ザ・グレート・展開予測ショー

【夏企画SS】楽園の中心で愛をさけぶ―前編―(絶チル)


投稿者名:UG
投稿日時:(06/ 8/ 7)


 沖縄県某島
 どこまでも広がる青い海と空。
 熱帯特有の強い日差しに焼かれた砂浜を赤いビーチサンダルが踏みしめ、木陰で微睡む男の方へ向かっていく。
 末摘花枝は木陰で寝そべる皆本の側にそっと腰を下ろすと、南風が運ぶ心地よさに目を細めた。
 肌を焼く日差しは一歩木陰に足を踏み入れればたちまちその力を弱めている。

 「皆本さん、まだ怒ってます?」

 「いや、呆れてはいるけどソレは君だけのせいじゃないから」

 顔の上に伏せたタオルを僅かにずらし皆本は花枝の問いに答える。
 己の未来像に嫉妬し辛辣な評価を与えた少女たちから、皆本はようやく解放されていた。

 「しかし、ヒュプノにこんな利用法があるとはね。そこだけは感心したよ」 

 終末医療におけるヒュプノの利用。
 人生の最後に再会する遠い日の思い出。
 たとえそれが気休めと分かってはいても、死を迎えようとする人々には必要なのだろう。
 過去に看取った患者を思い出したのか、花枝は遠い目で海を見つめる。

 「ええ、でも、人の為ってばかりじゃないんです。自分の能力が必要とされている。これって結構重要なことなんですよ・・・何でエスパーに生まれたんだろうって時々思っちゃうのは本当の事ですし」

 「末摘クン・・・」

 花枝が看取ってきた多くの死に思いをはせる皆本。
 一体彼女がどれだけの涙を流してきたのか皆本には想像も出来なかった。
 しかし、儚げに見える彼女の姿に沸き上がった憐憫の情は、いつもの展開でうやむやの内に消えてしまうことになる。

 「皆本〜っ! 今度はよりにもよって、そんな何の取り柄もなさそうな女にドギマギしてんじゃねーっ!!」

 皆本の体は軽々と宙を飛び、水切りの要領で沖合で遊ぶ彼女たちの方へと運ばれていった。
 ずり落ちそうになる海パンを必死に押さえる皆本を哀れみの視線で見送ってから、花枝はその場から立ち上がり水着に付いた砂をはたき落とす。
 振り返ったその顔はどこか自嘲的だった。

 「何の取り柄もない・・・か、久しぶりに言われちゃったな・・・」

 施設の屋上ではためく白いシーツを眩しげに見上げてから、彼女は自分の職場に向けて歩き出す。

 「やっぱり私には仮面が必要か・・・」

 天国に一番近い島。人生を終える為に作り出された楽園。
 そこでは確かに彼女の能力が必要とされていた。

 



 


  ――――― 楽園の中心で愛を叫ぶ ――――










 末摘花枝が森山孝夫と出会ったのは、それから1ヶ月後の暑い夏の日だった。
 森山孝夫18歳。余命僅かな彼と、末期患者に安息をもたらす彼女は会うべくして出会っていた。



 「驚いたんじゃないんですか? 僕のような男を担当するなんて」

 これが花枝に対する孝夫の第一声だった。
 
 「そうですね。普段、此所に来るのはお年寄りばかりですから」

 車椅子に座ったまま移送されてきた孝夫は、今にも消えてしまいそうなほど儚げに見えた。
 その口元に浮かぶ穏やかな微笑みは死を迎える患者特有の笑顔だ。
 死を告知された若者の多くは戸惑いと恐怖に泣き続け、涙も枯れた頃にこの笑顔にたどり着く。
 花枝は孝夫に右手を差し出すと、不安を感じさせないよう精一杯の笑顔を浮かべる。

 「初めまして。末摘花枝です」

 自分にむけて差し出された右手に孝夫は戸惑いの表情を浮かべた。

 「・・・僕のコト、知っているよね?」

 「はい。ケアに必要な情報は一通り」

 花枝はそういうと自分から孝夫の手をしっかりと握りしめる。
 レベル4のサイコメトラーである彼の能力は、病気の影響でリミッターの制御を受け付けなくなっていた。
 一瞬、拒絶の反応を見せた孝夫だったが、握られた手の感触しか伝わってこないことに驚きの表情を浮かべる。

 「透視プロテクター・・・体表面の電位を乱すとこうなるんです。安心しましたか?」

 「・・・・・・・・・」

 問いかけに答える余裕は孝夫には無い。
 初めて握る花枝の手は、驚くほど華奢で柔らかかった。
 
 








 催眠介護科
 通称楽屋と呼ばれるスタッフルームは施設地下にひっそりと設置されていた。
 患者とのコミュニケーションを重視したナースステーションとは異なり、追憶の舞台裏であるこの部署は患者の目から隠されなくてはならない。
 関係者以外は訪れることはない楽屋にノックの音が響いた。

 「どうぞ」

 役作り中の花枝は台本を閉じるとノックに応じる。
 着替え場所でもある為、入室には花枝の許可が必要だった。
 入室した人影に花枝は直立不動の姿勢をとる。
 人影は彼女の師とも言える人物。婦長の月影一尉だった。

 「楽にしていいわ。彼の様子を聞こうと思ってね・・・」

 彼とは孝夫のことだった。
 エスパーへの終末介護は、この施設においても前例がない。
 彼は自らの能力で自分の死期を悟ってしまっていた。
 そしてその能力は、現在も彼に残された時間を教え続けている。

 「相変わらず安定しています。当初心配された混乱は見られません・・・ただ」

 「ただ、どうしたの?」

 花枝は孝夫についてのレポートを開く。
 患者の求めるイメージを再現するため、介護課には詳細な個人情報が渡されていた。 

 「わからないんです・・・担当して1週間にもなるのに。彼が何を求めてこの島までやってきたのか・・・亡くした恋人や家族、今までの患者さんは失った思い出を求めていた。だけど、彼にはそれが見あたらないんです」

 「彼は自らここの生活を希望したと聞いているわ。そして、御両親も彼の希望を受け入れた・・・彼からのアプローチは?」

 月影の問いに花枝は力なく首を振る。
 担当について1週間。花枝の献身的な介護に孝夫の表情は明るくなっていたが、彼がそれらしい思い出を語ることは無かった。

 「わからない。彼は一体なにを求めて・・・彼は私と同い年なんですよ!」

 花枝の顔に、患者には決してみせることのない苦悩の表情が浮かんでいた。

 「まだやりたいことがあるはずです。まだ、死ぬには早すぎる。振り返る過去ではなく見据える未来があるはずなのに・・・彼はなぜ残された時間をこの島で? わからない・・・私は彼に何も・・・」

 「弱音を吐くのはおよしなさい! 私たちは患者さんが安らかに逝けるよう全力を尽くさなくてはならないんですよ!!」

 「月影婦長・・・」

 苦悩の表情を浮かべた花枝にナースコールが入る。
 担当する患者の容態が急変したとの知らせだった。

 「大沢さんの容態が急変です!」

 花枝はすぐにナース服を脱ぎ用意していた浴衣に着替える。
 読みかけの台本を手に取る彼女の顔に苦悩の表情はない。
 花枝は既に別な仮面をかぶっていた。
 彼女の豹変に一抹の恐ろしさを感じつつ、月影は花枝と共に楽屋を後にした。
 




 




 「昨日はなんかあったの?」

 海辺を散歩中、孝夫は多少の不機嫌さを漂わせながら花枝に質問した。
 花枝はすぐにはその質問に答えず、砂浜に長くのびた自分と車椅子の影を見つめている。
 夏の日差しを避けるため朝食後すぐの散歩だったが、すでに日差しはチリチリと肌を焼くような強さだった。

 「なんでそんなこと聞くの?」

 質問に質問を返され孝夫は返事に困る。
 花枝が顔を見せず寂しかったとは言えなかった。 

 「毎日来てくれてたのに来なかったから、何かあったのかなと思って・・・」

 「他の患者さんの方に行ってたのよ」

 これだけで孝夫は意味を理解していた。
 ヒュプノによるケアが専門の彼女は担当患者の最後に必ず立ち会う。
 
 「昨日、浴衣着ていた人が末摘さんだったんだ・・・」

 「見てたの?」

 花枝は舞台裏を見られたような気まずさを味わっていた。

 「なかなか来なかったんで様子を見ようと廊下に出てね。病室の前がバタついてたから・・・でも末摘さんだとは思わなかった。アレがヒュプノ?」

 「そうよ。あの姿は昨日亡くなった人の初恋の相手。花火大会で出会ったんだって・・・知ってる? 恋の思い出って圧倒的に夏が多いの。若い二人は夏に出会い惹かれていく・・・まるで魔法にかかったようにね」

 花枝は車椅子から手を離し孝夫の前に回り込む。
 孝夫がヒュプノに関心を示した今が、彼が求めるものを聞くチャンスだと花枝は思っていた。 

 「森山君にはそういう人いない?」

 悲しそうな笑みが花枝への回答だった。
 直球すぎた質問を花枝は密かに後悔する。
 しばしの沈黙の後、花枝の失策を慰めるように孝夫が笑い声を上げた。

 「今の質問は色んな意味で失敗だよ。ホントはいるけど教えない。その子との思い出は僕だけの宝物だから・・・」

 わざと浮かべた意地悪そうな笑顔に花枝もつられる様に笑った。

 「でも、その人が安らかに逝ったって事は理解できるよ。ねえ、お願いがあるんだけど・・・」

 「なに?」

 花枝は微かな期待を持って孝夫を見つめる。

 「末摘さんの仕事場を見せてくれない? ずっと気になっていたんだ」

 「・・・ダメよ、舞台裏は見せられません」

 花枝は孝夫の希望を冗談っぽく否定する。
 それに対しての孝夫の反応は、車椅子の背を向けてのしょげたような仕草だった。 

 「さっきはデリカシーの無い質問に傷ついちゃったなー。このまま心を閉ざしちゃうのかなー僕」

 「ウッ!」

 流石に先ほどの質問は失敗と思っているのか、花枝は言葉に詰まる。
 孝夫は振り返り、勝利を確信した笑みを浮かべた。







 


 「へえーっ、ホントに舞台裏って感じがするね」
 
 楽屋内部
 所狭しと置かれた衣装や小道具に、孝夫は興味津々といった様子だった。

 「だから、この部屋は楽屋って呼ばれているの」

 楽屋の外で待たせた3分間で患者の資料などは隠してあった。
 開き直ることにした花枝は、彼の自由に楽屋内を見学させている。
 孝夫がヒュプノに興味を持っただけで相当な進展と思うことにしていた。
 
 「これ全部役によって使い分けるの?」

 「そうよ。イメージする人が同じモノを着ているってわけじゃないけど、役になりきるために必要な小道具ってとこ・・・」

 「やって見せてくれない?」

 目を輝かした孝夫にクスリと笑うと、花枝は手近にあった緩いウエーブのかかったウィッグに手を伸ばし意識を集中する。

 「こうやってなりたい人の容姿や人格を明確にイメージするの・・・そして精巧なその人の仮面を作り上げたら」

 カッ!!

 ヒュプノが発動し、花枝の姿は彼女よりやや年上の女性に変化した。 

 「どう?」

 「・・・凄いけど、なんか底意地の悪そうな女の人だね」

 孝夫の感想に吹き出すと、花枝から紫穂の仮面がはがれ落ちる。

 「本人が聞いたら怒るわよ。今のは10歳から好きだった男の人を思い続ける20歳の女の人・・・で、コレが」

 花枝は次にメガネに手を伸ばす。

 「凄い! 体型まで変わって・・・」

 「この人も10歳の頃から好きだった人を思い続けているの・・・そして」

 ビキニに手を伸ばしかけ花枝はふと我に返る。
 流石にここでの使用がはばかられる衣装だった。

 「まあ、最後の一人は割愛」

 花枝が後ろ手に隠したビキニに顔を赤らめ、孝夫は誤魔化すように口を開いた。

 「その人も10歳の頃からって設定?」

 「そう。しかも相手はみんな同じ人・・・因みにその人は20歳なんだけど」

 「大丈夫なのその人? そのうち新聞に載ったりしそうなんだけど・・・」

 花枝は孝夫の言葉に少し青ざめる。
 そうなった場合、自分に責任の一端があるような気がしていた。
 
 「まあ、大丈夫よ・・・多分。それよりヒュプノを見た感想は?」

 「凄いよ! 本当に別の人みたいだった」

 孝夫は興奮気味に壁沿いにかけられた衣装を見て回る。
 そのうちの一着に、彼は車椅子を止めた。

 「末摘さん、この制服は?」

 末摘は返答に困る。
 それは彼女の高校の制服だった。

 「学生時代の思い出は需要があるのよ・・・」

 「そうじゃなくって! これ、僕の地元にある女子校の制服だよ。なんでこの制服が沖縄に・・・」

 「気のせいじゃない? 制服なんて似たようなモノばかりだし」

 「いや、結構特徴のあるブレザーだし、僕、同じ沿線の高校だったから間違いないよ」

 花枝には気まずい展開だった。
 今まで同郷と言うことを黙っていたのは、彼が思い出を語りやすくするためだけではない。

 「なーにー、森山クンって実は制服マニア?」

 わざとらしいジト目で見つめられた孝夫は予想通り狼狽する。
 しかし思いの外、彼の制服に対する思いは強かった。

 「そう言う意味じゃなくってさ、僕もこんな風にならなければまだ高校生なんだし・・・」

 本来なら孝夫は、高校生活最後の夏休みを過ごしているはずだった。
 進路に悩みつつ、恋や友情を育む熱気に満ちた日々を。
  
 「森山君・・・」

 自分の死を意識してしまったのか孝夫は俯く。

 「それ、着てみてよ・・・末摘さんのままで」

 「え、だって私もう高校生じゃないし・・・」

 「末摘さんて何歳なの・・・」

 「18・・・」

 花枝の年齢を聞いた孝夫は顔を持ち上げ花枝を見上げる。
 その顔にはしてやったりという笑顔が張り付いていた。

 「同い年なら問題ないでしょ! 外で待ってるから着替えたら呼んでね」

 孝夫もなかなかの役者らしい。
 呆気にとられた花枝をその場に残し、孝夫は廊下に出て行ってしまった。
 閉じられるドアの音にため息をつくと花枝は制服に手を伸ばす。

 「この服にはあまりいい思い出が無いのよね・・・」

 末摘花枝の状態で袖を通すのは久しぶりだった。
 彼女は高校を1年で中退していた。






 「すごく似合うよ、末摘さん」

 開かれたドアから覗く制服姿の花枝に孝夫は懐かしそうな顔をした。
 数ヶ月前までよく見かけた制服だが、彼にとってはそれすらも遠い昔のことなのかも知れない。
 だが、楽屋に入り花枝の周囲を一回りすると、孝夫は感じた違和感を口にする。

 「でも、こんなにスカート短かったっけ?」

 ハンガーに掛けられていたときとは明らかにスカート丈が異なっていた。
 不思議そうな孝夫に、花枝はブレザーの裾をめくってみせた。

 「ウエストの所でクルクルっとね。夏服だとコレを隠すためにベストなんか着なきゃならないけど」

 まわしのように膨らんだスカートの巻き込みを花枝はつまむ。
 スカート丈を戻すつもりはないらしい。

 「アレってそういう意味だったんだ、てっきり・・・」

 言いかけて孝夫は口を噤む。
 下着の透けを意識する気持ちは自分たちの方が強いようだった。

 「ゴホン、でも、本当によく似合うよ。通学電車で見かけたら憧れちゃいそうだ」

 「ありがと、お世辞でもうれしいわ。そんなこと言われたの初めて、私、地味で目立たなかったから・・・」

 着込んだ制服に影響されたのか、花枝は無意識に自分の過去を口にしていた。
 にんまり笑った孝夫の顔に、花枝は喋りすぎたことにようやく気づく。

 「花摘さんの秘密をひとつ知っちゃったみたいだね。それじゃ、お返しに僕の秘密も・・・」

 孝夫はそう言うと強盗に襲われた銀行員のように両手を上にあげた。

 「何、そのポーズ」

 気まずさを誤魔化すように花枝が質問する。

 「僕が通学電車に乗るときのポーズ。さ、コレで僕は自分じゃ動けない。部屋までつれてってくれない?」

 「この格好で?」

 「そう、その格好で」

 テコでも動きそうにない孝夫にため息をつくと、花枝は車椅子を押し孝夫の病室へと移動する。
 窓のない楽屋ではなく、南国の景色が窓の外に広がる室内では冬服の自分が場違いに感じた。






 「たぶん、この趣味はデータに無かったんじゃない?」

 孝夫はベッド脇の机から一冊のスケッチブックを取り出すと、描いたばかりのページを花枝に開く。

 「コレ・・・私?」

 そこには花瓶の水を取り替えようとしている花枝の姿が描かれていた。
 少しでも患者が気分良く過ごせるようにという彼女の思いが、その絵から伝わってくる。 

 「絵、うまいなんて知らなかった・・・」

 孝夫の趣味や部活のデータには絵画についての記載は無かった。
 
 「部活はやっていなかったからね。それに、本当に密かな楽しみだったし・・・」

 孝夫は慎重にページをめくり、この島に来てから描いた絵を見せる。
 どれも花枝を描いたものだった。

 「サイコメトラーってね、すぐに相手のことがわかっちゃうんだ・・・知りたくも無いことや相手が知られたく無いことを。それって自他共にもの凄く不幸だろ? だから、僕

は自分の能力を使わず絵を描くのが好きだった・・・この人はどんな人なんだろうって想像しながらね」

 「美化しすぎじゃない? 末摘花枝って、森山クンが思っているような子じゃないかもよ」

 「結構世話になってるからね。少しは補正がかかるのも無理ないって」

 絵から視線を外した花枝に軽く笑うと、孝夫は新しいページを開き線を奔らせ始める。

 「さてと、次は末摘さんの番だね」

 「なんのこと?」

 言葉の意図がわからず、花枝は孝夫の手元から視線をずらす。
 自分の顔を観察する孝夫と目が合った。

 「意外と地味だったって秘密。絵を描くのが趣味という秘密。次は末摘さんの番」

 「勝手に決めないでよ! それに、あの訳のわからないポーズの意味は聞いてないわよ」

 「わからなかった?」

 孝夫はおどけたように笑うと先ほどと同じポーズをとった。

 「気の弱い男が痴漢に間違われないようにってのと同じ心理。僕は絶対にあなたたちの心を読んでいませんって、僕は常に周囲にアピールしていた」

 「リミッターはつけてたんでしょ?」

 花枝は不思議そうな顔をする。
 コントロール不能な現在と違い、レベル4のサイコメトラーならリミッターで十分抑えられる。

 「わかってないなー。夜道で前を歩く女の人に警戒されたり、階段でスカートが覗かれる前提の動きをされたりするのって結構不愉快なんだよ」

 孝夫は苦笑を浮かべながら説明を続けた。

 「女のサイコメトラーなら悪女って感じで恐れられるけど、男の場合は単なる変態だからね。エスパー不幸自慢大会があったら間違いなく男のサイコメトラーが上位独占だよ」

 「気にしすぎじゃない?」

 「甘いね。末摘さんが今朝すれ違った人が高レベルの透視能力者だったことを今知ったとしようか。その人がリミッターをつけていたのかはその時の君にはわからない。次の日、君は普通にその人とすれ違えるかい?」

 リアクションに困る花枝に、孝夫は勝ち誇った笑みを浮かべる。

 「とにかく僕は、常に周囲に気を配っていた。ホームに降りる時つまずいても、他の人に掴まろうとしないくらい徹底してね。さあ、僕はここまで話したよ」 

 「えっ」

 花枝はしまったという顔をした。
 外堀は全て埋められたようだった。

 「今度は末摘さんの番。そうだな・・・ヒュプノの苦労話なんて聞きたいな。いつくらいから自分の能力を自覚したの?」

 「笑われるから言いたくない・・・」

 気まずげに苦笑する花枝に、孝夫はまじめな顔で応える。

 「笑わないよ絶対。もし笑ったら一つだけ何でも言うことを聞くから・・・」

 「本当?」

 「本当もホント、なんなら命をかけたっていい・・・」

 冗談めかした物言いだったが、花枝の表情は凍り付いていた。

 「・・・・・・今の笑うところなんだけど」

 「笑えないわよ、馬鹿・・・」

 患者に絶対に言うはずのない言葉を残し、花枝は部屋を飛び出していく。
 後に残された孝夫は、気まずそうに頭を掻くと絵に没頭し始めた。

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