ザ・グレート・展開予測ショー

彼女の場合(絶対可憐チルドレン)


投稿者名:ヤドリギ
投稿日時:(06/ 7/15)

自分ならば大丈夫

自分ならばそんなことをしないなどというのは所詮机上の空論で、

実際にその立場に立ってみなければわからないものである





『彼女の場合』




その時、花井ちさとは目撃した。

(あれっ!?あそこに居るのは薫ちゃん…と誰かな)

既に授業は終わり、遊びたい盛りの小学生達は我先にと下校していく。
そんな中、職員室で先生への用事を済ませ
教室へ戻ろうとしていた花井は見知った顔を見つけた。
同じクラスメートで仲の良い明石薫である。

薫の傍に立っている男子生徒はどうやら上級生のようだった。
上級生とは交流のない花井には、誰だかわからなかったが
格好良い容姿をしているのは見て取れた。

もしかすると薫の様子は変だった原因はコレだったのではないか。

今日一日、明石薫は普段と少し違っていた。
いつも以上に落ち着きがないというか、そう特に―――紫穂を意識していたのだ。
別にコレ自体は珍しいことではない。
たまに薫が紫穂や葵を驚かそうとして何か企んでいる時などにみられる兆候だ。
紫穂からサイコメトリーをされないように平静を装いつつ一定の距離を置こうとする。
最も二人にはその行動だけで何か企んでいるとバレバレなのだが…
だから、薫が急用があるからと終了のチャイムと同時に教室から飛び出して行った時も

「今度は何を思いついたンやろ」

と二人で訝しげに会話していたものだ。

花井自身も何か悪戯でもするつもりなのかなと思っていたが、
この二人の密会が答えのようだった。

(気になる…けど盗み聞きなんて良くないよ)

うーん、うーんと善悪の葛藤に苛まれながら
こちらには気が付いていない二人の傍を出来るだけ牛歩で進んでいると
衝撃的な言葉が耳に飛び込んできた。

「明日の土曜日…デートに付き合ってほしいんだ!」

上級生の男子が薫の顔を真剣に見つめながらそう言い放ったのだ。
その言葉が頭に入り咀嚼されている間に
惰性で動いていた足は中庭を渡りきってしまった。

教室へ向かってのろのろと階段を昇り、ふと後ろを振り返ると
上級生とは既に話が終わり別れたのであろう――嬉しそうな笑顔で靴箱へと向かう薫の姿が見えた。


花井はほんの少し前に起こったある出来事のあらましを薫から聞いていた。
葵と紫穂が上級生と遊びに行ったときに何か危機感に駆られた薫が監視しようと躍起になったのだ。
自分と同じくクラスメートの東野も最初は手伝っていたが、
薫には悪いと思いつつも途中で抜けさせてもらった。
その後、一悶着あったらしいが仲直りすることができたらしく
「あいつらはいつまでも親友だぁ!」
と上機嫌に話してくれた。

だから――なのだろうか…

親友という言葉を信じたからか
それとも葵と紫穂のデートの時に行ったスパイ行為に罪悪感を感じていたのか
もちろん二人に対する信頼感もあっただろう

普段ならこのように告げ口めいたことは絶対にしない花井は
教室にまだ残ってお喋りを続けていた葵と紫穂に先ほどの出来事を話してしまったのだ。


初めのうちは目を丸くさせて互いに見合っていた二人だが、口元を綻ばせると

「何や何や、薫のやつも隅に置けんなぁ」
「本当、いったいどんな人がお相手かしら」

とにっこりと微笑みあった。

つられて花井も笑った。
この感じる雰囲気が嘘なのだと信じ込む為に、笑った。

(ウン、ヨカッタ。ヤッパリ サンニンハ ナカガイイナァ………………薫ちゃん、御免なさい御免なさい御免なさい御免なさい御免な)

本心では自分の犯した失敗に気が付いているご様子


この日、少女は自分の無力さに枕を濡らすこととなる。
また一歩
大人への階段を昇った気がした。








薫の覗き見に対して、かつて葵と紫穂はこう言った。

「サイテ―――!!」
「カッコ悪!!」

監視、ましてや妨害に出るなんて…
薫の思慮の浅さと子供っぽさに呆れたものだ。

そして今――
何故か二人はサングラスを装着し、薫の後を追っていた。

(邪魔なんてしない。純粋な好奇心からだ)

などと上面を装っても、既にあれだけ馬鹿にしていた監視を行ってしまっている。


二人の心境は複雑だ。

先日の一件は三人の絆は再確認させたようなものだった。

だからこそ、
あれだけ非難した自分達が、
かつて自分が立った立場に薫が居ることに関して、
何故これほどまでに強い感情を抱かねばならないのか…

そもそも二人は薫を妹のように思っていた。
いや、妹というのは語弊がある。
二人は薫に対して常に精神的に年上…大人な立場にいるように感じていたと言うほうが正しい。


そんな風に捉えられていた薫が上級生とデート


…どう反応すればよいのだろう。
理屈では説明できない、もやもやとした感情が渦巻いていく。

アレは実際に自分達が行った行為なのだ。
何も文句をつけられる謂れが無いことは、身に染みてよくわかっている。

三人がバラバラになるのを誰よりも嫌がった薫
あれほどまでに『絆』を求めた薫だから、チルドレンから離れていくはずがない。
そう――頭では理解していても納得が出来なかった。

(私達は自分が思うよりもずっと子供なのかしら――)

紫穂はちらりと背後を窺った。
そこには誰も居ない
その場所に正真正銘の大人を連れてくるつもりだったのだが――


『キミらがそんなことでダメになるはずがないだろ?』


という一言を残して、皆本は用事があるからと出かけていってしまった。
葵と紫穂は知る由も無いが、奇しくも前回薫が同行をねだった時に言ったセリフとまるっきり同じである。


そういうわけで――現在
紫穂と葵の二人で
薫のデートを監視中なのである。

幸いにもデートのことは桐壺局長にも兵部にもばれることはなかった。







二人は監視を続けた。

午前中は映画館へ
その後マクドナルドで昼食
そして今は公園にいた。

子供の範囲内での精一杯で正統派なデートコース

薫の顔に何度目かの笑顔が浮んだ時、葵のもやもやは限界を超えようとしていた。

(わかる……わかるで。なんであんなに邪魔しようとしていたかが!)

そもそも薫は何故、自分がやられたら嫌だったことをしているのだろうか。
ばれさえしなければ隠れてデートしていいとでも?
いやいや、薫は見られているなんて知らずにいる。
それにデートが悪いことじゃないことぐらいわかってはいるのだ。
…どうして自分は先日の一件であのような対応をしてしまったのだろう。
あのような対応をとらなければ『このような状況』の時に堂々と妨害を…
待て!!矛盾しとるで自分

うんうんと唸りながら思考迷路に迷う葵



そんな葵と比べて外見上冷静な紫穂だが、心の中では友情と腹黒い思考の板挟みにあっていた。
ここで万が一、薫に恋人ができれば恋敵は一人減る。
いや、しかし恋人が出来たとしても桐壺局長が許すはずがない。
あとやたらと薫のことを気にかけている兵部中佐も放って置くわけがない。
十中八九、くっついたとしてもすぐに別れることとなる。
しかし…劇的な別れのあとに背中を押して諦めないよう応援してあげるのが本当の『友情』なのではないか(ニヤリ)
いや、しかし待て。交際が始まるのは万が一の話だ。短絡的な思考は自分の身の破滅を誘う。
もう少し確実な要素がなければ…

…………腹黒い思考しかないように見えるのは気のせいだ。



そんな風に手を出しあぐねている二人を尻目に、
状況は刻一刻と変化していく。


上級生の男子が薫に真剣に一言、二言語りかけた。


薫が明らかに動揺している。
目を真ん丸に見開いて、思考停止しているのが見て取れた。
告白――されたのだろう。
二人には見て取るようにわかった。

食い入るように成り行きを見つめる葵と紫穂


どれぐらいの沈黙が流れただろうか
上級生は意を決したように肩に手を置き、固まって身じろぎしない薫に向かって徐々に顔を近づけて……




『――――ダメェェ!!』



深く考えはしなかった。
その行動に打算は存在しなかった。
ただただ薫の本心――好きな人を知っている二人には一方的なキスなどという行為を許せるはずがない。

二人は草陰から飛び出した。

葵は薫の腕を掴んで身を引かせ、
紫穂は二人の前に立ち、上級生を睨みつける。


感情的な行動の後に成り立ったポジションは
あっけにとられる上級生と
切れない絆に結ばれたザ・チルドレンの二極となった。

「紫穂、葵…」

薫は突然の二人登場に驚きはしたものの、後ろめたさからくる動揺などしなかった。
いや…むしろ安心したようにも見える。

そして薫にしては珍しく、二人の行動から全てを察したようだ。

その顔に浮ぶのは何と表現したらよいのだろう
信頼
安堵
とにもかくにも笑顔であるのは間違いない。


「二人とも、アリガトッ!……先輩と話しつけてくるからちょっと待ってて」


そうして薫は未だに状況を把握しきれていない上級生に向き直った。







「結局断っちゃったんだ。もったいないなぁ」
先ほどまで慌てぶりは鳴りを潜め、しれっと紫穂が呟いた。

「そやそや、同意の上だったらウチらも止めるなんて野暮な真似せーへんかったで。
 気を使わんでええんよ?」
こちらは正真正銘の照れ隠しだ。

「いーんだよ。楽しかったのは確かだけど実際には恋愛感情なんて感じてなかったし
 初めて男子からラブレター貰ったから舞い上がっちゃったというか…」
半眼で猫が睨むように二人を見据え、薫は呟いた。

哀れ、上級生(名無し)に勝算はゼロ
既に彼は退散し、公園は夕日に包まれようとしている。

しばらく見詰め合っていた三人だが、やがて誰からともなく笑い出した。




そんな微笑ましい光景を見つめる四対の眼

その一人は特務エスパー「ザ・チルドレン」の実質上保護者である皆本光一であった。

薫のデートが心配でこっそり様子見…ではなく、
大学の同期である知人に会いに行き、
知人と二人で出かけようかとした所で偶然にも告白場面に出くわしたのだ。
葵と紫穂が飛び出した時は焦ったものだが、
幸いにも万事丸く収まってくれた。

安堵する皆本に、知人が語りかけた。

「あの子達がザ・チルドレン?」

話の種に使わせてもらっていたので、改めて説明することもないだろうと簡潔に頷いた。

「ふーん、何か君の説明よりもずっと良い子のようだけど?」

その言葉に皆本は苦笑い

知人はそんな皆本の表情を興味深げにみている。

「良い表情をするようになったね」

…そうなのだろうか
その言葉の意味を考えあぐねていた皆本だが、この場を去ろうと知人に囁き
二人が踵を返そうとした時、思いもよらない言葉が投げかけられた。


「それにホラ!皆本も何時までも隠れてないで出て来いよ!!」


皆本はその場で固まった。
――ばれていた?何時からだ
告白場面からしか今回の出来事を目撃していないのだから
紫穂と葵が飛び込んだ時、一瞬だけ身を乗り出したあの時だろう。
自問自答終了!
まずい、この状況は非常にまずい!!


「えっ、皆本はん…そこに居るの?!」
「あらあら気が付かなかったわ。あんなこと言っておきながらずいぶん過保護ね」
驚きと嫉妬の言葉が漏れる。
薫はウシャシャシャと笑いながらテレキネスで皆本のいる草陰を掻き分け――





皆本と――――――――見目麗しい大人の女性を発見した。




時が、凍る



どうやら薫は皆本のみがそこに居るものだと考えていた御様子

沈黙を破ったのは紫穂の声だけ聞くと可愛らしい笑い声だった。


「ふふ、ふふふふふふふ………」

その声がきっかけとなり、次々と再起動するチルドレンたち

「皆本ぉぉぉ…どういうことだ、それ」
「皆本はん不潔や、不潔不潔不潔不潔…」

もう、言い訳、無用


――いかん、このままでは関係の無い夕子まで巻き込んでしまう!
素早く正気に戻し、この場を離脱させなくては「って、もういないしぃぃぃ!!」

隣にいたはずの悪友は既に影も形も無かった。
いや、確かに逃げるよう促そうとしたけれど――

「薄情ものぉぉぉぉー!!」

叫ばずにはいられなかった。



「あの女はとりあえず放っておきましょう…今は、皆本さん、わかってるわよね」
紫穂が氷の微笑を浮かべつつにじり寄る

「確かに今はコチラの方が重要やな…」
葵が肩を震わせながら冷ややかに呟く

「いや、待て!話を聞いてくれ
 あの人は大学時代の同期でただ食事に行こうかと…
 二人とも同意の上!同意の上ならば別に問題は――」

その科白がトドメだった。

「皆本のぉ!浮気者ぉぉぉ!!!!」

容赦ないテレキネスがほとばしる
辺り一面、力場により崩壊へと一直線


「不条理だぁぁ!!!」


乙女心を解せなかった皆本に合掌







余談
夕子との関係の潔白を3日かけて証明させられた皆本は
罰として一人一人デートをするという約束で決着をつけることとなったそうな。

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