ザ・グレート・展開予測ショー

【夏企画SS】試着ぱにっく


投稿者名:S
投稿日時:(06/ 8/ 1)


「どうかしら? どこか違和感とかはない?」

言われて、腕を伸ばしてみる。呪を生地に織り込んであるそうだけど、着心地そのものは今までのブラウスとあまり変わらない。
「ええと、大丈夫みたいです」
ただ、少しだけ重いかも。これって、やっぱり霊的なものなのかな。
事務所の応接室には美神さんと六道の小母様。申し訳ないけれど、横島さんたちには外回りに出てもらっている。
暑い中ごめんなさい。心の中で今頃汗まみれになっているだろう三人に手を合わせる。
私はそこまでしなくてもいいんじゃないかと思ってたんだけど、美神さんが絶対にダメだと。ごめんなさい。
帰って来たら、夕ご飯は何か精のつくおかずを一品増やしてあげようかな。
テーブルの上には、既に袖を通したのとこれから試着するブラウスが何着……いえ、何十着か。一体どこから取り出したんだろう? ちょっと目を離しただけなのに。
「ただ、少し重いと言うか……力を吸われてるような気がします」
「おキヌちゃんがそう言うようだと、一年生にはきついんじゃないかしら?」
「そうねぇ。いいわ、じゃあ今度はこれを試してくれる?」
受け取ったブラウスのタグには『6番』の文字。全部で何着用意してあるのか、ちょっとだけ汗が浮いた。
あ、これはすぐに分かる、襟に違和感。ここに呪を集中させてるんだ。
一昨日、美神さんに制服のモニターって興味ある?って聞かれて、半分冗談だと思って面白そうですねって応えたら、今日になって本当に六道の小母様がいらしたのでびっくりした。
「ちゃんとバイト代も出るそうだから、頑張ってね」
聞けば来年からの新しい制服の試作品だとか。
美神さん、もっとちゃんと言ってくれてたらよかったのに、
「あの馬鹿がいるところでそんな話できるわけないでしょ?」
うっ そ、それは
「いいからちゃっちゃと進めましょ。時間だっていつまでもあるわけじゃないんだしね」
「でも氷室さんは評価が細やかでとっても助かるわー これからもずっとお願いしたいくらい」
「あはは、ありがとうございます……で、でも、卒業しちゃったら流石に無理ですよね」
「あら、おキヌちゃんなら大学卒業くらいまでなら制服着てても大丈夫よ」
美神さんみたいな大人の女性に言われると複雑です。目がいたずらっぽく笑ってるし。
いいもん ……んは、ちょっと大人っぽくなったねって言ってくれたし。
と、
「あ、これは軽くていいですね」
「『8番』ね。呪は弱目にしてあるから。一応機能も試してみてくれる?」
「はい」
軽く目を閉じて、霊力を少しずつ開放していく。と、殆ど力まないうちに、
ふわり
袖が涼しい風を孕んだ。
「いいんじゃない? 見た感じ流れにも無理がないわ」
「はい、これなら涼しく授業が受けられそうです」
「その服は冷房よりもドライに振り分けてみたから、それもよかったみたいねー」
小母様も満足そうで、実はこれが一押しだったのかも。
「あんまり冷えるのも返ってよくないしね。それで、どう? 霊力の消費は」
「ええと、そうですね……これなら私なら殆ど意識しないでも続けていられる範囲です」
制服に霊力を利用した冷房効果を持たせて、その分エアコンの消費電力を抑えるという、正に霊能科ならではのクールビズ対策。
おまけに普段から負荷を掛ける事で、霊力の底上げと制御技術も身に付けられるという、
「一石三鳥ですね」
「常在戦場を押し付けるわけじゃないけれど、やっぱり実習のときにしか集中しないというのは、後々現場に出るようになってから響くと思ってたのよ」
美神さんが言うと説得力があります。
事務所にいても気が抜けません。気を抜くと横島さんがのぞ……いえ、それはちょっと話が違うかも。
「氷室さん、一応他のにも袖を通してみてくれるかしら? 今のところそれが第一候補だけど」
「分かりました」
でも……ちらと横目で確かめる。
10番くらいまでは見た目も普通なんだけど……20番以降になると……
横島さんがいなくてよかったと思っちゃった。
そうでしょう? という目をしてる美神さん。私なんかより六道の小母様とのお付き合いもずっと長いから、きっと話を持ちかけられたときから想像がついてたんだろうな。
それはそれとして
男の人の目がなければ、やっぱり色々と服を着替えるのは楽しくて。
「あ、これだったら美神さんにも似合うかもっ」
「ちょ、ちょっとおキヌちゃん待ちなさいってばっ」
きゃあきゃあと、美神さんだって本気で嫌がってないじゃないですか。
「あらあら 実は令子ちゃん用のもちゃんと用意してあるのよー」
デジカメ片手に小母様がそうやって油を注ぐから、
つい時間を忘れちゃった――

「ぷわぁっ! 暑かったーーっ!」

ばぁんっとドアを全開にして応接間に転げ込んで来た横島さんに、一瞬凍りついた私と美神さん
「ぇ?」
かくんと顎を落とした横島さんの目がこっちを見てるどうして今何時?え?もうこんな時間?私が今着てるのは52番でそれってなんとういうかスリットがつまりしーするーでええとつまり――
そのとき、ひょいとタマモちゃんが顔を覗かせて
「うわ、大胆」
……き
「きゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」「うわあああぁぁぁぁぁぁぁっ!!」「横島あんたって奴はあぁぁぁっ!!」「美神さんっ!? おキヌちゃんも何て素晴らしい格好をっ!」「あらあらあら」「俺っすか?俺のためなんですね!」「消せっ!今すぐ記憶から永遠に消し去りなさい!!」ばきごすごきめきゃぐちゃ「ぐおおおおっ!」「いやああぁぁっ下から覗かないで!!」「ふ、ふかこうりょくむぎゅるぶふぁばらぁっ!!」

阿鼻叫喚





「――さてと」
パタン、と、クローゼットに今日貰った制服を仕舞う。正式には来年からだけど、私だけ特別に来学期から使っていいと小母様がくれたから。
かおりさんたちには悪いと思ったけれど、私のサイズに合わせて作ったものだし、これもバイト代の内だと言われて。
始業式が楽しみ。
それと、
「……こっちのはどうしよう」
制服と呼ぶのが物凄く抵抗がある一連の……
六女の校章がものすごく浮いてる。
これも私のサイズに合わせてあるからって……うう、やだなぁ
一度は袖を通しちゃっただけに、捨てるのも忍びないし、呪が込められてるから仕立て直すのも難しいって、
はぁ、しょうがないから、纏めて仕舞って置こう。
タマモちゃんやシロちゃんは着たがってたけど、サイズが合わないから諦めてた……本当に、どういうつもりだったんだろう……これなんて背中丸見えだし。
「……見られちゃったんだ」
顔を上げられない。明日どんな顔して会えばいいんだろう。
あの後、少しだけ冷静になった美神さんが、『忘』の文珠を使って横島さんから記憶を消してた。
だから、私が平気な顔をしてなきゃ
「よしっ 私も忘れた! 明日からがんばろー!」










……知らなかった。
小母様の持ってたデジカメの写真が、文化祭のコスチューム投票に使われてたなんて。

「やっぱり写真だとよく分からないから、明日学校に持って来てくださいね」
ど、どうしてですかっ
「一人だけ涼しい制服着てる罰だよ」
けけけと笑う真理さんたちに押し切られて……

「あら、似合うじゃない」
嬉しくないですっ
本当にこんなのみんな着るつもりなんですか?
「着るわけないでしょう そんな露出度が高いの」

ふえええぇぇんっ かおりさんのいじわるーっ



Fin

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