フォールン ― 31 ― [GS]
投稿者名:フル・サークル
投稿日時:(06/ 7/22)
やあ、久しぶり・・・本当に、久しぶりだよな。
でも参ったな。まず何から言えば良いんだろう。
お前に言いたい事は山程あった筈なのに。
何だよ、まだ寝てんのか。
もーちょい頑張るからさ、そしたら目開けてくれるよな。
そうだ・・・・・・お前が起きたら
まず普通におはようって言ってやろう。
ずっと、ずっと待ってたんだ。そんな風に言える日を。
本当だぞ?
お前が呼んでいる。
お前が、そこにいる。
それを感じただけで胸がいっぱいになる。
懐かしく―――懐かしい?
私はお前と離れていたの?
ずっと一緒だった様な気もするのに。
何故こんなに切なくて泣きたくなるの?
だけど、泣くのなら、目覚めなくちゃいけない。
全てを思い出さなくては。
今の私は何も分からず、ただお前が愛しくて―――
ねえヨコシマ・・・泣いて、いるの?
召喚陣から夜空へと昇る青い光の柱。その中でルシオラは目を閉じたまま揺らめいていた。
五芒星の上から横島は、彼女へと両腕を伸ばし、白い放電状の光を放ち続けている。ゆっくりと彼自身の霊体――眠っている彼女であったもの――を、送り続けているのだ。
切り離す事は出来ない。そう言われていた。無理に切り離せば人間である自分の魂は崩壊するとも。
だが、今それは、実現されようとしていた。数多の慎重さと無謀さの末に。
横島は想像していた以上の息苦しさと痺れとを全身に感じていた。体の力が抜け、遠去かりかける意識。
しかし、閉じる寸前まで細められた両目はそれでも、しっかりと召喚陣を・・・そこに浮かぶ恋人の姿を見据えていた。
ルシオラ。口には出さず呼び掛ける。ルシオラ。もう一度、彼女の名を呼ぶ。
召喚陣を挟んで横島の向かいに並ぶ二つの五芒星。
魔装術姿の雪之丞は目の上に手をかざしながら凝視していた。カオスはバグの存在を告げた後、一言も喋らず作業に没頭している。
いかん、いかんぞ。老錬金術師から時折洩れる呟きには、あまり希望的観測が伺えない。
横島と白い光との周りを、フラフープみたいな光の輪が幾つも現れて回転し始めた。霊体固定に関係するものだろう。雪之丞は何となくそう推測する。
もっとも、カオスの言う異常がどの辺に現れているのかはさっぱり見当が付かなかったが。
かつてルシオラの着ていたあのコスチュームが現れ彼女の身体を覆った時、雪之丞はふとカオスへと声を掛けた。
「今んトコ・・・一体どの辺まで進んでんだ? 出て来たは良いけど、ピクリとも動かねえじゃねえか」
「――質問時刻にて68.2751%、全666行程中434行程が・終了です。全7段階における第4段階進行中。他・数値異常への臨時処理が・133行程実施されて・います」
カオスの代わりに頭上で滞空静止していたマリアが、雪之丞の問いへ答える。
「そんなに色々手ェ打ってたのかよ・・・で、どうなんだ? 行けそうなのか?」
「分からん。さっきから―――計画前から、言ってる通りじゃ」
今度はカオスが面も動かさず即答した。雪之丞は召喚陣と横島に視線を戻す。
ルシオラの姿はさっきよりも揺れなくなっている。その後ろ姿を眺めていた雪之丞はやがて気付いた。向こう側の横島がこちらを見ている事に。
何だよ、そんな余裕あったのかよ。口は開いていないが、その思う所は睨む顔にはっきりと書かれてあった。
てめー雪之丞、いつまで人の女のケツじっくり見てやがんだ。その尻もフトモモも以下略も俺んじゃ。
「プッ・・・ククク・・・ハハッ、ハハハハッ」
彼に対する奇妙な安堵感。今までの緊張が一瞬解け、その反動で雪之丞は吹き出して笑った。
こんな横島を随分久しぶりに見た気がするぜ。
「ハハハッ、なあ横島、さっきから気になってたんだけどよ・・・この女って、こんなにガキっぽかったっけか?」
さっきから抱いていた疑問。笑うついでに雪之丞は尋ねてみた。
言うに事欠いてガキとは何じゃい。横島は再び睨み付けて来る。
しかし、記憶違いなんかじゃねえ・・・以前見たこの女は実際はともかく、外見は俺らと同じか年上な位だった筈。
だが目の前のこいつは明らかに俺らより下・・・弓とかおキヌよりも下に見える。供給された魔力や霊体がまだ足りねえのか?
雪之丞がその考えを口にする前に、カオスが目線を僅かに上げた。
「ん・・・あんなモンじゃろう。確かにまだ足りとらんが、この召喚術式で外見年齢の変化などはない。変わったのは・・・お前らの方じゃ」
ああ、そうか。あの時二十ぐらいに見えたって事は、つまり――あれから・・・四年経ってるんだよな。
横島。お前、これからどうするんだ? どうして行く、つもりなんだ?
雪之丞は彼女の素性に思いを巡らし、無性に、色々な意味で彼に問いたかった。知りたいのではなく、彼の当たり前な返事が聞きたかったのだ。
「これより第五段階へと・移行。ミス・ルシオラのレム状態解除まで・200秒未満――その後、覚醒に入り・ます!」
カオスにとっては不必要な筈の報告をマリアが行なったのは、雪之丞と横島に配慮しての事だったろう。
キュイィィィィィィィン・・・
「む・・・?」
その時。
パチッ・・・パチパチパチパチ・・・ッ
「――――?」
最初は、横島の足元に弾けた微細な火花とリングの妙な回転音だった。
ホログラフに目を落としたカオス、その顔色が一瞬にて変わった時。
バリバリバリバリバリバリバリッ!!
「あああああああーーーーーッーー!!」
ガガガガガガガガガガガガガガガ
ガガガガガガガガガガガガガガガ
ガガガガガガガガガガガガガガガ
「―――ァァ――ァ―ッ――!!」
ガガガガガガガガガガガガガガガ
ガガガガガガガガガガガガ―――!!!!
「小僧っ!?」
「――横島っっ!!」
両腕を突き出したまま横島の全身がのけぞった直後、その姿も霞む程の稲光が五芒星から溢れ出す。
横島を囲んでいた光輪は激しく回転しながらも歪み、ぶれ始めている。いかれた発電機の様な、放電と軋みのつんざく爆音。その中で途切れながらも響き渡る彼の絶叫。
「マリアッ!」
カオスの怒鳴る声に応え、マリアはロケットアームを横島を包む閃光へと飛ばした。
その両手が光輪の一つと白い放電の表面に張り付くと、彼女の内蔵ディスクが高速回転を始め、その両目が光を帯びる。
「データ・転送モード。霊力磁場への・直接干渉を開始・します!」
カオスの四方を高い壁の様に数字やコマンドの列が展開される。その多くが、エラー表示と警告とに蝕まれ尽していた。
一心不乱でそれらに修正を加えて行くカオスだったが、エラーの増殖速度は彼らの打つ手を遥かに上回る。
召喚装置の異変は更なる事態をもたらす。突き上げる振動と共に横島の足元から――そこ以外のあちこちからも亀裂が生じ、屋上の床面を、ゆっくりと広がり始めていた。
「霊体固定能力帯域・急速に収縮。圧力低下。霊体維持危険・レベルC。現在の変化状態にて――100秒以内にレベルBへ・突入します!」
おのれ、くそっ、くそっ。数値の修正に奮闘を続けていたカオスの口からは小さく罵る声が洩れ始める。彼の尽力が悉く無に帰している事は、傍で見る雪之丞の目からも容易に窺い知れた。
やがて、カオスは両手を止めてうなだれると、深く息を吐いた。天才錬金術師としてのプライドがこの大仕事の顛末を受け入れ難いのか、珍しい程に苦く沈痛な声で彼は宣言する。
「当召喚術式は・・・失敗じゃ。この先の問題解決は成し得ん。現時刻を以って・・・中止とする」
「くそっ・・・・・・おい、横島・・・横島っ!」
カオスの言葉に雪之丞も苦々しげに吐き捨て、横島へと呼び掛ける。
だが苦悶の中のけぞったままの彼に反応はない。
「聞いてるか横島! 中止だ中止! これ以上はもうヤベぇっ、おいっ、とりあえず腕下ろせ!」
「緊急停止するぞ。その後、陣を逆回転させて状況を復旧させる・・・つまり、小僧の中へ全て戻す・・・」
カオスは右手を掲げ、空中に新たなパネルらしきものを呼び出す。
その時、横島が目だけを彼らへ向け短く呪文を唱えた事に気付けた者はいなかった。
シュッ・・・ギュルギュルギュルギュルッ!
突如様々な角度から伸びて来た蔓に、カオスの両腕と全身は一瞬で絡め取られていた。
「な・・・っ!?」
カオスは蔓の根本へと視線を走らす。
自分が教えた覚えはない――横島が途中から書き加えたらしい呪式からそれらは伸びて来ていた。
「ここまで来て止められねーよ・・・終わらせ・・・ねーよ。こんなトコ・・・こんなんで終われっかよ・・・」
「――――横島ッ!」
「・・・・・・終われねーよっ・・・止められねーんだよッ!!」
「てめえっ、やっぱり・・・!!」
息も絶え絶えに、それでもこちらを横目で裏切りを口にする横島。雪之丞は自分への蔓が到着する前に五芒星を蹴って飛び出していた。
「言った筈だぜ! ブッ飛ばしてでも手足へし折ってでも止めさせるってな!」
「横島・さんっ!」
雪之丞と同時にマリアも、ロケットアームを巻き取りつつ、横島へと急降下を始めていた。
僅かの間に横島へ迫っていた二人だったが、しかし、彼の手前で火花を立てて弾き飛ばされてしまう。
「がぁっ!?」
「――小僧には近寄れんぞ! 召喚陣とそのラインで流れの設定を変えるんじゃ――まずは流れを止め」
させない。はっきりと、力の込められた横島の声。床に投げ出され腰をついていた雪之丞とマリアの周囲から、何本もの霊波を乗せた鉄パイプが一斉に突き出した。
二人ともその体勢のままで全身をおびただしい数の棒に挟み込まれ、完全に身動きが取れなくなってしまう。
「横島ァッ! 横島あーーーーっ!!」
苦痛からの叫びを断続的に上げながらも召喚陣を真っ直ぐに向いていた横島は、雪之丞の声に彼らを一瞥する。苦悶の中、刹那に浮かべた眼差し。
再び前へ顔を戻した彼に、雪之丞は痛々しげな声で吐き捨てた。
「この・・・馬鹿野郎・・・ッ」
青い光の柱は遠くからでも見る事が出来た―――遥か遠く、未だ暗い山道を疾走していたオープンカーからも。
そして、山の向こうから伸びていたそれが、突如様々な色の火花を放ちながら上から怪しげに波打ち始めていたのを。
そして―――ホテル周辺では建物の急激に壊れ行く有様として、その異変を見る事が出来た。
ドドドドドドドドッ!!
ガタガタガタガタ・・・バキャアアアッ!!
ベリッ・・・ベリベリベリッ!!
突如湧き起こった新たな怪音。
土台や鉄筋など存在していなかったかの様に揺さぶられている廃ホテル。
「一般人はもっと遠くへ! Gメン隊員も――――倒壊を想定しての距離を常に保ちなさいッ!」
倒壊。美智恵の指示にあるその不吉な単語でシロの顔色が変わった。
「先生っ! 先生・・・は!?」
「この場にいる者が最優先よ!」
全ての窓から炎の如くオレンジ色の霊波を噴き出しているホテルは、内側での爆発と外の結界とのパワーバランスで原型を留めてるとしか見えなかった。
内部はさぞ凄まじい事になっているだろう。そして屋上。
先程、落雷音と共に青い光へ纏り付く稲妻が見え始めてからは、何が起こってるのかすら見当が付かない――彼らの予定通りなのか、それとも何らかのアクシデントに見舞われているのかさえも。
ドゴオオオオッ!!
三階の一角が内側へと崩れて凹んだ。その周囲は変わらないままで。
「―――先生っ! 先生っ! 先生っ!」
建物へ向かって走り出そうとするシロ。
美智恵が呼び止めようと口を開きかけた時、ノイズと共に無線が入った。
「ザザッ・・・こちらD‐4、渓谷前。応答願います。こちらD‐4ザザ・・・本部応答を・・・」
それは、ここから2q程離れた橋のたもとで通過車両を監視するポストだった。
この一連の騒ぎで忘れ去られていた場所からの呼び声に、美智恵はレシーバーを取る。
「こちら本部。D‐4どうぞ」
「只今、時速200q以上の走行速度にて通過した乗用車あり。赤のオープンカー、車種未確認。東京方面より現場方面へと向かっています・・・」
ヨコシマ、ヨコシマ、ヨコシマ。
ねえどうしたの? ここはどこ? 私は――私は――私――――
長い眠り。深く、長かった眠り。
彼女は遂に目を覚ました。
ルシオラの視界は一面の青い光で埋め尽されている。まだ夢の続きかしら、彼女は思ったが、先程までと違う感覚の確かさがそれを否定した。
果てが見えない程の強烈なオーシャンブルー。その中に、自分と向かい合う様に、鋭くも何故か安らぎを感じる白い光が差し込むのに気付いた。
眩い光の奥、彼女へ向かって手を差し延べている者は―――
「ヨコ・・・シマ・・・」
ああ、ずっとお前に会いたかった。ルシオラは一言、彼の名ばかりを口にした。
彼女の目覚めと呼ぶ声とに気付いた彼。花が咲くかの様に喜びの色はその顔に広がって行く。
だがそれでも、彼の様子はまだとても苦しげだった。
「ねえ、ここは・・・」
ここはどこなの。お前は何をしているの。どこか・・・痛いの?
私はどうなっているの。何だか周りが良く見えない。次々と浮かぶ疑問を順に尋ねようとして、彼女は気付いた―――彼の霊体が崩壊しかけている事に。
そして、全てを一斉に思い出す。
彼の中で共に体験して来た事の全てを。今日まで彼がどんな気持ちでいたのか、何を考え、何をして来たのか。その結果として、今、何が起きているのか。
彼女は理解した。
光の向こうの横島は再び無理に笑顔を浮かべ、彼女へと言う。
「やあ・・・ルシオラ・・・・・・・・・おは・・・よ」
彼の挨拶を待たず、ルシオラは青ざめた顔で叫んだ。
「――――何バカな事してるのヨコシマっ! 止めなさい、今すぐ止めるのよ!」
反射的に横島へと駆け寄ろうとするが、浮かんだ場所から一歩も前に進めない。
頭では分かっていた。今、自分が存在する事自体がその「バカな事」あってのもので、未だ自分は仮そめの存在なのだと。
ここから出られるまでになった時、彼はもう―――
「ダメっ、ダメよ・・・ヨコシマ、ヨコシマっ! お願いっ、私の話を聞いてっ・・・」
ルシオラは更に声を張り上げ、激しくノックするかの様に両手を前で振り回す。
まるで水の中、見えない壁を前にもがいているかにも見える動作だった。
だが、そんな彼女へ横島は顔を伏せ、何度も首を横に振る。
辺りを見回すルシオラ。何度も同じ場所で目を凝らす内に、青い光の膜越しで蔓に絡め取られたカオス、何本もの床から突き出た棒
に阻まれて立つ事すら出来ないでいる雪之丞とマリアの姿がうっすらと見えて来た。
「ね、ねえっ、アナタ達ヨコシマを止めてよ! 何してるの、早く、お願いっ・・・! このまま・・・このままだとっ」
三人から返って来る視線と沈黙。言葉に聞くまでもなく彼らが動けないのだと、ルシオラも頭では分かっていた。
そして、目の前の彼が決して止まったりはしないのだと。最期まで。
横島の記憶は彼女の霊基の一つ一つが憶えていた。それに加えて、彼の今の感情も霊体やエネルギーと共に伝わって来ていた。
寂しくて、見送るしかなくて、それでも自分を受け止めてくれる場所が欲しくて。
かけがえのなかったものを自ら投げ捨てた後悔に苛まれて。
せめて清算を――故に彼女を、全てのやり直しを求め――果てに破滅をも選ぶ。
そんな本末転倒の愚か過ぎる結論。日毎の夢と現実の入れ替わった心。
それは彼女への愛なんかじゃなかったかも知れない。だけど彼がそんな顔して最後に槌り付いた先は、他の誰でもなく彼女だった。
壊れそうな彼は、彼女と目が合う。彼はやっと家に帰れた迷子の様に笑った。
「ヨコシマの、バカぁ・・・っ!」
泣き出しそうな声で横島を責めるルシオラの瞳は既に溢れ、大粒の滴が幾つも頬を一筋伝い落ちていた。
ドドドドオオオオーーーーッ・・・・・・
「先生っ、先生っ、センセーーーーェッ!」
「おいっ、どこへ行く!? ここから先は・・・」
揺さぶられながら至る所で小さな爆発と崩壊を繰り返す廃ホテル。駐車場反対側に設置された避難スペースで、シロはGメンの制止を振り切て前庭方向へと駆け出していた。
横島が間違っていたとも自分が間違っていたとも思わない。だけど、このまま会えなくなるなんて嫌だ―――今行かなければそうなってしまう様な気がしていた。
せんせえは、がんばったのでござる。だから拙者は、せめてお側に。
エントランス前ロータリーまで足を踏み入れた時、後ろから飛び付かれて転びアスファルトに尻もちを付くシロ。振り向くと驚きの声を上げる。
「タマモ!? 離すでござる!」
「・・・また、アイツ以外お構いなしで突っ走るつもり!?」
タマモの言葉直後に彼女達の頭上、二階外壁が窓4つ分、粉々に吹き飛んだ。爆風と細かな破片は二人のいる所まで降り注ぐ。
「―――!」
シロの頭を押さえ自分も身を伏せるタマモ。二人が顔を上げると、外壁のなくなった箇所からその内部が丸見えだった。
柱も仕切り壁もボロボロで、炎と霊気とが吹き荒れる客室。そして逃げまどい暴れる凶暴な悪霊。
シロやタマモの力でも、それらを突破して屋上へ到り着けるかどうかは定かではない。
「アンタとの勝負・・・本当はまだ着いてないんだからね。言ってやりたい事は、まだ沢山あるんだから・・・聞きたい事だって」
八つ当りでひどい言ったのは謝るから。言い過ぎだった、ごめん。シロの背中を掴み寄せながら言うと、タマモは続けて言った。
その言葉に息をついて肩を落とすシロ。彼女は振り払おうとする力を解いた。
「タマモ・・・しかし、先生が・・・先生達は・・・」
シロは息をついて振りほどこうとする力を抜きつつも訴えた。Gメン達や現在多くの一般人の避難誘導を手伝っていたタイガーも二人の許へと駆け寄って来る。
ブロオオオオオ・・・・・・オオオオオオオオオオッ!
力を抜きつつも尚も彼女が背後のタマモに訴えた時、沿道を急速に近付いていた爆音。
彼らの耳が聞き取った音を認めた時には、既にそれは目の前へと現れていた。
オオオオオオオオオオッ!
ドガァァッ―――ズシャアッ!
「――美神どのっ!?」
検問台をはね飛ばし土嚢に乗り上げジャンプした赤いオープンカーは、シロ達の目の前で荒々しく着地すると、そのまま廃ホテルめがけて突っ込む。
「美神さん・・・! どうして?」
「令子っ! 唐巣先生に・・・ピートまで?」
無線を聞き沿道にその車体――と娘の姿と―を見た美智恵も駆け付けて来た。
ギッ、ギャギャギャギャギャギャギャッ! ザザザザザッ!
唐巣の運転するコブラがタイヤを軋ませながら車体後ろを流す。エントランス前の上り段を僅かに擦った時、後部座席から
加速をバネに飛び出して来たのは、神通棍片手の美神の姿だった。
今はボロボロになっていた正面入口結界壁、彼女はそれを邪魔だと言わんばかりに一振りで切り開く。
――ズシャアアアアアッッ!!
切れ目から一斉に吹き出した霊波をもう一振りで横薙ぎに払った。内部ロビーを数m先まで空白地帯が作られる。
神通棍を構えたまま美神は床を蹴り、ロビーへと・・・あらゆるものが混沌と渦巻く建物内へと身を躍らせた。
彼女が飛び込んだ直後、激しい地響きと共に一階全体が崩れ落ち、高さ半分にまで押し潰されてしまう。
その崩壊は二階へ、更にその上の階へと拡大して行った。
― ・ ― 32に続く ― ・ ―
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