ザ・グレート・展開予測ショー

【夏企画SS】東京魔鈴


投稿者名:赤蛇
投稿日時:(06/ 8/30)

人工の波に、人工の砂浜。

ウォータースライダーにカフェバー、ホテル、ナイター設備も完備。

世界最大級のレジャープールとして一世を風靡した






――が、

バブル崩壊後、あっけなく倒産し、後には無残な姿を晒していた。















          ―――――    東    京    ま  ・  り  ・  ん    ―――――















「と、いうわけで、今日はここの除霊を頼まれてやってきました」

「誰に言ってるんスか、魔鈴さん?」





ここは都内某所にあった大型ウォーターパーク。

お手軽な夏のレジャースポットとして人気を博していて、関東ローカルのCMでご記憶の方も多いだろう。
いつの頃からか、雨後のたけのこのようにウォータースライダーが乱立し始め、終いにはまるで毛細血管か触手のように、そこら中にうねうねと走る姿で有名だった。

高さ40メートルにも及ぶ「ブラック・ラグーン」や「ジェット・ストリーム・スライダー」もあるが、中でも有名なのが、巨大なすべり台とも言うべき「フリーフォール・バンザイ」だ。
最大傾斜角80度を誇る様相は圧巻で、まさに流れ落ちる鉄壁と言っても過言ではない。
そこから滑り落ちるさまは、ほとんど飛び降り自殺とかわりがなかった。
当時は大勢の客が詰め掛けて、歓声を上げて賑わっていたのだろうが、人気のない今となっては寂しさがつのるばかりだった。

「それで、今回のはどんな悪霊なんですか?」

高くそびえるフリーフォールを見上げ、横島は魔鈴に聞いた。
ここのウォーターパークに出没する悪霊を退治するのを手伝って欲しい、そう頼まれて来たのだが、くわしいことは何も聞いていなかった。
よもや魔鈴ほどの魔女なら悪霊ごときに遅れを取ることはないだろうが、いざというときのために状況の把握はしておきたい。
そう考えるようになるとは、横島も少しは成長したようだった。

「それなんですけどね、実は私もよくわからないんですよ」

「えっ!?」

「ここを取り壊してマンションを建てる予定なんだそうなんですけど、なんだかいろいろと上手くいかないらしくて、それで一度診てほしいって頼まれたんですよ」

「―――じゃあ、悪霊かどうかも?」

「はい」

そう言って魔鈴はにっこりと笑った。
確かに、今回のケースのような”呪われた建物みたいなもの”を調べるのは魔鈴の得意分野だろうが、それにしても些か大雑把すぎる。
いくら楽天的な魔鈴とはいえ、普段のときとはどうも様子が違っていた。

「―――で、どこらへんから始めるんスか?」

「そうですね。とりあえず流れるプールから見てみましょうか」

ま、始めてみりゃなんとかなるか、と横島が軽く流すと、魔鈴はスライダーの下にあるトラック状の流れるプールを指し示す。
魔女の制服とでも言うべき黒服に身を固めた彼女は、真夏の暑い最中だというのに汗一つかかず、平然とした顔をしていた。
心頭滅却すれば火もまた凉し、そんな言葉が頭に浮かび、横島は素直に感心する。

 (やっぱり魔鈴さんはスゲーよなぁ。こんな日でもあんな格好をして平気なんだもんなぁ。美神さんとはえらい違いだ)

自分の雇い主に聞かれたら、またドツかれそうな事を考えていた。
もっとも、魔鈴から共同調査を申し込まれた美神が、「暑いから嫌!」と言って即座に断っていたのを知っているからでもあるのだが。
一方的にではあるがあまり相性が良くないのにもかかわらず、めずらしく粘る魔鈴の要請に、「じゃ、アンタ行ってらっしゃい」と言って押しつけられたのだった。

「じゃ、さっそく調査を始めますから、横島さんも水着に着替えてきてくださいね」

「へっ!? 今、なんと?」

「なにって、プールに入るのにこのままじゃ入れないでしょう? あちらの更衣室に横島さんの分も用意してありますから、早く着替えてきてくださいね」

「で、でも、今は水なんて入っていないんだし、別に着替えなくても・・・」

女性のほうから水着に着替えるように誘われているのに、あまりのことに柄にもない真面目なことを言ってしまう。

「今回のが霊障だとしたら、営業していた頃の状況を再現しないとわからないんですよ。だから、今日は特別にお願いして水を入れてもらっているんですよ」

いくら依頼の条件だからといって、かなりとんでもないことをさらりと言う魔鈴であったが、ふと僅かに顔を曇らせる。
ほんの少しだけ小首を傾げ、様子を窺うようにこちらを見つめてくる。

「・・・もしかして、私と一緒じゃイヤ?」

年上なのに子供のように可愛らしい女性の仕草に、耐えられるような理性は横島には存在しない。
吹き出そうになる鼻血を押さえ、顔を真っ赤にし、何故か最敬礼で応える。

「い、いや、そんなコトないっス!! す、すぐに着替えてくるっス!! じゃっっ!!」

瞬く間に更衣室へと飛び込んでいく横島に、魔鈴はくすり、と笑い、自分も水着へと着替えるべく女子更衣室へと向かった。





はやる気持ちを押さえ、じりじりと刺す日差しに肌と足の裏を焼かれつつ、横島は魔鈴が出てくるのを待つ。
今、横島は魔鈴が用意してくれた水着を履いている。
なんだか恐いぐらいにぴったりなのだが、その表情にはどこか落ちつかないものがあった。

「う〜ん、まさか俺がこんなの履くことになるとはなぁ」

誰が見ているわけでもないのに、ついつい股間を気にしてしまう。
彼が今、履いているのはメンズ用のビキニタイプ。しかも、よりにもよってハイレグだ。
仕事のおかげで鍛えられているので割と似合っているが、よもや自分では絶対買うはずはない。
一応はブランド品らしいのだが、そんなことはもうどうでもよかった。

「―――ひょっとして、魔鈴さんってこういうのが趣味なのかな?」

あれで意外とスゴかったりして、とかあらぬ想像をしてしまいそうになるが、たちまち存在感を主張しそうになるのを慌てて押さえる。
そういえばインテリアの趣味はものすごく悪かったっけ、と思うと、せめて赤フンでなかっただけでもマシかもしれない。

「お待たせしました〜〜〜!」

「ぶはっ!!」

横島は魔鈴の声に振り向いたとたん、鼻血を噴出させてプールのざらざらとしたコンクリートを赤く染める。

「だ、大丈夫ですか、横島さん!?」

「い、いや、大丈夫っス・・・ そ、それにしても魔鈴さん、そのカッコは・・・」

「あ、これですか? 一応、これも正式な魔女のスタイルなんですよ。言ってみれば夏用の制服、てトコですね」

そういって魔鈴は、似合います?、とか言いながらくるりとポーズをとってみせる。
いつもの服と同じように、黒を基調としたワンピースタイプの水着だが、胸元が大きくV字に開き、縦のラインを美しく引き立てている。
大胆でワイルドだが、それでいて決して猥雑ではなく、上品な大人の色気を醸し出している。
ワンポイントのバックルに止められた胸は大きく谷間をつくり、柔らかなふくらみにしっとりと汗がにじんでいた。

「さあ、横島さん、お仕事開始ですよ!」

あたかも熱中症のように顔を上気させている横島の腕を取り、魔鈴は流れるプールのほうへと連れていった。





「きゃーーーーーーーーっ!!」

「うわぁーーーーーーーっ!!」

彼らの他には誰もいない園内に、悲鳴にも似た声が響き渡る。
魔鈴と横島のふたりは、「霊障の発現を誘発する状況の再現」と称して、流れるプールを手始めに、波の出るプールやジャングルクルーズ、果てはウォータースライダーなどを次々と回っていった。
しかし、声を上げて楽しそうに滑る彼らの様子は、素人目にはごく普通のカップルが遊んでいるようにしか見えなかった。

「う〜ん、ここも特に異常はなさそうですね。困りましたねぇ」

ぐるぐると回るスライダーからプールへと飛び込み、一際大きな水飛沫と歓声を上げていた魔鈴は、困った困った、と口では言うが、その表情は全然違っていた。

「横島さーーん! 今度はあっちのほうを調べてみましょう」

着水した際に、思いっきり鼻に水を吸いこんでしまった横島は、げほげほとむせ返っていたが、手を振る魔鈴の姿を見つけると、プールサイドのタラップを越えて上へと上がる。

「ま、まだ他にも回るんスか、魔鈴さん?」

「だって、霊障の様子が感知できないんですもの。 ・・・どうしたんですか?」

「いやー、さすがにちょっと疲れたかなー、とか思って・・・ 魔鈴さんは疲れてないんですか?」

横島はプールサイドの上にだらしなく腰を下ろし、まだ荒い息を整えていた。
熱いコンクリートにかかった水が温み、じんわりとした暑さが伝わってくるが、水に冷えた身体には心地良い。
そんなに泳いでいるわけではないとはいえ、さっきから3時間も続けて水の中にいると、さすがに疲労感を感じていた。

「私は全然大丈夫なんですが・・・ でも、そうですね。ちょっと休憩しましょうか」

「いやー、すんません」

「うふふ、気にしなくてもいいですよ。じゃ、あっちのほうへ行きましょうか」

そういって魔鈴は、プールサイドの一角にある休憩スペースを指し示す。
他の大規模なプール施設と同様、ここも安易な南国ムードをイメージしており、タヒチの水上バンガローを模した安っぽいパラソルとビーチチェアが並んでいた。
間近で見れば竹製などではなく、ただのプラスチックだと知れるが、それでも強烈な都心の日差しを遮ってくれるのはありがたい。
プールから上がって、もう乾き始めた肌を焼く光を避け、横島は、ほっ、と息を吐いた。

本当なら大勢の客で賑わっているはずなのに、今は自分たちの他には誰もいない。
東京都内とは思えぬほどに広い敷地には、音質の良くないスピーカーから流れるハワイアン音楽と、さらさらと流れるスライダーの水の音しか聞こえなかった。

まるで世界から取り残されたような非現実感に、つかの間心を奪われてのんびりとしていると、どこからともなくいい匂いが漂ってくる。
ちょうど小腹が空いてきたのもあって、つられて顔を向けると、今となってはめずらしいアルミ製のトレーを持った魔鈴と目が合った。

「どうしたんです、横島さん?」

「あ・・・ いや、何かなと思って」

「さすがにちょっとお腹が空きましたよね」

そう言って魔鈴は、白いプラスチックのテーブルにトレーを置き、コーラのロゴが入ったチェアに腰掛ける。
魔鈴は慣れた手つきで皿を寄せ、指を軽くぱちん、と鳴らすと、ストローのついたドリンクがどこからともなく現れた。

「はい、どうぞ」

「ども」

粗末な割り箸を手に、出来立ての湯気が立つ焼きそばを手繰る。
紙皿の中は見事なまでのソース色で、脇に添えられた真っ赤な紅生姜と、ぱらぱらと振りかけられた青海苔が彩りを添える。
やや中太の麺の他には細く切られたキャベツともやししか見えず、豚肉は申し訳程度にしか入っていない。
近頃流行りの豪華な塩焼きそばなどではなく、あくまでも庶民的な、横島にとっては食べ慣れたともいえるB級グルメの焼きそばだった。

「こういうところだと、つい食べたくなっちゃうんですよ」

魔鈴は心底から、おいしい、といった表情で焼きそばを食べている。
評判の高いレストランのオーナーシェフ、という一面を持つ魔鈴にしては似つかわしくない、意外な発見だった。
別になんでもないことなんだろうけど、そんな魔鈴の素顔が、なぜかちょっとだけうれしかった。





小腹を満たす程度の焼きそばも食べ終え、氷が半分ほど溶けたドリンクを口に含む。
夏の午後の、今となっては貴重とも思えるほどにまったりとした時間を過ごしていると、ついつい腰が落ち付いてしまう。
霊障の原因はおろか、現象ですらまだ特定できていないというのに、仕事を再開する気にはなかなかなれなかったが、いつまでもこうしているわけにもいかない。

「横島さん、そろそろ始めましょうか?」

「んー、そうっスね」

もう待ちきれない、といった感じで光の中に立つ魔鈴に対し、横島は日陰の涼しさに未練があったが、やがて観念して立ち上がる。

「で、今度はどこを調べるんですか?」

「う〜ん、あそこのスライダーはさっき調べちゃいましたから、今度はあっちの方を診てみましょうか」

そう言って魔鈴は斜め上の方を指差す。
その指の先には黄色く塗られた鉄骨が、一段と高くそびえる巨大なやぐらを成してそびえていた。
プール名の電飾を頭上に頂くてっぺんから、青いチューブがありえない角度で傾斜していた。

「えっ!? 魔鈴さん、アレっスか!?」

「そうですよ。これは魔女のカンなんですけど、なんとなく怪しい感じがするんですよ」

魔鈴は、説明になっているんだかなっていないんだかわからない理由で断言をすると、少し腰の引ける横島の手を取って、フリーフォールの入り口へと誘う。
ペンキの剥げた階段の上り口は、ちょうど鉄骨の影になっていて湿っぽく、人気がないせいかひんやりとしていて、どこか物寂しい。

「えー、マジでこれを昇るんですか?」

「なにを言ってるんですか。これもお仕事ですよ、お仕事」

幾重にも折り重なる階段に閉口して文句を垂れる横島に、ちょっとたしなめるような台詞で魔鈴が言う。
けれども、その口調は厳しくもなんでもなく、むしろ魔鈴のほうが上に昇るのを待ちきれない、といった様子だった。

いつもならば順番待ちの客で長蛇の列を成す階段も、今日は他に並ぶ者とてなく、駆け上がるようにして軽やかに階段を踏みしめると、ほどなくして頂上へと到達する。
園内でひときわ目立つやぐらの上は、下から見ていたよりも高く思え、足元のプールが遥か下に見えた。
視界を遮る建物があまりないせいもあって、やぐらの上からは新宿の都庁や池袋のサンシャイン、左手には東京タワーの姿も見えた。

「うわぁ、すごいっスねー」

都内で見る思わぬ光景に、横島は感心したような声を上げる。
もちろん他にも高いところはいくらでもあるが、こんなところに水着で立っていると、なんとも言えない開放感があった。
思ったよりも強く吹く風が、晒す素肌の間を吹きぬけていく。

「横島さ〜ん! こっち、こっち!」

フェンスの向こうの景色に心を奪われていると、魔鈴の声に振り向かされる。
見れば魔鈴はフリーフォールのすべり口から、身を乗り出すようにして下を覗き込んでいた。

「ど、どうしたんです、魔鈴さん?」

危なっかしい魔鈴の姿勢に慌て、横島がすぐそばに駆け寄った。

「どうもね、ここが怪しいような気がするんですよ」

「え、どこどこ?」

「ほら、ここ」

横島は魔鈴が指差すところを横から覗き込む。
だが、プラスチック製の青いスライダーが湾曲して潜り込んでいくところしか見えなかった。

「もう、ここですよ、こ・こ」

なかなか自分の指す場所が見つけられないのがもどかしいのか、魔鈴は横島の腕を引き寄せて、顔を寄せるようにして指し示す。
自然、横島の身体は魔鈴と密着するようになり、手を長く伸ばしたおかげで大きく開いたV字から、胸の谷間が垣間見える。
すっ、と伸ばせば届きそうな魅惑の切れ目に、つい手を差し入れてしまいそうになった。

「わわわっ! ま、魔鈴さん!?」

若い青少年には目の毒とも言える光景に、横島は思わずうろたえてしまう。
だが、魔鈴のほうは知ってか知らずか、横島のどよめきを気にしようともしない。

「う〜ん、やっぱり降りてみないとダメですね」

自分の中でなにか納得がいったのか、魔鈴はそう呟いた。

「横島さん、一緒に乗って降りてみましょう」

「えっ!? 降りるって、階段をですか?」

「違いますよ。このスライダーに乗って、霊障が現れるかどうか確かめてみましょうよ」

「一緒にって、どうやって?」

このスライダーはもともと一人ずつ滑るタイプのもので、その幅はちょうど大人一人分しかない。

「もう」

魔鈴は、妙に朴念仁みたいな返事を返す横島にたまりかね、その手を取ってスライダーの中へと引っ張り込む。

「ほら、こうして座れば一緒に滑れるでしょ?」

ちょうど二人乗りのボブスレーのように、前後に並んで座らせる。
普段なら一人ずつしか滑ることは出来ないのだが、今日はそれを咎める監視員もいない。
魔鈴の後ろに座る横島の尻を、チューブの中を流れる冷たい水が濡らしていく。
だが、今の横島は、その冷たさも感じることは出来なかった。

「ほら、もっとしっかりとつかまって・・・ それじゃ、行きますよ!」

自分の腰に手を回させると、魔鈴は掛け声を上げて勢い良く滑り出す。

「それーーーーーーっっ!」

「うわぁーーーーーっっ!」

水流に押されるようにして飛び出した二人の身体は、瞬く間に急角度の傾斜へと滑り降り、みるみるうちに加速を早めていく。
そのあまりの速さに、ついさっき魔鈴が指し示していた”なにか”が何だったのか、確認するひまさえない有様だった。

「きゃーーーーーーっっ!!」

「うわうわうわーーーっっ!!」

直線でさらに加速を早めた二人は、右に左に、そしてらせん状に回転するチューブの中を駆け巡り、ビル8階分にも相当する高さを一気に駆け下って着水する。
今までよりも一際高い水飛沫を上げ、まるで魚雷のように水の中へと潜った拍子に手を離してしまう。
自分の周りに沸き立つ泡の音を聞きながら、前後に回転するようにもがいてね横島は水面へと顔を出した。

「ぷはっ!」

一瞬、自分がどっちを向いているのかもわからなくなったが、顔を拭うと同じに足がつくほどに浅いことに気がついた。

「あー、びっくりした」

今度は吸い込みこそしなかったものの、ぶるぶると顔を振って水を切ると、魔鈴の姿を捜し求める。
自分のすぐ後ろに気配を感じ、魔鈴さん、と声をかけようとした途端、横島はぶふっ、と盛大な鼻血を噴出させて轟沈した。

「ど、どうしたんです、横島さん!?」

意識を失うように倒れる横島を見て、魔鈴は何があったのかと近づいた。
そのとき、横島の手に握られた光るものを見て、はたと気がついた。
水に飛び込んだ瞬間、無意識のうちに引っ張られたバックルが外れ、大きくカットされた胸元から、たわわに実る乳房が惜しげもなくさらけ出されているのだった。

「きゃーーーーーーーーーーーーーーーーっっっ!!!」

どんな絶叫アトラクションのときよりも一際大きな魔鈴の悲鳴を聞きながら、横島は「我が人生に一片の悔いなし!」と呟いて意識を失うのだった。





「う、う〜ん」

どれだけの間、気を失っていたのであろうか、横島が目を覚ますと、陽はすっかり暮れて青みがかかり始めていた。

「気がつきました、横島さん?」

「あ、魔鈴さん・・・」

心配そうに覗き込む魔鈴の顔を見て、横島は自分が膝枕をされていることにようやく気がついた。
あわてて跳ね起きようとする横島を、魔鈴はやさしく押さえつけて寝かしつける。
魔鈴のふとももから伝わってくる仄かな体温は、冷えてきた身体に暖かかった。

「魔鈴さん、今日はすいませんでした」

「ん? なにがです?」

「俺のせいで仕事に失敗させちゃって・・・」

きっと、さっきからずっとこうしてくれたのだろう、そう思うと申し訳ないような、情けないような気分で一杯だった。
せっかく除霊を手伝っていいとこを見せようと思っていたのに、すっかり足を引っ張ってしまった。

「ううん、気にしなくてもいいですよ。少し私もはしゃぎ過ぎてしまいましたし」

「でも・・・」

「それに、お仕事の期限はまだ明日まであるんですよ。だから大丈夫です」

そう言って、魔鈴は何のてらいもなく笑いかける。
心なしか、顔がほんのり赤く染まっていた。

「・・・だから、明日もまた、手伝ってくれますか?」

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa