ザ・グレート・展開予測ショー

フォールン  ― 33 ―  [GS]【完結】


投稿者名:フル・サークル
投稿日時:(06/ 7/22)








ヨコシマ。


 暗闇の中、呼ぶ声がする。






ヨコシマ。

 アイツが俺を呼んでいる。






「ヨコシマ」



 横島は目を開けると同時に体を起こした。視界の全てが一分の隙もなく、黒一色で塗り潰されている。地面の感触はあるのだが、まだ何一つ、朧げにさえ見えない。
 光もないのにその中でTシャツ・ジーンズ、自分の身体ははっきりと見えていた。そして、目の前に立っているルシオラの姿が。

「ルシオラ・・・」

「ヨコシマ・・・」

 ルシオラは微笑んでいた。
 微笑みながら――――唇の端をぴくぴく引き攣らせていた。



「この・・・・・・

 ダメヨコシマ、ダメヨコシマ、ダメヨコシマ、ダメヨコシマ、ダメヨコシマ、ダメヨコシマ、
 ダメヨコシマ、ダメヨコシマ、ダメヨコシマ、ダメヨコシマ、ダメヨコシマ、ダメヨコシマ、
 ダメヨコシマ、ダメヨコシマ、ダメヨコシマ、ダメヨコシマ、ダメヨコシマ、ダメヨコシマ、
 ダメヨコシマ、ダメヨコシマ、ダメヨコシマーーーーーーっっ!!」

どかべきびしばしげしげしげしっ!!



「んぎゃーーーーっっ!?」

 しばいてしばいて足蹴にして。折檻の最中、横島は涙声で訴える。

「堪忍やーーっ! 仕方なかったんじゃーーっ!」

「何が仕方ないのよバカっ!」

 ルシオラは怒声と共に横島の襟首を掴んで引き上げる。だが次に彼女は、その胸へと飛び込んでいた。

「私はここにいる・・・! 私はここにいるのよ・・・! お前がいなくなってしまったら・・・私・・・!」

 言葉に詰まり、鳴咽が繰り返された。彼女は更に強くしがみ付いて言葉を繋ぐ。

「私はずっとお前と一緒だった、ずっと見てた、だからお前の気持ちは自分の事みたいに知ってる・・・! でも、ダメ・・・こんな風に、二度とこんな思い詰めないで。
 だって、お前は独りじゃない・・・私も・・・・・・そして、あの人が」

 最後のその一言に横島の肩がびくっと震える。彼は全身を固くした。

「だけど・・・だって・・・美神さんは・・・」

 横島の反駁する声に、ルシオラは首を横に振る。

「美神さんも、ここにいる。今、こうしてここに来た・・・それが真実なの。そして、お前も・・・」

「俺が・・・何?」

「心の中の片隅で待っていた。あの人がやって来る事を」

「―――そんなっ!? んなこたねえっ・・・」

 横島は思わず声を張り上げてそれを否定しようとする。だが、言いかけた彼の唇をルシオラの指が制した。

「私には、分かるの」

 そう言うと、横島の顔を見上げる。彼は言葉を失くして黙り、彼女の瞳へと吸い込まれそうな表情を浮かべていた。

「ねえ、ヨコシマなら分かるでしょう? ・・・・・・美神さんのあの言葉は・・・本物」

 横島の腕の中でルシオラはにっこり笑って頷き掛ける。

「だから、返してあげる。お前に・・・そして、あの人に」

 お前を。その生命を、魂を、心を。
 ルシオラは横島の胸に添えていた手を上へと伸ばすと、その顔を両手で抱え持った。

「ヨコシマ、背、伸びたよね。少し遠くなった・・・かな?」

 引き寄せつつ自分も顔を近付けて行く。触れ合う寸前でぶつかるみたいに激しく唇を重ねた。
 長いキスの後にようやく唇を離すが、二度三度と、短く何度もついばみ合う。
 余韻の残る声、ルシオラが囁きかけた。

「本当はね・・・こうしてまた逢えて、嬉しかった。忘れないでいてくれて、命がけで呼んでもらえて・・・幸せだったの。
 私も逢いたかったよ。ずっとずっと・・・お前とこんな風に抱き合い・・・たかっ・・・たの」

 だから、信じて。囁く言葉は途絶え、代わって、横島の頭の中に直接彼女の声が響いた。
 ちゃんと信じていて―――必ず、また会えるって。これはさよならなんかじゃないって。

「好きよ、ヨコシマ。本当に好き。何よりも」

 もう一度だけ口に出して言い、ルシオラはもう一度彼に唇を重ねた。
 横島も直感的に気付いていた。これが再び訪れる「しばしの別れ」の始まりなのだと。
 すぐ目の前の彼女が一際に闇の中で強く輝く。とても懐かしい――安らぎと活気の両方を覚える、体に魂そのものが流れ込んで来る感覚。
 ルシオラ、待ってくれ。横島は言葉が出ない。せっかく会えたのにこれで終わりだなんて。
 待ってくれよ、もっと話したいことがいっぱいあったんだ。もっと見ていたいんだ。もっと触れていたいんだ。
 もっと――一緒にいたかったんだ―――彼女と自分の発する光は闇へと広がって行く。
 照らされるものの存在しない世界で塗り潰す色が黒から白に変わるだけ。
 自分の輪郭も彼女の輪郭も一面の眩い光の中に溶け始めていた。



何よりも愛してるから。必ず会えるから。
ねえ、だから待っててね―――




パパと







ママと



 一緒に





「―――ルシオラっ!」

 横島は瞼を開いた。目に写るのはまたも辺り一面の闇と、その奥に浮かぶルシオラの姿。
 しかし先程と違い、目が慣れるにつれて立ち込める煙や不規則に積み重なった瓦礫がぼんやりと見えて来る。その中に佇むルシオラは、透き通って消えつつあった。

「ルシオラ! ルシオラッ! ルシ・・・ッ・・・ッッ!?」

 叫び、追い縋ろうとした時、激痛が走り全ての動作が止まる。横島は自分の肉体と霊体とがこれまでに負ったダメージの事を思い出す。そして、動けなかった理由はそれだけではない。
 何かに固定されている。横島は自分が、瓦礫と瓦礫の隙間で美神に羽交締めにされているのだとようやく気付いた。
 倒壊したホテル。二人はその奥深くで生き埋めとなり、瓦礫の空洞の中にいた。
 押し潰される事なくある程度の空間さえ確保していたのは、偶然か、彼らの能力ゆえか。
 見守る眼差しと微笑みとを二人へ向けながらルシオラの幻影は闇に溶け、やがて完全に見えなくなる。
 消える間際、数匹の蛍を思わせる光の粒が、バラバラな方向へと散って行った。

「ルシオラ・・・待っ・・・」

 もう置いて行かないで、いなく、ならないで・・・ならば、せめて、俺を連れて―――

 身を乗り出そうとした横島は、背後から巻き付いた両腕に強く引き戻された。
 後ろへと、彼を捕まえていた美神の肩から胸へかけてに頭を預ける体勢で倒れ込む。
 美神は彼の耳元に口を寄せ、甘さのない低い声で言い放った。

「行かせない、からね・・・」

「美神・・・さ・・・ん」

「行かせない・・・許さない、ダメ。アンタは私のなんだから・・・黙って私から離れるなんて、絶対に許さないんだから」



   ― ・ ― ・ ― ・ ― ・ ― ・ ―



 ガラガラと音を立て、やっとの事で雪之丞が瓦礫の中から這い出して来た時、東の空は山々に沿って白み始めていた。

「一人出て来たぞ!」

「怪我はないか? む、額から血が出てる・・・強く打ったりは?」

「横島・・・横島の奴はどうした!?」

 怒鳴りながら雪之丞は辺りを見回す。
 廃墟となっても建物自体は結構頑丈に保たれていた筈のホテルが今や、鉄とコンクリートの残骸を積み上げた、小高くも休息には向かない丘と化していた。
 その丘に何人ものGメン隊員や消防救助隊員がよじ登り、残骸と残骸の隙間をライトで照らしながら内部へと呼びかけている。

「おおーーい、誰かいるかーーっ? いたら返事しろーーっ!」

「せんせえーーっ! せんせえーーーっ!」

「横島さぁーーんっ・・・美神さぁーーんっ」

 彼らの中にシロはともかくとして、最初明らかにいなかった筈のおキヌの姿が混じってるのに気付いた。
 西条やピートも、いたかも知れないがここでは見た覚えがない。

バキャッッ! ガシャアアッ!

 丘の一画で鉄骨が二三本弾け飛び、拳を握った腕がその下から突き出している。
 やがてそこからマリアが、カオスを引き上げつつ姿を見せた。二人とも、漆黒だったコートもマントも真っ白に汚れていた。
 雪之丞は包帯を持って駆け寄る救助隊を無視し、素早くカオスの所へと向かう。

「横島は? 美神は? それに・・・」

「・・・見とらん。ワシにも一瞬の事じゃったで。ただ・・・あのままで召喚装置がオシャカじゃ。結果どうなっとるかは・・・」

「――彼らはまだ行方が分かりません。応答も全くないわ」

 カオスの言葉に続いて横からの声。
 見ると美智恵が唐巣神父と並んで佇んでいた。雪之丞は唐巣の姿を見て何か思い当たったか、彼へと声を掛ける。

「あんたもさっきまでいなかったよな・・・奴を、連れて来たのか?」

「私からもお尋ねしようと思ってた所ですわ、先生。何故あの子をここに? 何故連れて来たのか――何故連れて来れたのか」

 雪之丞と重ねて問う美智恵とに、唐巣は首を振って答える。

「連れて来たのではないよ。彼女は自ら進んでここへ来たんだ。私は・・・そうだね、久しぶりにかつての愛車のハンドルを握ってただけさ」

 肩をすくめて答える唐巣に眉間の皴を寄せる二人。それを気にせず、少し間を置いて彼は話を続けた。

「正直な所・・・私も本当に知らないんだ。令子君が何を考えてここに赴き、渦中へと飛び込んだのかね。
 そして何が起き、何が為されたのか。全ては彼女の心と・・・・・・“これ”の中さ」

 視線を落とし、足元のコンクリートと露出した鉄筋との隙間を覗き込む。美智恵と雪之丞、カオスとマリアもそこへ目を向けた。

「生体反応・・・及び有機物反応・ゼロ」

「まあ、奴らこれでくたばるタマでもねえ・・・けど・・・な・・・」

「彼らだって人間だよ。安心はできない・・・早く見付けて安否を確かめないと、大変な事になってる場合も」

「無事でいてくれないと困るわ。貴方達もだけど、ここまでのおイタの分、きっちりお仕置きしなくちゃならないんだから・・・」

 キャタピラの音。ようやく到着したショベルカーやクレーン車が数台、地割れだらけのアスファルトを唸りと共にこちらへ向かって来ていた。



   ― ・ ― ・ ― ・ ― ・ ― ・ ―



「何で・・・来たんスか・・・?」

 彼の問いに返事はない。
 瓦礫に深く埋もれたその場所。美神の腕の中で放心した様に前を――ルシオラが消えた辺りを見つめていた横島。美
神はコンクリートの残骸に背中を預け、彼を捕まえたまま沈黙している。

「どうして邪魔するんですか・・・放っといてくれなかったっスか・・・?」

「・・・・・・」

「神内とかと、ウマくやってけば・・・それで良かったじゃないスか・・・こっちはこっちで、なるよーになってたんだ。なのに・・・」

「“なるよーに”・・・それがあんな形だとしても、そう言えるのね」

 ようやく言葉を返す美神。彼女も無傷ではなかった。倒壊に巻き込まれた時、肋骨が2本ばかり折れていた。
 両足も挫いているらしい――恐らくは立てないばかりか、ここから動く事さえ容易ではないだろう。
 でも今は構わない。この腕だけは離さずにいられる。

「あれで、良かったじゃないっスか・・・互いに・・・」

「だけど、そうは行かないのよ」

「だから・・・何でっ・・・」

「それはね、アンタが私のものだからよ。勝手な事は許さない」

 さっきからそう言ってるでしょ? 彼女は付け足して言った。

「俺は、もう事務所は・・・」

 雇用関係だけの話じゃない。はっきりと、訣別した筈だ。そう言いたげな横島の反駁を美神は鼻先で笑う。

「はあ、知った事じゃないわよ、アンタがどう思ってるかなんて。私のものは私のもの。
 丁稚でも部下でもパートナーでもなく・・・まして友達だの男だのでもなく・・・
 いいこと? アンタの価値も居場所も、決めるのはアンタじゃなくこの私なんだからね」

「何・・・スかそれ・・・何でそんな事になってんスか・・・?」

 呆然と尋ねつつも横島には何となくその答えが想像出来ていた。そして、美神から返って来たのは、予想通りの答え。

「そんなの分かりきってるじゃない――私がそう決めたからよ」

「ム・・・ムチャクチャやアンタ・・・」

「何を今更、それが私でしょ? 美神令子はね、横島忠夫を、そーゆー風に扱うモンなの・・・
 初めから・・・そうだったじゃない・・・?」

 確かめる様に、思い出させようとする様に、美神は言葉を切った。

「それで・・・こんな事するんスか?」

「そうよ」

「土壇場になってずかずかやって来て・・・足し算も引き算もなく、なんもかんも引っくり返して台無しにしてくれて・・・」

「そう。アンタのロクでもない思惑なんか、いつでもどこでも全部踏み潰してあげる・・・私を誰だと思ってんの?」

「だけど・・・美神さんは・・・」

「私が何よ?」

「俺の・・・ことは・・・」

「そうね。アンタの事なんかそれ程必要だとも大切だとも思ってないかもね・・・・・・だから何?」

 美神は冷ややかに訊き返す。横島の答えを待たずに彼女は言葉を続けた。

「まだ良く分かってないのかしら。選んでもらえなければアンタはルシオラ呼んで、そんで勝手にくたばる? ふざけんじゃないわよ。
 私がどこに行こうが何を選ぼうが、アンタはこうしてずっと私の手の中にいればいーのよ・・・私が放り出すまでね」

 あまりと言えばあまりな美神の言い分に、横島は抗議するでもなく黙っている。
 その暗がりは再び長い静けさに支配された。ぱらぱらとどこかで砂の落ちる音ばかりが響く。

「・・・・・・ひでーよ・・・」

 横島がぽつりと呟いた。その呟きの後に美神は腕に生温かい水滴を感じる。すぐ目の前にある横島の肩の震えと息遣いからも、“それ”は分かっていた。
 それひでえっスよ美神さん。繰り返して呟いた彼に彼女は言う。

「酷かったら何よ。文句でもあんの?」

「大ありっスよ・・・何でさ、何でこんな・・・」

「あ、そう――――でも、その文句は聞かないわよ」

 小さい声ながら高飛車に突き放す美神だったが、その言葉と共に彼の身体を戒める腕は優しげな力を込めている。

「ひっでえよなあ・・・・・・何この強引さ。理不尽だし・・・凶暴だし・・・」

 諦めた様にもう一度だけ彼は呟いた。

「疲れてんだから何度も同じ事言わせないで。それが私・・・そして、アンタはそんな私の手の中・・・
 不満があるなら持ってなさい。恨むんなら恨んでなさい。でも・・・アンタはもう私のもの。
 誰にもあげないし、勝手にどこへも逃がさない。ここにいるの・・・私に都合良く、ここにいるの・・・」

 横島には理解出来ないでいた。彼女の事がではなく自分の事が。
 彼女に囚われ、こんな希望のない心境の中で、彼女の言葉に何故こんな安堵を覚えるのか。

―――この人、いっつもそうだよな。常識か非常識かの次元じゃない。いつだって、常識さえもこの人に従ってしまうんだ。
俺だって、そうやって今まで結局振り回されて来たんだ・・・そして、これからも・・・
なあ、お前もこれで良いって言うのか。この人を認めるのか。ここからの未来を・・・信じるってのか。

 今はいない――否、彼と共に在る魔族の少女に、彼は声に出さず問う。

「――――横島クン」

 不意に、美神が彼を名前で呼んだ。

「・・・何スか?」

「・・・呼んだだけよ」

「はあ・・・」

「横島クン」

「・・・・・・」

 再び彼の名を呼ぶ。横島が答えないでいると彼女は手を動かし、彼の頬を思いきり抓り上げた。

「ひ、ひへっ!?」

「・・・呼ばれたら、返事しろ」

「ふゃ・・・ふゃひっ」

「横島クン」

「ひゃい・・・」

「横島クン」

「はい・・・」

「横島クン・・・」

 かなわねえよなあ・・・全くかなわねえ。この人にも、お前にも、全くかなわなかったよ俺。爽快さの様なものすらあった。
 美神は何度も何度も横島を呼び、横島はその度にはいと応える。
 呼びながら顔を彼の頭の後ろに寄せ、襟足の髪にゆっくり額を押し当てた。強く抱いたまま手はTシャツの生地を握り締める。
 単調な繰り返し、何度も彼の存在を確かめる事で、やはり自分の心もまた囚われてしまうのかもしれない。彼女はふとそう思った。
 まあ、コイツとならきっとそれも悪くない、よね――――

 それは彼と彼女にとって、一切の救いのない地獄なのか。それとも約束された至福なのか。
 時はただ暗がりの間を静かに流れていた。
 傷付き疲れた二人が呼び応える声も絶えて眠りに堕ちるまで・・・見る夢さえもなく。



 やがて二人の頭上に遠く雑多な物音が洩れ始め、次第に近付いて来る事だろう。



 岩を引っ掻く音。モーターの音。土石の投げ出される音。
 そして、人の声。

「これか!? ここなんだな!?」

「イエス。直下約3mに・空洞箇所あり。二名分の生体反応を・確認・・・!」

「二人とも生きてるのねっ!?」

 そして歓声、どよめき、呼び掛ける声。

「せんせえーっ! 聞こえるでござるかあーっ!? お怪我はないでござるかあっ?」

「横島ーっ、大将ーっ、今この辺のモンどかすってよーー! おーい、返事しやがれーッ!」

 瓦礫を砕く音。
 鉄筋の残骸を引き剥がす音。
 砂の落ちて来る音が、ぱらぱらからバサバサバサッと言った激しいものに変化する。
 横島の足や美神の髪にも土砂は僅かに降り注ぐ。

ガタガタガタッ、ゴリゴリッ・・・・・・ガリッッ!!

 一際響く音と同時にショベルカーの切っ先が空洞の天蓋を貫いて突き出した。

「抜けたぞ!」

「令子君っ!」

「令子ちゃんっ!」

「横島さんっ・・・美神さんっ!」

 慌ただしくも不安定な複数の駆け足。

「まだダメよ! 薄い所で崩れるわ!」

ガリッ! ガガッ! ベリベリベリベリ・・・ッ!

 出来た穴を拡げる形で、鉄の爪は天蓋を端まで抉り取って行く。その端の方へと回り込む足音。

「美神さーーーん! 横島さーーーんっ!」

「横島あーーーっ!」

「せんせえーっ、美神どのーーっ」



 一番乗りで穴の縁に辿り着いたおキヌが、身を乗り出してその中を覗き込む。
 彼女は―――そして後に続いた彼らは見るだろう。
 瓦礫の狭間で囚われ合って眠る、何かの獣みたいな二人の様を。



 彼らの頭上で朝の夏空は、遠く澄み渡っていた。








     ―― F A L L E N ――

      THE END OF STORY
      BUT ENDLESS DAYS
     ―――――――――――――――――









 ―― Post Script ――

 ここまでお付き合い頂き、どうも、お疲れ様です。
 足掛け二年以上の長丁場となりましたこの「フォールン」は、これにて完結となります。

 各登場人物、そしてメインの二人がこの先どうなるのか、どうなって行くのかは皆様の御想像にお任せしますと言う事で―――もう一話、おキヌちゃんの留学出発時を舞台に後日談めいたエピローグも付けようかとこないだ思い付いたりもしましたが、この連載においては当初の予定通りここで終わろうと思います。

 当初の構想と実際書き始めた時とで、美神さんと横島クン以外のキャラの動きが大幅に変わって、こんなに長くややこしくなった様にも思われます。書き手が彼らにクーデター起こされたみたいな感じでした。まあ書いてて楽しかったですが、代償として前半、美神さんの影が薄い薄い(笑)
 そして、まあ、連載中二度ばかり姿を消してたってのもあり・・・(申し訳ございませぬ)

 それでは、皆様の長らくの御愛読、そして励ましや助言の数々、誠にありがとうございました。


 ―― THANK YOU ――

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