ザ・グレート・展開予測ショー

GSとして(前編)


投稿者名:桜華
投稿日時:(00/ 7/11)

 お久しぶりです。試験が終わって屍累々の桜華です。
 いやもう、どっか別のところに行っちゃいたいような気分です。だからここに来ました。
 さて、これは、タイトルはそれぞれ違いますが、『たどりゆく道』、『父』の続きに相当するものです。
 本当はあれで終わらせるつもりだったのですが、猫太郎さんが続きが楽しみですと書きこんでいらしたので、こんなふうに続けてみました。
 全体としてちょっと(かなり?)暗めですが、読んでいただけたら幸いです。
 それでは、どうぞごゆっくり。


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 GSとして






 横島蛍は、ホテルの一室にて、赤い布をじっと見つめていた。
 彼女の父、横島忠夫が、まだ少年の頃から愛用していたお守りだ。
 それを手にとって、彼女は小さく笑みを浮かべている。その瞳は、バンダナを通して、どこか遠くを見つめているようだった。
 きっかけは、彼女の父の親友である、伊達雪之上の一言だった。それを聞いて以来、彼女は心の中がうきうきしてたまらないのだ。
「明日は、パパが来てくれる」
 お守りとして、父のバンダナを手渡されこそしたものの、やはり、見に来てくれるというのは嬉しいものだ。
「明日の最初の試合を勝てば、GS資格が手に入る。でも、それだけじゃ終わらないよ。私、もっともっと頑張るもん」
 父のバンダナに、蛍は語りかける。
「パパが見に来てくれるなら、私、優勝だってできちゃうよ」
 明日の始まりを、彼女は心の底から待ち望んでいた。





 GS試験、二日目。
 予選と第一回戦が行なわれただけの昨日とは違い、今日はGS資格のラインである第二回戦から、優勝を決める決勝戦までを一気にとりおこなう。そのため、試合も午前十時からと早めに始まり、終わるのも、その年その年の受験者達の試合のペースで多少の違いはあれども、平均して午後6時までと、おそい。昔は真昼時には終了していたのだが、近年になってGSを目指す者は質、量共にかなりの上り傾向を示しているため、試合時間もながきにわたるようになったのだ。
 会場では、着々と試合が消化されつつある。各選手は、自分の試合時間でもないのに、次の対戦相手の力を知っておこうと、またはライバルの技を少しでも盗もうと、試合場の壁際にて、戦いの行く末を見つめている。
 その中には、蛍の姿もあった。最強GSの横島忠夫の愛娘として、受験者達の中では注目度が高い。皆、彼女に対しての対抗意識をあらわにしている。
 だが、彼女の関心ごとは、自分に向けられる視線でもなければ、試合の状況でもない。彼女の視線は、ずっと、観客席をさまよっているのである。
「やっぱり、パパは来てないな」
 何度目になるかわからない確認に、やはり、何度目になるかわからない結論に達して、蛍は呟いた。
 そう、彼女の父、横島忠夫の姿が、観客席には見当たらないのだ。
 今日応援に来ると、確かに雪之上から伝えられたが、よく考えてみれば、今日のいつからとはまったく言われていない。父にも仕事があるのだし、そうそう自由な時間は作れない。だがやはり、昨夜から期待に胸膨らませていただけ、落胆の色も濃い。
「ふう」
 ため息を−−これも何度目になるかわからないが−−ついて、蛍は右腕に視線をかえた。
 そこには、昨日と同じく、父の赤いバンダナが巻かれている。
「パパが来てくれるまでは、負けられないよね」
 小さく、呟く。
 それは正直な気持ちだ。頑張ろうという気になれる。だが、父が側にいてくれたほうが、もっと頑張れるだろう。そう思う。
「来てくれるよね、パパ」
 呟いて。
 彼女は、右腕のバンダナに手を這わせた。





 同じ頃、横島忠夫は、森の中にいた。
 正確には、森の中にたたずむ、古ぼけた、しかし大きな館を目の前にして、どうしようもなくたたずんでいたのだ。
 蛍の予想した通り、横島は仕事であった。蛍の応援には、初めは行かないつもりだったので、昨日、急遽、予定していた仕事の日時を延長してもらった。
 だが、この仕事だけは延長できなかった。
 主な理由は、三つある。
 一つ。依頼してきた企業が、かなりの大きさである事。断って関係を悪化させるのは、必ずしも得策ではなかった。
 二つ。緊急を要する事。どうしても今日中に終えてもらいたいと、先方は言っていた。延長できない仕事は、破棄する以外にない。それはつまり、仕事の失敗を意味し、その情報が出回る事によって、依頼の量が減ってしまうのは避けたいところではある。
 三つ。直接顔を合わせたという意味での依頼人が、美女であったという事。横島が冷たくするはずはない。しかも、「破棄されたら、私、クビにされてしまいます〜」などと、涙声で訴えられた日には。
 以上。この三つ(特に3番目)の理由によって、横島は本日の仕事を了承したのだ。
 依頼内容は、霊的不良物件の浄化。あまり珍しくもない依頼なので、横島はすぐに終わると思っていた。蛍には悪いが、急いで片付ければ、昼頃には会場につくだろう。
 だが。
 実際に仕事場を前にして、横島は我が目を疑った。
 その建物は、霊的不良物件というのもおこがましいほどに、荒れ果てていたのだ。今までに彼の扱ったどの建築物より、その中にある禍禍しさは酷かった。
「おいおい、マジかよ」
 額に汗しながら、横島は依頼書をもう一度確認した。
「え……と。
 依頼内容。霊的不良物件の浄化。
 数ヶ月前、館の持ち主が若くして死んでしまったことを機に、彼の所有していた土地を企業が買い取った、か」
 なぜか声に出してしまうのは、つまりそれだけ、目の前の館の惨状と、依頼文から浮かび上がるイメージがかけ離れていたということ。
「しかし、いざ着工となって、おびただしい数の悪霊に襲われ、工事は無期延期となった。まあ、パターンではあるわな。
 しっかし……」
 横島は、書類から目を上げ、館を見上げた。
「……おびただしい、ねえ」
 そして、嘆息。彼の中にある『おびただしい』という認識を、その『おびただしい』はぶっちぎりで超越していた。
「自然な状況で、こんなに短期間に集まるはずはない。何か、核となるものが存在する……?」
 おそらく、持ち主が決まって早死にするというのも、そのあたりにあるのだろうと、横島は考えた。
「まったく。こんなに酷いと知っていたなら、もうちょっと装備持ってきたのに……」
 彼は、どちらかと言えば、武器や道具を用いずに、自分の特殊能力を駆使して戦うタイプのGSである。そんな彼でも、やはり札などは使用する。
 今回は、神通根を二本と、破魔札、吸引札を十数枚。
 普通のGSから見れば少ないほどだが、だいたいの仕事は自らの強力な霊力で事足りる彼にとっては、これでも多いほどだった。
 しかし、そんな彼でも、もっと持ってくればよかった、と、その館は思わせたのである。
「まあ、ここにいても仕方がない。入ってみるか」
 決意して−−ため息とともに−−横島は館の門を開けた。
 敷地に入り、そして、門を閉める。
 人間という異物の混入に、にわかに沸き立つ悪霊達。
「そんなに強くはないようだが……気が遠くなる数だな、まったく」
 庭にはびこっている悪霊など、おそらく、全体の十分の一にも満たないだろう。
 そんなことを、頭の隅で考えている瞬間であった。
「UUUUUURRRRYYYYYYYYYYY!!!!」
 頭上から、群れを飛び出た悪霊が襲いかかってきた。
 横島の頭を噛み砕くべく、大口を開けて飛来してくる悪霊。
「……かったりぃなぁ」
 しかし横島は、その悪霊を、片手で、造作もなく受け止めた。
「ふう」
 ため息とともに−−
 バシュ!
 放出された霊波は、その悪霊を跡形もなく消し去っていた。
 さほど力をこめたとも思えない、だが、強力な霊波だった。
 これが、最強の名を冠するGSの実力。
 横島忠夫の力の一片だった。
「娘が待ってるんでな。急がなきゃならない」
 まるでほこりを払ったような手軽さで、彼は言った。
「悪いが、全力でいかせてもらう」
 何年振りかに。
 彼は、自分を『開放』した。





『どうして?』
 再び。
 何度も観客席を見まわしながら、蛍は心の中で叫んだ。
 すでに二回戦は突破し、GS資格は手に入れた。
 その後も、三回戦、四回戦と、順当に勝ち進んでいっている。
 なのに。
 それなのに。
『どうしてきてくれないの、パパ!?』
 彼女の父は、昼を過ぎたというのに、未だに姿を現さない。単に見つけられないだけという考えは、蛍にはない。自分が父を見つけられないはずはないと確信しているからだ。
 ひょっとしたら、来てくれないのでは……?
 そんな不安が、頭をよぎる。
『ちがう!
 ちがう! ちがう!
 パパは、私との約束は必ず守ってくれた。私との約束を破った事はなかった。
 だから。
 だから、パパは必ず来る!』
 そう、固く信じた。今も信じている。
 だが、それでも不安は消えはしない。むしろ、だんだん大きくなっていく。
「さあ、次の試合です! 横島蛍選手対−−」
 そして。
 父の来ないまま、彼女の第五回戦は始まった。

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 すいません。長くなるようなんで、二つにわけます。
 自分で書いといてなんですが……蛍ちゃんが痛々しい。うう。

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