夢ゆりかご(絶チル)
投稿者名:イオ
投稿日時:(06/ 7/ 4)
小さなベッドに一人の少女が眠り続けている。
その少女の横顔を黒巻節子はただ、ぼぉっとして見続けていた。
少女の幼い体は切り傷、火傷、あざが彩られていて、見ているだけで充分痛々しい。
しかし、その寝顔はどこか幸福そうだった。
「…笑ってるよ」
黒巻は誰に言うでもなく呟いた。
『与えられて当然のものを今から与えるだけさ』
飄々として答えたボスの言葉を思い出す。
与えられて当然だった少女への愛情はあの世界では途切れていた。
エスパーという枷ゆえに少女は全身に呪いを受けて、暗闇で世界を呪ったのだろう。
パンドラに保護されるのはそういう子だ。
肉体にも、精神にも生々しい傷跡が。
その傷跡からは涙のように真っ赤な血が流れて。
同じ赤い血の普通人に「怪物」と罵られて。
黒巻はチューイングガムを膨らませた。
夢を操る彼女にボスはこう言った。
目の前には表情を失くした傷だらけの子供。
「君の力で、幸せを教えてあげてくれないか?」
意地悪な現実から少しだけ逃がしてあげる。
本当に欲しかったもの、夢の世界で存分に味わいなよ。
与えられて当然なんだから。
優しい両親と思う存分手をつないで遊んでもらって。
友達と遊んで、喧嘩して、仲直りして。
誰もあんたを傷つけない、避けない、罵らないから。
夢の中で、失われていた幸せを、充分に感じて。
ぱちんと、膨らませていたチューイングガムが弾ける。
夢から少女が目覚めたらどうなるだろうか。
優しすぎる夢から覚めて、泣くだろうか?嫌がるだろうか?
現実をまた恐れて拒絶してしまうだろうか?
それでも分かってもらいたいと黒巻は思う。パンドラはお前の仲間だと。
眠っている少女が微笑んだ。
あぁ
あたしの能力で。
かりそめでも幸せを感じられたなら。
あたしが生まれた意味は充分あるじゃない?
だからさ
黒巻はチューイングガムをまた噛み出す。甘い匂いがほのかに香る。
寝ている少女の頭を撫でて、小さく小さく呟いた。
あんたも、生きてていいんだよ。
終幕
今までの
コメント:
- すばらしい!!
ついつい相手に悪夢を見せることに目が行きがちですがこういう使い方もありますね。
いや本当に目から鱗です。戦闘的な応用ばかり考えていた自分が恥ずかしいですね。
漫画ではかかれていない、母性的な優しさに満ちた黒巻さんをありがとうございました。 (ウェスペル)
- お褒めの言葉ありがとうございます!
コミックス派なので黒巻嬢が未だ眠り続けているのではと心配しているイオです(笑)
桐壺局長の「あの子たちの才能は誰かを幸せにするためにある」という言葉がなんだか凄く好きだったのでこういう話(妄想)が出来ました。 (イオ)
- 原作では恐らくは一発キャラであろう敵役に当てたスポット。
それによって、見事に新たな魅力が引き出されましたね。
精神に干渉する能力者故に可能な、心の癒し。
実によい話でした。 (aki)
- 黒巻節子の能力にこんなすばらしい使い方があろうとは…
驚きです。
つかの間の楽しい夢を見る少女は澪?それとも別の誰か?
願わくば傷ついた少女の心が、節子が魅せた夢によって癒されんことを。 (STJ)
- 賛成票を入れ忘れました。
お恥ずかしい… (STJ)
- 原作では、敵役だった黒巻嬢からこんなお話を発展させるとは…彼女の能力への着眼点もお見事です。
楽しませて頂きました。 (偽バルタン)
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa