ザ・グレート・展開予測ショー

【夏企画SS】夏服の表情(絶チル)


投稿者名:フル・サークル
投稿日時:(06/ 8/13)




 澪は床に腰を下ろしたまま、積み上げられた平箱の一つを目の前に置く。
 寮の4人部屋にはまだ誰も戻ってなく、エアコンの唸る音だけが聞こえていた。
 平箱の蓋を取る。中には丁寧に折り畳まれた衣類が一式。
 丸襟の白いブラウスに臙脂色のスカートと繻子のエプロン、リボンタイ、帽子に革靴、予備のボタンに見た事もない――多分架空の――校章のバッジ。それらのデザインは妙に古めかしく、どこか戦前の学校を思わせた。
 澪は箱の中身にざっと目を通すと、表情も変えず口を開く。

「やっぱり、ダサいわね」

 呟いた後もそのままでしばらく平箱を眺めていた澪は、やがてそれを両手に寝室へと向かった。
 自分のベッドの上で平箱からブラウスとエプロンを引っ張り出し、広げる。続けてスカート、ストッキング、帽子・・・
 箱の中身を全て引っ張り出した後、澪は一呼吸すると自分の着ていたトップスに手を掛けた。



      ――― 夏服の表情 ―――



 まだ雨が降り続いていた頃から、「学校」では突然に決められた制服導入の話で持ちきりとなっていた。
 授業前の教室で子供達は、挨拶もそこそこにその告知を見たかと尋ね合い、感想を口々に話している。
 「学校」――と言ってもそこは、正規の教育機関ではなかった。
 兵部少佐率いるエスパー組織「パンドラ」、その子供達を対象に設けられた教育施設。
 とある多目的高層ビルの一画に子供達が集団生活する寮と「学校」とがあった。子供達はビルの中、居住スペース内の寮とオフィススペース内の「学校」を廊下とエレベーターのみで登下校している。
 ギリギリまで眠っていた澪が少し遅れ気味で教室に顔を出すと、いくつもの挨拶に出迎えられた。

「おはよう澪、ちゃんと起きれた?」

「おはよう」

「おはよっ」

「澪ちゃんおはよー」

「・・・・・・おはよう・・・」

 3回に1回位の割合でボソボソと挨拶を返しながら、澪は自分の席へと向かう。

「ね、掲示板のお知らせは見た?」

「見てない・・・何?」

 澪の興味もなさげな問いに、別の子供がテンション高く答える。

「制服が出るんだってー。ここの制服だよー」

「あー、何かめんどくさくない? 別に今のままでいいじゃん。普通の小学校だって殆ど私服なのにさ」

「でも、ああいうのって何か、本当の学校ぽくていいなって思ったけど・・・私、学校とかって行けなかったから」

「澪はどう? 制服って着てみたい?」

 登校したばかりの澪にまで、早速尋ねて来る子供達。

「別に。どっちでもいい、そんなの」

 澪はうるさげに答え、そのまま着席する。



    ▼ △ ▼ △ ▼ △



 一日の授業が終わると、澪は素早く帰り支度を済ませ、教室を後にする。
 「学校」のあるオフィススペースを出る直前、後ろから呼び止められた。

「澪、今日一緒にドラヤカフェ行かない? ここの一階にオープンしたんだよ」

 会話内容と超能力使用を監視されるという条件付きではあったが、子供達は「学校」への出席と寮の門限を除いて外出が制限されていなかった。
 声を掛けたのは澪と寮で同室でもある少女だった。大体澪と同じ位の年に見えるが、正確に何才なのかは自分でも分からないと言う。

「行かない。用、あるから」

 彼女を一瞥してそっけなく答える澪だったが、別段気を損ねる様子もなく、その少女は残念そうに笑った。

「あー、今日もダメかあ・・・でも、今日こそは少佐に会えるといいね。今週はずっと行き違いだったでしょ?」

 その言葉に足が止まる。勢い良く振り返った澪の表情には激しい驚きと動揺が浮かんでいた。

「え、ちょ、な、何でっ。まさか読」

「読まなくても分かるって。もう有名だよ、澪の熱心な追っ掛けは。それにね、会えた日と会えなかった日で帰って来た時の顔が違うんだよねえ」

「ちっ―――違わないわよっ!」

 捨て台詞を残して澪は駆け出すと、5〜6歩目で彼女の視界からぱっと消え失せた。



    ▼ △ ▼ △ ▼ △



 人知れず点在するパンドラの拠点の一つ。
 その廊下を書類片手に急ぐ大男の頭上でいきなり声が響いた。

「コレミツ! 少佐は?」

 その大男コレミツが見上げると、宙に上半身だけ現れた澪の姿。コレミツはテレパシーで彼女に呼び掛ける。

「おお、久しぶりだな澪。どうだ、学校の方は順調かね?」

「順調な訳ないでしょ。あんな窮屈で退屈で、ピーピーやかましくて馴れ馴れしい所。そんな事より少佐は? こっち来てるの?」

「少佐は奥の部屋だ。だが、今は連絡会の最中だから邪魔になる様な―――」

 コレミツが言い掛けた所で、澪の姿はそこから消えていた。



    ▼ △ ▼ △ ▼ △



「それでね、九具津からは“いっそモガちゃんスクールバージョンで”と言う希望案が出てるんだが」

「し、信じらんねーー」

 室内には兵部少佐と黒巻、そしてモニターに並んで表示されたチャットメンバー達の姿があった。
 彼らの間に割り込む形で出現する澪。黒巻が欠伸混じりの声で言う。

「また来たの。毎日よくやるわねアンタ」

「やあ、これは良い所に。今ね、ちょうど君達の制服をどうするか話してたんだよ」

 兵部は澪からモニターに視線を戻し、手元のマウスを動かす。画面中央に制服の図案らしきCG画像が表示されると再び澪を見た。

「これが僕の考えた制服案なんだけど、どうかな?」

「センスが古臭い。何かダサい」

「―――さてと」

 無表情で即答した澪。兵部は何も聞かなかったかの如く、黒巻とチャットメンバーの方へ向き直る。

「自分は反対ですな」

 澪に先を越されて今到着したコレミツ。入室するなり彼はそうコメントする。

「ほう、どうしてだい?」

 兵部からの問いに、コレミツはテレパシーにて滔々と述べた。

「正規兵ではない教育途上の児童を制服にて画一化するなど、革命を志す我々にふさわしくありません。こうした日本型集団主義教育の発想による、生徒一人一人の個性を重視しない――」

「はい黒巻」

 またも話を最後まで聞いてもらえなかったコレミツ。黒巻は膨らませていたガムを引っ込めてから言った。

「やっぱさ、何か堅苦しいしウザいんじゃない? バベルじゃあるまいし」

「君らは?」

 兵部が続けてチャット画面のメンバー達へと振る。

『そういう資金の無駄使いは、いい加減控えて頂きたいのですが』

『制服を着せる事でますます外部に存在が目立ち、警察・バベル対策に一層の負担が掛ります。子供達の自由外出に際して既に多大な労力が、監視や情報操作に費やされてるのですよ。今ご検討中の南洋合宿の件でも――』

「あれは仕方ないだろ。だってアイツが力を貸す代わりに子供達を一度連れて来いって言ってるんだから・・・余計な事、吹き込んでくれなきゃいいんだが」

 兵部はため息と共に、自分の座っていた椅子の背もたれを傾けた。その勢いで少し、椅子ごとモニターから遠去かる。

『“彼”にも絶対の信頼は置けませんよ。人間同士の争いに与しないと言う“彼”はバベル側ではありませんが、我々の同志でもないのですから』

「そんな事はこの僕が一番分かってる――で、制服については僕と九具津で賛成2の反対6って訳だね」

『納得出来る必要性が全くないんじゃなあ・・・いくらあんたでも、理由が“気分”じゃ』

「ふん、これで決まりだな」

 二三度ゆっくりと頷いてから、兵部が顔を上げて決定を下す。

「制服は僕の案にて採用するって事で」

 一同が――モニター上のアイコンまでもが――一斉にずっこけた。
 いち早く立ち直った黒巻がツッコみを入れる。

「何でそーなるんだよ!?」

「何でって、僕が制服って気分だからに決まってるじゃないか。票数なんて関係ないよ、ここでは僕の声が神の声なんだから―――女王が目覚めるまではね」

「・・・あー、はいはい。意見集めた意味は?」

 無表情で成り行きを傍観していた澪は、兵部の最後の一言にぴくりとこめかみをひくつかせた。

「まあいいけどね、あたしがそれ着る訳じゃないし・・・実際それ着せられるアンタとしてはどーよ? 結構気に入ってたりすんの?」

 再び眠そうに欠伸すると、澪に顔だけ向けてのんびり尋ねる黒巻。澪は目尻を吊り上げて彼女の言葉を否定する。

「気に入る訳ないでしょっ、こんな見てるだけで息苦しくなりそうな格好」

「澪、君には窮屈さを我慢する修行が必要だよ?」

「わ、分かってるわよっ。でも、私の為に考えたんじゃないでしょ!?」

 窘める兵部に澪は力んで言い返し、そっぽを向く。そんな彼女へコレミツが僅かに何か言いたげな視線を向けていた。

「まあ、確かにそうなんだけどね」

 そっぽを向いたままの澪が、やがてボソボソと呟き出す。

「でも・・・・・・少佐は私がそれ着たら、喜んで・・・」

「ん? 僕が何だって?」

「――――何でもない」

 身体ごと兵部達から向きを変えると、自然と視界に入ったコレミツからのテレパシーが送られて来る。

「澪、君の気持ちは君の顔に出して君の言葉で表さないと、きちんと伝わらないんだ・・・」

「うるさいわね」

 上目使いでコレミツを睨むと声に出して一蹴する澪。
 黒巻がガムを膨らましながら肩をすくめる。



    ▼ △ ▼ △ ▼ △



 澪が寮部屋に戻ると、先程のルームメイトが彼女を見てにんまりと笑った。

「澪おかえり〜〜、今日は会えた様だね」

 突然図星を突かれ、怪訝な顔を浮かべる澪。口に出ない澪の疑問にルームメイトは答える。

「顔に出てるよん」

 澪は靴棚の上にあった鏡を凝視するが、そこに写っているのは何の変わり映えもない自分の顔。
 不機嫌そうな、感情に乏しい顔。

「おかえり」

「おかえりなさーい。ドラヤのドラカステラ、お持ち帰りで澪ちゃんの分もあるんだよー」

 リビングには更に二人のルームメイトがいて、ゲームしながらも澪に声を掛けて来た。
 まだニヤけていた後ろの少女に訊かれる。

「んで、どうだった? 一週間ぶりの少佐は」

「別にどうもしない。打ち合わせの後、何か作戦があるとかで全員出てったし」

 澪が淡々とそう答えた時、ゲーム中だった一人の肩がビクッと激しく震えた。澪にお土産のドラカステラがあると教えてくれた少女だ。
 続いてスピーカーから流れる爆発音。彼女はコントローラーを取り落としていた。

「あ゛ーーっ、終わっちまった。セーブ、セーブ。何、急にボーッとしてさ」

 一緒にゲームしてたもう一人の声にも反応せず、その少女は澪の方を向いて、おずおずと尋ねる。

「ね、また何か壊したり奪ったり、誰か傷付けたりするの・・・かな?」

「んーー。だから、そういう事だってきっと必要なんだよ。私達エスパーの未来の為に、世界を変える為に」

 澪より先に、澪の後ろの少女がルームメイトの問いに答える。
 つい先日、ニュースでも大きく取り上げられていた発電所襲撃・ネオクリア燃料強奪事件。それがパンドラの活動によるものだとは、子供達の間でも知られていた。

「でも、本当にそこまでしなくちゃいけないのかな。そんなに、ノーマルの人達にたくさん悪い事しないと、私達幸せになれないのかな」

 澪にしてもこの「学校」に入って初めて知った事だったが、子供達の全てがパンドラの今の在り様を完全に肯定している訳ではなかった。この少女の様に、パンドラが本質的な面でテロ犯罪組織である事に強い抵抗を感じる子供もいる。
 その中でも特に、彼女は著しく破壊活動や人間への暴力に拒絶反応を見せていた。
 彼女については何故か「この子の前で“殺人”に関する話題は極力避ける事」と言う不文律まであり、澪も入寮前、兵部直々にその注意を受けていた。

「何ヌルい事言ってんのさ」

 彼女とゲームしていた少女が、やや咎める様な声で口を挟んだ。

「あんただって十分知ってるでしょ。奴らにどんな事が出来るのか、反省する事も警告を受け止める事も出来ないままのうのうと生きてられるのか。ノーマルの社会があってノーマルの為のルールがある限り、奴らはつけ上がりっ放しなんだよ」

 少し興奮気味だったが、怒っていると言うよりはうんざりしている様な口調。
 人懐っこくて少し甘ったれなその少女がパンドラのテロ活動を批判するのは、これが初めての事ではなかった。

「私達がこうしてマトモな生活出来て勉強したり遊んだり出来るのだって、パンドラがノーマルどもから騙し取り奪い取って来てやった成果じゃない。ノーマルどもの世界は一度全てブッ壊してやらないとダメなんだよ。その為に少佐やみんなが戦ってるんじゃないか。あんただって、そんな能力持ってるくせに」

「もう、その辺にしなよ」

 澪の後ろから出て来たルームメイトが二人へ呼び掛ける。能力の事を言われた少女は、微かに血の気を失くし始めていた。
 指摘された通り、彼女の合成能力は「石や弾丸などの軽質量物体を複数、自在に音速でさえ操れる」と言う、その気性に似合わない物騒な代物だった。
 ESP訓練にて彼女が、走行中の戦車を1分足らずで蜂の巣状の鉄屑に変えてしまった場面は、澪を含む多くの者が目にしている。
 搭乗していた九具津の人形は、いずれも原形を留めていなかった。

「“憎しみで人を殺せる”のがエスパーじゃないか。エスパーの邪魔になるノーマルなんか残らず殺せばいいんだ。あんたの能力だってその為に――」

 言葉途中で気付き、おもむろに口を両手で塞ぐ。
 長い沈黙の後、手を口から離すと小声で謝った。

「・・・・・・ごめん」

 何故彼女の前で殺人の話を避けるべきなのか、その具体的な理由は誰も知らない。知っていただろう、彼女をここへ連れて来た兵部からも、何の説明もなかった。
 また、彼女に訊こうとする者もいなかった。時折夜中に義父らしき男の名前と母親を呼び、「ごめんなさい、ごめんなさい、良い子になるから、私、もうしないから、だからもう許して下さい・・・もう、来ないで」と夢の中で泣く彼女に。
 何があったのか、何を見て来たのか・・・何をしてしまったのかを。
 あえて訊かなくとも、ここにいる子供達が背負っているのは皆、似た様なものだったからでもあろう。
 エスパーであったが故に、それでいて弱い存在だったが故に、周囲から――そして家族からさえも未来と表情を奪われてしまった子供である事。
 自分の居場所たり得るのは、エスパーがそんな思いをせず生きて行ける世界を作れるのは、このパンドラだと信じている事。その二つだけは、ここの子供達全てに共通していた。
 そして、澪もまたそんな子供達の一人。

「馬鹿馬鹿しい。パンドラが正義か悪かなんてどっちでもいい・・・興味もない」

 澪はそう言い放つとルームメイト達の前を横切り、バスルームへ向かう。

「私の生きる場所はパンドラよ。最後に勝つのもパンドラ。そして、パンドラのリーダーは・・・私を見つけてくれたのは、私がついてくのは、兵部京介少佐だけ。女王なんかじゃない」



    ▼ △ ▼ △ ▼ △



「ねね、澪って女王・・・“ザ・チルドレン”に会ったんだよね?」

 シャワーを終えてリビングに戻り、髪の手入れを始めた澪は、再び先程と同じ少女に話し掛けられる。
 ルームメイト達はさっきの諍いなど忘れてしまったかの如く、思い思いに寛いでいた。
 ここでは澪の様に――あるいはそれ以上に――喋らず壁を作って過ごしている子供も少なくなかったが、反面、妙に明るく話好きな子供も同じ位多くいた。
 同室だからと言うのもあったろうが、その中でもやはりこのルームメイトの少女は一際多く澪に話し掛けて来ていた。

「あ、私も聞いた事あるー。澪ちゃんがここ来るちょっと前だよね?」

「会ってどうしたの? 戦ったの? どんな奴らだった? やっぱ強い? テレビで見るのと比べてどう?」

 他の二人も聞き付けると、話に乗って来る。

「大した事ないわよ、あんな奴ら。三人まとめて相手してやったわ」

 澪はこともなげにそう答えた。
 すっげー、三人まとめてってやっぱ分身で? で、どっちが勝った? 答える代わりに、その質問した好戦的な少女を睨みつける澪。
 ごめん、そうだよな、澪だよね。またしても口を滑らせたと思ったのか、彼女は頷きつつ謝る。澪は本当の事は言わなかった。

「本当にいけ好かない奴らよ。バカ力だけが取り柄の戦い方も知らない雑魚のくせに、エラソーだし、分かった様な口は叩くし・・・」

 チルドレンの悪口を並べて行く内に色々と思い出して来たのか、澪の言葉は知らず知らず熱が篭り始める。

「何が“女王”よ・・・認めない・・・何でお前が少佐を“京介”なんて下の名前で呼んでんだっ!?」

「私呼んでない! 呼んでないってば!」

 思わず目の前のルームメイトに詰め寄ってしまう。噛み付きそうな澪に迫られた少女は、泣きそうな顔で激しく頭を振った。

「澪ちゃんがここまで熱いキャラになるなんて。チルドレンってやっぱりスゴい子達なんだね・・・」

「ふーむ、さすが私達の最大のライバルにして目標って事かあ」

「何、アンタ達そーゆー評価?」

 我に返った澪が傍らで交わされている会話を聞き、据わった目つきで睨んで来る。

「だって超度7の“ザ・チルドレン”だもん。活躍も派手だし、やっぱカッコいいよ」

「そうそう。バベルなんかにいるの勿体ない。私らと一緒に戦ってくれたらいいのに」

「・・・絶対要らない、あんな奴ら」

 彼女達のチルドレンへの賛辞へ、最高に不機嫌そうな表情を浮かべて吐き捨てる澪。

「同じエスパーの子と敵同士のままなんて、やっぱヤだよねー」

「・・・バベルのエスパーなんか、所詮ノーマルの飼い犬。同じ敵じゃないか」

「もーっ、澪ってば私達がチルドレン持ち上げてるからってスネないでよ。分かってるって。そのチルドレンに一人で渡り合った澪もカッコいいから」

「す、すねてないっ。そーゆー事言ってんじゃないでしょっ!」

 ブツブツ文句を挟んでいたら茶化されて、澪はむきになった声を上げる。ルームメイト達は、入寮して一月以上どこか打ち解けない彼女の、滅多に見せない反応を明らかに楽しんでいた。

「そう、違ったねえ。私達が持ち上げてるからじゃなくて、少佐がお気に入りみたいにしてるから許せないんだもんね」

 とどめの一言に、澪がゆでだこの様な顔で絶句する。

「そう言えばさ、今度の学校の制服って、やっぱチルドレンみたいな感じかな?」

 思い出した様にルームメイトの一人――先程から澪に睨まれたり迫られたりしていた――が全員を見回しながら言う。

「外では着ないって話だったけど。噂通りバベルの制服に似てるのかなー」

「いや、もっとカッコいいのなんだよ・・・多分。だって少佐が自らデザインしてるんだもん。ねえ澪?」

 実際に兵部案の制服を見て来たにも関わらず・・・見て来たからか、敢えてその問いには答えない澪だった。

「早く着てみたいなー、届くの本当に楽しみだよー」

「あんた制服賛成派だっけ。私どうもああいうの苦手」

「そうだっ、届いたらさ、サイズ見るついでにみんなで写真撮ったりしない?」

「えー、それいーねー。他の部屋の子とかも呼んじゃおーよ」

「そーゆーイベントは好きかな。男子は知らないけど、女子だけなら結構集まるんじゃない?」

 ふと出されたその提案にはしゃぐ少女達。一通り喋った彼女達の視線が、黙っている澪に集まった。
 彼女達を仏頂面で見返して澪はぼそっと答える。

「・・・私はしないからね」

「ええ〜、澪ってばノリ悪いなあ。愛がないよ、愛が」

「まーまー、澪ちゃんは少佐ヘの愛で溢れてるから」

「なっ・・・!?」

 澪は、髪の手入れに戻ろうと取ったばかりのブラシを落としてしまう。

「なるほどねっ、少し残念だがそれは仕方ない。やはり制服姿は真っ先に少佐に見せたい、と」

「適当な事言うなっ、誰がそんな」

「でも、少佐はきっと喜んでくれるんじゃない?」

 言葉に詰まると真っ赤なしかめっ面で、再びルームメイト達を睨み付ける。
 一見冷淡な態度の彼女をこんな風にからかって弄るのも、彼女が入寮して一月余りの今、教室や特にこの部屋では「よくある事」になりつつあった。



    ▼ △ ▼ △ ▼ △



 夜中、浅い眠りの中で気配を感じ、澪は目を覚ます。
 寝室の照明も点けずに、隣のベッドの傍らで誰かが膝立ちしていた。その人影は眠っている少女の頭をゆっくりと撫でている。

「何してんの」

 澪の掛ける声に人影は振り返った。
 例の澪にやたらと構うルームメイト。彼女の手元ですやすや寝息を立てているのは、壊す事や傷付ける事を恐れる少女。

「ん・・・また、泣いてたから。ごめん、起こしちゃった?」

「いや、たまたま起きただけ」

「実習で能力を使った日なんかは、よくあるんだよね。あと、今日の様な日は」

 こう時々わしわしってしてやると落ち着くみたいだよ。言いながら頭の上辺りを少し乱暴に撫で回す。
 身体を起こした澪は、彼女の手元に視線を向けながら訊いた。

「でも、ただ撫でてるだけじゃないわよね・・・催眠? 意識操作?」

「ううん、そこまで出来る干渉力はないよ」

 彼女が再び澪に顔を向け、かぶりを振って答える。

「この子に掛けてあるプロテクトを点検して、私に治せる異常があったら治す。治せない様なのだったら黒巻姉さんとか、誰か専門の大人に報告する。それだけ」

「プロテクト?」

「うん。簡単に言えば、この子の記憶があまりこの子の精神に負荷を与えない様にするの・・・全くでも困るから、弱く設定してあるんだよ」

「ふうん・・・」

 澪は曖昧に頷いた。
 しばらく無言でルームメイトの頭を撫で続けていた少女だったが、やがて、手は動かしたまま澪に尋ねる。

「澪の分身能力って、それぞれが別々に動いたり考えたり出来るんだよね?」

「うん」

「じゃあ、分身同士でお話ししたり、一緒に遊んだりも出来るんだ」

「まあ、ね」

 そう答えつつも、口許を歪め苦々しい顔を浮かべる澪。自分の手元を見ている少女は、澪の表情の変化には気付かず、続けて質問する。

「もし、友達とかいなくても、一人ぼっちでも、分身がいると淋しくなくなるかな?」

「そんなもんじゃない」

 澪は意図しない程の強い口調で即座に否定した。少女の手元の動きが止まる。

「結局自分でしかないんだ。それに・・・自分を好きじゃない奴の分身が何体いたって、楽しい事になんかなりっこない」

「やっぱ、そうかあ。それじゃ、あの頃の私じゃダメだったなあ・・・澪は、自分が好きじゃないの?」

「・・・好きじゃ、なかった」

「そっか」

 澪の答えにあっさり返すと、彼女は再び手をゆっくり動かし始めた。しばらくそれを見ていた澪は、今度は自分の方から彼女に尋ねる。

「何でアンタ、いつも私なんかに構って来んの? ウザがられてんの、分かってんでしょ?」

「うん。でも友達になろうとするなら、まずはこうだよね」

「だから何で、わざわざそんなモンになろうとするのよ。私が友達にしたい様ないい奴にでも見えるって言うの?」

「ここには、良い子も悪い子もいないよ。私は澪の、そして、出来るだけ多くの“同じ”子達の、友達になりたい」

「・・・何で?」

 仄暗い寝室の中、背中を向けて答える彼女の口調は珍しい程静かで、澪からはその表情を窺い知る事も出来なかった。

「自分を好きになりたいから」



    ▼ △ ▼ △ ▼ △



 降り続いた雨がようやく止んだ日、「学校」では今日届く筈の制服の話と、8月にあるかも知れないと言う南洋合宿の噂で盛り上がっていた。
 その島でね、浜辺にイルカが出るんだって。背中に乗ったり出来るらしいんだって。
 一日最後の授業が終わると同時に、澪の姿は席から掻き消えていた。

「ねえ澪―――って、早っ!」

 声を掛けようとしていたルームメイトの少女は、予想以上に迅速だった澪の動きに目を丸くする。
 まあ、今日は呼び止められたとしてもダメだったよね。残念そうに呟きつつ教室を出た彼女は、消えた筈の澪が通路のその場に佇んでいるのを見て、再び目を丸くする事となった。

「ど・・・どうしたの、澪」

「別にどうもしないわよ、何?」

 どこへ行くでも誰を待つでもない様子で、澪はいつも通り無愛想に訊き返して来る。
 その空気に呑まれて訳も分からぬまま、彼女は用意していた呼び掛けを口に出していた。

「あ、あのさ、今日もドラヤ行こうと思ってたんだけど・・・澪もどう、かな?」

「うん、行こう」

「・・・え?」

 澪からそんな返事が返って来たのは初めての事だった。狐に抓まれた表情でぽかんと彼女が立ち尽くしていると、澪からの呼ぶ声がする。

「どうしたのよ、行くんでしょ?」

「え、あ、うん」

 気を取り直した彼女は、既に歩き始めている澪の後を追って駆け出した。



    ▼ △ ▼ △ ▼ △



「よっし、一番乗りーっ!」

 元気な大声と共にドアを開け寮部屋に飛び込んで来たのは、澪達とは別行動だった二人のルームメイト。
 彼女達に続いて、ドアの辺りから何人かの子供達が顔を覗かせている。

「あー、あったよー。届いてるよーっ」

 床に積まれた平箱を見つけて上げた声に、廊下からはしゃぐ声と遠去かる足音が響く。他室の子供達は自分の部屋の制服を確かめに行ったのだ。

「うっわ、ちょっと何これ。デザイン古くない? 大昔の学校みたい・・・澪にゃ悪いけど、何か少佐の本当の年考えちゃうよな。こーゆー時」

「そーかなー、昔っぽいけど、そこがいいって感じもするよー。落ち着いてて上品そうだし・・・あれ?」

「地味ってか、年寄りくさいって言うんだよ、こーゆーのは・・・どした?」

「そう言えば、澪ちゃんの分が・・・」

 平箱を手に取ると早速中身を引っ張り出して色々言い合っていた二人は、そこに平箱が三つしかない事に気付く。
 辺りを見回して奥の寝室、澪のベッドに、空の平箱と彼女の着ていた服とが散乱しているのを発見した。

「あれー・・・?」



    ▼ △ ▼ △ ▼ △



 夏のこの時期でも、さすがにこんな時刻だと日は西の空へと沈みかけている。
 夕方の街を見下ろし、ビルボードとビルボードの狭間辺りで澪は座り込んでいた。
 下ろしたての制服姿で、やや疲れた顔で。

「誰か、お探しかな? さっきからあちこち飛び回ってたみたいだけど」

 頭上からの声に澪は伏せていた顔を上げる。
 いつの間にか傍らに立ち、彼女の顔を覗き込む様にしている兵部の姿がそこにあった。

「別に。ヒマ過ぎて体がなまりそうだったから」

 不機嫌そうに睨み返すと、スカートの尻の辺りを何度も叩きながら立ち上がった。
 兵部も澪から顔を離し、両手を腰に当てながら彼女へと言う。

「ヒマだったら自分を二つに分けたりはしないだろう? 体が二つ欲しい忙しさと言うじゃないか。いずれにせよ、そろそろ戻らないと、新しい制服が台無しとなりかねない」

 澪は返事もせず、ぷいと前を向く。暗くなり始めている街並みには、ぽつぽつ照明の灯るのが見えた。

「どうしてまた、届けたばかりの制服を着て出歩いてたんだい? 制服着用は来週からだし、それに普段から着るもんじゃない。まあ、僕のこの学生服は普段着なんだけどねっ」

「知ってるわよ。どこ行く時もそれなんでしょ」

「うん、その通り」

 胸を張って怪しいポーズを取っている兵部には目も向けず、澪は夕闇の空を眺めていた。
 やがて兵部は姿勢を戻すと、彼女と同じ空へと顔を向けながら問いかける。

「学校はどうだい。寮の、他の子供達との生活は」

「たまんないわよ。授業は退屈だし、やれ足を投げ出すなだの頬杖つくなだの黙って席を立つなだのウルサイし。ガキどもは別の意味でピーピーうるさくてベタベタと馴れ馴れしいし・・・あんなのまで本当にパンドラの一員なの?」

 日頃の不満は次々と口に出て来る。澪の問いに兵部はさらりと答えた。

「ああ。君と同じ、エスパーの未来を担う子供達さ」

「組織の活動内容に反対してる奴がいるわよ」

「おやおや、密告かい。穏やかじゃないねえ」

 顎に手を当て、顔をしかめて見せながら、兵部は首を澪の方へ傾げる。

「何で敵と戦えなさそうな奴まで置いとくのって話よ。“チルドレン”の奴らに憧れてるなんて言うのまで出て来るし」

「それは素晴らしい。彼女達はいずれ我々を統べる“女王”となるのだからね。今のうちから敬意を持つのは良い事じゃないか」

「冗談じゃないっ。何であんなにお気楽で緊張感がないのよ。制服が着てみたいだの着てみたくないだの、南の島がイルカがどうだの、昨夜見たテレビだの、どこどこに出来た新しい店だの新発売のゲームだの。そんなどうでもいい事で何で一日中喋ってられるのよ・・・何で私にまで話振って来んのよアイツら」

 早口で強く捲し立てていた澪。兵部は無言で、ポケットに両手を入れたままそれを聞いていた。
 澪の言葉は次第にゆっくりとした、弱い口調に変わって行く。

「何であんなに・・・自分の事を喋ったり私の事を聞こうとしたりなんかするのよ。私の事なんか知って何になるのよ。私に知ってもらって何になるって言うのよ。アイツらだって真っ暗な所にいた筈なのに、私と同じもの見て来た筈なのに・・・何で・・・あんなに」

「―――色々な事に興味持つだろう? 色々な顔して色々な感情見せて、色々な事考えてるだろう? 君とは全く違う形で・・・君についてもね」

 澪の言葉が途切れた時、兵部は静かに彼女へ語り掛けた。顔を伏せて自分の足元を見ている澪。

「ねえ・・・」

「ん?」

 しばらくの後、澪がぽつりと彼に尋ねた。

「どうして、制服なの?」

「気分さ。君らが制服姿でぞろぞろとあのビルの中、学校に通う所を思い浮かべたら、どうしても実際に見てみたくなってね」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 澪にジト目で睨まれるが、意に介した様子も見せず佇んでいる兵部。
 だが、長い沈黙の後、彼は肩をすくめて呟く様な声で言った。

「昔、僕が制服を支給されて、それに始めて袖を通した時の事を思い出したんだ」

「その学生服?」

「いいや、軍服さ」

 そう答えると少しだけ遠い目を浮かべ、夜景と呼べる程となっていた眼下のイルミネーションを見つめる。

「こんな僕にも仲間がいて、共に生きる場所があり、共に守って行く今があり、目指せる未来があるって・・・その時、そんな事を実感出来たんだ」

 結局はその全てに裏切られた訳だ、老人の下らない感傷と言ってしまえばそれまでだけどね。
 苦笑しながら兵部はそう付け足した。澪はそんな兵部の横顔を見上げる。

「私や学校の連中も、制服着ればそう思える様になるって事?」

「そこまでは知らないよ。僕の気分だって言ったろ? だけど・・・君らには・・・」

 言いかけて口を閉じる。続きを言わないまま、彼は澪ヘと振り向いた。
 いきなり重なった視線に、澪はうろたえた顔をする。

「な、なに?」

「うん。着てもらって、やっぱり良かったなって」

 頷きながら兵部は目を細める。澪は真っ赤になった顔を彼から逸らすと、怒った様な表情で夜景を睨んだ。

「我ながら実に可愛らしい出来栄えだ。だから君も早速着て歩きたくなる程、気に入ってくれたんだね?」

「気に入らないってずっと言ってるでしょっ。形はダサいし、堅苦しいし、そもそもこんな格好、私の趣味じゃないのよ」

 怒り顔で前を向いたまま言い放つ澪。その遠慮のない言い草に、兵部も苦笑を作り両手を肩の辺りまで上げて見せた。

「だけどね」

 しかし、間を置いて澪は言葉を続ける。顔を上げ少し胸を張ると、兵部に向き直った。

「私が着てあげる事で少しは見れたものになるわ。この服は、他のどの子でもなく、私が一番着こなしてやるのよ―――あの腐れ女王なんかでもなくねっ」

 彼の顔を真っすぐに見上げて言う。彼女の視線と言葉を受け、兵部は再び目を細めて見せた。

「うん。澪はとても良く似合ってるよ」

「こんなのが似合ってるなんて言われたって、ちっとも嬉しくないわよっ」

 澪は彼に背を向けると、ビルボード下をたたたっと走り抜ける。その先の屋上の角からジャンプし、空中で姿を消した。
 彼女が去るのを見送った兵部は、息をついてひとりごちる。

「やれやれ・・・相変わらず、難しいもんだね」



    ▼ △ ▼ △ ▼ △



 ルームメイトに付き合った分身とは、寮近くにあるラウンジのトイレで待ち合わせていた。
 制服姿の澪がラウンジに現れると、私服姿の澪は先にそこに来ていた――多くの制服姿の子供達と一緒に。
 その中にいたルームメイトの少女が出迎えてにんまり笑いながら言った。

「おかえり、澪B」

「何よBって!? 私の方がB!? てゆーか、何捕まってんのよアンタ」

 ルームメイトを、続いてその隣に立っていた私服姿の澪を睨むと、向こうも全く同じ表情で制服姿の澪を睨み返して来る。

「しょうがないでしょ、分身してたのバレたんだから。それもアンタが箱とか出しっ放しにしてったせいだからね」

「もーっ、自分同士でケンカしてちゃダメだよー?」

 互いに文句を言って睨み合う二人の澪は、周りの子供達の笑いを誘った。
 傍らにて腕を組みながら、うんうん頷いて見せているルームメイトの少女。

「どうもおかしいと思ったんだよねえ。澪がこんな日に少佐を差し置いてこっちに付き合うなんて。全く・・・そんな、スゴくいい事あった顔しちゃって、このちゃっかりさん」

 彼女の言葉に制服姿の澪は、夜景が見渡せるラウンジのガラス壁へと足を進めた。すぐ前に立ち、写った自分の顔を凝視する。
 だが、やはりそこにあるのは普段と同じ不機嫌そうな顔。角度を変えつつ見直しても、何の変わり映えもない。

「ああ、自分で鏡とか見てもきっと分かんないよ。でも、こういうのだったら、少し分かるんじゃないかなぁ?」

 ガラスには、そう言って笑いながら片手にデジカメを掲げる少女の姿も写っていた。

「な、何だよ、そのカメラ」

 嫌な予感を覚えつつも訊いてしまう澪。

「決まってんでしょ。これに澪Bの晴れ姿、キレーにいっぱい収めるのよん」

「まだ撮ってないの、澪Bちゃんだけなんだよー」

「ま、罰ゲームって事だわ。あんなに興味ないフリしてて、こっそり少佐にお披露目行ってそんな満足そうに帰って来られたんじゃなあ」

 カメラを手にした少女はじりじりと澪に迫っている。ガラス壁を背にした澪は、逃げ道を目で探しながら言い返した。

「満足そうになんかしてないっ」

「まあまあ、澪Aも私といて、結構イイ顔してくれたから、それに免じて手加減したげるって」

「――してないわよっ!」

 今度は私服姿の澪が大声で否定する。その表情もやはり普段と違っている様には見えなかった――澪自身からは。
 手加減すると言いながらも、澪を追い詰めた少女は一片の容赦もなく、彼女の周りで続け様にシャッターを押し始めていた。

「ちょっと、やめ、これのどこが手加減」

「ニヒヒ、まだまだこんなもんじゃないよっ。うーん、いいねえその恥じらった顔。そうそう、もっとポーズ取ってー」

 澪は手足をばたばた振りながらカメラから逃げ回っている。もっとも、その動きは撮影者にシャッターチャンスを与えているだけだった
が。

「い、いい加減にしろ。私、もう分身まとめんだってば」

「あー、まだダメだよ。だって戻る時は私服の方なんでしょ? もうちょっと・・・その前に集合写真撮っとかなきゃ」

「なっ・・・!?」

 はい、みんな集まってー。カメラを構えた少女の呼び掛けで、その場に来ていた制服姿の子供達が澪の周りへ駆け寄った。
 勢いで連れて来られた私服姿の澪は何で私までと疑問の声を上げているが、答える者はいない。
 二人の澪は自然と彼女達の中央に置かれてしまっている。

「分身ごとでかよ!? 何で私が真ん中・・・」

「はいっ、タールタールソースっ」

「何だその合図は!?」

 びっしり集まった子供達に押されて二人の澪は顔を合わせてしまう。
 気まずげに互いを見てから、ついと同時に前へ視線を向けた。

 短く響いたシャッターのメロディ。
 切り取られたその瞬間の中で、彼女の表情は―――――



       ――― F I N ―――


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