【夏企画SS】微熱教室
投稿者名:aki
投稿日時:(06/ 8/ 1)
「あー!わからん!」
茹だるような暑さの中、人気のほとんど無い教室に叫び声が響く。
「えー、今度はどこなの?」
それに答える声は一つだけ。これまた、人気の少ない教室ではよく響く。
「この長文読解の中の文法がな」
「んー、これは、that以下の文が名詞節になって、で、これの目的語。
難しく考えないで、そのまんまで考えればいいんだってば」
「え、そうか?…あ、そうだな、うん、すまん」
「もう。横島くん、そんな基本忘れちゃだめじゃない」
「わりぃ、愛子。いい加減暑くて脳が溶けてるからなぁ」
ここは教室、そこに二人の生徒が居た。
夏休みも中盤を過ぎたにも関わらず、未だ補習の終わらない横島と
学校を根城にする学校妖怪であり、机に宿った付喪神でもある愛子だった。
「それにしても、夏休みももう半分過ぎたのか…早いな」
横島は溜息をつきながら、大きく身体を伸ばす。
「そうね。本当にあっという間ね」
高校生活最後の夏休みを補習で潰す事は、横島とて不本意であるのだが
これを受けねば卒業が出来ないとなれば、さすがにサボる訳にはいかない。
美神除霊事務所の面々も、そうした事情は心得ているので
無理に仕事に連れ出されるような事も無く、ある意味平和な日々を過ごしていた。
「それにしても、暑い。暑くて頭がまわらん」
「確かに暑いわよねえ。でも、エアコンが故障中なんだし仕方ないわよ」
「まあな。それでも限度ってもんがあるよなあ」
横島の高校は、エアコンが完備されているのだが、エアコンを制御する回路の
大本が故障しており、現在は稼働していない。
「あー。まがりなりにも女子高生と二人っきりだってぇのに、なんもやる気が起こらん」
「もう…。そんな事言ってないで、今日の分を終わらせなきゃ」
最初のうちはタイガーも補習を受けていたのだが、横島よりも真面目に出席していたために
既に補習期間も終わっている。
横島一人を監視する為に時間を使うのももったいないと、教師に代わって横島の指導役を
申し出た愛子だったが、そんな申し出がまかり通る程、教師から愛子に対する信頼は絶大だった。
そうして横島と愛子が二人で過ごすようになってから、既に二週間が経過していた。
暑い中に、二人っきり。
脳がおかしな方向に暴走せずとも、何か起こってもおかしくはない。
ある意味平和だった日々は、終わりを告げようとしていた。
〜【夏企画SS】微熱教室〜
「ああー。せっかくテスト勉強頑張ったのになあ。
こんだけ補習があるってのは辛いわー」
「その愚痴ももう聞き飽きたわよ。自業自得じゃない?」
実は、横島の勉強そのものは上手くいっていた。
【経】【験】や、【学】【習】と文字を込めた文珠を用いる事で
人間の限界を超えた学習効率を実現していた為である。
しかし、横島の抱える問題はあくまでも出席日数であり、成績が上がった所で
補習からは逃れられなかった。
そして、あまりにも暑い夏が、培ったはずの学力を発揮する事を許さない。
愛子ですら暑さにやられているのでは、いくら横島といえど無理はない。
「いいから早く終わらせましょうよ。そしたら、遊びにだって行けるんだから」
「遊びったってな、こんな暑いのに何処に行こうってんだよ?」
「それは、考えておくわよ。さ、頑張って」
「へーい」
横島が筆記具を用いる音だけが、教室内に響く。
いや、厳密には、外から蝉の大音声が響いている。
しかし、それらは既に気にならなくなっていた。
それほどまでに暑かったのである。
「なあ、愛子」
横島が、机の上に潰れたまま話しかける。
与えられた課題は、もう放り出していた。
「なあに〜」
下敷きを団扇代わりに扇ぎながら、愛子も自分の机に突っ伏している。
「脱いだら、涼しくなるかなあ」
「そうねえ」
「脱いでみるか?」
「そうねえ」
「お前から先に脱ぐか?」
「そうねえ」
あまりの暑さに、横島のセクハラ発言にも切れがない。
同様に、愛子の突っ込みも発動はしなかった。
「………」
「………」
既に二人とも、制服が汗を含み肌にべったりと張り付いている。
この場で脱ぐのはともかくとして、脱ぐ事そのものは魅力的な提案だろう。
「なあ」
「なによ?」
「とりあえず、気分転換でもしないか?もう、俺、無理」
「なあに、なにかいい案でもあるの?」
「水浴びとかどうよ?」
横島が想定していたのは、屋外の水飲み場での文字通りの水浴びだったのだが
愛子の提案で、流れががらりと変わる。
「水浴びね。ん、確か、水泳部って、どっかに遠征に行ってたかしら…」
「それだ、プールだ。プールにいくぞ」
「いいわねえ…。それはそれとして…横島くん、水着は?」
「…ロッカーにしまいっぱなし」
「うわ、最っ悪」
「いいんだよ、学校で洗って干したんだからっ!
さて、そうと決まればプールに急ぐぞっ」
「あん、もう。いきなり元気になるんだから。ちょっと待ってってばっ」
「はあ、生き返った」
準備体操もそこそこに、プールに浸かるなり、風呂にでも浸かっているかのように
横島は寛いでいた。泳ぐでもなく、ただ仰向けに水に浮かんでいる。
がたん、と何かを置く音の後、ひたひたと足音が響くのを聞き、横島は身体を起こした。
「おお、来たか、愛…子?」
横島の目に映る愛子は、これまでに見た事のあるスクール水着ではなかった。
白のビキニに、カラフルなパレオを纏っている。
後ろ手に組んで、胸を反らすように立っていた。
スクール水着よりも、愛子のスタイルがよくわかってしまう姿を見て
横島の脳は暑さとは違う熱に侵されていく。
「どう、横島くん。眼福でしょ?」
そんな台詞を聞くまでもなく、横島の目は愛子に釘付けになっていた。
ただ、どうにもいろいろと目が移る事は止められないようだが。
「横島くん、目がえっちになってるよ」
「ぬはっ、そ、そんなことはないですよ愛子さん」
「あははっ、いいのよ別に。でも、言葉でも褒めて欲しいかな」
「え、えっと。せ、せくしーでいいんじゃないでしょうか」
その言葉に、愛子は吹き出してしまう。
「ぷっ。まあ、横島くんじゃなあ。気の利いた台詞なんて言えないか」
「そんなことはない、ないんだが。ちょっと驚いたからな。
それに、そういう水着も持っていたのがなんだか意外で」
「そう?これくらい普通だと思うんだけどな。ま、いいわ。
それじゃ、少し遊んで気分転換しましょうか」
そういって愛子は後ろ手に組んで持っていた何かを放り投げる。
「ん?これ、水球で使うやつか」
「さすがにビーチボールなんて無いし、これで遊ぼう?」
「よしっ、やるかっ!」
横島の声と同時に、愛子はパレオを解く。
真夏の太陽の下、鮮やかな色が広がった。
二人はひとしきり遊んだ後、プールサイドに腰掛けて寛いでいた。
そろそろ水面に映る光が、少しオレンジ色に見え始めている。
夢中になって遊んでいる間に、かなりの時間が過ぎていたらしい。
「ああ、疲れたけど楽しかったなあ」
「そうね。こうやって遊ぶのも新鮮よね」
「あれ、そういえば、机とは離れて大丈夫なのか?」
「学校の中なら、かなり離れても大丈夫なのよ。
そんなの今更じゃない。気がついてなかったの?」
「いや、短時間なら平気なのかと思ってたからさ」
「そっか。まあ、考えてみれば、横島くんと遊ぶ機会なんて殆ど無かったし。
そんなにたくさん話した事もなかったもんね」
「そうだなあ。そう考えれば、この補習もそう悪いもんでもなかったかもな」
「私もよ。去年の夏休みは、文化部の子たちと一緒に部活やってる時もあったけど。
今年の夏はいい夏になったわ」
「そうか?」
「そうよ。ふふっ、でも、横島くんにこうして付き合う私って偉いわよね?」
愛子は上目遣いで横島を見る。
「はははは。何が言いたいのかなあ、愛子くん?」
こうした上目遣いの後、何が来るかはさすがの横島もよくわかっていた。
「決まってるでしょ。教師代わりのお礼と、遊んであげたお礼。なにかおごりなさいよ」
「わかったよ、それくらいなら。補習が終わった日にでもな」
やれやれ、といった風情で横島は答えるが、愛子は納得しない。
「もう…。じゃあ、少し先払いでもらうわよ」
「えっ?」
横島が疑問の声をあげる間もなく、一瞬で愛子は距離を詰める。
そうして、二人の影が一瞬重なる。
何かの音と、プールの水音も、重なった。
「な、お前っ」
横島が驚いている間に、愛子はさっさと立ちあがり、歩き出す。
「さ、教室に戻りましょ。涼しくなってきたし、続きをしなきゃね」
白い水着を滑り落ちる水滴が、傾いてきた日の光を受けてキラキラと輝いている。
横島の目には、振り向いた愛子の笑顔が、それよりも眩しく映っていた。
暑い夏の日は、まだ、終わらない。
今までの
コメント:
- 夏、制服、GSときてまず思いつくもの。
多くの人が考えるであろう、横島の補習ネタの短編です。
過去に発表された作品とかぶっていたら…ごめんなさい。
真夏の学校、横島の補習とくれば、そこには当然愛子の姿が。
そして、熱に魘されるかのように、急速に距離を狭める二人。
なお、教室に帰って何の続きをするかは秘密です。 (aki)
- 愛子に萌えました…ゴロゴロです。
しかし、謎が一つ。
>何かの音と、プールの水音も、重なった。
愛子は何をしたんでしょう?
キスしておいて、驚いた横島をプールに突き落とした?
この続編…というのは駄目ですか? (STJ)
- むはあ。ゴロゴロしてしまいそうです。悶絶。
なんスかこの暑い夏の熱い青春は!!
胸の奥に灯った微熱は、いつか二人を熱く燃え上がらせるのでしょうか。
夏にふさわしく、そして青春。さらにその先にある大人への入り口を見事に表現していて、素晴らしいです。
愛子って良いキャラだなー。脇キャラのはずが、その株は上昇しっぱなしです。
素敵な夏の出来事、お見事でした。 (ちくわぶ)
- ああ、私も横島補習ネタを考えていたのに・・・w
青春ですねぇ〜
これぞ学生の恋模様って感じですねw
私にはこういう『まともな』恋愛物は書けません(爆
こんな出来事は補習が終わるまで(終わっても?)まだまだ続くことでしょうw
頑張れ〜横島〜(何を?) (烏羽)
- いつになく大胆な愛子が青春してますね
補習で居残り横島クンは夏休みと来たら連鎖反応でしたね
綺麗さっぱり忘れていました(笑
愛子って原作では制服姿しかないから水着姿は新鮮でしょうね
よこっちがルパンダイブしそうだと思ってしまったことをここに懺悔します(笑 (長岐栄)
- >STJ様
水音関連は、いろいろと重なっております。が、詳細は秘密です。
短編連作のような形での投稿は考えておりますが、これの直接の続編となりますと難しいです。
…実の所、先月に他の大手投稿サイトに投稿済みのが繋がったり繋がらなかったり。
>ちくわぶ様
原作では横島と愛子の関係はほとんど語られていませんから、色々とオリジナルな
設定なり、感情なりを積み重ねないといけないのが大変でもあり、面白くもあり。
愛子の考える青春がいかなるものなのか、そこを私なりに拡大解釈してみました。
>烏羽様
企画の性質上、ネタの核はともかく、登場人物の組み合わせと舞台は
かぶる事が多いでしょう。気にせずいきましょう(笑
まともな恋愛物との評価は嬉しく思います。まともなもの、あまり書いてないので…
>長岐栄様
原作では存在しない水着姿、スク水でも良いのですが、愛子の心情からして
スク水では弱いかと思いましたので。
ルパンダイブはむしろ愛子が…げふんげふん。 (aki)
- いったい何を先払いさせられたんだ、横島!?
夏の大攻勢をかける愛子に萌えますね。
ただでさえ暑い真夏の学校が、ことさらに熱く燃え上がりそうです。
くれぐれも、二学期になったら机が増えていた、なんてコトにならないように(笑) (赤蛇)
- 皆様、コメントありがとうございました。
>赤蛇様
先払い内容はもちろん、横島の価値観からすればどんと来いなものですよ。
教室は最早微熱どころではなく、過剰に熱を持つ事は確実です。
机が増えて、机オプション付きでルシオラ復活も面白そうですね。
なにか色々と切なくなりそうな気もしますが(笑 (aki)
- 遅いレスすいません。
愛子嬢可愛いです…でも、彼女をあんな大胆にしたのは、夏のせいだけではないようですがw
面白かったです。 (偽バルタン)
- コメントありがとうございました。
>偽バルタン様
原作では、バレンタインのチョコを渡す事すらできなかった愛子。
そんな彼女も、夏の暑さと、二人っきりの教室、一緒の時間があったなら。
それらに助けられて、大胆になれるのかも知れません。 (aki)
- 問答無用にいいですねえ、こういう「暑さに流されてどうにかなっちゃえ」的な雰囲気の時間が。どうにかなる事がではなく…ほ、本当ッスよ?
その雰囲気も更に愛子さんならではでして。本当に「同級生の子」って感じなんですよね、彼女。 (フル・サークル)
- あいこー、直球。
テーマ沿いがお見事。
わたしは愛子ちゃんの幸福を願っています。。 (ししぃ)
- コメントありがとうございました。
>フル・サークル様
暑さだけではなく、流されるだけの状況が作られてしまえば、もうお終いです(何が
愛子は、普通の友達、同級生っぽい雰囲気にできたら良いな、と思ってました。
そこを感じて頂けたなら、嬉しいです。
>ししぃ様
直球でしたか。光栄ですw
テーマに関しては、最終的には制服を脱ぐのがテー…げふんげふん。
愛子が幸せになるかどうかは、多分、横島の行動や心情に左右されるでしょうが
愛子の認識や覚悟次第で変わっていくのではないかと考えています。 (aki)
- 流石の横島の煩悩も暑さには勝てないのか(笑)
この夏休みに横島と泳ぎに行く時のためにこの水着を買いに行ってたんだなぁと思うと微笑ましかったり。 (S)
- プールで遊ぶ二人の情景が浮かんできます。
物語も良かったのですが、最後の愛子がなによりもドキドキです。
ラブ。 (とおり)
- 熱暴走から始まった夏の盛りのプールサイドでの一編、堪能させて頂きました。
このよーな甘いストーリーを書けない人間としては、羨ましい限りです。
ええい!ラブだ、ラブの尖兵がここにいるぞっ!! (すがたけ)
- コメントありがとうございました。
>S様
横島くんの煩悩は、暑さにも負けないはずなんですが、相手が愛子だから
少々キレが悪いのかも知れません。
愛子も女子高生ですから、水着に気を使う欲求もあり、それを好きな男の子に
見せたいという想いもあるのではないか、と思っています。
>とおり様
真面目な優等生と夏休みのプールで遊ぶ、しかも相手は大胆な水着という
ミスマッチな雰囲気をもうちょっと出せていたらな、とも思います。
教室に帰ってから何の続きをするのかと、ドキドキしてもらえたのは嬉しいです。
>すがたけ様
多分、CPUも融ける程の熱暴走です。
プールサイドから離れた教室内では、それが加速する事でしょう。
ラブの尖兵とは、過分な褒め言葉をありがとうございます。
触手だけではない、と褒められたと脳内補完させて頂きますw (aki)
- うわー、愛子ちゃんらぶりー♪>w<
青春ど真ん中ですね〜♪ ふたりともかわゆいです♪
制服ってテーマを、制服を脱いだ愛子ちゃんってカタチに捻ってあるのも、すごいと思いました♪ (猫姫)
- コメントありがとうございました。
>猫姫様
愛子は、可愛いのです。が、横島の可愛さまで褒めて頂けるとは光栄です。
熱い夏の青春、これが刹那で終わるのか否かは、解釈次第です。
テーマの捻りに関しては、私らしさと申しましょうか。
どうしても、こういう捻りを入れたくなってしまいました。 (aki)
- 遠い昔に体験した、学校プールの塩素臭さを思い出しながら読ませていただきました。
さりげなく名前だけ出たタイガーの存在に、ノスタルジーとは違う涙がでます(笑)
当然賛成で (UG)
- |д゚)ノ せんせー、涼しくなるどころか逆に燃(萌)えてしまったのですが。
いやあ、もう、まさに文句なしの王道な横島補習ネタでした。
健全な青春の1シーンのようでありながら、そこかしこに色気を感じさせるのがakiさんの素晴らしさ(笑)
夏のプールで二人きり…なんて美味しいシチュエーションなのでしょうか!
『制服』の要素こそちょっと薄く感じましたが、それ補って余りある『夏』!『夏』!!『夏』!!!
もちろん当然の賛成票で。
お見事であります(笑) (丸々)
- コメントありがとうございました。
>UG様
学校のプールの塩素は異様にキツイものでした。
今プールに行くと、そこまできつくは感じないのですが。
あるいは、これが年を取った証の一つかも知れませんね。
タイガーも、いつかは活躍させてみたいものです。
「怒気っ! 漢まみれの触手変 ぽろりもあるよ」とか思いついた私は、多分脳が沸いてます。
>丸々様
健全な青春ですよ。色気なんて、無いですよ。気のせいデスw
テーマに関しては、潔く?制服を脱がしてみました。
脱がす事が前提だったとか、愛子の水着姿いいかも、とか。
そんな邪念はありませんとも。ええ。 (aki)
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