ザ・グレート・展開予測ショー

6月末の休日


投稿者名:UHS
投稿日時:(06/ 6/30)




 「あっづいでござるぅ」


 じめじめじめじめ、蒸し暑かった梅雨時もようやくと終わりを迎えようとしている6月の終わり。
 さあ、このイライラから開放される!・・・等と油断すること無かれ。
 次に襲い掛かって来るのは、7月のじわじわじわじわと照り付ける様な太陽である。


 「あ゛ー、あっづいなぁ」


 特に、最近では異常気象の影響であるのか、昔に比べてもやたらと暑い日が続くのだから困り者である。
 現代社会には、その異常気象の一因であり、しかし人類の英知の結晶ともいえる『クーラー』なる物も存在するのだが。
 いかんせん、自分の居る場所に無いのであれば意味が無い。
 『クーラー』なるものを想像したところで、欠片たりとも涼しくなどなりはしないのである。


 「先生ぇ、やっぱり‘くーらー’は買うべきでござるよぅ」


 逆に、周りの家々が使っているクーラーの排気熱により、地域周辺の体感温度が1〜2℃程上がってしまうのだから質が悪い。
 恐らく、精神的なモノも少なくは無いのであろうが・・・不快指数が跳ね上がるのは、まず間違いない。


 「んな金は無い。そもそもだな、この部屋にクーラーがあったとしても使えんぞ?」


 だったらお前も使えばいい、なんぞと仰るなかれ。
 使えない人には使えない人なりの理由が有るのだ。
 そしてその悩みを聞いたとしても、一笑に付すことなかれ。
 くだらなく思えても、つまらなく思えても、当人にとっては中々に深刻な問題であったりもするのである。


 「え〜、‘くーらー’があればきっと使っちゃうでござるよ〜」


 人によってその問題は様々であろう。
 地球環境を慮って使わない人や体が弱くて使えない人、逆に会社なり電車なりで冷たい風に当たり過ぎて体調を崩してしまった人。
 もとより、クーラーという機械自体が嫌いな人だって居るだろう。
 ・・・だがしかし、だがしかしだ。
 もう一つ、決して忘れてはいけない、とてもとても大きな理由があるのである。


 「電気代、俺の給料で払えってか・・・?」


 ケチ臭い、なんて言わないで欲しい。
 これは庶民にとっては割と致命的とも言える問題なのである。
 特に、彼は一人暮らしの高校生。
 時給は255円であり、彼の母親は“あの”グレートマザーである。
 相談内容の如何によっては、仕送りが増えるどころか、逆に減ってしまう可能性とて低くは無い。


 「・・・・・・・・・(汗)」


 どうか彼女を責めないであげて欲しい。
 如何に目前の彼に心酔している愛弟子とはいえ、この返しには3点リーダーも出よう、冷や汗とて出ようというモノだ。
 大体、そもそもからして先程の発言は彼のためを思ってのことだったのだから・・・少なくとも、半分は。


 「・・・シロさんや、ひとまずこの暑さを和らげる方法があるんだがね?」


 そんな健気な彼女を思いやってか、もしくは偉大なる母の笑顔の圧力を思い出してしまった故か。
 取り敢えず、彼は話題を変えることにしたようだ。
 勿論、それは彼女にとって渡りに船であると同時に、とても魅力的な提案であった。


 「おおお、流石は先生! この暑さを防げる考えがあるのでござるか!」


 キラキラと汗を振りまきながら振り返った彼女の、まだ少し幼さの残る顔には、満面の笑みが浮かんでいた。
 健康的な美しさを持つ笑顔で、心からの信頼を込めたその瞳で、美少女の愛情を真正面から受けてしまったのだ。
 常日頃から声高々に否・ロリコンを訴え続けている彼を以ってしても、赤面すること止む無しである。
 いや、むしろ理性を飛ばすことなく自分の矜持を守り抜いた彼に盛大な拍手を送りたい。





 「離れろ」

 「嫌でござる♪」





 ・・・ちなみに今の二人は、彼があぐらをかいたその上に、彼女がもたれ掛かっているという状態だ。
 彼女は最愛の師に包まれながら安らげるこの位置が一番のお気に入りで、この部屋ではいつもこの体勢なのである。
 ともすれば、二人がとろけているのは暑さのせいだけではないのかもしれない。


 「離れりゃもっと涼しいぞー?」


 冒頭で申し上げた通り、今は6月と7月の間である。
 当然、この時期にそんな体勢でいれば汗が大変なことになってしまうのだが・・・


 「やーでーごーざーるー♪」


 彼女曰く___二人で扇風機に当たれば涼しいでござるっ♪___とのこと。


 「いや、暑いから・・・」


 扇風機が置いてあるのは彼女を挟んで向こう側。
 当然、彼に当たる風など微々たるモノだ。
 そこでまたも彼女が曰く___女の子の我侭はいつだって許されて然るべきなのでござる〜♪___である。
 ・・・恐らく、パートナー兼ケンカ友達である狐少女の入れ知恵であろう。


 「先生! 拙者、先生と一緒に海へ行きたいでござるよっ!」


 誤解されがちではあるが、彼女が成長しているのは、最近、彼の食指が伸びそうになりつつあるその身体だけではないのだ。
 日常生活における彼女のねぐらは“あの”美神除霊事務所の一室だ。
 当然、話題を差し替える技術の一つや二つは習得済みなのである。
 それが稚拙なモノであるのは彼女自身が理解してはいるのだが・・・こんなトコまで師匠に似てしまった模様。
 それでも、目の前に居る意中の人が、困った様な、それでもどこか嬉しそうな顔をしているのだから、彼女にとっては言うこと無しだ。


 「ったく、お前は・・・でも、そうだな。今日辺り海に入れたら気持ちいいだろうな」


 そんな彼女の喜色満面の笑みを見せられたのだから、彼がつい迂闊なことを口走ってしまったのも、仕方が無いことなのだ。
 その科白に秘められた想い___二人っきりで___という彼女の気持ちに気づけなかったのも、仕方が無いことなのだ。
 そのセリフを聞いた途端、二人の間に挟まっていた彼女のシッポの動きが激しくなりだしたのに気づけなかったのも、また仕方が無いことなのだ。
 何故なら彼は、彼女の笑顔に見惚れてしまっていたのだから。


 「先生もそう思うでござるか! クゥ〜ン、嬉しいでござる〜!!」


 或いは、彼女の笑顔に込められた意味の変質に気付けていたのなら、この後の二人の行動も変わっていたのかもしれない。
 しかし、彼にそれを強いるのは‘酷’というモノだろう。
 彼は、鈍感だ。


 「だああっ、暑っ苦しい! 顔を舐めるのを止めんかっ!!」


 まあこの世界には宇宙意思という抗い難い運命が存在しているのだし、彼が先程触れたことに気付けたとしても、この後の行動は変わらなかっただろう。
 彼は、彼女に対してはトコトンまで‘甘い’のだから。


 「では、早速出発でござるよ〜♪」


 冒頭部分とは打って変わって元気全開の彼女。


 「・・・はい!? 今から!!? つーか今何時だと・・・」


 瞬間、モアイの様な表情で固まる彼。
 しかしてここな人狼少女にしてみれば、その一瞬があれば彼を確保することなど容易いことだ。
 ちなみに現在13:30。
 そろそろ本日の最高気温をマークしようかという時間帯である。


 「それなら何時もより飛ばして行くでござる! クゥ〜ン、久しぶりに全力疾走でござるよ〜♪」


 このように、当人以外からすれば突然の思いつきにも見える行動であるが、彼女にとっては既に約束されていることなのだ。
 どんなに暑い日でも、どんなに寒い日でも、彼女等の日課は行われるのである。
 彼女には、彼を離すつもりなど欠片たりともありはしないのだから。


 「いやいやいやいや!! ほら、シロの水着だって用意して無いことだし、海行ったって泳げなきゃ意味無いだろっ? なっ?」


 彼にとっては・・・まぁ狼に狙われてしまったのだから、それは回避不可能だ。
 諦めるより他ないだろう。
 ・・・大丈夫、きっと彼女の牙は柔らかいさ。


 「手ぶらで‘れっつ・ごー’でござるっ!!」


 詰まる所、イチャイチャベタベタして散歩して、というのが彼等の休日である。
 ・・・休日ではなく、日常そのものだという意見もあるが・・・
 つまりは、まあ、二人は“バカップル”そのものなのだ。






























 ___________ 6月末の休日 ___________






























 「ちょ、シロさん、山は、このスピードで山はイヤ〜〜〜〜〜!!!??」





 「ワオ〜〜〜〜〜〜ン♪♪♪♪」



 





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