ザ・グレート・展開予測ショー

涙雨


投稿者名:すがたけ
投稿日時:(06/ 6/29)

 雨よ雨よ、何故に降る。

 泣けぬ私の涙となるか。

 ただ一人愛したお前を喪いし、この日に降るは神の作為か、悪魔の業か。

 私が触れては枯れ行く定め故、送るべき花はない。

 お前が愛し、私も二世を誓ったはずの息子もまた、私を越えた上で我が元を旅立ち、世に放たれた。

 今の私は、お前に送るべきものも、見せるべきものも何もない、愚かな墓守だ。

 いや、哀れむな。後悔などはあるはずもない。死がお前と別つことも、子が父を超え、旅立つことも必然だ。

 ただ、世界に覇を唱え、お前に美しき世界を捧げることが出来なんだことが不本意なだけだ。

 陰鬱なる雨をこの身に受けるも一興。

 日を浴びることが出来ぬこの身には、雨と風こそが、世界より隔絶されたこの島で、唯一といっていい世界との接点なのだから。

 雨よ雨よ!降り次ぎ我が身を濡らせ!

 この日この晩この時に、お前一人をただ濡らすには、今宵の雨はあまりに冷たい故に―― 。















「―― 雨、か」
 六月の朝にしては、冷たい雨が降る。

 そういえば、母さんが息を引き取ったのもこんな雨の日だった。

 八百年以上前―― しかも、僕も小さい頃だったからあまり覚えてはいないけれど、あの日の冷たい雨と、泣きじゃくる僕の頭を撫でてくれた母さんの手の熱さ―― そして、他に例えようのないその悲しさだけは今でも覚えている。

 ブラドーも―― まぁ……アレな部分が多いとはいえ、母さんを常に想っていたことだけは間違いはない。




 だからだろう―― 母さんが亡くなるまではまだマシだったブラドーが、遮二無二無謀な侵略を試みるようになり……その結果、争いを好まない吸血鬼達が静かな生活を送っていたブラドー島自体を封じるような事態を引き起こしたのは。


 今ではそのブラドーも静かな生活を送っている。

 辛うじてブラドーを抑え込んだ後、僕がブラドーに言ったあの一言を守って―― 。

『―― これ以上、母さんを悲しませるな』

 あいつが僕の言うことを聞いたのは、ブラドーの血を吸ったことで上位になったことだけじゃあない―― そう信じたい。

 ああなってもなお、あいつは母さんのことを―― 吸血鬼にすることなく、人としての一生を全うさせようとした母さんのことを想っていたのだから。






 母さん―― 見ていてくれていますか?

 あなたの―― そして、あなたが愛したたった一人の『父さん』の息子は今、島から離れて遠い異国で過ごしています。

 辛いこともありますが、支えてくれる友達のお陰でこうして立っていけています。

 あなたの下に向かうにはまだまだかかるとは思いますが、その時まで僕を……そして、父さんを見ていてやって下さい。

 いつも、とはいえないかもしれません。でも、六月の雨が降るたびにあなたのことを思い出します。



「僕は……元気です」







 空を見上げる僕のその呟きに答えるかのように、冷たい六月の雨は―― 優しく降り続いていた。

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