ザ・グレート・展開予測ショー

【夏企画SS】成仏するから付き合って!


投稿者名:双琴
投稿日時:(06/ 8/26)



 七月も下旬に入り、学生たちの大半は夏休みを迎えていた。
 朝、令子が事務所の窓から道路を眺めると、スポーツバッグを担いだ制服姿の学生が、自転車で通り過ぎていった。
 学校は休みでも、部活動や補習で登校する生徒がある程度はいる。
 この時期に少なくなったそんな学生服を道端で見るたびに、令子はあの夏を思い出す。




 あれは、高校二年生の夏休みに入って一週間ほど経った頃だった。
 令子は学校の夏服を着て夜の歓楽街を一人でぶらついていた。
 幼い頃に母親と別れ、特殊な霊症に悩む父を持つ令子は、高校生の時には一人暮らしを始めていた。
 だから、このように素行が悪くても注意してくれる者は少なかった。
 そんな彼女にとって、夏休みはつまらないものでしかなかった。
 長期休暇を利用して親と関係を深めることもできないし、学校での友達と会う機会も減る。
 父親と会えないことはないが、父が住むジャングルの奥地に何日も滞在するのは嫌だった。
 遊びたい盛りの年頃だ。電気も自家発電で補っているような場所では、それも無理はない。
 夏休みは四十日近くある。というわけで、丸一ヶ月は退屈な休日が待ち構えているのだ。

 そんな退屈な夏休みを打破してくれたのは、一人の男だった。
 日が暮れても熱気が漂う街中を歩いていた令子は、男に声をかけられた。

「こんな時間に学生が一人でいるのは感心できないなぁ。どう? よかったら家まで送るよ」

 下心がみえみえのナンパ言葉だった。
 学生だがスタイルのいい令子は、ナンパされることに慣れていた。
 いつものように適当にあしらおうと思った令子だが、相手の姿を見て放っておけなくなった。
 男は坊主頭で、令子と同じく学生服を着ていた。
 それ以上に普通でなかったのは、男の足が地に着いていないことだ。肩の上には人魂まで見える。
 男は若くして生を終え、逝き場を失くしていたのだ。
 親譲りの強い霊感を持つ令子は、GSの見習いをしている。
 ただ働きは好きではなかったが、話だけでも聞いてあげようと思った。

「あなたも学生でしょ。こんな所で何してるのよ」
「うおぅ! 久々の好感触!!」

 返事をしただけで、男は拳を振り上げて感激に打ち震えていた。生前は寂しい学生生活を送っていたのだろう。
 令子は呆れそうになりながら、さっさと事情を聞こうとする。

「見た感じ、あなたは浮遊霊みたいだけど、ナンパなんかしてていいの?」
「よく聞いてくれた! やっぱ、あんたは見る所が違うな。ちょっと聞いてくれよぉ」

 興奮気味にそう言った男は、この境遇に至るまでの過程を熱心に話した。
 その話によると、男の名前はコウジと言い、亡くなった時は高校生で野球部をしていたそうだ。
 彼にはそれなりの野球の才能があり、一年生の時から補欠ながらもベンチ入りを果たしていた。
 そんな彼は中学生の頃から野球に打ち込んでおり、女の子と親しくなる機会はかなり少なかった。
 その女性への免疫の無さが死亡の原因になった。
 彼が亡くなったのは、部活帰りの夏の夜。
 厳しい練習で疲れていた彼は、判断能力が衰えていた。
 コウジは自転車を走らせながら、すれちがう薄着の女性に目を奪われていたのだ。
 高校生は煩悩に支配されやすい時期だ。夏場の女性は歩いているだけで刺激的だった。
 それが災いし、彼は自動車と正面から衝突することになった。

「――というわけで、俺は死の間際に思ったのさ。どうして、もっと女の子と遊んでおかなかったのかってな」

 令子は話を聞いて軽く後悔した。理由があまりにも馬鹿らしい。
 早い話、女と仲良くできなかったのが心残りだということだ。
 人間とはそういうものだと分かっていても、落胆せずにはいられなかった。

「……あなた、野球のことで未練はないの?」
「あまりないなぁ。野球はうんざりするほどやったもん」

 潔く思えるほどのコウジの返事だった。
 だが、それで令子が見限るには充分だった。

「アホらし……。好きにナンパでもしてなさい。それじゃ」
「うぇ!? ちょ、待ってよ。もっと話をしようよ」

 追いすがる浮遊霊を無視し、令子は街の雑踏へと向かった。


 夜遊びもほどほどにして帰宅した令子は、玄関で鍵穴に鍵を刺した所でため息をついた。
 微弱ながらも背中に霊圧を感じる。
 令子は鍵穴の鍵を捻る前に、背後の浮遊霊に文句を言うことにした。
 霊がいることは確かなので、手元の鍵を見たまま言う。

「――しつこいわよ。どっかに消えなさい」
「ひどいよぉ。俺の話を真面目に聞いてくれたのはあんたが初めてなんだ――」
「だから?」
「いや……だから、もう少し付き合ってくれないかな〜……なんて」
「ごめんだわ」
「そんなこと言わずにさ」

 浮遊霊のコウジは思いのほかしぶとかった。
 面倒を見る気がないなら、捨てられた子犬や子猫にエサは与えるものじゃない。令子は失敗したと舌打ちした。
 これは霊に取り憑かれつつある。
 そう感じた令子は、刺したままの鍵から手を離して、背後のコウジに振り向いた。

「私、こう見えてもGS見習いをしているの。祓われたくなかったら去りなさい」
「ホント? それラッキ〜。こんなかわいい子に祓われるならいいかも。俺も成仏できなくて困ってたからさ」

 逃げるどころかお祓いをお願いされ、令子は頭痛がしそうになって額を押さえた。
 言うのも二度目で恐縮だが、令子はただ働きが嫌いだ。GSの先生が無料で除霊をして貧しさに喘いでいるのが、こう考えるようになった主な原因だ。

「でも、お祓いされる前に、少し付き合って欲しいなぁ。思い出が欲しいじゃん」

 令子の苦悩も知らずにコウジはわがままなことを言い出した。

「いい加減にしなさいよ。私はお金にならない仕事が大嫌いなの。あなた、お金はあるの? 祓って欲しいなら出す物出しなさいよ」
「幽霊にお金を期待しないでくれよ」
「じゃあ、これでお別れね。まだ付きまとうなら、メガネの神父に除霊してもらうわよ。私の先生なの」
「野郎にやられるのだけは勘弁! けど、少しでいいから付き合ってよ。何でもするからさぁ」
「何でも?」

 コウジの苦し紛れの言葉に興味を示す令子。よからぬ考えを思いついたに違いない。
 嫌な予感をひしひしと感じながらも、コウジは頷き返す。

「うん……何でも」
「本当に? 二言はない?」
「ないよ」

 コウジは半ばやけになりながら約束した。ここで引き下がったら、根性なしだと思われてしまう。
 それを聞いた令子は、にんまりと不気味な笑みを浮かべた。

「あなたは今から私の奴隷ね。そういう関係なら付き合ってあげる」
「やっぱそうきたか! あんた、容赦ねーのな」
「何とでも言いなさい。それで、どうするの。私はどっちでもいいんだけど」
「わーったよ。高校球児に二言はねえ。あんたの好きにすればいいさ」
「その心意気や良し。意外に肝は据わっているのね」
「そんなことよりさ、まだあんたの名前を聞いてないんだけど」
「そうだったわね。私の名前は美神令子。これからは令子様と呼ぶのよ」
「へーい」

 こうして事態は思わぬ方向へと展開し、コウジは令子の奴隷として仕えることになった。


 翌日の昼、教会で唐巣神父は教え子のハチャメチャな行動を嘆いていた。

「美神くん、人の霊を奴隷にするなんて、GSに許される行為だと思っているのかい」
「こいつも同意の上なんだからいいじゃないの」
「令子様の言うとおりだって。そんなに気にすることないですよ」
「そう言ってもだね……」

 コウジは別に気にしているふうでもなく、飄々と「令子様」と言ってのける。遊び半分で言っているのか、プライドが高くないのかは判別できない。
 少しも嫌な顔をしないコウジを見て、唐巣はどうしたものかと困り果てた。

「俺はコウジといいます。神父さん、よろしく」
「私は唐巣です。こちらこそ、よろしく」

 機転を利かせたコウジが自己紹介を始め、この問題はうやむやにされた。


 令子が教会にコウジを連れてきたのには訳があった。
 それは、GSの仕事の手伝いをさせるためだ。
 GSは霊や化け物を相手にする職業だ。同じ霊が仲間にいれば、何かと便利に違いない。
 楽して儲けることに頭の働く令子は、そう考えていた。

「先生、今日の仕事にはコウジも連れてくから。先生もこき使ってやってください」
「ええ? それはまずくないかい。現場は危ないんだよ」
「平気ですって。俺、もう死んでるから」
「君、霊だって死ぬんだよ。成仏できずに消滅したり、悪霊に取り込まれたりね」
「げっ、マジっすか」

 コウジは危険なことをさせられると知り、ススーと一歩ほど後退する。
 だが、令子は働き手を逃すまいと挑発するように引き止める。

「なに? もう怖気づいたの? そんなことで私と付き合おうなんてお笑い種だわ」
「こ、怖くなんてねえ! 俺は高校球児なんだからな!」
「その意気その意気」

 見事に乗せられたコウジは、かなり単純なやつだった。


 コウジの主な役割は、荷物持ちと見鬼君の代わりだった。

「あ、あっちから嫌な気配がするぞ」
「私も同感だ」

 夜中のビル内をびくびくと進んでいたコウジが、身を震わせて通路の奥を指さす。
 浮遊霊の彼は、霊波を敏感に感じ取ることができるようだった。弱小霊の生きる術というやつだ。

 息を呑んで進んだ先は、ワークデスクが並ぶオフィスの一室だった。
 暗い部屋の真ん中に、一つだけスタンドライトが点いている机を見つけた。
 スーツを着た男が残って仕事をしているのが見える。

「遅くまでご苦労様です。残業ですか」

 唐巣がとりあえず声をかける。
 だが、返事はない。

「怪しいわね」
「美神くん、慎重に近付くぞ」
「お、俺はここで待ってるから」

 令子と唐巣が確認するように頷き合ってから足を踏み出す。
 近付くと、社員と思しき男は仕事をしているわけではなかった。
 ずるずると啜る音を立てて何かを食べているようだ。
 男の背後まで来た時、食事の音がぴたりと止んだ。

「何しに来た。俺に食われに来たのか?」

 背中しか見えなくとも、一発で悪霊だと分かった。
 二人は一斉に飛び退き、距離を取った。
 男の灰色のスーツが紫へと変色を始め、体も変形しながら膨らんでいく。
 大きく裂けた口を持つ悪霊は、なぜか左手に巨大なカップ麺を持っていた。
 化け物となった悪霊が二人を一瞥する。
 令子が神通棍を構え、啖呵を切る。

「どんな訳があるか知らないけれど、このビルの所有者が迷惑しているの。大人しくあの世に逝きなさい!」
「そんなことを言わずに聞いてくれよ。俺って可哀想なやつなんだからよぉ」

 それを聞いた悪霊は、ここぞとばかりに恨み言を語り始めた。成仏できない霊は、悩みを聞いてくれる者を待っているものなのだ。

「聞きたくないわね」
「美神くん、霊の話は聞いておこうね。むりやり除霊するだけが、GSの仕事じゃない」
「しょうがないわね……」

 唐巣に注意され、渋々ながら話を聞く気になったようだ。

「俺は毎日残業で夜遅くまで働いていた。なぜか、俺一人だけ残ることが多かったが……」
「それ、イジメに遭ってたんじゃないの?」

 思ったことをそのまま口にする令子。聞き役には不向きなようだ。

「うるさい! とにかく、俺は働き者だった」
「はいはい、それで?」
「ある晩も、俺は一人で仕事を片付けていた。それで、腹が減って夜食を食べたんだ」
「うんうん」
「何を食べたか分かるか?」
「知るわけないでしょ」
「俺の大好物の餅入りカップうどんだ」

 悪霊が、持っていたカップ麺を見る。あれはカップうどんだった。

「そこで悲劇は起きた……」
「で、その悲劇って?」
「――餅がのどに詰まったのだっ!!」

 悪霊が声高に叫ぶ。
 令子はあまりにくだらない話にため息をついた。
 言っては悪いが、餅を食っての窒息死は、かなりかっこ悪い死に方だ。

「お前たちにこの苦しみが分かるか! もがき苦しんでも、誰も助けてくれないんだぞ。しかも、会社で!」
「分かりたくない」

 令子のこの言葉で話は終わりになった。話をしているうちに気が昂っていた悪霊は、ついに危害を加え始める。

「なら、分からせてやる。お前たちも窒息死してみろ!!」

 カップうどんから大きな餅が次々と飛び出した。
 強制除霊の始まりだ。
 令子と唐巣は素早い動きで餅をかわす。この際、走る場所は床も机の上もお構いなしだ。
 的を外した餅が、ドロドロと壁や床に飛び散った。あれに当たったらトリモチのように身動きがとれなくなる。
 散開していた二人のうち、令子が悪霊に神通棍で飛び掛かる。唐巣はおとり役になっていた。

「極楽に逝かせてあげるわ!!」

 令子がカップうどんを力任せに叩き落す。
 床に汁と餅がぶちまけられた。

「お、俺の餅入りうどんがあっ!?」

 カップうどんの最期を目の当たりにした悪霊は、そう叫んで消え去った。これで未練が断ち切られたようだ。

「うん、いい洞察力です」
「まだ先生ほどじゃないけどね」

 除霊が終わり、令子と唐巣が称え合う。今回の仕事も、かなり手際がよかった。
 令子は霊力が強く、唐巣は世界でも指折りのGSだ。苦戦するような相手はそういない。
 彼らが最も苦労しているのは、仕事よりも金欠の方だった。今回もお金がないので、破魔札の類は一切使用してない。
 
「餅が……助けて……」

 その頃、コウジは流れ弾に当たってもがいていた。


 夏の除霊シーズンも、コウジの手伝いで去年よりも楽に乗り切れそうだった。
 いつの間にか、除霊は令子と唐巣とコウジの三人で組むのが当たり前になっていた。
 除霊で遠くに行った。海にも行った。山にも行った。
 仕事の遠出も、令子は旅行のように思えてしかたがなかった。
 霊とはいえ、コウジは令子と同じ年頃だ。唐巣とはできない馬鹿話も気軽にできる。
 二人は徐々に友達のような関係になっていった。


「いや〜、コウジくんのおかげで助かってるよ。いつも雑用ばかりさせてすまないね」
「いいですよ。俺もけっこう楽しんでるし。こんなに楽しい夏は初めてですよ」
「そう言ってくれるとありがたいよ」

 盆を過ぎ、八月も終わりが近づいたある日の夜。教会で唐巣とコウジが談笑に興じていた。
 ここに令子の姿はない。奴隷のコウジが主人の傍ににないのは珍しかった。
 唐巣もそのことがやや気になったが、特に触れようとは思わなかった。誰にでも、一人になりたい時はある。

「……俺、そろそろ成仏できそうなんです」

 談笑の最中、コウジが言った。
 唐巣はコウジが令子の傍にいない意味を悟った。
 お互いに別れが辛いのだろう。この夏で、二人は驚くほど仲がよくなっていた。
 令子は主従関係だと言っていたが、唐巣には友人の関係にしか見えなかった。コウジの絶対服従というひどい扱いの所もあったが……。
 何より、この夏の令子は楽しそうだった。

「そうか、それはよかった」

 唐巣は笑顔で喜んであげた。
 霊にとって、成仏することは生まれることと同等におめでたい。
 ここは祝福してあげなければならないのだ。
 それでも、唐巣は聞かずにはいられなかった。彼の主人のことが気掛りで……。

「それで、美神くんにそのことは……」
「言ってません。何も言わずに旅立とうと思ってます」
「それがいいかもしれないね。美神くんはわがままな所があるから」

 この夜、コウジは主人の元へ帰らなかった。


 翌日、教会に不機嫌にやって来た令子が、まず最初に聞いたのはコウジのことだった。

「奴隷のやつ、昨日からどこほっつき歩いてるのよ。先生は見なかった?」

 唐巣はどうしようかと迷ったが、本当のことを教えてあげることにした。
 唐巣は令子の前に立って、しばらく間を置く。
 令子はどこか深刻そうな雰囲気に首を傾げた。

「コウジくんは成仏したよ」

 令子はその言葉が信じられなくて、今も首を傾げていた。
 そして、唐巣の真面目な顔を見て、彼女は笑い飛ばそうとした。

「そんなの嘘でしょ。奴隷が私の許可無しに成仏するなんて」

 令子は唐巣の顔を見る。
 その表情は変わらず、真剣そのものだった。
 令子の胸に不安でもやが充満し始める。

「嘘、だよね?」
「昨晩、コウジくんがここに来たよ。成仏することを、私に伝えに来たんだ」

 令子は事実を認めなくてはならなくなった。
 だが、悲しいはずなのに、今は怒りの感情しか湧いてこない。
 約束を破った。裏切られた。奴隷なんかに愛想を尽つかされた。

「私の奴隷のくせに、どうして先生に別れを言うのよ! そこまで薄情なやつだなんて!」

 この後も、令子がコウジの悪口を次々と並べ立てた。
 だが、唐巣は令子を叱れなかった。それだけ仲が良かったという証拠なのだから。
 だから、コウジが最期に残した言葉を伝えてあげるだけにした。

「コウジくんが言ってたよ。「友達になってくれてありがとう。これで高校球児らしく成仏できる」ってね」

 それを聞き、令子の怒りがみるみる引いていく。そんな言葉を聞いては、悪口も言えなくなる。
 とてもではないが、常識では友達と呼べるような付き合い方をしていなかった。
 一方的な命令ばかりして、掃除から洗濯までさせていた。
 夜は何かをしでかさないように、結界に入れて閉じ込めていた。これは何度も寝室に忍び込んだコウジが悪いが。

「何が友達よ。あんたは奴隷なのよ……」

 令子はそう言いながら泣いていた。




 事務所の窓から道路を眺めていた令子は、自転車に乗る坊主頭の学生服を見つけた。
 それだけで、なぜか微笑みを漏らしてしまう。

「どうしたんですか? 今日は機嫌がいいですね」

 思い出に耽っていた令子は、おキヌがすぐ横に来ていることにも気付かなかった。
 おキヌはエプロンをつけて、コーヒーを淹れてくれていた。
 ちょっとびっくりしたが、笑みをそのままに、おキヌの方に振り向いてカップを受け取る。

「昔に会った、おもしろい浮遊霊のことを思い出してただけよ」
「どんな人だったんですか?」
「そうね……、よくわからないけれど、おもしろいやつだったわ。でも、おキヌちゃんほどじゃなかったかしらね」
「それどういう意味ですか! それに、もう私は浮遊霊じゃないです!」

 ちょっとからかった令子は、逃げるようにコーヒーを口に含む。

「うん、おキヌちゃんのコーヒーはおいしいわ」
「話をはぐらかさないでください!」

 今は事務所の仲間がいる。
 GSの仲間もいる。
 母親も戻って妹までできた。
 退屈な夏は、もう来ないだろう。
 令子はコーヒーカップに口を付けながら、幸せ笑いが止まらなかった。




おわり

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