フォールン ― 32 ― [GS]
投稿者名:フル・サークル
投稿日時:(06/ 7/22)
ドドドドドドド・・・ッ!
「おおおおっ!」
神通棍を振り上げ、振り下ろし、ホテルの通路を力任せに美神は駆け抜ける。
召喚装置に吸収されそこない、あるいは半ば吸収されかけていた悪霊や妖怪が、理性もなく敵あるいは獲物と覚しき侵入者へと襲い掛る。そして炎の如く辺りを舐め尽す霊波。
美神は破魔札を叩き付け、神通棍で斬り払い、立ち塞がる障害を次々と排除する。そして走る。
彼女の走り抜けた後からは壁や天井が、ガラガラと崩れて来ていた。背後からの破砕音に、振り返る事もなく走る。
やがて彼女の前方、通路の奥からも天井や壁の崩落がこちらへと向かって来るのを見た。
美神は前後から崩落に挟まれる寸前、手前横の非常階段入口へ滑り込む。その直後に一階通路全ては瓦礫と化し沈んでいた。
階段踊り場まで駆け上がっていた美神も落下の縦揺れに足を取られる。
下から崩れ出したその階段を更に駆け上がり二階へと。
彼女を襲うのは振動と瓦礫だけではない。悪霊や妖怪、吹き込む霊波の衝撃が各階出入口からも上からも彼女に迫って来た。
ブワアアアアアア・・・ッ!
「たあーーーーーーーっ!!」
ダダダダッダンッ! ザシュザシュザシュザシュザシュッ!
「――――破ァッ!」
ドガガガガガ・・・ドゴォォォッ!
炸裂する破魔札に蹴散らされる悪霊。神通棍の一撃で、あるいは霊波の鞭で横っ飛びに薙ぎ払われた妖怪。
一振り、もう一振り。
行く手を阻む霊波や本物の炎、瓦礫や粉塵をも真っ二つに切り裂いてその先へと駆け上がる。
ドドド・・・ガラガラガラガラーーッッ!!
「―――!」
美神は顔を上げた。
非常階段は上でも――否、全てが、均等に巨大な手で握り潰されるかの様にひしゃげ、壁も段も砕け始めていた。彼女の足元も崩れ出し―――
神通鞭を一閃させ、残った壁から露出していた鉄筋へと巻き付ける。落下直前の足場を蹴って宙に舞い、通路入口へと飛び込んだ。
ガタガタと右へ左へ激しく横揺れする長い廊下。その両脇にどこまでも並んだ客室。入口のドアはなくなっているのもあれば、揺れに合わせて開いたり閉じたりしているものもある。その間を素早く行き交う魑魅魍魎の影。
足を取られながらも踏み込む様に駆ける美神。天井からは細かな破片が降り、足元の床は割れ、次々と陥没を始めていた。目の前で悪霊を叩き落とし、彼女は幾つもの角を曲がる。
そこが何階なのか確かめようとするが、表示を探すまでもなかった。
仕切り壁のあらかた吹き飛んだ通路の隣に、広々としたパーティースペースが丸見えだった。三階、ちょうど真ん中。
その、かつては披露宴なども行われていたであろう荒れ果てた空間の奥に、もう一つの階段入口が見えた。
エネルギーを屋上へ供給する為の魔法陣が描かれたそのスペースでは、上下にあの青い光の円柱が貫通し、周囲を原型留めぬ悪霊が霊気や放電と共に一階以上に激しく吹き荒れていた。
僅かな躊躇も見せず、美神はその中を再び駆ける。
ここまでで衣服はあちこちが破れ、頬や脚、体中の擦傷も少なくない。おまけに煤と埃にまみれ建物内の尋常ではない熱気から噴き出す汗に溶けていた。
しかし、その目には疲れも怖れもなく・・・迷いもなく、野生の豹の様に鋭く一点を――前だけを見つめている。
ドオォォッッ・・・!
ドゴオオッ!ドガァアッ!
ドオオンッッ!
ゴオオオオオオオオオオオオーーー!
彼女が踏み込んで数歩、天井が、壁が、床が、辺りの空気そのものが、青い光の震えと同時に次々と爆ぜた。
「やああああああああーーーーーッ!」
オオオオオオオオオオ!!
その全てを振り切って彼女は走る。視線の先へと。横島がいる場所へと。
ただ一つの、ある回答の為に。走るのだ。
躍動する肢体と振り乱れながら黄金色に輝く髪、美神の後ろ姿は爆炎の向こうに消えた。
「いや・・・いや・・・ぁ・・・」
ルシオラは立ち尽くしたまま泣いていた。
ヨコシマ、ヨコシマ、ヨコシマが消えちゃう。時折瞻言の様に横島の名を呼ぶ。
彼女にとっては遠くて近い記憶。自分の身代わりにベスパの一撃を受け、魂ごと消滅しかけていた横島。
両手をこちらに伸ばした今の彼は正にあの時と同じだった。しかし、あの時と違うのは、彼女は今度こそそれを防ぐ手立てがないと言う事。
絡み付く蔓に手足を封じられたカオスは、呆れと諦めの混じった苦い表情で、自動進行に切り替わった召喚装置の表示を見下ろしている。
もうカウントする気にもなれんが・・・あと少しで第六段階が終了する筈じゃ。予定のプログラムでは、ルシオラの実体化に必要な霊基を全て召喚陣へと送信し終え、流通経路を切断する―――すなわち、横島から完全に切り離す―――事によって最終調整の第7段階に移行する。
その時、小僧の魂は形を保てぬまま、四散するであろう・・・
床に固定された状態で魔装術の限界を迎え、普段の姿に戻ってしまっている雪之丞。何度となく自らを押さえ込む棒からの脱出を試みたが、遂にびくともしないままだった。
これらの罠もあらかじめ用意されたもの。そんな厳然たる事実の一端が脳裏を掠める。
最初からこうするつもりだったのかよ。そうだよな、たった今気の迷いで作った仕掛けじゃねえもんな。もし俺がお前だったら同じ事をきっと・・・
雪之丞は召喚陣のルシオラと横島へ視線を走らせる。だけど、おい横島、その女泣いてんじゃねえか。なあ本当にそんなんで良いのかよ。
彼は先の自分の思考を打ち消す―――やっぱり、俺がお前だったらそんなマネは・・・こんな結末は選ばねえよ。
あれ程だった全身の苦痛も今は遠くに――知覚や意識の大半までもが――感じられていたが、それでも横島は目の前のルシオラの姿だけは鮮明に捉えていた。
どうしたんだよ、何で泣いてんだよ。なあ、笑ってくれよルシオラ。
朦朧な意識は彼女へと語りかけている。お前はお日様の下、笑って歩くんだ、その為に生まれて来るんだ。
太陽だけじゃない、夜空も夕焼けも朝焼けもお前を待ってる・・・朝も昼も夜も幸せに生きるのさ。
また東京タワー行こうぜ。他にも色んなトコ行こう、色んなコトしよう。
俺のお薦めの場所にも・・・ああ、勿論俺も一緒だ・・・本当、だってば・・・・・・・・・・・・ごめんな。
バリッ・・・バリバリバリ・・・バリバリバリバリバリッッ!!
電撃音が鼓膜の破れそうな音量まで高まると、縦揺れと共に亀裂は屋上の床全体に広がった。
一瞬だが横島の姿がぶれ、薄れたのをルシオラは見た。彼女はまたも彼の名を連呼し、見えない壁を連打する。
「ヨコシマっ・・・ヨコシマ! ヨコシマっ! ヨコシマヨコシマヨコシマヨコシマァァーーッッ!!」
一筋、召喚陣を真っ二つに切り裂く大きな亀裂が走る。だが青い光の柱と横島の生を最後まで奪い尽すであろう白い雷光とはびくともしなかった。
バカね、ヨコシマ。本当に――
結果でしかないかもしれないけれど、これでお前は私だけのものになる――
責めつつも、心のどこかで、ここまでしてくれた彼がどうしようもなく愛しかった。
ここまで求められている事を喜んでもいた。彼女は彼の抱えて来たものを知っている。彼自身となって体験して来たものだったから――――
だけど、こんな結末は――
「こんなのイヤぁっ! 誰か助けてっ・・・ヨコシマを・・・ヨコシマを!」
ルシオラは声を振り絞って懇願する。一体、誰がどう救ってくれると言うのか。その訴えがどこに届くと言うのか。
それでも彼女は突き動かされるままに助けを呼び、叫んでいた。
「イヤっ! こんなのイヤ! ヨコシマを助けて・・・誰かっ―――私たちを助けて!!」
―――ドォンッッ!!
彼女の声に被る突然の重い衝撃音。
屋上の角、横島達が上って来たのとは別の階段扉。周りの壁ごと弾け飛び、霊波と炎とが中から竜の如く夜空へ向かって噴き上がった。
それらと共に、何かが砲弾の様に飛び出した。その「何か」――人の形をしていた――を凝視したルシオラが声を上げる。
「―――美神さんっ!?」
横島は僅かに振り返るが、その時、彼女――美神令子の姿は彼の間近にて宙を駆けていた。
神通棍を両手に持ち高々と振り上げる彼女。自分に巻き付こうと伸びて来た蔓を尽く断ち切る。下から足を取ろうとする棒杭を逆に蹴って加速する。
そして、横島は彼を呑み込む白光ごと横薙ぎの一撃で向こうへ殴り飛ばされていた。
再び神通棍を振り上げる。振り上げて――大きく振り下ろす。横島と召喚陣とを結んでいた呪式ラインへと。
バシイィィィィ・・・ッ!!
ラインと打撃との交差で十字に閃光が走り、五芒星から大量の火花が舞い上がった。
床に転がった横島は弾かれた様に飛び上がって一際激しく痙攣したが、すぐに崩れ伏す。
五芒星の白い光は急速に収縮し、召喚陣への流れも弱まり出している。
着地した美神は2、3m大きな摩擦音と共に滑ってからようやく止まると、踵を返し、辺りへと視線を走らせた。
彼女の探し物を察したカオスが大声で怒鳴る。
「左に四つ並んだ月のマークを、一つずつ真上から突け! その次に小僧の五芒星から伸びた矢印、左から二本目と右端へ×を付けろ。最後に五芒星周りの文で“Del im・・・”で始まっとるやつを踏み消せっ―――それで緊急停止じゃ!」
ガッガッガッガッ! タタッ・・・ザザッ! ザシュッ! ダダダ―――ダンッッ!!
聞いたもの順に、一つ一つの動作を的確に実行して行く美神。
カオスの最後の指示を果たした時、横島から召喚陣へと伸びていた白い稲光は跡形もなく消え失せた。
キィィィィィ・・・ィィィ・・・ン・・・
後には僅かに飛び散る火花と、蛍みたいな光の粒の漂うのが見られるばかり。
「何だか知らんが来てくれて助かったわい・・・どれ、後はワシがやる。とりあえずこいつを切ってくれんか・・・・・・おい・・・? おいっ」
カオスの声を無視して美神は足を進める。その先には更に亀裂の広がった床を這いずる横島が。
彼は床の亀裂に指を掛け、全身を引きずる様に、五芒星を出て召喚陣へと向かっていた。
「ヨコシマ・・・・・・っ」
彼女を復活させる道が閉ざされた事に絶望を感じる――程の思考力も今の彼には残っていなかった。
あそこにルシオラがいる。だから行かないと。そして連れ出さないと。ただ彼女の許ヘと、懸命に顔を上げて這う。
そんな横島の傍らまで来ると美神は立ち止まる。そして、無防備な脇腹を鋭く蹴り上げた。
「ぐぼっ!? ぐっ・・・がっ・・・!」
一度目で爪先が深くめり込み、彼からくぐもった声が上がる。二度目の蹴りで彼の身体は引っくり返りながら転がった。
横島はうつ伏せで腹を押さえたまま、顔を横に向けて嘔吐する。
美神が再び横島へ近付く。背中を踏みつけようと右足を上げた時、不意にその足首を掴まれた。身体を捩って美神を見上げていた横島。
責めるでも訴えるでもないぼんやりした視線。美神は彼の手を蹴り払おうとするが、どこにそんな力が残っていたのかびくともしない。だが、掴まれた時と同じく突然に、横島が手を離した。
何となく、手を離されるとは思っていなかった――彼女はバランスを崩して転倒する。横島は何事もなかったかの様に顔を戻すと、また手足をもぞもぞ動かして這い出し始めた。
立ち上がろうとしても激しさを増す揺れと足場の悪さとで立ち上がれない。美神は倒れた姿勢のまま四つん這いになって横島へ飛び付くと、その肩と髪に手を掛け押さえ込む。
彼女の腕の下でじたばたもがく横島。髪を掴み上げられると、顔面を拳で殴られた。
一回、二回、三回。大して力の入ってないパンチだったが、何度も浴びる内に鼻血がだらだらと流れ始めた。
殴られている間も横島は抵抗を見せない。ただ隙を見ては前へ進もうとするばかり。
「おい美神、何やってんだお前・・・?」
呆然と見ていた雪之丞からの問いにも答えず、美神は横島に組みついて殴り続ける。更に力なく、ポカポカ叩いてると言った方が正確な位の殴り方。
横島の虚ろな瞳に微かに光が戻った。彼は強めに身をよじって美神から脱け出すと、そのまま目の前すぐ側の召喚陣へとにじり寄る。ボロボロのTシャツ、追い付いた美神はそれを両手に掴んだ。
「美神さん・・・」
首に手を回して押さえた時、横島が口を開いた。とても弱くかぼそい声。
「行かせて下さいよ・・・行かせて・・・」
「イヤよ」
即答した美神の腕が横島の首をきつく絞め上げる。潰れた悲鳴が彼の口から洩れた。
「イヤよと言ったでしょ? 逃がさない・・・これ以上行こうとしたら、殺す」
「美神ッ!?」
「――美神さん!?」
「――――うるさいっっ!!」
意味不明な、美神の横島への凶行。明らかに彼の制止を――常軌を逸脱したものだった。
雪之丞とルシオラはほぼ同時に叫ぶ。だが、彼らの声をも圧倒する一喝が、間髪入れずに返って来た。
「私がコイツをどうしようと・・・生かそうが殺そうが・・・私の勝手よ! 誰にも文句は言わせない・・・口出しさせないっ!」
美神は顔を上げた。視線の先には召喚陣とその上に浮かぶルシオラ。攻撃的に、一直線に見据える。
ルシオラもまた、困惑した表情で二人を見ていた。
「美神・・・さん・・・ヨコシマを・・・」
「渡さないわよ」
言いかけたルシオラが息を呑む。横島の首に掛けた腕はそのままで、美神は彼の頭に手をやると、自分の方へと強く引き寄せた。
「この男は――――私のものだっ!!」
「―――!」
横島を抱えながら、美神は声の限りに吠えた。
「アンタなんかに勝手に持ってかせるものか! 私の・・・私だけの自由だ! 誰の好きにもさせない! 誰にも・・・コイツ自身にだって許さない!」
しかし、彼女が言い放った直後。
ピシッ! ピシピシピシッ!
ガラガラガラッ・・・ガラガラガラガラッ!
「・・・・・・まずいっ・・・落ちるぞっっ!」
「げっ――――!?」
カオスが、次に雪之丞が血相を変える。決定的な破局の瞬間は、恐怖を感じる猶予さえ与えなかった。瞬時に訪れた浮遊感。
屋上床面は一斉に砕けて大きめの瓦礫と化し、亀裂であった空間から上がる光や煙に次々と呑まれて行く。
その場にいた者達も、召喚装置も、叫ぶ声も、全てが崩れ落ち行く中にあった。
ドガガガガガガガガガガ――――――!!!!
ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・ッ!!
ズズズウゥゥゥゥ・・・・・・ゥゥンッ・・・
爆薬解体の如く、膨大な量の土煙を上げながらやや内側へと崩落する廃墟のホテル。
その煙はGメンや野次馬、シロ、タマモ、美智恵、タイガー、唐巣、ピートのいる所まで細かな石つぶてを伴って吹き付けて来た。
見る間に建物の高さが半分になり、立ち昇る光と土煙に完全に覆われて姿を消す。
それと同時に天まで伸びていた光柱もかすれ収縮し、やがてふっつり消え失せた。
僅か10秒足らずの出来事。
一同は声も出さずにその光景の一部始終を目にしていた。
「おお、潰れた潰れた。これはまた盛大に」
山々の上空、夜空に留まり続ける一機のヘリ。開いたハッチから望遠鏡を覗き込んでいた神内が淡々と呟く。
肉眼でも何十q先のホテル倒壊と青い光線の消失は用意に確認出来た。神内は望遠鏡を下の山道へと向ける。
「彼らは速度を上げてないね・・・やっぱりあれ以上出せないのか。まあ、あと20分もあれば到着出来るかな」
レンズに写るのは木々の間を疾走する西条の車。すぐに興味をなくし、円筒の先を戻した。
「随分呑気ですね。普通なら安否を心配する所だと思うんですが」
「何、ダメな時はダメな時さ。こんな場所で僕が気を揉んだって仕方ない・・・文字通り、“高みの見物”と行こうじゃないか」
「やけに高過ぎですよ・・・諦めたら、どうでもよくなられたので?」
「まさか」
秘書の問いに答えると、薄笑いを浮かべて再び望遠鏡を覗く。
「そもそも、あの中で何が起こってるのかも分からん訳だが・・・あの人達、だよ? こんな所で終わると見る方が難しいとは思わないか?」
「はあ、そう言われてみればそんな気もしますが・・・」
そう、生きてる限りは終わらない、何が起こるか分からない――ただ、“その先”だけがある。
「そして、いつ僕が諦めたなんて言ったかね? 状況が変わって、出すプランが変わるだけさ・・・面白いアイディアは幾らでも生まれる」
「なるほど・・・承知致しました」
「彼を彼女が飼っていると言うならね、それはそれで面白い構図は他に幾らでも思いつく」
「それはまた・・・きっととても節操ないアイディアなんでしょうね」
「ハハハ、失敬な」
今度は声に出して笑う神内。笑いの後、思い出したかの様に口にする。
「“私のものだから”、か・・・・・・」
何てシンプルな答え。確かに愛だの絆だの、必要とするだの、そんな概念は彼女には似合わない。
どこでそうなったと、何を以ってそうだと言えるのか、そんな理由付けや保証すら要らない程の確信。さすがに自分もそこまで何かを強く確信する事は出来ただろうか。
「こう見えて、自信が足りないのかね僕は――」
「ええ恐らくは。社長は本質的に自信家とは正反対の所にいる人なんです。だから・・・危ういんですよ」
「・・・済まないね。今度もまあ色々と」
「それが仕事ですし、毎度の事ですから。苦労は絶えませんよ、社長のお守りは・・・まあそれでも、理事長の取り巻きに頭下げてるよりは、こっちで良かったですがね」
言葉を付け足してから秘書は肩をすくめて笑う。神内は少し気まずそうに笑い返した。
「その・・・何だ。これからもよろしく。もっと苦労する事になると思うから」
「えーーーー?」
「何だね、その返事は。仰せのままにとか言ってはくれないのか」
神内が口を尖らすと、秘書は固い表情に事務的な口調を作って答える。
「いえ私、社長の所有物じゃありませんので・・・彼と違って」
「ククク・・・似た様なもんさ。私も彼女もこっち側だからね・・・つまり、本当にこれからって事だ。君にも彼ぐらいの事やってもらおうか」
「帰っていいですか?」
下の峠を消防車の長い列が通り抜けた頃、ヘリはゆっくりと山々を東京方面へと離れて行った。
― ・ ― 33に続く ― ・ ―
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