?」



訂正、少しは効果があったようだ。
更に追求してやろうとしたところで、くい、と。
何かと思えば、嬉しげに頬を染めた葵が、皆本の袖を引いていた。



「うち、おうてたん?
 えへへ皆本はん、ほめてほめてー」

「ああ、偉いぞ葵」



一先ず抗議の手は止めて、よしよし、と頭を撫でてやる。
飴と鞭、と言ってしまえば聞こえは悪いが
叱るべき時に叱るならば、褒めるべき時には褒めてやらねばなるまい。
子供に向ける厳しさも、それに応じた優しさが在ってこそだ。
そんなことを考えながら、優しく撫で続けていた所で
聞こえよがしな、おばさん風味の会話が皆本の耳を掠めた。



「まぁまぁ、ご覧になって薫ちゃん。
 皆本さんったら、葵ちゃんを篭絡する気満々ですわよ」

「本当ですわね、紫穂さん。
 まったく甘言でコロリたぁ、随分安く見てるもんですなぁ。
 ところでコロリって言葉、密かにロリコンに似てね?」

「オイ。何さりげなく、僕の人間性を否定してるか」



ああウチを篭絡するやなんてでもでも皆本はんなら、などと
先程から身もだえしている少女からは、どうか視線を背けて頂きたい。
そしてカオスに満ちた部屋の中へと、局長に続いて顔を出す一人の女性。
入ってくる彼女を確認した薫は、紫穂とのぷち井戸端会議を終了させ
弾けんばかりの笑みを浮かべながら、元気よく片手を挙げてご挨拶。



「こんちわっ、巨乳大会優勝決定さん!」

「せめて人間らしい名前で呼んでっ!!!!」



そんな無礼極まる馬鹿の頭に肘鉄を落としてから
改めて、皆本は彼女に向けて挨拶した。
すぐに薫から反撃が飛んでこないのは、築いた信頼関係のためか。
はたまた、当の本人が頭抱えて蹲ってるせいか。



「どうも失礼しました。
 朧さんも来てたんですか」

「あらあら、鍵を開けたのは誰だと思ってたんですか」

「・・・・・・・・・え?」



聞き逃してはいけない言葉が耳に入った気がするが
皆本の脳は、理解を拒否していた。
どうやら本当に、夏は耳にも陽炎が立つらしい。



「局長と朧さん、何しに来たの?」



最後に残った紫穂から、ようやく建設的な意見が出る。
少しだけ身構えているのは、何らかの任務を疑った為だ。
夏も終盤へと入って、残り少ない貴重な休日。
わざわざ面倒なことで外に出かけるぐらいならば
だらだらと、仲間と一緒に部屋で怠惰に過ごしていたい。
しかし、局長が口にしたのは紫穂の緊張を否定する言葉だった。



「安心したまえ、任務というわけではナイ。
 コレを届けに来たのだヨ!」



綺麗に折り畳まれたそれらは、元々は皆本が購入してきたもの。
先日、京都へと出張してきた際に、局長の指示で買ってきた生地。
仕立てられたそれらはそれぞれに、赤、青、紫の三種の色で
チルドレンの一人一人にぴったりに誂えられている。



「これって・・・・・・・」

「着物? ひょっとしてあたしらの!?」



期待に瞳を輝かせながら、質問するチルドレン。
しかし何故だか聞く相手は、局長ではなく皆本だった。
横から飛んでくる嫉妬の視線に、呆れ混じりの溜息を堪えつつ
朝から用意していた言葉を、皆本はようやく伝えられた。



「少し言うのが遅くなっちゃったけど
 今日の夕方から、縁日があるそうでね。
 それで、もし君らが良かったら一緒に」

「「「行くっ!!!!!」」」



言葉を言い終えるより先に、了承の三重奏が放たれる。
ともあれ、そういうことになった。










「それじゃ、着付けは私が手伝いますね。
 それと、これが皆本さんの分になります」

「あれ? 僕のも!?」

「うむ、一人だけ普段着では格好がつくまい。
 なーに、安心したまエ。着方が解らないならば、私が教えてあげヨウ」

「謹んで遠慮します」


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