ザ・グレート・展開予測ショー

墓参り


投稿者名:天馬
投稿日時:(06/ 7/25)

 ほら、これ好きなお菓子。
 んでもってこれは好きな花。
 忘れるわけ無いだろ、今日は特別な日なんだから。
 でも、今までこれなくて、ごめん。
 誕生日おめでとう、ママ。
 逢いに来たよ




 “墓参り”







 今年は、梅雨がやたらと長引いてさ。七月も終わりだってのに、雨がやまないんだ。
 雨の音は耳に心地良いんだけどさ、ママを濡らしちゃうのがちょっと、な。
 ママの好きなお菓子、なかなか売ってなくてさ。大変だったんだ。
 花買いに行ったときとかなんか、軽く怯えられたけど。
 雨、やまないな。




 

 俺さ、ずっと。
 ずっとここにこれなかったんだ。
 ママの温もりをなくしてからは本当に我武者羅で。
 後ろを振り返ることが出来ないくらいに我武者羅に突っ走って。

 色々やったんだ。
 もう戻れないくらい、突っ走ったんだ。

 そんで、俺は俺でそんな自分が気に入っちゃって。
 悲劇のヒーローぶったりしてたわけじゃないんだけどさ。
 どっかで、溺れている節があったのかもしれない。


 俺、雪だけじゃなくて、雨も好きになっちゃったんだ。
 雨ってさ、いろんなものを流して落としてくれるじゃん。
 俺にとってのくだらないものも、流してくれたらなぁって、思ったんだ。

 実際、そんなこと、ないんだけどな。



 今日ここに来たのはさ、ママに報告。
 怒らないでくれよ、ママの誕生日だからって言う意味のがデカいんだから。





 ママ、俺色々あったけど。
 戻れないくらい、がんばったけど。
 今度は方向転換して、もっと頑張るよ。

 友達が出来たんだ。
 大切な人が出来たんだ。
 守りたいものが出来たんだ。

 そいつらのために頑張りたいんだ。

 雨は決して洗い流してはくれないけど。
 そいつらのためならずぶ濡れになってもいいんだ。

 ん、そんだけ。
 俺から渡す、ママへのプレゼント。





「また、来年。くるわ」






 今度はもっと成長して。














 雨は降り止まない。
 傘なんか差してなかったから当然俺はずぶ濡れ。
 靴の中までびしょびしょで、不快ではあるけれど、今更。
 草を踏むたびに聞こえてくるきゅっきゅっとした音は、ちょっと歯がゆい。
 なんか、ちょっと寒いかも。
 もしもアイツがいたら、うるさいだろうな。


 ん? 雨がやんだ?
 違う、これは…傘?




「風邪ひきますわよ」



 え?



「弓………?」
「あぁもう、こんなにずぶ濡れで。家に帰ったらお風呂に入っちゃいなさいな」




 なんでいるんだよ、おまえ。
 今日、ママの所にいくなんて、誰にも言ってないぜ。



「ねぇ、雪之丞。あんまり頑張らないで」
「頑張ってねぇよ。俺は好きなように生きてるだけさ」
「それが頑張ってるように見えるんです」


 こいつはエスパーかよ…
 まるでママみたいじゃねぇか。
 そういえば、嘘ついても、ママにはすぐにばれたな。


「こんなに震えて…」
「別に一時的に体温が下がっただけさ」



 だから気にするな、とつなげる前に。
 弓が俺を抱きしめた。
 傘が、ことりと地面に落ちた。




「馬鹿………。お母さんのところに行くならちゃんと言いなさい。
 私は何のためにあなたの背中を預かっていると思っているんです」









 ママ、俺さ。こいつのためなら頑張れると思うんだ。
 ママ、俺。こいつがこんなにあったかいから好きなんだ。
 ママに似てて、けれどママとは違うあったかさをもってるんだよ、コイツ。






「おまえこそ、馬鹿だよ。傘落としたら、おまえまで濡れるじゃん」
「誰のせいだと思ってますの」



 俺のせいだよ、馬鹿やろう。
 死ぬほど惚れてる、俺のせいだよ。
 あー、ちくしょう。本気で惚れてるわ。





「今度、晴れたら、一緒に行かないか?」
「?」
「墓参り。ママに、きちんと挨拶してくれや」
「うん」





 俺が惚れた女ですって、な。


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