ザ・グレート・展開予測ショー

【夏企画SS】浜辺の決闘


投稿者名:トンプソン
投稿日時:(06/ 8/ 3)

妖怪コンプレックス・・。こやつは他の妖怪、悪鬼、幽霊と違う。
夏になると美人は更に輝きをまし、不美人の一部は呪いの言葉を発する。
無論顔の造形が美形であるに越した事はないが、余程・・、それこそ幽霊でも逃げ出す造形でもない限りは通り一遍の恋愛事は可能なのだが・・・。
テレビの所為か、自らのハードルが高いのか。
その屈折した呪詛が妖怪コンプレックスを呼び起こすのである。
一昨年も、去年も。そして例外なく今年も。
『うふふふ。夏なんてぇ、なつなんてぇえええ!きゃははははは』
フナ蟲と蛇と不美人を足して√3した化け物、コンプレックス嬢今年も絶好調である。
「あぁ、今年なぁ、特にデカイねぇ」
「そうだなぁ、景気回復なんつってーも、聞こえてくるのは不景気ばっかだしな」
霊的地形な場所なのか、出現場所も毎年一緒である。
この海の店を開いてウン十年の二人組み。既に年中行事の域に達している。
「じゃ、よろしく頼みますぜ、GSのお嬢さん」
町会長らしい、初老の男が今回連れてきたのが・・・。
「うぅ〜〜アレと戦うのぉ〜〜〜〜」
独特なイントネーションが、性格をも表しているというか。
霊力そのものはトップクラスの六道冥子さんがこの海に来ている。
通例霊能力者の服装といえば、宗教掛かったモノや、自らを売り込む為に派手な格好をしているのが大半だが。
本日の六道冥子の服装は天然白色のワンピースに麦藁帽子、日傘というとてもラフな格好である。
尚、下着類が透けてないのは、彼女にとって当然の配慮である。
ベテラン海の家店員は、
「あんなんででーじょーぶんすかぁ?町会長さんよぉ」
「ふ、おめぇーは何も判ってねぇなぁ。一流になればなるほど、服装も一般人と同じになるのさ」
「・・んなもんすかぁ?よっぽと去年のボディコン姉ちゃんのほーが・・」
「アノ人はなぁ。腕はいいけど、コレが」
コレが、言いながら右腕を目の前に持ってきて親指と人差し指で円を作り、
「もーとーってつもなく高いのよ。ソン時のツケがまだ残ってるしなぁ」
「こちら様もふけーきなこって」
肩を竦めて見せたベテラン海の家店員であった。
「さてと、去年のねーちゃんはなんだかんだで正攻法だったけど、今年のは」
このベテラン店員、水着のねーちゃんになれているので、寧ろ清楚な冥子の格好のほうがぐっと来るらしい。
向ける目がちょいと違った。
もっとも向けられた本人はそれどころではない。
恐怖による式神暴走域までもう少しである。だがこの仕事を失敗したら、
「いうぅ〜〜〜お母様に〜〜〜おやつぬきにされちゃうぅ〜」
という、冥子本人にとっては死すら選択肢に入ってしまう大事だ。
『ふふふ・・ふふ。なぁに!海にいるのに、普通の服ぅ〜馬鹿じゃないのぉ』
「しつれーねっ!冥子馬鹿じゃないも!!」
悠長に反論をしている時さっと手らしきモノを振り上げると
奇妙な風が冥子の周りに纏わりついた。ワンピースなだけあって首から抜けやすかったのも不幸だ。
「へっ・・・きゃあああああ」
白い下着が青空の下さらされたのである。
「うぉっ!白」
「白じゃのぉ」
目が点になるベテラン海の家店員と町会長さんであった。
あわてて身をかがめたのは、見られる面積を少なくする本能的な防御行為である。
しゃがみつつ、きっとコンプレックスをみつけた冥子。
あまりの迫力に気圧されて。
『・・・ぞっ・・わ、わるかったわよぉ、ほらっ』
再度風らしきモノが冥子を包むと。
「あれーー。ワタシ水着になってるーー」
だが、今回の水着はビキニと呼ばれる奴。布面積は下着のほうが大きかったので、
「なんともドジっ子な光景ですなぁ、町会長さん」
「そうじゃのぉ」
それに気が付いて講義する冥子。
「ねぇー。これは嫌ーーー他のーー」
『う。うぅ・・判ったわよ。・・ふぅむ。じゃあコレ!』
今度はちゃんとスカートもあるし、上着もあった。だが。
古い海兵隊は襟を大きくした物が制服にあてられた。
襟を立ててアンテナ代わりに使おうとしたからである。
つまり、セーラー服である。
「あー。今回の子若いなぁって思ってましたけど、やっぱ20は超えてるっすねぇ」
「そうじゃのぉ、お前さんの好きなお店のお嬢さんみたいじゃの」
「いや、それでも彼女のほうが、びじんですぜ。太陽の下でもOKですからな」
「なるほどのぉ」
男二人、何をいってるのやら。
当の冥子もそこまで鈍くはない。
「ちょっとーー。私はーーこれでもーー成人してるのーー。ちょっと恥ずかしいーー」
『注文の煩い奴だねぇ、働くおねーさんナンバーワン衣装!!』
お次は帽子がトレードマークの看護婦さん。
「あー。看護婦さんねぇーー」
『違う。歯科介助師だ』
ここが都会なら然程問題ではない格好かもしれない。
なんらかの都合で薬や食料の一つでも買いに来た客とすれば其処まで違和感の有る格好ではないのだが。
「海なのにーー、この格好はいやーー」
『じゃあ!コレ、日本の夏、蚊取り線香の夏』
花火大会のセット、浴衣姿にされる。
「冥子〜和装は〜好みじゃないの〜」
『・・・何くそッ!じゃあコレよっ、四千年の歴史よ』
スリットと胸元が大胆な赤いチャイナドレス。
「あー。冥子ー中華料理苦手ーー」
『・・・じゃあ民族衣装シリーズでもう一丁!』
ベトナムの藍色のアオザイ。
「・・・結構いいかもーー、でも色が気に入らないのぉーーー」
『ようは下着が隠れればいいんだろー!最近は写真を撮るのも一苦労!』
幼女用学童水着。
「・・・コンプレックスさんってー、ヘンタイさんーー??」
『ま、間違えただけよぅ・・ハァハァ』
やや息苦しそうな姿を見せたが。
『軍行動用のどちらかと言えば英国風』
英国陸軍女性下士官の軍服。他国の物に比べて胸ポケットの数が多い。
「・・・かわいくないーーー」
『ならばっ!逆転の発想!男物だけどっ』
白いTシャツとジーパン姿。
「うーん、これってーー」
確か私の知り合いにこんなお洋服の男の子がいたなぁー、などと考えていると。
『つぎッ!チャペルと共に』
純白のフリフリウエディングドレス。
さっと顔を赤らめて「私にはーーまだ早いのーー」と言うと。
『うっ!若奥さんか、オ下劣ビデオの定番、裸エプ・・』
「すとーっぷーーーー!」
基本的に緩慢な冥子もこのときばかりは(彼女なりに)早く言葉を発し、
町会長とベテラン海の家店員を落胆させた。
『じゃ、じゃあ、メカニックマニア向けのっ』
よれよれのオーバーオール、ご丁寧に油付き。
「くさーーーい」
『ハァハァ・・・。次は・・変り種た、大正時代のど、どぅ・・うぅーーん』
「あああっ、大丈夫コンプレックスちゃーん」
最後の格好は大学の卒業式でしか見られないであろう、大正時代の女学生の格好である。
案外と涼しいものらしい。
・・・下着がなければとの注釈があるが。
残念ながら冥子はキチンと穿いているのでご注意あれ。
『ふ、ふふふふ。この私コンプレックスをノせて倒すとは・・・遣られたよ、今年はもうおしまいさ。さぁ苦しくなっていた。留めを・・』
もう疲れたので今年は眠りたい、とでも言おうとしたのかもしれないが。
「・・ショウトラちゃんーーおねがーーい」
この期に及んで始めて出した式神が回復用である。
『な、何を?』
「・・ねぇ、コンプレックスさん。貴方はーーどちらかというとーー。神になり損ねたーー幽霊さんでしょーー」
『ま、まぁなぁ』
「ならばーー。冥子の式神にーーしてあげるーー。ねーー」
何の邪悪も感じられない瞳を向けられて、ぽろぽろと泣き出すコンプレックス。
『い、いいのかい。私みたいなのが、アンタに』
「大丈夫よぉーーー。じゃあいいわねーー私と契約するわねーー」
醜い心を癒すのは純粋な優しさである。
実際は純粋というより幼いの方がしっくりくるが、まぁ、終り良ければ全て好である。
「いやー。今年はドーなる事かとおもったけど、まさかアイツを連れて行ってくれるたぁ、いい人見つけましたなぁ、町会長」
「うむ。思わぬ誤算であったのぉ」
にんまりと笑う町会長と、
まだまだ稼ぎ時と張り切るベテラン海の家店員であった。
因みに。
新しい式神コンプレックスが何故か、現役教師の式神使いと今の主、冥子の仲をくっつける存在になるとは、
誰にも想像が付かなかった未来であった。

FIN

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