ザ・グレート・展開予測ショー

〔○○の半分は優しさで出来ています!〕


投稿者名:斉貴
投稿日時:(06/ 7/12)



「拙者は・・・、拙者は・・・・、回路とやらではござらぁぁぁぁぁぁぁぁぁァァァァァァァんっ!!」


 大音声。

 まさにそう呼ぶに相応しい声が此処、[美神令子除霊事務所]を震わすように浸透させた。

 思わず食いかけの素麺をつるりと箸から落とし、呆気に取られた表情で横島は美神は固まっていた。

 ただいまの時刻は午後三時。おやつ時な時間ではあるが仕事の依頼上、横島と美神は今が昼飯時になってる。何のことはない、単に時間がずれただけだ。

 時にフリーズタイムは二秒。再起動した横島は呻く様に、口を開けた。

「・・・・今の」

「シロ、よね?」

 横島の向かいで、同じく素麺を啜っていた美神が似たような顔をしていて呟く。

 瞬間、けたたましい騒音が耳を劈いた。その音は段々と大きくなり、こちらに近づいてきている事が分かる。それも凄い速さで、である。

 何となく予想のついた状況に、横島は思わず苦虫を噛んでいた。激しく彼の脳が危険信号を発しているが、経験則が避けられないと訴えている。

 どんな状況なのか?

 決まっている、厄介ごとの足音だ。

「せぇぇぇぇぇぇぇぇぇんせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ一ーーー!!」

 ドアが弾けるように開き、そこから高速で何かがダイブしてくる。

 ターゲットは横島。だが当の横島は何する訳でもなく、悟ったような顔をしていた。

「美神さん・・・・」

「何よ?」

「俺の分の素麺、残しといてくださいね」

「・・・・・・分かったわ」




                            〔○○の半分は優しさで出来ています!〕




「・・・これが言ってたやつか?」

 所変わって場所は氷室キヌの部屋。

 割と広々とした部屋ではあるがそれに反して置物は少ない。だが、所々に女の子らしい小物やアンティークが並べられており、小奇麗に整頓されている。それには部屋の持ち主の性格が伺うことができるだろう。 しかし、そんな中でいまいち不釣合いに鎮座している物が在る。

 デスクに置かれたノートパソコン、それである。

「そうでござる!そいつめが拙者を愚弄しあまつさえ・・・・・」

 拳をぐぐっと握って瞳を憤怒に燃やし、何やら語り始める。

 だが、

「にしても、オキヌちゃんってパソコン持ってたんだ?」

 感嘆とした声で横島が言う。因みにシロの語りなど全く聞いていない。

「はい、つい最近ですけど美神さんに買ってもらったんです」

 少し照れておキヌが答える。横島は、へえ、と感心しパソコンへと目を向けた。

 機種としては割かし新しいものだと思う。最もパソコンの知識があまりない横島にはよく分からない。それに横島以上に興味津々とパソコンに噛り付くタマモの頭でよく見えなかった。

 今、おキヌの部屋には、横島、おキヌ、シロ、タマモの姿があった。

 あの後、横島は高速の物体――というかシロ――にダイブされ、押し倒すは舐めるは、とりあえず落ち着くまでやり通された。因みにその間横島は押し倒された時に頭を打ち気絶。美神はジト目でその光景を眺めながら素麺を食っていた。

 とりあえず三分くらいだろうか。シロは落ち着き冷静に戻ると、横島を起こしおキヌの部屋へと拉致り、今へと至った。

「・・・・・・・・・・・・・横島先生、聞いているでござるか?」

「んあ?いや、全く」

 やっとこ横島が聞いていないことに気付いたシロ。けれど横島に全く悪びれた様子はない。

「せんせいぃぃぃぃぃ!酷いでござる、酷いでござるっ!!先生は拙者が嫌いでござるか、そうなんでぞざるか!?拙者が何かしたでござるか?そりゃいつも散歩で先生の言うこと聞かずに突っ走っているでござるが、あれはしょうがないんでござる!野生の血でござる!散歩がないのは首がないのと一緒なんで――」

「やかましい。意味分からん。お前の話は主観が強すぎんじゃ。全くわけがわからん!
・・・・・・で、これはどうゆうことなんだ?」

 横島は視線をタマモへと向ける。こういった場合、常に一歩引いた視点で見てることの多いタマモから聞くのが手っ取り早い。

 タマモはやや眉を寄せて淡々と返す。

「別に、どうもこうもないわよ。ただ馬鹿犬がこれを見て暴れただけ」

 タマモが横にずれてパソコンの画面を見せる。


犬塚シロの81%は回路で出来ています。

犬塚シロの3%はマイナスイオンで出来ています。

犬塚シロの15%は自己解釈で出来ています。

犬塚シロの1%は信念で出来ています。


「・・・・・・なんじゃこりゃ?」

 思わず唸る。いやだって意味わかんないし。

 と、そこでおキヌの補足が入る。

「ああ、これ成分解析っていって今六道女学院で流行ってるんですよ。知りませんか?」

「成分解析?」

「はい。成分、というか何かしらの名前を入れるんです」

「成る程、それで・・・」

 パソコンの画面を再び見直す。そこにははっきり、犬塚シロと名がある。

「うん、まあ大方の見当はついた。で、シロ?」

「はいでござる!」

 今まで放置される形になっていたシロは勢いよく返事した。

「俺にどうしろと?」

 簡潔に一言。

「え?いや、それはその・・・・・・」

 シロが口籠る。横島の横にいるタマモが、小さな声で馬鹿犬といったのが聞こえる。まあ、今の横島の心情的にも同意見ではあるが。

「あの、え〜と、せ、先生なら何とかしてくれるかなぁーって・・・・・」

「ほう・・・・」

 とりあえず、いの一番に頼ってくれていることはむず痒いなりに嬉しい。それだけ自分が相手の支えになっているという事でもあるし、尚且つ慕ってくれているということでもある。

 けど、これはどうよ?

 態々このためだけに折角の素麺を、依頼の関係で遅くなった俺と美神さんのためにおキヌちゃんが作ってくれた素麺を、給料日前の激貧時の俺の素麺を、素麺を、素麺を!・・・・食いっぱぐれたってというのか?

 ふつふつと横島の中で怒りが芽生える。大人気ないという無かれ。彼の激貧、いや、超激貧は本っ当に洒落にならないのだ。

「凄いな、シロ」

「・・・・・・?」

「お前の体、回路でできてるんだな。今度から電気食え、な?」

「あううううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!」

 グサッと音が聞こえる。

「そうだな自己解釈かぁ。早い話自分勝手に納得する馬鹿犬って事だわなぁ?」

「あううううううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!」

 グサグサ

「マイナスイオン、確かにマイナスイオンだ。マイナスイオンくさいし」

「あううううううううううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!」

「いや、意味分かんないし・・・」

 小さくタマモが突っ込む。もっとも側にいたおキヌぐらいしか聞いていないが、おキヌはおキヌで苦笑するのみだった。

 因みにシロはといえばいかにも茫然自失、目線が定まっていない。

「うう、拙者は馬鹿犬・・・?拙者は回路・・・?実は体の中にはちゅーぶとやらが通っているでござるか・・・・?体はめたる、心はほっとなはーと。あ、ちょっといいでござるかも・・・・」

「こっちはこっちで馬鹿だし・・・・・」

 タマモが如何にもな溜息をつく。

 なお横島の攻撃、いや、口撃は続く。

「おいおいシロ?まだ壊れるには早いぞ、取って置きのネタが一つ残ってんじゃないか」

「あぅ・・・・まだあるでござるか・・・?」

 びくっと震えてシロが後退る。それに横島は満面の笑みを向けた。そう、それは天使のような、

「そりゃそうだ。何てったって――」

 悪魔の微笑。

「信念1%の武士、なんて聞いたこともないもんな。だろ?」

「あううううううううううううううううううううううううううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!!」

 クリティカルヒット!いぬづかしろはたおれた。

 部屋の端でのの字を書くシロが出来上がった。

「ふう、すっきりした」

 言って横島は、満面の笑みで額の汗を拭う。といっても汗自体かいていないが。

「やりすぎですよ、横島さん・・・」

「おキヌちゃん、小さいことは気にしちゃいけないよ?」

 はあ、とおキヌは呟く。もしかしたら言うほど心配してないのかもしれない。何せ日常茶飯事な事だし。

「で、おキヌちゃん。これどうやんの?」

「やるんですか?」

「おうさ、来たからには多少なりとも元取らないと・・・・」

「は、はあ・・・・」

 極度の貧乏性である。おキヌはそんな横島に微妙に引きながらパソコンを操作する。

「・・・・・・と、名前は自分で入れます?」

「いや、頼むよ」

 分かりました、と言っておキヌはそのままキーボードを打つ。

「でました」

「ん、どれどれ」


横島忠夫の38%は華麗さで出来ています。

横島忠夫の26%は愛で出来ています。

横島忠夫の16%は宇宙の意思で出来ています。

横島忠夫の11%はハッタリで出来ています。

横島忠夫の5%は回路で出来ています。

横島忠夫の2%は赤い何かで出来ています。

横島忠夫の1%は運で出来ています。

横島忠夫の1%はカルシウムで出来ています。


「華麗、愛?横島が?」

 呟いたのはタマモ。その顔は不相応だと物語っている。

「・・・・悪かったな」

 憮然として横島が言う。けど悲しいかな、横島自身心中で頷いていた。だがそれ以外は的を射ていないことも無いだろう。宇宙の意思叱り、はったり叱り、運叱り、カルシウムと回路はともかく、赤い何かは言うまでも無い・・・。日ごろの自分の姿だ。

 考えに思わず顔をしかめる。

「そういうお前は何なんだよ?」

「私?私は・・・そうね。別になんだっていいけどやるだけやってみようかしら」

 パソコンの正面にいるおキヌの端からタマモがキーボードを打つ。

 言ってる事とは裏腹に、顔に期待が見え隠れするのは気のせいだろうか。

「へえ、タマモってパソコン使えんだな」

「一応ね」


タマモの93%は努力で出来ています。

タマモの5%は運で出来ています。

タマモの2%はビタミンで出来ています。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・うん、なんつうか、らしいな」

 黙っていたタマモがぴくんと反応する。

「・・・・・・どういう意味よ?」

「い、いや、なんとなく・・・・・・・・・・・・あ、それよりおキヌちゃんはどうなんだ?」

 何となく、タマモを顔に鬼気迫るものを感じ、流そうとする横島。

「え、あ、私ですか・・・・!?」

「別にそんな驚くことじゃ――」

「いえ、どうせ私のなんて詰まんないです!それに・・・・」

「おキヌちゃん・・・?」

「いいなさいよ!何がらしいですって!?」

 突如動揺するオキヌに怪訝とする横島だが、追究する前にタマモに捕まった。タマモは今までの冷静さが全部嘘だったかのように顔を真っ赤にして、横島に食って掛かる。

「さあいいなさい!な、に、が、らしいって言うのよっ!?」

「だぁー!別になんだっていいだろう!」

「よくない!あたしのどこが努力家だって言うのよっ!?私は隠れて努力なんてしてないわよっ!?」

「俺はそんなこと言ってない!!」

「嘘言いなさいよ、その顔は絶対思っているに違いないわっ!!」

「決めつけ!?」

「さあ、吐きなさい。ちゃっちゃと!!」

「つうか、お前いきなり性格変わってないか!?」

「今はそんなこと問題じゃないわよっ!?」

「ああ、いい加減にしろ!文珠で【玉】、【葱】ってぶつけるぞっ!?」

「やってみなさい!消炭にしてやるわっ!!」

「――――――――っ!」

「――――――――!?」



 思いっきり無益な口論が続く。その傍でシロはなお、のの字を書き続けている。

 シロのあれは兎も角、タマモがあれほど感情をぶつけているのは、おキヌから見てもかなり珍しい。だから見物といえば見物かもしれない。けれどそれを眺めることなく。おキヌはパソコンに手を掛ける。そして気付かれないように自分の名前を打つ。


氷室キヌの49%は毒電波で出来ています。

氷室キヌの16%は優雅さで出来ています。

氷室キヌの11%は白インクで出来ています。

氷室キヌの10%は情報で出来ています。

氷室キヌの9%は記憶で出来ています。

氷室キヌの4%は知恵で出来ています。

氷室キヌの1%は苦労で出来ています。


「やっぱ見せにくいなぁ・・・・毒電波は」

 小さく呟く。

 何気におキヌはもう調べていたのだ。そう、ただ内容が言いにくかった。それだけだ。

 これをおキヌが横島に見せたかはまた別の話。



 

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