ザ・グレート・展開予測ショー

【夏企画SS】P.A.Nチャ(絶チル)


投稿者名:UG
投稿日時:(06/ 8/29)

 深夜0時
 倉庫街の一角に皆本はいた。
 通りを挟んだ目の前には外資系貿易会社の事務所がある。
 その会社がパンドラの作ったダミー会社であることは既に調べがついていた。
 内通者の情報によれば、前回盗難にあったニュークリア爆弾はこの会社を経由して海外に持ち出されたらしい。

 「眠くないか?」

 皆本は背後の三人。薫、葵、紫穂を振り返り小声で訪ねた。
 超が付く程の過保護ぶりを発揮する局長は、深夜の出撃を未だに渋ってる。

 「平気だって、アタシたちが最近このくらいの時間まで起きてるって知ってるだろ!」

 皆本の声に合わせるように、薫がヒソヒソ声で答える。
 葵と紫穂も同様らしく、任せとけとばかりに笑顔を皆本に向けた。

 「今回ばかりは夏休み中の夜更かしに感謝しなきゃな」

 皆本はそういって笑うと、深夜の緊急出動に応じてくれた三人の頭をクシャクシャと交互に撫でる。
 本来ならば皆本自身、三人を深夜に出動させたくは無い。
 しかし、パンドラ本体に迫れる情報を見逃す訳にはいかなかった。
 皆本は麻酔銃の強度をチェックすると作戦の最終確認をする。
 紫穂のサイコメトリーによる索敵後、葵のテレポートによる強行突撃。
 貿易会社の内部には、パンドラの構成員と思われる男が何かの活動をしているらしかった。

 「皆本さん、現在、あの建物にいるのは一人だけよ」

 紫穂が道路から建物へ出入りした人数を読み取る。
 どうやら敵は襲撃を全く予想していないらしかった。
 葵のテレポートで建物屋上へ移動すると、より詳細な敵の情報が手に入った。

 「敵はこの真下・・・情報の通りエスパーの男の人ね。しかも、居眠りをしてるわ!」

 皆本はこの情報から突入を決断する。
 葵のテレポートで室内に潜入すると、気配に振り返った男に麻酔銃を打ち込む。
 警告無しの発砲だったが、既にパンドラとの暗闘はそのレベルにまで達していた。
 昏倒した体は薫のPKで即座に拘束する。
 皆本はESP錠で男の能力をロックするとようやく安堵のため息をついた。

 「皆本さん! 大変!!」

 男から情報を得ようとした紫穂が声を潜める。
 そのただならない様子に、皆本をはじめ、薫、葵も息をひそめた。

 「この人、パンドラの幹部だわ! しかも、今、コンピューターのチャットで重要な会議中」 

 慌てて机上のディスプレイに目をやった皆本は、ウインドウの一つに兵部の姿を見つけていた。






 ――― P.A.Nチャ ―――






 「おい、返事をしないか」

 兵部が参加者の誰かに呼びかける。
 皆本は返事をしようとした薫の口を押さえた。

 「静かに、どうやら兵部以外はアバターを使っている。このまま、この男になりすませば奴らの情報を何か掴めるかもしれない」

 マイクに拾われないように耳元で囁くと薫はすぐに静かになった。
 手を離した皆本は、残念そうに自分を見上げる視線には気づいていない。

 「しかたないよ少佐。いつものやつだろ」

 兵部以外の参加者のうち、カエルのキャラクターがどこか楽しげに口を開いた。

 「彼の寝オチは既に芸と言えますからね」

 半ば感心したように、ロボットのキャラクターがそれに追従した。
 今の会話から皆本は、拘束した男が丸々と太ったクマのキャラクターであることを推理する。
 しかも、寝オチということにしておけば暫くは時間が稼げそうだった。

 「仕方ないな・・・今日は新型装備のお披露目をしようと思ってたのに・・・」

 「少佐! ついに完成したのかい!?」

 「とうとうバベルに対抗する新装備が我々にも」

 バベルという言葉に皆本の緊張が高まる。
 どうやらパンドラは本格的な戦いを挑んで来るらしい。
 ウインドウの数が増え、画面が六分割になると厳めしい白衣姿の老人がチャットルームに入室してきた。
 年はグリシャムと同じくらいか? ゲルマン民族特有の仏頂面が取っつきにくそうな印象を与えていた。

 「紹介しよう。今回の新装備開発を手がけたDr.シュトロハイム。以前友軍だった縁で今回の開発に協力してもらった」

 「よろしく、パンドラの諸君・・・」

 同盟国時代からの付き合いというのは本当らしくシュトロハイムは流暢な日本語で挨拶した。

 「早速だが、今回開発したザ・チルドレン用の装備を見て貰いたい」

 シュトロハイムの顔を写していたウインドウが動画配信に切り替わる。
 そこに映し出された光景に皆本たちは息を呑んだ。



 90式MBT
 西側先進国第三世代MBTとして最高ランクに位置する高性能戦車が八台、たった一人の少女と対峙していた。
 遠巻きに映ったその少女に皆本たちはどこか見覚えがあった。
 その少女が身に纏っているミニのスカートとブレザーはバベルの支給品とよく似ている。
 違いはスカートとブレザーが同系色で統一されていることくらいだった。
 スカートから伸びたすらりとした足にはニーソックスが履かれ、少女の華奢さがより一層強調されている。
 やがてカメラのアングルが切り替わり、彼女が両手に下げたハンドガンが大きく映された。
 実用一辺倒にデザインされた無骨なシルエットは、その禍々しい性能を否が応でも皆本に想像させる。
 風にたなびくスカートとハンドガンの対比が絶望的までにミスマッチだった。
 やがてカメラは彼女の腕から上半身へと舐めるように切り上がっていく。
 バベルの幅広のリボンと対照的な細いリボン。その上にある顔を見て、皆本たちは驚きの表情を浮かべた。


 「あ・・・」

 大声を上げそうになった三人を皆本はまとめで抱きかかえる。
 画面から聞こえる轟音のため今の声は聞かれなかった。

 「澪・・・」

 皆本は無念そうに一言だけ呟いた。
 パンドラに保護された彼女は、パンドラの兵士として訓練を受けるようになってしまったらしい。
 開始の合図が画面から聞こえてくると、画面のなかの澪は立ち並ぶ戦車に向かって走り出した。


 その戦いは壮絶の一言だった。
 両手を切り離した澪は、戦車との距離に関係なく次々に死角からピンポイントで攻撃を加え、確実に戦車を破壊していく。
 そのオールレンジな攻撃に加え、分身による空間の断絶は砲塔を易々と分断させ、戦車の主力兵器を完全に沈黙させていた。
 しかし、何よりも恐ろしいのは澪の物質透過能力とハンドガンの相性だった。
 戦車の破壊はハンドガン自体の威力もあるのだろうが、装甲をすり抜け直接内部を破壊する戦闘方法は皆本の背筋を凍らせていた。
 演習のため操縦者は狙っていないようだったが、もし澪にそのつもりがあるのならば、どのように強固な装甲も澪の前には意味をなさないだろう。
 装甲を突き抜け突然目の前に現れる銃口。その引き金を引く澪は自分の指先が引き起こす光景を見ることなく次々に人の命を奪っていく。
 皆本はあの時澪を保護しなかった事を心の底から悔やんでいた。

 「あれくらいアタシにだって・・・」

 皆本の腕の中で薫が拗ねたように呟く。
 PKによる力業での破壊は確かに派手だが、バベルでの演習を遙かに上回るタイムで澪は戦車部隊を沈黙させていた。

 「馬鹿・・・そんなことで張り合う必要なんか無いんだ」

 皆本は三人を抱く力に一層力を込める。
 それは来るべき未来に、この三人をパンドラに渡すまいとする意志の表れだった。


 「どうかね感想は・・・」

 先程まで流れていた動画配信がシュトロハイムの顔に切り替わる。
 得意げな表情で返事を待つ姿に皆本は吐き気すら覚えていた。

 「期待通りだよシュトロハイム。澪の持ち味を完全に生かし切るとは・・・君にまかせて本当に良かった」

 兵部が感動の面持ちで小さく手を叩いていた。

 「この装備をチルドレン・・・いや、クイーンに試すことを思うとドキドキするよ。みんなもそう思わないかい」

 この言葉に皆本の顔色が変わる。
 兵部は澪をけしかけ薫にハンドガンの銃口を向けさせるらしかった。
 薫たちも自分に向けられた兵部の悪意を目の当たりにし顔を青ざめさせている。

 「大丈夫。君たちは僕が絶対に守る。あんな奴の好きになんかさせない」

 皆本はそう宣言するとディスプレイを睨み付ける。
 その後に起こる光景は伊ー9号にも予想はつかなかっただろう。







 「澪タン・・・(*´Д`)ハァハァ」

 何故か息の荒くなったロボット君に、皆本の目が点になった。
 しかし、それはほんの序章に過ぎない。

 「フフフ、気に入ったかね! 人間工学に基づいて作成した今回の制服は、バベルのものと比べてパンチラが2割り増し起こりやすくなっている!!」

 「二割増し・・・(*´Д`)ハァハァ」

 息が荒くなったカエル君に、皆本はようやく新装備が制服の事を指していることに気がついた。

 「気になる点としては、クイーンにこの制服を着せたとき、彼女には生足の方が似合うような気がするんだが」

 どこまでも真面目な顔で兵部が呟く。
 シュトロハイムはニンマリと笑うと兵部の疑問に答えた。

 「その辺はぬかりない。ソックスはあくまでもオプション・・・他のチルドレン用には人間工学的にデザインした、網タイツや黒タイツ、生足なども取りそろえておる」

 「お、おおおお・・・素晴らしい、素晴らしいぞブラザー! これで、何時でもクイーンを迎えにいける!!」

 人間工学的にデザインされた生足というのは謎だったが、兵部には通じたらしく感動の声が上がった。
 シュトロハイムは大きく胸を張り右手を高々と上げると大きな声で宣言する。

 「我が毒逸帝国の技術力は世界一ィィィィィッ!!!」

 その声に誘われるように今までPOMだった構成員が次々とチャットルームに入室してくる。


 「女王なまあし・・・(*´Д`)ハァハァ」


 「葵タン黒タイツ・・・(*´Д`)ハァハァ」


 「紫穂タン網タイツ・・・(*´Д`)ハァハァ」


 「ナオミタン・・・(*´Д`)ハァハァ」


 「朧さん・・・(*´Д`)ハァハァ」


 「局長・・・(*´Д`)ハァハァ」



 その日、P.A.N.D.R.Aのチャット、通称P.A.Nチャは過去最高の参加数を記録した。









 「なあ、皆本・・・」

 ディスプレイ前
 先程から無言でチャットのやりとりをみていた薫がようやく口を開く。
 皆本は疲れたようにその声に応えた。

 「なんだ薫・・・」

 「夏だな・・・」

 「ああ、夏だ・・・」

 皆本は力なく笑うとマウスをクリックし、チャットルームから退室した。






 同時刻沖縄近海
 満月の光をに照らされた海面に一頭のイルカが顔を現す。
 その背びれには「伊009」と書かれていた。

 「未来ガ変ワッタ・・・チルドレンハ、パンドラニハ行カナイ! 君ガ、ヤッタノカ皆本クン・・・」

 自分の予知が覆されたことに伊ー9号は心の底から笑顔を浮かべる。
 来るべき悲劇は回避された。彼は心の中で予知を覆した若者の姿を想像する。
 しかし、伊ー9号は知らない。
 ヤッちゃったのは兵部の方だと言うことを・・・



――― P.A.Nチャ ―――


      終


※この話はフィクションであり、実在の人物、チャットルーム、作者の性癖とは一切関係ありません。

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