ザ・グレート・展開予測ショー

灰色の街  〜The second judgment〜 第15話


投稿者名:おやぢ
投稿日時:(06/ 7/28)

自分の流した血溜に片膝をつき、スライドの上がったSIGを放る。確認できるだけで、左手、右足、腹部、胸部に喰らった。逆流してきたモノが、口の中に広がり吐き気をもようす。

「おっさん、名前は?」

言葉と同時に溢れてきたものが口の端を汚し、それを床に吐き捨てる。

「亡霊に名など無い」

男は少しだけ口の端を緩ませた。口の中に溢れ出したものは、気にする素振りもみせない。

「亡霊って、あんたまだ生きてるじゃねぇかよ。いいのか、亡霊だってらGS(俺ら)に勝てねぇぞ」

圧倒的不利なこの条件で、まだそういう口が叩けるのか。おそらく横島は、自分の半分ほどの年齢であろう。男は失笑にも似た笑いを見せた。

「千葉だ・・・千葉“元”三尉だ」

千葉につられるように笑いながら、ゆっくりと胸ポケットからタバコを取り出す。千葉はそれを無視するかのように、弾装を取り出し震える手で弾装を交換した。
タバコを咥えると、千葉が腰の方を見て顎を振った。従うようにゆっくりと腰の後ろに手を回し、ブローニングHPを取り出し腹の前に差し込んだ。
千葉も自分のジェリコを腹のベルトに差し込み、口の前に右手の人差し指と中指を差しだした。
タバコを放った。受け取ると1本口に咥え、ジッポを取り出しタバコに火をつけジッポを放る。
それを受け取り、咥えていたタバコに火をつける。紫煙が二人を包むが、あいにくとタバコの味はしなかった。
お互いに右手にタバコとジッポを持ち、咥えタバコのままに向かい合う。ゆっくりと弧を描くようにそれを放った。
紫煙と硝煙が絡み合う。銃声の余韻の中に、ジッポの床を転がる音が妙に響いている。
火のついたタバコが血溜で音を立て、消えていった。
右手をだらりと伸ばしがっくりと両膝をつくと、それを見て千葉がニヤリと笑う。
その口元には火のついたタバコは無かった。糸の切れた人形のように崩れ落ちると、天を仰ぐように背中から床に倒れる。
生憎と空は見えなかった。それでも千葉は遠くを見つめるような目で上を見ていた。
顔を顰め息を抜くと、大きく息を吸い込み床についた両膝に力を入れる。
重くなった体を引きずるように千葉の下へと歩を進めると、目線だけがこちらを向いている。いや、咥えていたタバコを見ていた。
ブローニングをベルトに挟み、自分が咥えていたタバコを咥えさせる。
呼吸する力も尽きようとしていた。口元が僅かに震えると、タバコは口から落ちていく。
落ちたタバコを拾い上げ自分の口に運ぶと、開いていた目蓋を押さえた。
千葉の顔が赤く染まる。自分の手を見ると、血でかなり汚れている。
コートで手についた血を拭うと、血に汚れた顔も同じようにして拭った。
ポケットに手を入れ、スラッグのショットシェルを固く握った。

「俺みたいになるなよ……か。俺に残す言葉じゃねぇよ」

咥えていたタバコからは、もう紫煙は上がっていなかった。

























さて、殺るか。




二人同時にゆっくりと立ち上がった。
すでに、ベストコンディションではない。作戦なども無い。決着(ケリ)をつけたいだけだ。

刹那の中にだけ存在する、“自分は今生きている”という感覚。
そのためだけに二人は立ち上がり、そして対峙する。

(小手先の技は使えねぇな)

雪之丞は、形だけついた肋骨を僅かに気にした。
回し蹴りという形ではなかった。原が放った蹴りは、ただ足を振り回すものであった。
それでも衝撃が肋骨に伝わる。薄い膜が張っただけの肺の穴は、再び出血を始めるであろう。

「痛ぇな、この野郎っ!」

首を掴み、痛めている右足で顔面に膝蹴りを入れた。
頚椎が異音を立てるのを感じた原は、折れている肋骨目掛け、肘を入れる。首を掴んでいた手が緩むと、突き放すように前蹴りを腹に入れた。
2、3mほど突き放されるが、まったく怯まずに原の下半身にタックルを仕掛ける。
潰しにはいかず、右膝をカウンターで打ち込む。
右膝から感触が伝わってこない。支えていた軸足が痛むと同時に、その痛みが倍になった。
カウンターの膝を避けると、原の軸足に手をかけ向きを変えるとそのまま膝を左足に打ち込んだのだ。

「上海雑技団かよ、このチビ!」

左足に絡みついた雪之丞を振り払うように、左足を振り回す。
その勢いを利用して、雪之丞が左足を掬い上げバランスを崩し原は地面に倒れた。
受身は取れていない。ヘルメットが地面に叩きつけられ窪みが出来る。

「チビで悪かったな、このデクの棒!」

原の顔面へ渾身の右の拳を振り下ろす。
寸前で交すと、爆発したように地面に大穴が開いた。
右手に原の手が伸び、首には足が伸びる。
三角締めの体勢に入られる寸前に右腕を引き抜き。左拳を振るう。
顔面に当たる寸前に両手で払われ、そのまま左腕を掴まれると裏十字の体勢にもっていかれる。
これは格闘技では無い。実践である。
ギブアップを求めるような事はない。締め上げるのではなく、即座に折り戦闘力を削ぎ落とす。


躊躇などはしなかった。


手足に力が入る瞬間に、肩の稼動粋を超え前転した。
肩関節が抜ける嫌な音が響き、左腕は在らぬ角度に曲がり、体は相手の正面へと周った。
稼動粋を超えた腕に間接技など効くはずもない。原はすぐに腕を放し、離れようとした。
背筋と両足の筋肉を使いバネのような動きをみせるが、右拳はその動きより早かった。
ヘルメットのバイザーが飛び散り、ガラスの破砕音が響いた。

(派手に飛んだが、自分から飛びやがったからな。当りは浅いか)

外れた左腕を右手で持ち上げ、奥歯を噛み締める。右手に力を入れると、辺りに骨の音が響いた。

「うぐぁあああああああああ」

思わず声が漏れると、肺が再び破れ血が逆流した。
俯きながら溢れ出した血を吐き出す。
頭を支えるようにして立ち上がった原も、俯きながらバイザーの硬質ガラスを剥ぎ取った。

「ふふ・・・」

「くくくく・・・」

「あは・・あはは・・」

「あっはっはっはっはっはっは」

狂っている。そう思われても仕方がない。
おそらく二人とも狂いだしているのであろう。
過剰過ぎるアドレナリンとエンドルフィンは理性を剥ぎ取り、闘争を生業にしている二人はただそれだけ
にすべてを注ぎこんで行く。人間という獣の戦いであった。
技という技はなく、拳を振り回す。掴みかかり殴り合う。口元を塞ぐものがなかったのであれば、噛み付きもしていたであろう。
子供の喧嘩のような揉み合いになり、お互いの腕を掴んだまま転げ回る。
原が上になるが、勢いが付き過ぎ計量の雪之丞が上になって止まった。
残り僅かな霊力を右手に集中すると、魔装術が解ける。マウントはとっているものの、一度外れた左腕には力が入らない。攻撃だけに集中した、らしいといえばらしい戦術である。
何かが高回転で回っている。原が右手を上げた。狙いは左腕、心臓である。
右腕が光を放ち、左胸に直撃した。たんぱく質の焦げる臭いと、燻った煙が二人の僅かな間に立ち込める。
止まっていた表情が、歪んでいく。苦痛に歪んでいるのではない、凶悪な笑いに歪んでいる。
霊力の篭った右拳が振り下ろされた。金属が壊れる音に混じり、何かが潰れる音が聞こえた。
荒い呼吸と吐血を繰り返しながらゆっくりと立ち上がるが、足を踏み出すと同時に崩れ落ちる。

「悪ぃ……間に合いそうに無ぇ」

“差し入れ”に手を伸ばしながら呟いた言葉は、誰の耳にも入ることはなかった。



















神通棍を支えに立ち上がる令子。ブーメランを支えにしているエミ。余裕などはない。
一方のガルーダは、まだ無傷である。
ステップを踏みながら、間合いを取っている。
規則的な音。足の爪が硬質の床に絡みリズムを刻む。

タン・タンタン・タン・タンタン・タンタタタン……

リズムが変わる。

来るっ!

薙ぎ払うように神通棍を振り回す。
手ごたえなどあるワケもない。同じ事の繰り返しだった。

「上?」

「下だよ」

足をすくわれるが、あまりの速さに受身さえままならない。投げられたように背中を床に叩きつけられる。
エミがブーメランを振るった。投げたのでは避けられる、飛び道具は役に立っていないのだ。
右足を下げ体を反転させブーメランの一撃を避ける。
そのまま回転すると右腕を振るい、エミを体ごと弾き飛ばす。
令子の眉が僅かに歪んだ。ある疑惑が脳裏に浮かび上がると、彼女は声を上げた。



















「えんがちょー!あんた犬のウ○コ踏んでる!」

「え!うそ!!!!」

声につられて、ガルーダは足を上げ思わず確認をした。
即座に神通棍がガルーダの頭部を直撃する。

「せ、せこーーーーー」

エミの額にはぶっとい汗が滲んでいた。
シリアスな展開の最中、いきなりいつものペースに持っていった……エミはそう考えた。
だがいつもの展開に引き摺ったはずの令子の顔は、ギャグは一言だけで表情そのものは真剣なままである。
追撃はせずに、倒れているガルーダを見下ろしていた。

「あんた、人間でしょ?」

冷めたような言葉を浴びせると、ガルーダはゆっくりと体を起こし頭を振った。

「ふ……そうさ、僕は人間さ。いや正確には以前は人間だったと言った方が正しいかな」

「ひょっとして改造人間?いきなりベルトがでてきてバイクに乗ったりしないでしょうね」

「アンタは黙っとれーーーー!!」

シリアスな展開が台無しである。令子の隣に立つと、ボケをやってしまうのは“お約束”というヤツなのであろうか。女二人の醜い争いを、ガルーダは鶏冠に汗を滲ませつつ呆然として見ていた。

「あのぉ……ちょっと聞いてもいいかな」

「なによ!」

エミのほっぺたを左右に開きながら、夜叉のような顔をガルーダに向ける。

「なぜ分かった。私が人間だったという事を」

「リズムよ」

「リズム?」

「そう。魔獣には魔獣の、人には人のリズムがあるわ。アンタのそれは、魔獣ではなく人のリズムだったわ」

エミの頬から手を離し、神通棍を握り締める。

「最後の冗談も、作戦のうちかい?」

「えぇ。人間だったら、そんなもの踏んづけるのは嫌でしょ?」

「確かに」

人の名残りであろうか、頭を掻く素振りを見せながら立ち上がった。

「憑依術なワケ?」

エミの顔が歪んだ。黒魔術で、人でなく獣に人の意思を憑依させる外法がある事を思い出していた。

「いや、そういう不確実な類のものではない。科学、いや医学の力かな」

「正気!魔物の体に脳を移植するなんて」

鶏冠が揺れた。表情は確認できないが、失笑しているのは読み取れた。

「自分の体が使い物にならなくなったのでは、いた仕方なかろう」

おそらく非合法の戦闘で再起不能、或いは生死に関わる傷を負ったのであろう。だからといって人外の者になり、再び何事もなかったかのように同じ事を繰り返せるであろうか。

「狂ってるわ……あんたら」

「私からすれば、金でしか動けない君らの方が狂ってるよ……話はこれまでだ、私にはまだやる事があるからね」

ガルーダの姿が消えた。舌打ちすると、エミは精霊石で結界作る。

「精霊石代、後で払うワケ」

「ママに言ってよ!」

勘と耳を頼りに神通棍を振るう。僅かな手応えが伝わってくる。

「そこかーーーーーーーーー!」

留めとばかりに振られた一撃は、またしても空を切った。

「また下?!」

「上だよ」

ガルーダの一言に、口元が緩んだ。

「令子、退くワケ!」

結界の中で霊力を高めたエミが、全身から霊波を放つ。

「霊体撃滅波!」

光に溶けるように、ガルーダの姿が消えた。

「やったの?」

「まだよ!油断すんな!!」

激しい光を見たせいで、目が暗闇についていかない。影の中からガルーダが、エミを目指し襲い掛かる。
ライフルを向けると、再び姿が消える……はずであったが、ガルーダは床に叩き付けられた。
己の右足に違和感を感じ、目をやると鞭と化した神通棍が右足に絡み付いている。

「15億の囮かよ」

そう呟くと同時に、精霊石が彼の体を突き抜けていった。





ライフルを肩にかけ壁に凭れて座り込むと、エミは荒い呼吸を整え顔を上げた。

「早く、横島のところに行ったら。アイツ心配してるワケ」

「でも、あんた……」

「いいから行くワケ。あいつをまた泣かせたいの……少し休んだら追いつくから」

少しだけ笑ってみせると、令子は風水盤の方へ駆け出した。

「……ったく、世話が焼けるワケ」

令子の背中を追うのをやめ、ガルーダに向けた。目を閉じ大きく息をすると、力が抜けていくのが分かった。

「少しだけ……少しだけ休ませて」

エミの目から僅かに光るものが零れ落ち、床を濡らした。








                                       SEE YOU GHOST SWEEPER....


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お待ちになった方もそうでなかった方も、お久しぶりであります。5月以来の更新であります。
夏企画を目の前に、ログ流しが怖いかも?(笑)
まぁ今回は短めでありますが、かなり濃い目です(後半ダレてるけど)
何度推敲した事やら……でも案外そういう時に限ってデカいミスがあるんだよねぇ(苦笑)

そういうのが無いことを祈りつつ、次回こそは早い更新できたらいいなぁ〜〜〜と思います。
見捨てないでね♪

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