ザ・グレート・展開予測ショー

意外と物知りな横島?


投稿者名:彦
投稿日時:(06/ 7/ 6)


 文珠―――――それは万能の霊具。
 膨大な霊力を圧縮することによって生成される、瑠璃色の玉。
 方向性の無い、霊力の塊であるそれは、様々な念を込めることによって、ほぼ無限の効果を発揮する。 

 二十一世紀現在、人間の霊能力者において、この文珠を生成する能力を持つ者は、ただ一人だけである―――――

 



 東京都内に建つ、煉瓦張りのモダンな建物。
 月明かりに照らされたその外観は、実にノスタルジックである。
 時刻はすでに深夜。しかし、この建物の主にとっては、これからが仕事の時間。
 その証拠に、建物の一角には、今も煌々と明かりが灯っている。

「前から疑問に思ってたんだけどさ〜 あんたって、まともに学校通ってないくせに、意外と漢字に詳しいわよね」

 と、のたまうのは、長い亜麻色の髪の美女。この時代遅れの建物の主にして、現代最高の霊能力者―――――ゴーストスイーパー美神令子。

「学校通えないのはあんたが俺の給料上げてくれないからでしょーが!?」

 がー!と気炎を吐いて令子に食って掛かる、見るからに貧しそうな少年。彼こそが文珠生成を可能とする、現代唯一の霊能力者―――――横島忠夫である。

「時給五百円そこそこで、まともに食ってけるワケないじゃないっすか! その分、どうしたって学校行ってる時間に影響出るんですよ!!」

 時給五百円。
 普通の経済感覚を持った人間ならば、そんな薄給のアルバイトなんて御免であろう。
 しかもGS―――――ゴーストスイーパーは、命懸けの労働に、莫大な報酬を約束された才能職だ。
 それが横島の場合、命懸けのリスクばかりが大きくて、リターンたる報酬が時給五百円。そんな給与で働く方もアホだが、雇う方は鬼だ。
 
 それにしても横島の、あんたが全部悪い!と言わんばかりの主張に、さすがに令子も気色ばむ。 

「なに言ってんのよ! 裁判起こせば百パーセント負けるようなセクハラ小僧が! あんたを雇ってから私がどれだけ気を使ってシャワー浴びてると思ってんのよ!?」

 である。
 時給五百円で、文珠という貴重な才能を繋ぎ止めておけるのは、偏に令子の色香あったればこそなのだ。
 まあ、横島の霊能力の源が、その並外れた煩悩なのであるから、彼自身としてはそれなりに満足であったりもするのだが。

「シャワーで俺を気にして!? そんな気を使わんでも! 俺だったら呼んでくれればいつでもお手伝いしま―――――ぶっ!?」

「どういう脳構造しとるんだおのれはーー!!」

 飛び掛る横島に、慣れた手つきでキツイ突込みを入れる令子。
 幾ら貴重な才能を薄給で使えるとはいえ、こんな男を雇い続けているあたり、令子も意外と横島のことを気に入っているのかもしれない。









「―――――漢字っすか? 漢字は………というか、国語は昔っから得意なんですよ、俺」

「へえ………あんたにも得意な科目ってあったのねぇ〜 かなり意外だわ」

「し、失敬な!」

 令子の素直な感想に憤慨する、いまだ出血中の横島。シュールでスプラッタな光景だが、ふたりには日常茶飯事である。

「だって、あんたって見るからに勉強嫌いっぽいんだもん」

「あ゛〜 確かに勉強は嫌いっすね〜 でも、国語だけは別っすよ! 中学の時なんか、図書室に篭ってるのが常ってくらい、勉強してましたから!」

 どん。と、自分の胸を叩いて誇らしげな横島。

「ものすっごく意外だわ………横島クンが文学青年だったっての? なんで? かわいい図書委員でもいたの?」

「あんたなぁ〜! 俺だって四六時中煩悩まみれってわけじゃねーぞ!? ちゃんと真面目に本読んでたんですよ!」

 いまだに疑わしげな様子の令子に怒る横島だが、普段の彼を知る者がここにいたなら、誰だって令子と同じように疑うことだろう。

「わかったわよ! 悪かったって! ―――――で、ちなみにどんな本を読んでたの?」

 さすがに少し苛めすぎたかもしれない。横島に悪い気がしてきた令子。
 慣れないが故の不器用なフォローを加えるが、何事も気にしない横島は実に自然に話に乗る。

「よく読んだ本っすかぁ〜 そうっすね〜 現代語辞書………百科事典………あとは漢字辞書も読みましたね。考えてみれば、あの頃読んだ本のおかげで、文珠使うようになって困るようなことってないっすね〜」

 あの頃の俺に感謝っすね〜などと、腕を組んで呑気に笑う横島。
 そう、彼の霊能力の粋である文珠は、念を込めることによってその性質を決めるのだが、その念は漢字一文字という形で込められるのだ。活字離れが進む現代からは逆行した能力である。

「………と言っても、ど〜せ、辞書に載ってるすけべそうな言葉にマーカーでも引いてたんでしょ?」

「うっ!? な、なぜそれを!」

 あからさまに挙動不審な横島。

 男性諸君には覚えがある者もいるだろう。
 中学生、性の目覚め―――――転がってるえんぴつにすら興奮したあの頃を!

 横島が特殊なのではない―――――いや、やっぱりいささか特殊だが。
 しかしそれでも、それが一般的な男子中学生の通る途なのだ!

 ついつい、辞書に載っているであろう、すけべそうな言葉を調べてみたり、マーカーで線を引いてみたり!





「ま、そんなこったろーと思ったわ」

「し、しまったぁ! お、俺の博学なイメージが!?」


 へっ!と鼻で笑う、半眼の令子。大げさに頭を振って悶える横島。

「いーじゃないっすか! 役に立ってるんだから! それでいーじゃないっすかぁぁ〜〜!!」

「いや、悪いなんて言ってないってば………ただ、あんたの煩悩から生まれた文珠に、やっぱり煩悩の産物の知識で念を込めてるってのがねぇ〜 ………けっこう俗っぽいわよね、文珠」

「馬鹿なーーーーーーーーっ!?」






 文珠―――――それは万能の霊具。
 膨大な霊力を圧縮することによって生成される、瑠璃色の玉。
 方向性の無い、霊力の塊であるそれは、様々な念を込めることによって、ほぼ無限の効果を発揮する。 

 二十一世紀現在、人間の霊能力者において、この文珠を生成する能力を持つ者は、ただ一人だけである―――――が、あんまり大したことの無い能力かもしれない。

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