ザ・グレート・展開予測ショー

朧さんの七夕


投稿者名:竹
投稿日時:(06/ 7/ 7)

 七月七日、七夕の日。
 月神族の城は、今日も平和です。





【朧さんの七夕】





 こんばんは。それとも、こんにちは、かな?
 陽が差しても青空の広がらない月面じゃ、意味の無い違いだね。
 それは兎も角、初めまして。迦具夜姫付き官女の朧と申します。
 念の為に言っておくけど、柏木さんじゃないよ。


 私の仕事は、迦具夜さまのお世話。
 迦具夜さまのお側に付き従い、またお城の官女たちに指示を与えるのが、私の仕事。
 こう見えて、結構偉いんだから。


 神族魔族の争いにも中立を保ち、外からの侵入者と言えば偶にやって来る人間の宇宙船くらい。
 メドーサの侵攻を撃退(したのは、私達じゃないけど)して以降、目立った騒ぎも起きていない、平和そのものの月世界。
 けれど、今日は少しばかり様子が違うみたい……。




「全く、あの不細工めが……もぐもぐ……今度と言う今度は……もぐもぐ……本気で愛想が尽きましたよ……むぐむぐ」
「去年も似たような事を仰っていたような気がしますが……はい、お茶です」
「お、これはどうも」
 迦具夜さまの隣で月見団子を頬張っているのは、アルタイルの化身こと天星神・彦星さま。
 例によって今年も恋人の織姫さまの浮気に悩まされ、彼女の気を引く為に迦具夜さまを訪ねてこの月神族の城までやってきたんだって。
「何がケンタイキか。如何な女好きと言えど、あんな女について行ける男が私以外にいるものですか」
「まあまあ、織姫さまは、刺激が欲しいと仰られていたのでしょう? あくまで浮気、本気ではありますまい。……はい、お酒です」
「お、これはどうも」
 迦具夜さまを訪ねて来たと言う割には、ただただ愚痴を零すばかりの彦星さま。
 見かけ通り、身持ちの堅いお方みたい。
 ……私としては、迦具夜さまがさり気なく、彦星さまの杯に過分な量のお酒を注いでおられるのが気になるのだけれど。















「まぁったくぅ〜〜、なあにが「もう浮気はしない」だ、あんの尻軽めぇ〜〜」
「はいはい」
 織姫さまの度重なる浮気に、余程疲れ果てていたのか。数十分後には、彦星さまは呆気なく泥酔しちゃった。
 既に、呂律が回ってない。迦具夜さまのお返事も、こころなしか等閑な気がする。
「こぉなったら、私もぉ〜〜」
「そうですね」
 ふと。
「本当に浮気してやるぞぉ〜〜」



 酔った勢いで彦星さまが、そんな事を口走った刹那。
 急に、空が狭くなったような気がした。
 そして……



「……ほお」



 突然、彦星さまの背後に巨大な影が……!



「浮気、とな。……わらわと言うものがありながら、どういうつもりじゃ? 彦星」
「……あ……」
 酔いも一気に引き、見る見る青褪めていく彦星さま。
 彼が、後ろを振り返ると。
 そう、そこには……。


「お、織姫……!? 何でここに……」



 織姫さま、降・臨!



 と言うか、わたし初見なんだけど。
 その身体つき、闘気、そして何より怒りに満ち満ちたお顔は、側に居ただけの私でさえ、卒倒しそうになった程だった。況や、その対象となっている彦星さまをや。
 ……ごめんなさい。仮にも天星神族に対して、流石に失礼だったかな。言い過ぎた。
 でも何か、思わず自信を持てそうな気になっちゃったのは、責められる事じゃないよね。


「彦星よ、何か言い残す事はあるかの」
「まっ、待て待て、織姫! 頼むから、話を聞けぇっ」
 彦星さま……弱っ!
「言い訳とは男らしくないぞ、彦星」
「も、元はと言えばお前が……」
 人目も憚らず(っても、迦具夜さまと私しか居ないけど)、痴話喧嘩を始める二人。女ばかりの月世界で育った私には、ちょっと羨ましい光景だ。
 絵面は、どうにも凄まじいものだけど。


「取り敢えず! 歯ぁ食い縛れ、彦星ッ」
「だから、待てと言うに! か、迦具夜どの、貴方からも事情を説明して下され」
 振り上げられた織姫さまの拳に、助け舟を迦具夜さまに求める彦星さま。
 よかった、ここらで落着かな。
「……そうですね。織姫どの」
「何じゃ」
 ――と、思っていたのだけど。
「彦星さまと言うお方がありながら、お浮気とはお盛んですね。要らないのでしたら、彦星さまは私が貰ってしまいますよ?」
「なっ……!?」
 なんと迦具夜さまはそう言って、彦星さまの腕を取られ抱きつかれたの!


 と、言う訳で……
「きっ、貴様ぁーーー!!」
「か、迦具夜どのぉ!? いっ、一体、何を……」
「うふふふふ。接吻でも致しましょうか、彦星どの。ほら、んーっ」
「いや……っ、ちょっ、それは……っ」
「どお〜ゆう〜事じゃあ〜、彦星ぃぃ……!?」
「い、いや、待てって! 落ち着け、織姫」
「私と織姫どのと、どちらを取られるのですかっ」
「かアーーーーーーっ!!!!」
「ひいいいいっ!」
 あっと言うまに、修羅場の出来上がり。
 彦星さまの腕に抱きついて、織姫さまを挑発される迦具夜さまのお顔には、先程までの穏やかな笑みはすっかりと姿を消し、代わって心底より楽しげな満面の笑みが……。
 ……そう言えばこのお方は、アプローチしてきた殿方に法外な貢物を要求し破滅に追いやられた悪女だったんだっけ。
 怒り狂う織姫さまに、ひたすら怯える彦星さま。そして、楽しげに彼らをからかわれる迦具夜さま……すっごい嬉しそう。
 私には、それを呆然と見ている事しか出来なかった……。


 とか言っている間に、いつの間にか霊波砲の撃ち合いが始まってるんだけど。
 飛び交う光弾と、彦星さまの悲鳴。目の前に広がるバトル漫画さながらの光景は、基本ヒーリング担当の私には声すら出せない状況。
 何なんでしょうか、この武闘派な女神サマ方は。
「どすこいーーーッ!」
「ぎゃーーーッ!?」
 織姫さまは遂に斧を取り出すと、気合一発迦具夜さまに掴まれていた彦星さまの右腕を、肩口より切り落としてしまった。
 ち、痴話喧嘩から刃傷沙汰に!!
 なんて驚く暇もなく、私をぶっちぎりで置いてけぼりにしたまま、修羅場はますますヒートアップしていく。


「ふふ、面白い……。私、わくわくしてきましたよ!」
「いや、それより腕を返して下さいませんか、迦具夜どの」
「片腹痛し! 貴様如き下級精霊が、天界神の娘たるわらわに敵うと思うておるのか」
「そんな事、やってみなくては分かりません!」
「だから、腕を返して――」


 ……ついていけないよ。
 こんな状況に一人置かれて、私にどうしろと?
 助けて、横島さん!





「……あれ。そう言えば、織姫さまはどうやってこの城の中に? 城門を守ってる神無たちからは、何の知らせもなかったのに……」
「月警官どもなら、みな何やら門のところで気絶していたぞ」
「あ……」
 現実逃避気味に私が零した問いに、不意に背後から現れたヒトが答えてくれた。
 人狼族の守護女神、月を司る古代神でもある、アルテミスさまが。
「よ、よかった……! アルテミスさま、どうぞあのお二人を止めて下さいませ」
 こんな状況、私にはとても収拾できない。月警官もどうやら織姫さまにぶっ飛ばされてしまったようである今、こうなればアルテミスさまのお力に縋る他ないよね。
「……と言ってもな。如何な状況なのだ?」
「ええと、その、かくかくしかじかで……」
 更にエスカレートしていっているガチバトル(本当に、何でこんな事になってるんだったっけ?)を横目に見つつ、私はしどろもどろにアルテミスさまに事情を説明した。


「なるほど……。分かった、私に任せるがよい」
「ほ、本当ですか? ありがとうございます!」
「うむ……、男を巡って争うなど、なんと情けない事か」
「は……?」
 あ、あれ……?
 話は、分かって下さったんだよね? 何か、おかしくない?
「あのー……、お二人に争いを止めて下さるよう、説得して頂けるのですよね……?」
「ああ、説得してやる。力尽くでな」
「力尽く……」
「男などと言う身勝手で汚らわしい役立たずのゴロツキ共の為に争うなどと、愚かしいにも程がある。女神の風上にも置けぬ腐った奴ら、性根から叩き直してやらねばな」
「いっ、いや、私はそんな――」
「皆まで言うな、私に任せておきなさい。お手ッ!」
「えええ〜!?」
 なんと、ここに来てアルテミスさままで参戦! ……一体、どうなっちゃうのかしら。





「おほほ、お顔が不自由な方の焼餅は醜いだけですわよ」
「なっ、何だとォォ!」
「あら、どなたの事とは申しておりませんが?」
「ええい、貴様ら、そこに直れ! よいか、男などと言うものはな」
「「うるさい、黙れ!!」」
「う、腕を返して……」





 その日、堅牢を誇った(勝手に言ってるだけだけど)我らが月神族の城は内部より陥ちてしまったのでした。
 ……私の所為じゃないよねっ。


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