【夏企画SS】夏休みの終わり(絶チル)
投稿者名:サスケ
投稿日時:(06/ 8/20)
なあ、皆本。
あたしさぁ、ずっと憧れてたんだよ……「夏休み」ってやつにさ。
なにしろあたしたちって、こんなじゃん?
10歳になるまで、学校ってトコに行ったことなかったし、
学校に行くようになってからだって、バベルの仕事があったしさ。
そりゃあ、バベルにだって「お盆休み」くらいあるけど、
それだって「夏休み」っていうのかもしれないけど……違うんだよなぁ。
もっとこう、なんつーか、ほら、あるじゃん?
夏は女を魔物に変えるわ、とかさー、ぎっひっひ……な? な? なっ!?
……ははっ、うそだよ、うそ。そんなんじゃねーんだ。
ずいぶん前だけど、ちさとちゃんや東野から話を聞いて、改めて思ったんだ。
ちゃんと学校行ってるやつらの「夏休み」って……いいもんだよな。
なんかこう、きらっきらしてるんだ。
かーちゃんがつけてるのなんかより、もっとずっとすげー宝石みたいだよな。
長い休みっていやぁ、春だって冬だってあるし、それはそれで楽しそうだけど、
でも、やっぱ夏なんだよ! 夏は他の季節とは、ちょっと違うんだよな。
太陽がぴかーって光ってて、いつも見てる風景の色が、なんか濃くなったりするじゃん。
そういうの見てると、ああ、生きてんなーって思うんだ。
そういうきれーな色の中で、ふだんと違う日々が40日も続くんだぜ?
それって、どんな感じなんだろうなぁ……。
そんな中にいたら、あたし、どんなことができるんだろう……。
自分ができないことに憧れてるだけ? それもあるかもしんないけど、さ。
とにかく、そうやって、もうずっと長いこと憧れ続けてたんだ、「夏休み」にさ。
でもな、皆本。
今ごろ……こんなときになっちまってから、やっと思えるようになったんだ。
おまえが担当になってから今日までが、もしかしたら、あたしたちにとって、
「夏休み」ってやつだったのかもしれない、なーんてさ。
それまでだって、そりゃ好き勝手やってたさ。
チカラを使えばスカッとしたし、局長も朧さんもやさしかったし。
かーちゃんやねーちゃんだっていたし。
でも、なんか変な感じだったんだ。
大暴れした後で、はぁって息をついたりしたときとか、
急に、世界中に紫穂と葵とあたしの三人しかいない、みたいな感じがしたりした。
そんなときって、紫穂と葵にしか色がついてないんだよ。他はみんな白と黒なんだ……。
なんなんだコレ?って、困っちゃったよ、ホント。
ま、寝て起きたら忘れちまって、また暴れちゃうんだけどさ。ひひひ。
そうこうしてたら、局長が「キミたちにも制服を作るからネ!」とか言い出してさ。
制服ってなんだかよくわかんなかったけど、見せてもらったら可愛かったし、
あたしの希望でスカートも短くしてもらって、パワーアップもばっちりだぜ。
なにより紫穂や葵とおそろいだったからさ。
はじめに「三人でチームなんだヨ!」とか言われたときなんかより、
ずっとずっと「チームっ!」って感じがしたよ。嬉しかったなぁ。
でも……やっぱり三人だけだったんだよ、世界には。
そんなときに、皆本、おまえが来たんだ。
最初は、いけ好かねーやつだなって思ったよ。
やたら説教くせーし、ガキあつかいするし、なんだコイツって。
でも、気がついたら……世界にちょっとだけ消えない色がついてた。
実際、皆本が来てからだよ、
バベルの中でもナオミさんたちと友だちになれたし、
学校に行くようになって、ちさとちゃんや東野たちとも知り合えた。
世界にどんどん色が増えてった。
世界ってすげーな、おもしれーなって思ったよ。ホントだよ。
知ってるか、皆本? 色ってさ、光が反射するから見えるんだぜ?
細かいことよくわかんなかったけど、赤いものって赤い色を反射してて、
青いものって青い色を反射してる、みたいな感じなんだって。
だから、暗いとこにいると、形はぼんやりわかっても色はイマイチわかんないんだ。
それに、夏はお日様が強いから、色がよけいにハッキリわかるんだ。
いつだったか、学校の先生にそんなこと教えてもらってさ、あたし、思ったんだよ。
ああ、皆本があたしたちの太陽、それも、真夏の太陽なのかも、って。
コイツがいてくれたら、あたしたち、三人だけじゃなくなるのかも、って。
つまんなかった今までとは、全然違う日々になるんじゃないか、って。
だからさ、なあ、皆本、おまえが担当になってから今日までが、
あたしたちにとって、「夏休み」ってやつだっんだよ。
でも、もうおしまい。
あたしは、行かなきゃいけない……みたいなんだ。
正直、今でもよくわかんねーんだ。
なんでエスパーだからって、ノーマルとケンカなんかしなきゃいけないんだろうなぁ。
かーちゃんもねーちゃんも、局長も朧さんも、紫穂んちのパパも葵んちのユウキも、
ちさとちゃん……はエスパーか、えっと、東野も黒木も火下も先生も、
あたしは、みんなみんな大好きなのに、なんでなんだろうなぁ。
ホント、わかんねーよ……。
それがわかってもわかんなくても、余計なことだけはわかっちまう。
もう「夏休み」はおしまいなんだ。
この制服、すごく気に入ってたけど、もう着れない。
「夏休み」が終わったら制服を脱ぐなんて、はは、なんの冗談だろ、
普通、逆じゃん? はは、あは、ははは……。
……超度7には、過ぎた夢だったのかな。
やっぱ「夏休み」なんて、ただの憧れなのかもな、あたしたちには。
なあ、皆本。
……なんて呼びかけても、聞こえてないよね……おまえ、寝てるから。
って、あたしが眠らせたんだけどね、はは、京介にもらった薬で。
まぁ、いいんだ、聞こえなくても。
もう行くよ、皆本。
おまえは最後まで認めなかったけど、ここが、この場所だけが、
あたしたちの……あたしの家だったよ。
でもさ、皆本、もしかしたら、もう一回、
もう一回だけ、「夏休み」が来るかも知れない。
おまえがあたしに逢いに……殺しに来てくれたら……そしたら言うよ。
――大好きだ、愛してるって。
それが何分なのか、もしかして何秒なのかわかんねーけど、
その瞬間が、あたしの最後の「夏休み」なんだ。
だから皆本……あたしを殺しに来て。
そのときだけを、ずっとずっと待ってる。
早く……早くね。
今までの
コメント:
- みなさま、こにちは。はじめての方は、はじめまして。
ふだんはへろへろ絵を描いたりしてるサスケという者です。
文章なんて書いたコトもなかったくせに、
生まれて初めて、展開予想というものを書いてしまいました。
嗚呼、夏は人を狂わせるのね……。
初めての文章を、よりによって夏企画に参加させてしまいましたが、
みごと枯れ木となって、にぎわいとなれるのか、
腐ったミカンとなって、企画全体を腐らせてしまうのか、
サスケの明日はどっちだ……(二者択一)。 (サスケ)
- 展開予測の初投稿、まずはお疲れ様でした。
初投稿とは思えない質ですね。薫の独白という形式で上手く纏まっています。
そして絶チルの原作で提示されている、悲しい未来の可能性を背景にしつつ
幸せだった過去を、夏休みと制服というテーマになぞらえる構造が素晴らしいです。
腐ったミカンでも、枯れ木でもありません。見事な華を咲かせてくれました。
ありがとうございました。 (aki)
- akiさんが私の書きたいことを全部書いてくださったので、コメントすることが
ありません(w
最後に、一服盛られて眠り続ける皆本に薫がキスする…というような展開だと
私的にはもっと萌えますね。 (STJ)
- 初投稿おめでとうございます☆
予言が的中してしまった未来なのですね。
薫の「夏休み」というのがとても切なく響きました
「夏休み」の終わりに制服を脱ぐ……皮肉で、もう避けられない切なさ
バベルでの時の流れと関わり、
すばらしいレベルの絵描き様でありながら、ここまでの文章力
感服いたしました。 (長岐栄)
- コメントはいつも嬉しいものですけど、はじめての文章投稿に「送信」ボタンを押す手が
ぷるぷる震えてただけに、今回はまたひとしおです。ありがとうございますー。
●akiさん
腐ったミカンでも枯れ木でもないと言っていただけて、脱力するほど安堵しました(笑)。
文章を書くという作業は未知の領域ではありますけど、
薫の独白という形式は、サスケ的には楽な部分もありました。
なぜって、薫は難しい言葉は使わなさそうですし、ね(笑)。
●STJさん
眠り続ける皆本に薫がキス……はぁぁぁ、たしかに萌える! 萌えますねっ!!
シーン的にも、すごく美しいですねー。いいなぁ、それ……。
ただ、この二人を見てると、どーも皆本の方がヒロインっぽいので、
王子様(薫)がキスしたりすると、目が覚めてしまいそうではあります(笑)。
●長岐さん
書きながら、「なんか暗いなー」とか思ってたのですが、
「切なさ」という言葉をいただいて、ちょっと救われた気がします。
ただ、こんな予想をしといてアレですが、こういう展開にはなってほしくないですよね(笑)。
●蛇足的オマケ
「みんなみんな大好き」に谷崎さんを入れ忘れました……素で……(泣)。 (サスケ)
- 誰の声も届かない程に生き急いでしまった、その閉じた世界でのスピードみたいなものが感じられる薫の独白。
それが諦めなのかどこかへの前向きな意思なのかは分かりませんが、世界に色の付いていた、彼に照らされていた「夏休み」は終わり。それだけは確かな事。
もう一度夏休みが来ると言った彼女に、その思いが分かる分だけ寒気も覚えました。
初投稿お疲れ様です、言葉の一つ一つに強いセンスを感じます。 (フル・サークル)
- ぎゅわってつかまれました。
なんか。
読ませる速度と展開の速度のシンクロが見事で。
チルドレンのファン創作として完成度がすごく高いと感じました。
……変な事いっちゃうと。
これ、サスケさんの挿絵が見たいです。 (ししぃ)
- はふん。
やられました。
初投稿としてここまで書き上げられるとは、サスケさん。
やはりあなたはただ者ではありませんでしたね(笑)
薫のモノローグでまとめられていますが、破綻することなく、上手く彼女の思いを表現していて素晴らしいです。
夏休みの終わりとともに制服を脱ぐ――この表現は正直嫉妬すら憶えましたよ、ええ。
絵も描ける、話も上手い。くう、ここに完璧超人誕生の予感。
……というわけで、絵、描きましょw (ちくわぶ)
- 初投稿お疲れ様です。
薫が急ぐあまりに色を失った世界に迷い込んでしまって・・・、でも少し前には色で溢れた世界が広がっていて。
それを与えていてくれたのは皆本で、彼の存在こそが夏休みそのもの。
せつないっす。せつないっすー。 (とおり)
- 『夏休み』の終わりとともに“制服”を脱ぐという決断を下した薫の葛藤……そして、翌朝になって、この別れを受け入れざるを得ない皆本の苦痛が胸に響きました。
輝く“現在”を棄て、モノクロームの“未来”の女王として羽ばたこうとする薫の想いに胸を締め付けられつつ、賛成票を投じさせていただきます。 (すがたけ)
- ”破壊の女王”にならざるを得ない、薫嬢の心情切ないし、哀しいです。
楽しませていただきました。 (偽バルタン)
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