父
投稿者名:桜華
投稿日時:(00/ 7/ 8)
昼と言うにはまだ早い刻限を、彼は車を走らせていた。
娘を送ってきた帰りだった。
ハンドルを切りながら、彼は考える。
なぜ、あんな事を言ったのか、と。
落ちればいいと思っていた。受けてほしくはなかった。受からなければいいと思っていたはずだ。
なら……なぜ、自分は、頑張れと言ったのか? なぜ、心とは裏腹に、激励するような言葉を……
赤信号に引っかかり、ブレーキを踏む。その間、考えに沈んでしまう。いつもの悪い癖だ。一人だと、決まって堂堂巡りしてしまう。
はたして、自分は、娘の合格を望んでいるのか? それとも……
コン、コン
おかしな音が響いた。何事かと思ったが、すぐに、車窓がノックされた音だと気がついた。
そちらに、顔を向ける。
見知った顔がいた。自分が17の頃からの親友と、今ではその妻に納まっている女性。
「久しぶりだな、横島」
窓をオープンした彼に、伊達雪之上はそう言った。
近くの駐車場に車を置いて、横島は、街道を雪之上と何気なく歩いていた。
彼の妻のかおりはいない。
積もる話もあるだろうから、と、先に行ってもらっているのだ。
「しっかし、かおりさんも、ずいぶんと主婦が板についてきたよな。今じゃ、すっかり二児の母だ」
子供二人をつれて去って行ったかおりの姿を思い浮かべながら、横島は呟いた。およそ、彼女が高校生の頃の高飛車振りからは想像できない姿だった。
「……やっぱり、子供はいいよな」
「手がかかるけどな」
横島の言葉に、雪之上が話しはじめる。
「いつもいつもワーギャーワーギャー、やかましいったらありゃしねえ」
「今、いくつだっけ?」
「10と5」
「かわいい盛りだな」
「世話する方は大変だぜ。
この前なんか、下のほうがクレヨン食べやがった。口の中は真っ青さ」
「はははははははは!
そういや、蛍にもあったなあ。ねりわさびを、『何、これ?』って舐めて、『辛い〜』って泣きながら叫んでた」
「魚をよく見ようとして、池に落ちた事もあった。あれにはさすがに慌てたぜ」
「あの頃の子供は、なんにでも興味を持ちたがる」
「手がつけられん」
「そこがいい」
「まったくだ」
苦笑いしながら、雪之上はポケットから煙草を取り出した。くわえ、火をつけ、ゆっくりとその味を楽しむ。
箱を横島に差し出すが、横島は首を振って断った。
「なんだ、やめたのか?」
いつもなら、二人でゆっくりとくゆらせる所なのだが。
「子供に悪いと、あいつがうるさくてな」
その含まれた意味を、雪之上は正しく理解した。
「なんでえ。やる事ちゃんとやってんじゃねえか」
つけたばかりの煙草をもみ消しながら、雪之上は言った。
「何ヶ月だ?」
「4ヶ月」
「男の子? それとも、また女の子か?」
「さあ。生まれてみなけりゃ分からん」
「十五離れた姉妹か。蛍ちゃんがどう思うかな」
「喜んでたよ。お姉ちゃんになれるって。前から、弟か妹が欲しいって言ってたからな」
「そういや、蛍ちゃんもだろ」
それは、自然な現象。
「何がだ?」
単なる、日常の雑談の延長線上に位置するものだった。
「GS試験だよ。受けに行ってるんだろ?」
その瞬間。
横島の顔色が、変わった。
「? どうした?」
「いや…………」
ふと、在らぬ方向を向いて。
横島は、しばし沈黙した。
「出来れば……」
そして、重々しく、口を開く。
「出来れば、GSにはしたくなかったな、ってね」
その言葉の意味する事を、同じ『親』である雪之上は理解した。
「わからんでもないよ。
GSやってりゃ、いやでも、世の中の暗部を見ることになる。大人達の、小汚い姿をな。
そして、危険だ。悪霊だけじゃなく、時として、魔族を相手にする事にもなりかねない。昔の俺達みたいにな」
「普通の女として、普通の幸せを得て欲しかった」
ふう、と、雪之上はため息をついた。
「幸せかどうかは、本人が決めるもんだ。
俺は幸せだぜ。かおりと一緒になれてな。GSだったおかげだ。
おまえだって、GSにならなけりゃ、今のおまえはなかった。ルシオラと出会う事も、な」
「だが、失った。
もう二度と、失いたくはないんだ」
「自信がないのか? 守る自信が。
十五年以上たった今でも、おまえは好きな女一人守れない奴か?」
「そんなことは言ってない!」
少し語気を荒げて、横島が言う。そんな、いつまでも変わらない一途さに、雪之上は昔を思い出し、懐かしんで、笑った。
「じゃあ、守ってやればいいじゃねえか。
いつまでも側にいて、守ってやればいいじゃねえか」
「……あの時も、俺は、そう思っていたよ」
「あの時とは違う。おまえは、強くなった。心も、体もな」
「しかし……」
「信じてやれよ」
静かに。
そして、強く。
雪之上は、言った。
「ずっと待っていた、おまえの娘だ。おまえの、自慢の蛍だ。その蛍が、選んだ道だ。信じて、見守ってやれないいじゃねえか」
「…………」
「もし、本当にGSになって欲しくなかったなら、おまえはここに彼女をつれて来たりしなかったはずだ。それが蛍のためと思っているなら、力ずくでも止めたはずだ。
それをしなかったってことは、つまり、おまえも、娘がGSになることを望んでるんだよ。
でも、また失ってしまうかもしれなくて、恐い。だから、なって欲しくないように思う。
……俺に言わせりゃ、それは逃げだ」
伊達雪之上は、横島忠夫を睨みつける。
「おまえは、弱いままか? 逃げるほどに、弱いままなのか?」
ゆっくりと、横島は、雪之上に振り向いた。
「逃げるな、と?」
「それも構わん。だが、それから目をそむけるのは、やめろ」
一体、どれほどの時間が過ぎただろうか?
1分? 一秒? それとも、一時間?
「……そうだな」
やがて、横島は笑った。その瞳は、真っ直ぐに、雪之上を見つめている。
「逃げるのも、目をそむけるのも、もうたくさんだ」
その目を見て、雪之上も、満足げに微笑んだ。
「何か、言付けはあるか?」
「いや。別に何も……と、そうだ」
「なんだ?」
「明日は、応援に行くって、伝えといてくれ」
「わかった。
じゃあな。いい加減に子離れしろよ、親ばか」
「おまえもな、マザコン」
軽口を叩き合い。
そして、笑い会い。
親友の二人は、その場をあとにした。
『そうだな』
車を走らせながら、彼は思う。
『あいつが選んだ道だ。それを信じて、そして、見守ればいい』
思考の迷路に陥る事はなかった。陥るべき問題は、すでに親友の助けによって解決していた。
『今度こそは、幸せにする。そう、俺はあの日に誓ったんだ。
幸せにしてみせるさ。たとえ、どんな事が待ち受けていても』
彼の乗る車は、颯爽と街道を走っていった。
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試験が終わったああああああああああああああ!!!!!
と、叫べるまであと三日。
まだ、前半が終わっただけです。日曜はさんで、あと二日あります。
でも、前二日ですでに爆死決定。しくしくしくしくしく。
と、言うわけで(どう言うわけだか)、出来あがったのが、この作品です。
今回は、伊達雪之上と横島の『親』の会話を書きたかったのですが……もう、めちゃくちゃ。入れたいエピソードはたくさんあったのに。
ちなみに、話に出てくる子供達の体験記は、全て私が実体験した事です。私の場合は、真緑の口だったらしいですけど……
皆さんにも、こんな体験ありませんか?
それでは、中途半端ですが、この辺で失礼します。桜華でした。
今までの
コメント:
- ・・・・・子供の頃の実体験・・・僕は「う○こ」を食べたらしいです。(爆)
なんか「いーかんじ」で進んでますね、続きが楽しみです。 (猫太郎)
- いや、すごいすごい・・・・私で9票目ですね。
明日でテストも終わりみたいですね。
もう爆死したのなら諦めて小説に力を入れましょう(笑)
で、感想ですけど・・・・。
横島君、きみ良い親父すぎ(笑)
大樹の血はどこにいってしまったんですっ!?
いつもの横島君でいてほしかったですけど
描写はすばらしいので賛成です(笑) (NEWTYPE[改])
- 赤ん坊の時よりも、今の方が悪食の様です……ううう(泣)。
前回の続きとの事で、妻帯者の惚気合いと云った趣でした。当たり前ですが、すっかりおっさんですな、二人とも。
まあ何より試験の方お疲れ様です。
まだ入れてみたいエピソウドが有るとの事なので、また時間的にも精神的にも余裕が出来た時にでも「完全版」をお書きになってはいかがでしょうか? ……結局、僕の我侭ですが(苦笑)。 (Iholi)
- かっこいい親父は好きです。
横島がここまでいい親父っていうのは意外性もありますが、それ以上に娘のことを考える父親、っていうのが横島自身の事情と相俟って沁みます。
雪がいかにも悪親父仲間って感じで、でもいい相談相手で、ああ、いいなぁこういう関係。
などと、遅まきながら感想を書いてみました(笑
流石に見る人いへんかなー。 (四季)
- ふふふふふっ
読んでますともっ! (hazuki)
- ふふふふふっ
読んでますともっ! (hazuki)
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