ザ・グレート・展開予測ショー

降下前


投稿者名:NEWTYPE[改]
投稿日時:(00/ 7/10)

「よく分かりました。諸君の健闘を祈ります。あとは作戦開始まで休んでください。」
美神は顔を上げて、西条、シロ、タマモ以下のパイロットを眺めて言った。
作戦会議をやっていたのだ。
「では・・・・横島君には、僕から伝えておきます。」
「頼みます・・・・・」
西条が立ち、敬礼をして退出しようとした。
「西条大尉。」
「はっ!?」
西条はわずかに体を戻した。
「・・・・頼みがあるのですが。」
「?・・・・ご家族の事ですか?」
美神は頷いた。
その瞳は揺れていた。
それを見て西条は、その美神の逡巡もまた家族を持つものの人情かと思う。もし、美神がこれを言い出さなければ、西条は美神を軽蔑していただろう。
普通の人の感情というものが率直に表れるのならば、それはそれで快いものである。
「できるだけ救出する努力をします。ジブローでのご家族のいらっしゃる処は?」
「地図を書きましょうか?」
「そうしてください・・・・」
西条はテーブルに戻り、美神もテーブルの前に座った。
美神は、ルーズリーフ用紙の一枚に、ジブローの地図を描こうとエンピツを握っていた。
その生真面目な美神の表情を、西条は良いものだと思った。


自室に戻った横島は、ベッドにゴロッと寝ころがった。
作戦前なので少しでも体を休めておこうと思ったからだ。
トントン・・・・・トントン。
「誰っスかー?」
「私です・・・・・横島さん。」
「おキヌちゃんか・・・開いてるから入ってきていいよ。」
「はい・・・・・」
私服姿のおキヌが、少し寂しい表情を浮かべながら部屋に入ってきた。手に何かの箱を持っている。
「横島さん、地球に降りるんですってね・・・・・」
「ん・・・・ああ。俺がいない間アーギャマを頼むぞ、おキヌちゃん?」
「・・・・私も乗れるMSがあれば一緒に地球に降りてみたかったんですけどね。」
「そうだな・・・・・」
横島が苦笑してみせる。
「あ、そうだ!横島さん、私さっき部屋で懐かしい物見つけたんですけど・・・・良かったら一緒にやりません?」
おキヌはそう言って持っていたものを差し出した。
それは少し古ぼけたオセロだった。
「オセロか・・・・。こりゃまた古いな・・・・」
「作戦前で緊張してますよね。だから気晴らしにでもなればと思って・・・。あ・・・別に嫌でしたら無理にとは言いませんけど・・・・」
「え・・・・・全然。いいよ、やろうぜっ!ただ・・・・おキヌちゃん、俺にオセロ勝負を挑んでくるとは君もついてない。黒を取ったら100戦99勝1敗っ!人は俺を『黒き稲妻』と呼んで恐れたもんだ!1敗したのが誰だったか忘れたがな!」
「へ〜〜黒き稲妻ですか〜。カッコいいですね〜!でも、私もオセロにはちょっと腕に覚えがありますから。そう簡単には負けませんよ!(横島さんてそんなに強かったかな?)
「ふははははっ!かかってきたまえっ!!」
こうして横島の高笑いがこだまする中、二人のオセロバトルが始まった。

――――30分後――――
「ぐぬ・・・・置ける所が無い・・・・」
横島は本日何度目かの汗を手で拭った。
「えへへっ、じゃあまた私の番ですね!」
パチンッ!
盤上がどんどん白く染められていく。
「んなっ!?ま、またパーフェクト・・・・・。っつうかオセロにパーフェクトってあんの・・・・」
横島が唖然とした表情で盤上を見つめている。
「やった!また勝っちゃった!これで私の3連勝ですねっ!」
おキヌが愉快そうに手を叩いて喜んでいる。
「ぐ・・・・・この黒き稲妻の異名を持つ俺がこうもあっさり・・・・・」
「横島さん、黒ばっかりとってるから(黒)星ばかりなんじゃないですか?・・・・なんちゃってなんちゃって、えへへ。」
「・・・・・・・」
その、おキヌのギャグともなんとも捉えがたい言葉に、横島はただただ苦笑するしかなかった。
しかし、おキヌが思ったより気落ちせずに元気でいることに安心もしていた。
昔から寂しがり屋なおキヌを知ってる横島にとって、彼女をひとりアーギャマに残していくのは正直心配であったが、先ほどから垣間見せる笑顔を見てるうちにやっと地球に降りる決心が固まった。
「・・・・・ありがとな、おキヌちゃん。俺のこと心配してくれて。必ず帰ってくるからさ、その間美神キャプテンんの言うことちゃんと聞くんだぞ!」
「横島さんたら・・・・私だって子供じゃないんですからね。無事に帰ってきてくださいね。私、ご馳走作って待ってますから。」
「分かってる。・・・・それよりおキヌちゃん、もう人勝負だっ!負けたまま止められるかっ!!」
「ふふ、いいですよ!!」
再び盤上を見詰め合う二人。
もちろん、横島が一敗を喫した相手が幼き日のおキヌであったことは、いまさら言うまでも無いだろう・・・・・。



地球が見える宇宙空間は、決して寂しいものではない。
その地球の照り返しを受けて八隻の艦艇が、音もなく進んでいた。
「メドーサ少尉からは、レーザー発光通信もないのね?」
美神にはそれが気がかりだった。
「オカルトGメンからは、万一の場合の用意はしてあるという連絡はあったが、具体的にどうするという話はなかった。」
戦艦、ラーディッシュの艦長となった唐巣中佐である。
「このままパイロットをジブローに投入しても、回収工作が万全でないパイロットを無駄死にさせるばかりだと思うのですが?」
「地球の世論というものがあるだろう?無駄死にはしない。」
「ちょっと楽観的ですね。地球の人々は宇宙を思うより、現在の生活を享受することにしか関心がありません。」
美神の反論に唐巣が眉をひそめた。
「そんなに悲観的かね?」
「残念ながら・・・・・」
会話を聞いていた西条がコーヒーカップを置いた。
「ジブローは、ICPOの拠点として制圧しろというのがICPOのトップの主旨です。今の話はナンセンスですね。」
「ジブローの制圧には、陸軍が必要よ。ICPOには、そんなものは無かったわ。」
美神がうめくように言った。
「コロニーの住民にはそれがわからんのさ。MS隊だけで制圧が可能だと信じている。」
「こんなバカな軍事行動があるのですか?」
思わず美神は吐き捨てるように言った。
「いや、あるな。そういう意味では、この作戦を恥ずかしがることはない。」
唐巣が言った。
「二十世紀の後半かな?いや、中頃だ。日本軍が、アメリカ合衆国以下の西欧諸国と戦争をした時には、軍の補給は現地調達。占領後の予定もなしに自分の国土の何十倍もの領土と海上を制圧した。が、結局数年で潰された。」
「ああ、第二次世界大戦ね。」
「ジブローのシャトルを当てにし、MS隊でジブローを占拠できるものと信じて作戦を立てるのと同じだよ。」
「しかし時代が違う。核兵器以前の戦争ならば、それでも戦争はできようが・・・・」
と、言いきらないうちに西条は言葉を切った。
もうひとつの心配ごとを思い出したからだ。
「アクスィズが動き出したというが、今になってなぜだ・・・?」
この出撃直前に、元ジャオンの部下から西条に入った情報である。
アクスィズは、ジャオン公国の残党が居留したアステロイドベルトのひとつである。
それが、地球圏に向かって移動を開始して久しいというのである。
核を推進力に使っての移動で、その核パルスが確認できたのである。

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