ザ・グレート・展開予測ショー

GSとして(中編)


投稿者名:桜華
投稿日時:(00/ 7/12)

 横島蛍の第五回戦は、かなりの好勝負であった。
 相手の攻撃を右手で受け流し、そのまま肘打ちをする。崩れた体勢ながらもなんとかその攻撃をかわした相手は、そのまま蛍に掴みかかり、床にたたきつけた。
「ぐっ」
 背中からたたきつけられ、一瞬呼吸の止まる蛍。
 チャンスとばかりに追い打ちをかけようと迫ってくる相手。
 それを、蛍は逆立ちの要領で蹴り上げた。
 勝負は、拮抗していた。
「試合時間も五分が経過しました。
 横島蛍選手の破竹の快進撃も、ここ、第五回戦にしてストップです」
 実況の男が言う。
 蛍は、一回戦から四回戦までを、全て五分以内で終わらせてきた。その記録も、この五回戦でついえさったというわけだ。
「思った以上の好勝負になってますねえ。
 どう思います、解説の厄珍さん?」
 実況の男が、解説の、厄珍堂店主にマイクを向ける。
「確かに、いい勝負してるアル。でも、どちらが強いかは、はっきししてるアルよ」
「? と、いいますと?」
「あれ、見るよろし」
 蛍が相手選手を吹き飛ばした。相手はよろけながら、ニ、三歩下がり、体制を立て直し、再び蛍に向かっていく。
「今の、追撃をかければ、勝負は決まっていたアルよ。そして、蛍ちゃんには、それができるだけの能力は十分に備えているアル」
「手加減していると?」
「いや。多分、集中していないだけアル。
 霊力というものは、肉体でなく、精神に属するもの。集中して一点にまとめた時の威力はすさまじいアルが、気を散らして散在した霊波なんて、気のぬけた炭酸と同じアル」
「例えはちょっとちがうと思うのですが……
 つまり、蛍選手は、霊波を練り上げていないと?」
「心ここにあらずといった状態アルよ。
 親の手伝いよくしてたようだから、戦い方はある程度体が覚えているとしても、霊波に重みがないアル。あれじゃ、相手は倒れないアルよ」
「蛍選手は勝てない、というわけですか」
「勝てないわけじゃないアル。もとの実力に大きな差があるからね。今の状態でも、ある程度は勝ち進めると思うヨ。
 でも、優勝は無理ね。GSの世界は、そんなに甘くはないアルよ」
 本気を出せば、優勝間違いないのにね、と、厄珍はため息とともに続けた。
 勝負は、依然、一進一退の攻防を繰り広げていた。





 横島忠夫は、順調に仕事を進めていた。すでに庭を過ぎ、屋内に入っている。
 館の中は、思ったとおリ、庭以上の悪霊に埋め尽くされていた。
 横島はそれら全てを倒すつもりは、毛頭なかった。どんなに急いでも、これだけの悪霊達を半日で退治するのは不可能からだ。
 だが、それらを招き寄せた源となるものが存在するはずである。そうでなければ、こんなに短期間に、ここまで荒廃するわけがない。そして、という事は、その源泉を浄化しさえすれば、残りはかってに四散してくれる。
 その悪霊は、また別の所で他人に害をなすだろう。根本的な解決になってはいないが、仕方がない。装備も充分でなければ、時間も足りないのだ。
 ちらりと、横島は腕時計に目をやった。
 すでに昼を過ぎている。試験は、四回戦が終わった頃か。
 早く終わらせなければ。そう思う。
 しかし、焦りは禁物だ。高ぶった感情は、容易に霊波を乱す。
『早く終わらせるなら、落ち着いて、確実にしとめていくのが一番だ』
 左手に握った二本の神通根。そこから形作られる鞭状の霊波が、悪霊をなぎ払う。
 右手の栄光を掴む手『ハンズ・オブ・グローリー』が、別の悪霊を切り裂く。
『とにかく、地下だ。俺の霊波に訴えるこの感覚をたどっていけば、いずれは大元にぶち当たるはずだ』
 放たれた破魔札が、悪霊達を無に返す。
「オラオラオラァ!」
 吼えながら。
 横島は悪霊の群れの中を進んでいった。






 蛍は、泣いていた。涙こそ流していないが、心の中で泣いていた。
 もうすぐ、準々決勝が始まろうとしている。
 だが、彼女の父は、まだ来ない。
 負けた弟子を叱りつけている雪之上に出会い、聞いてみたが、やはり父を見ていないとのこと。
 来ないかもしれない。
 漠然と感じていた不安が、明確な恐怖を伴ってやって来る。
 それを彼女は否定する。
 父が来ないはずはないと、信じている。
 だが、父は最初、彼女がGSになることを反対していた。バンダナを手渡したのも、単なる気まぐれかもしれない。
『来る。絶対来る。パパは来る。来てくれる』
 必死に自分に言い聞かせる。だが、不安は消えない。恐怖は去らない。
 不安と恐怖を抱えたまま、蛍は、試合場へおもむいた。





 横島忠夫は、ようやく、地下室への入り口を探し当てていた。
 この館に悪霊を呼び寄せるきっかけとなったもの。媒体、核、源。それが存在する場所。
 それを浄化しさえすれば、この館は解放される。すなわち、蛍の元へいける。
 勇み、横島は地下室への扉のノブに手をかける。
 もっと用心するべきだったのかもしれない。もっと慎重にいくべきだったろう。
 だが、蛍の元へいける目途がたった彼は、無防備に、勢いよく、その扉を開け放った。


 そして。
 彼は、地獄を見ることになる。


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 二つだけじゃあきたらず、三つに分けてしまいました。すいません、すいません。
 次こそ終わらせます。(桜華)

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