ザ・グレート・展開予測ショー

GS横島剣客商売 その弐


投稿者名:M2O
投稿日時:(06/ 6/24)

都内のとある神社の一画で男が刀身に意匠を凝らした刀を正眼に構えていた。
グレイのTシャツ、カーキ色のカーゴパンツ。ベルトの右脇には鞘が収まっている。
男の眼前2mに有るのは折れた刀。地面に突き立てられた一メートルほどの竹の先に柄が巻き付けられている。
刀は根本から20センチほどの所で折れている。

折れた刀の銘は「シメサバ丸」以前、美神除霊事務所に持ち込まれた妖刀である。
無論、折れた妖刀には本来の力は無く、普通の人にはただ程度の良い日本刀の一部という意味合いしかない。
だが、それが刀工や錬金術師だと大きく意味合いが異なる。

間違いなく古刀かつ名刀、それも室町時代以前の玉鋼で作られた一品。しかも妖刀だった代物。
欲しい者には喉から手が出るほど欲しい代物である。
それが事務所の倉庫にがらくた同然で埃をかぶっていたのを持ってきたのだ。

刀を正眼に構えた男の名は横島忠夫。知り合いの神社の境内裏を借りて据え物斬りをする所である。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

正眼に構えた刀が淡く光り出す。見る者が見れば極限まで圧縮された霊力が刀身から溢れているのが分かっただろう。
そして、その刀が霊体、物体を問わずどのような威力を出すのかもおおよその所まで検討がついただろう。

(流石にあのマッドサイエンティストが嬉しそうに語っていただけ有るな。霊力の通りが異常なほど良い。)

老いても尚『ヨーロッパの魔王』は健在だと思いながら目の前の据え物に意識を集中する。
距離は3メートル弱、剣術で言う所の一足一刀の間合いの中だ。
師匠である斉天大聖、小竜姫の教えを思い出す。

(霊破刀も真剣も刀である以上、刃筋を通すことによって初めてその威力が発揮できるのじゃ。)
(一刀に二足、三足、時には四足以上も使うのです、一刀に一足では相手の懐を制すことは出来ませんよ。)
(霊破刀も真剣も意を持って斬るのじゃ。意の無い攻撃は死んだ攻撃になる。死んだ攻撃では敵は斃れん。)

右足を半歩前に踏み込み、左足を一歩大きく踏み込む、踏み込みと同時に体重移動の力の方向を変えて刀を振り上げる。
刀を当てる部分は物打ちからやや下意識し、振り上げた刀を逆袈裟から振り下ろす。
鈴が鳴る様な音が一回響いて、かつて妖刀で有った物は折れた刃の長さを半分にした。

「・・・・・・・・・・・・」

横島は戦慄と共に自らの刀を見る。
軽すぎるのだ。まるで霊破刀を使った時の様に刀の重さを感じられない。斬った時の手応えも極僅かな物だった。
恐ろしく斬れる。自らの霊破刀を極限に収束するより遙かに斬れる。恐るべき切れ味だった。
そして自ら手に吸い付く様に、まるで手の延長の様な扱いやすさ。まさに妖刀だった。
地面に落ちたシメサバ丸の破片を拾い上げる。10センチほどの破片は片方が恐ろしく鋭利に切断されている。
自らの刀を見るが刃こぼれはおろか傷一つ見つからない。最初に見た時と同じく鈍く光を反射しているだけだった。

「ちょっとした攻撃力強化のつもりだったんだけどなぁ。洒落にならん・・・幽霊はともかく妖怪、魔族相手には迂闊に使えんぞ。」

これを使う場合はよっぽどの事でなければ無いだろうと考えながら、刀を鞘に納め、竹刀袋に入れる。
破片を布にくるみリュックに入れる。短くなったシメサバ丸は倉庫に戻しておかなければならない。これにも布をかぶせてしまう。
借りていた境内の後片付けをすると警察署とGS協会の事務局に刀の登録に向かった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


登録手続きを済ませて事務所に帰ると妻の他に義母である美神美智恵、唐巣神父、西条輝彦の四人が揃っていた。
この面子が揃うと言うことは何か事件が有るという事だろう。

「何か有ったんですか?」
何もない事を祈りながら皆に問うと美智恵から返答が帰ってきた。

「ピート君が襲われたわ。幸い命に別状は無いけれど、霊力が著しく低下しているわ。」
現在は地元の島の土の棺桶の中で療養中だと言うことだ。つまり、ほとんど活動出来ない状態に追い込まれたのだ。
バンパイアハーフであるピートが重傷を負うのはよほど強力な魔族もしくは妖怪に襲撃されたと見て良い。

「ピートがですか?・・・いったい何が有ったんですか?」
GSとしてもトップクラスの実力を持つピートがそうそう簡単にやられるとは思えなかった。
大規模な襲撃でもそこまで追いつめられるかどうか。

「おそらくは人間・・・それも霊刀を持った人間に襲撃された可能性が高い。はっきりと見たわけではないが、霧になったピート君を刀で斬り伏せていた。」
唐巣神父が答える。顔が青ざめている。
「おそらくは居合いの類だと思う。腰を落としていたからね。だが・・・それだと不可解なんだ。」

「ピート君の傷は計八カ所。どれもが刀による傷だ。場所は右肩、左肩、右首から胸にかけて、右脇腹上部、左脇腹より背中、右腰、左大腿部、右大腿部から腹部。どれも深い傷で人間なら致命傷となる傷ばかりだ。」
西条が手元のレポートを見ながら答える。
「心臓が無傷だったのが幸いした、すぐには治らないだろうが・・・完治すると思って良いだろう。」
バンパイアハーフと言えども心臓を貫かれれば生死に関わる。

「はぁ?・・・・・・普通の武器じゃピートには傷一つ与えられないだろ。たとえ聖別された武器でも、霊剣のたぐいでもそこまで傷付けられるかどうか・・・。」
最高クラスの霊剣や破魔具の類でも霧になった吸血鬼に行動不能になるまでのダメージを与えられるとは思えない。
故に吸血鬼退治は困難なのだ。それこそ昼間に棺桶を襲うようなマネでもしない限り吸血鬼は滅ぼせない。
灰になった後でも、海に撒いたり、十字路に撒いたりしてやっと滅ぼすことが出来るのだ。

「傷は八カ所。並程度の武器の攻撃じゃない。そして霊力のほとんどを持って行かれた。この条件で思い当たる事が一つあるわ。」
それまで黙っていた妻が答えた。目が雄弁に語っている。あの戦いを思い出せと。

「八房か?だがアレはあの時の戦いで折れた。・・・・・・・・・いや、影打ちが有ったのか?」

影打ちという刀がある。
刀工が刀を作るにあたって同様の刀を二本打ち上げ、良い方を渡し、悪い方を手元に残す方法である。
その悪い方が影打ちと呼ばれる刀になり、良い方が真打ちと言われる。

影打ち・真打ちの打ち方には種類がある、代表的な物として以下の方法がある。
まったく同じ刀を二本打つ方法。
微妙に違う刀を打つ方法。
そして、まったく性質の異なる二本の刀を打つ方法である。

八房がどのような製法で作られたかは不明だが同じ様な霊刀が作られている可能性がある。
だが、以前シロは言っていた。「八房は犬神族の天才刀鍛冶がただ一振りのみ作り上げた最強の剣だ」と。
その情報がそもそも間違っているのか、同じ製法で全く別の刀工が作ったのか、不明だ。
だが、間違い無いのは八房と同じかそれ以上の霊刀を持った何者かがピートを襲ったということだ。
でなければ霧と化したハーフヴァンパイアに傷、それも斬り傷などを負わせられまい。

「そう考えればつじつまは合いますね。斬られた傷も納得できる。」
横島は十中八九間違い無いと結論付けた。

剣術の基本的な斬撃は九つに分類される。
すなわち、唐竹、袈裟、逆袈裟、胴、逆胴、右切上げ、左切上げ、逆上げ、突き。
これらの名称は剣術の流派によって異なるが、ほぼ同じ体系だと言って良いだろう。

唐竹:頭部への垂直の打ち下ろし。
袈裟:右肩へ斜めの打ち下ろし。
逆袈裟:左肩への斜めの打ち下ろし。
胴:胴への右からの打ち込み。
逆胴:胴への左からの打ち込み。
右切上げ:胴および脇腹への右斜めからの切上げ。
左切上げ:胴および脇腹への左斜めからの切上げ。
逆上げ:股間および胴への増下からの切り上げ。
突き:正中線、急所等への刺し込み。

その他にも、小手打ち、脚部への攻撃等があるが・・・基本、この九種類になる。
剣術の攻撃はこの九種類から変化、連携して作り上げられる。

八房という霊刀は、一振りで八回の斬撃を行えるという希代の霊刀である。
一振りで八回の斬撃を行えるということがどれだけ狂気の沙汰か。
前述の九種類の斬撃の内、一撃で八種類までが打ち込めるということである。
八回の斬撃が同時に襲い掛かるわけではなく、二撃目が来るのがコンマ何秒の感覚で八連撃。
狂気の沙汰すら生ぬるい。この世にそれを受けきれる剣士が居るかどうかも怪しい。
伝説の剣豪たち、新免宮本武蔵玄信、伊藤一刀斎、柳生十兵衞三巌、柳生石船斎、上泉伊勢守秀綱、etc,etc,…
数々の剣豪をもってしても受けきれるかどうかは怪しい所であろう。

その希代の霊刀と切り結んで生還した男がいる。
横島忠夫だった。剣術使いでもなければ兵法者でもない人間である。
普通と違う所が有るとすればGSである事と妙神山の竜神、小竜姫と伝説の猿神、斉天大聖孫悟空を師に持つという所であろうか。
だが、八房を使う犬飼と切り結んだ時はGS見習いでなおかつ剣術の心得など無かった。
ただ、運と霊波刀という霊的武器を用いて切り抜けた。無論、仲間の活躍があってのことであったが。

「横島君、率直に聞くわ。八房と同じ攻撃をする霊刀を持つ相手と戦うとしたらどうする?」
美智恵が尋ねた。横島はおそらく人間で唯一八房の太刀筋を見ている人間だろう。それゆえの対策を期待しているのだ。
また日本屈指のGSでもある。横島のくぐってきた修羅場はどんなGSよりも多く、危険だった。

「正直、打つ手がありません。俺と同じ霊波刀を使う使い手が数人いたと仮定しても守りに徹するのが精一杯ですね。」
事実、八房を使う犬飼とやりあったときは犬神族の長老と二人合わせて守りに徹するのが精一杯だったのだ。
しかも、人間で霊波刀を使う使い手は少なく、長老と同じレベルの使い手など居るはずもない。
現状で此方で霊波刀を使う者は横島、シロのみだ。あまりに少なすぎる。
文珠による攻撃は効果がある可能性があるが、初撃を何らかの方法で防がれたり交わされた後に打つ手が無くなる。
相手の攻撃が斬撃のみと決まったわけでない。他にも何か有るかも知れない。そう考えると勝率は五分以下と考えるのが妥当だろう。

「考えられる対策としては、狙撃。もしくは多人数による包囲後、機関銃とかの多弾装武器による一斉射撃ですね。今の所はそれしか思いつきません。」
接近戦になれば多人数だとしても圧倒的に相手の方が有利だ。なおかつ格闘武器による制圧など不可能だろう。とすれば火力で制圧するしかない。
犬飼が八房を使った時は西条のベレッタM1951のフルオートすら跳ね返し、なおかつ逆に攻撃され負傷した。
犬飼と同じレベルかそれ以上の使い手と想定しておけばまず間違いあるまい。

「難しいわね。現状相手の目的はおろか、相手の人相すら把握できていない。人員を動員するには情報が少なすぎる。」
全員が同じ思いだった。現状では相手の戦力、目的、人相などの情報が少なすぎる。動きようがない。
しかもなぜピートを狙ったのかも不明なのだ。

「次の犠牲者が出る前に何とかしたかったが……どうすることも出来ないとはね。」
唐巣神父が苦々しい表情でつぶやく。やるせない沈黙が事務所に漂う。

「霊剣や霊刀を使う人物としてはGSが一番確立が高いでしょう。ドロップアウトを含めたGSで怪しそうな人物を洗い出してみるわ。西条君手伝いを頼むわね。」
美智恵がそう提案する。現状として出来ることは全てやらなければならない。

「わかりました。早速リストの洗い出しをします。」
西条が答えて事務所を出て行く。

「私もGS協会のリストを調査してみよう。わかったことがあれば連絡する。」
唐巣神父も苛立ちを抑えられずに早々に事務所を出て行った。


「「で……あなた・「横島君」…それは何?」」
令子と美智恵の台詞が重なる。二人の目は横島の腰の刀に注がれていた。

「何って………日本刀かな?」
すっとぼけた台詞を返す、もちろん、うしろめたさ全開だからである。

「あらあら、令子、美神の女も舐められちゃったわね〜。」
「そうね、ママ。ちょっとお仕置きが必要かしら?」
ゆらめく殺気、二人の美神から放たれる殺気は横島に泥を吐かせるのには十分だった。

「接近戦のバリエーション強化と攻撃力強化のため知り合いに作ってもらったんですっハイ!」
正直にしゃべれる所は喋らないと後が怖そうだった。結婚してからは義母も時折怖い顔をするようになった。
妻が二人になったようで非常におっかない。

「霊剣を作れる人間ね。………ふうん。」
妻が半目で睨んでいる。ちょっとやばい。こういう目をする時は大抵、後で強烈な追求がある恐れがある。

「まぁ良いでしょ。ちゃんと自分のお金でやりくりすんのよ。」
小学生に向けるような台詞を夫に投げかけて表情が元に戻る。
どうやら追求は無しのようだ。内心びくびくだったのでほっとする。

「ふふふ……大変そうね、横島君。美神の女を妻にしたからには大変なのはまだまだこれからだけど♪」
心底楽しそうに美智恵が言う。心底勘弁してほしかった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


横島が用事が有ると言って事務所を出て行った。用事の内容までは詮索しなかった。
大方の予想は付いていたからだ。おそらくDr.カオスの所だろう。

「令子。ちゃんと手綱を握れているようで何よりだわ。」
聞きようによっては真っ黒いことを言う美智恵。だがその言葉は慈愛に溢れていた。

「とーぜんよ、ママ。あの馬鹿をほっとけば何をするかわかりゃしないんだから。」
事務所の椅子で腕組みをしながら胸を張って答える。

「最近、こそこそしてると思ったらカオスに霊刀を作ってもらってたとはね。まぁ悪さしてるわけじゃなし、いいか。」
夫がかつて自分が使っていたシェルターを改造してDr.カオスに提供しているのは既に知っていた。
おそらく、研究設備として提供したのであろうと思われる。夫の隠し資金が減った金額まで承知している。

知らぬは本人ばかりなり。
しっかりと情報を収集して置き、無茶なことをしようとしたら手綱を握るのである。
また、Dr.カオスの研究成果も気になるし、いざとなれば差し押さえて研究成果を頂くことも出来る。
何も知らないと見せかけておいて、しっかりと証拠を握り、ばれた時には証拠を突きつけ畳み掛ける。
さらには、夫の逃げ場と言い訳も確保して置く。完璧だった。げにおそろしきは美神令子。
まさに釈尊が掌の孫悟空。哀れ横島。

「それにしても……あれは凄いわよ。鞘から霊気が溢れていたわ。簡易封印が施されているのにもかかわらずよ?」
美智恵が不思議な物を見たように言う。Dr.カオスの人と成りからはあの刀が結びつかないのだろう。

「ん〜〜、あれでも全盛期はとんでもない破魔札なんかも軽々と作ってたしね。「ヨーロッパの魔王」の名は伊達じゃないから。」
おそらくそんじょそこらの霊剣では太刀打ちも出来ない代物を作ったのだろう。それも良いかと思う。
ただでさえ夫は武装する必要性が少ないのだ。

栄光の手、霊波刀、サイキックソーサー、文珠。汎用武器、攻撃、防御と三拍子揃った挙句、切り札まである。
このようなオールマイティーなGSは世界でも稀だろう。能力者としてのレベルも日本屈指だ。

だが、本人はまだまだ高みを目指すつもりなのだろう。妻としてもGSのパートナーとしてもそれは喜ばしい事だ。
ただ、抜かれっぱなしで引き離されっぱなしもシャクであるし、夫の隣に立つにはそれなりの力も欲しい。
守られっぱなしは美神の女のすることではない。自分もカオスに何か作ってもらうのも良いだろう。
悪巧みがばれた時の夫の顔を想像しながら笑みを浮かべる。

「ふふっ……なんだかんだ言ってもやっぱり彼を愛してるみたいで良かったわ。ところで令子、ひのめも落ち着いたし。そろそろ孫の顔も見てみたいなぁと思うんだけど。」
娘の幸せそうな笑顔を見ながら、さっくりと笑顔で刺す。ここいら辺の機微は美智恵に一日の長があった。

「なっ…なっ………まだ早いわよ!!結婚してまだ一年も経ってないのよ!?それにまだ二人でゆっくりしていたいし。・・・・・・・・・それ・・・を産む覚悟もまだ・・・。」
顔を真っ赤にしながら反論する。最後の方はぼそぼそと喋ったが美智恵にははっきりと聞こえた。

「私が令子を生んだのは今の令子より若かったわよ?……………まぁ、しばらく二人でゆっくりしたいと言うのも分かるけど。なんだかんだ言ってベタ惚れね〜。」
真っ赤になって照れる娘をからかいながら、前の極めて強情で意地っ張りだった娘を思い出し、苦笑する。
娘の心を溶かし、守ったのは彼だ。やはり娘の側に彼が居てくれてよかったと思う。
自分の男を見る目と、娘の男を見る目は確かだったのだと思いながら真っ赤になって言い訳する娘の話に耳を傾けていた。

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どうも再びM2Oでございます。
好き勝手絶頂に二話目を書いてしまいました。
どうもすみません。生まれてきてすみません。堪忍してつかぁさい。

それはともかく二話目です。色々と動いてきてます。
仕掛けも色々しかけました、はい。今回は一カ所です。

おキヌちゃんの出番はなさそうです。困ったものです、どうしましょうか。
えちしーんの出番もなさそうです。(そもそも規約違反です)

ご縁がありましたら第三話でお会いしましょう。

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