ザ・グレート・展開予測ショー

ジーク&ワルキューレ出向大作戦9 『LAST MISSION 聖夜の黄昏 12』


投稿者名:丸々
投稿日時:(06/ 6/24)

(霊力……駄目だな……霊感は……こっちも駄目か……)


医務室のベッドの上で、ジークがじっと自分の手の平を見つめている。
傍から見れば、ぼんやりと手相でも確認しているようだが、よく見るとジークの目は真剣そのものだった。


「さっきから何か変だけど、どうかしたの?」


目覚めてから、どうにもジークの様子がおかしい事に、べスパも気が付いていた。
心配そうに自分を見ているベスパに、ジークは穏やかな笑みを浮かべる。


「ベスパ曹長……軍の仕事にはもう慣れたか?」


「いきなり何の話?
……まあ、結構慣れてきたと思うよ。
ワルキューレ少佐の下ならあまり堅苦しくないしね。」


「そうだな、姉上の下なら何も心配ないよな。」


――――妙神山に医務室なんかあったんだなー。


――――ふーん、前は逆天号でふっ飛ばしちゃったけど、中ってこんな感じだったんだ。


外の廊下から話し声が近付いてくる。
その声を聞いたベスパは慌てて立ち上がった。


「ね、姉さんだ!
ど、どうしよう、まだ心の準備が出来てないよッ!」


「ああ、ちょうど良かったじゃないか。
さ、色々と話したい事もあるだろうし、僕の事は気にせずもう行って――――」


だがベスパはパニックを起こし、ジークの肩を掴み思いっきり揺さぶっている。


「そんな!だって、もしも姉さんが私を恨んでたらどうしたらいいんだ!?」


「ちょ、待ってくれ、目が回、る……」


ガクガクと揺さぶられていたジークが、突然糸が切れた人形のようにベッドに崩れ落ちた。
どうやら、頭をシェイクされ気を失ってしまったようだ。


「ジーク?、ジーク!?
……ああ、駄目だ完全に落ちてる。」


軽く泡を吹いているジークを放すと、医務室をぐるりと見回す。
だが、残念ながら身を隠せるようなスペースはどこにも無かった。
そうこうしている内にも、どんどん話し声は近付いてくる。


――――カチャ


「失礼しまーす」


医務室の扉が開こうとした瞬間――――




――――ドガッシャァァァァン!!




「何だ!?どうした!?」


突然医務室の中に轟音が響いた。
横島が慌てて部屋に飛び込むと、医務室の壁に大穴が開き、もうもうと砂埃が舞い上がっていた。


「ゲホッ……コホッコホッ……」


「あ、ジーク!何があったんだ!?」


意識を取り戻したジークが咳き込みながら身を起こす。
ヒト一人が通れそうなほどの穴が開けられた壁を見て、何が起こったのかを察したのだろう、大きな溜め息をついた。


(ベスパ……恐らく、もう会う事も無いだろうが……元気でな……)


















「ドクターから聞いたわ……あなた達のおかげで私は生き返れたんだって。
まずはお礼を言わせてもらうわね。本当に、ありがとう。」


「いや、別に気にしなくて良い。
僕にしろ姉上にしろ、任務でやった事だからな。
それよりも、決して諦めようとしなかった横島君に感謝するんだ。
僕がやったのは、彼らのアイデアの後押しだけなのだし。」


真摯な表情で礼を言おうとするルシオラを、気にするなとジークが遮る。
だがルシオラは首を振り、ジークの言葉を否定する。


「兵鬼の義体作成に関してはそうかもしれない……
でも、この義体の核になっている念増幅装置はあなたが――――!」


「それに関しても気にしなくて良い。
君には悪いが、アレは僕の私怨を晴らすついでにやった事だ。
こう見えても僕は魔族だぞ。他人のために何かしてやるほどお人好しじゃない。」


またもルシオラの言葉を遮り、ぷいと顔を背ける。




(おい、カオス。なんかジークのヤツ、ツンツンしてないか?)


(まったく……お主は鈍いのう。嬢ちゃんが気にせんよう、気を遣っとることくらい察さぬか。)


(ああ、なるほど。)


ジークとルシオラのやり取りを見ながら、横島とカオスがこそこそと話していた。
だが、疲れ果てて眠っているパピリオをベッドに横たえると、二人の話に加わる。


「ところで、医務室で休んでるって事はどっか怪我でもしたのか?
それに、何か攻めてきてたみたいだけど、そっちの方は片付いたのか?」


「ん……ああ、そうだな。敵は既に撃退済みだから心配無用だ。
少し疲れたので休んでいただけだよ。」


微妙に言葉を濁しつつ、ジークが答える。
何があったかなど、わざわざ知らせる必要は無いだろう。
話を逸らすように逆に問い掛ける。


「それより、これから君達はどうするんだ?
老師達の好意に甘えて、しばらくここに留まるのも良いと思うが……」


「ああ、そのつもり――――」


「駄目よ、ヨコシマ。
ちゃんと美神さんのところに行かなきゃ。」


咎めるように横島の頬を指でつつく。
だが横島は何か怖い事を思い出したのか、ガクガクブルブルと震え始めた。


「む、無理だルシオラ……もしも今事務所に帰ったら、俺はお前を残して逝ってしまうかもしれん……」


「そんなこと言っても、駄目よ。ちゃんと宣戦布告するんだから。」


その答えに横島が首を捻る。


「え、何の話?宣戦布告って何?」


「こっちの話よ♪
さ、行くわよヨコシマ。ドクターも。」


「いややぁぁぁぁぁぁ!
まだ死にたくないんやぁぁぁぁぁぁぁ!」


全力で駄々をこねる横島に、カオスが呆れたように頭をかく。
このままでは話が進みそうに無いので、溜め息をつきながらマリアに指示を下す。


「ええい、見苦しいぞ小僧。
マリア、遠慮はいらん。力尽くで連行するんじゃ。」


「イエス・ドクター・カオス。」


「いぃぃやぁぁぁぁ!
堪忍してぇぇぇぇ!!」


鋼鉄の少女に引き摺られるように連行される横島を、ジークは穏やかな笑みとともに見送っていた。


(ああ、そうだ。そうやって君は笑っていてくれ。
もう会えないだろうけど、僕は戦友である君のことを忘れない。)


そして、隣のベッドで静かな寝息を立てている少女に目を移す。
すーすーと寝息を立てる少女をしばらく見ていたが、小さく笑うとベッドから身体を起こした。


(パピリオ……短い間だったが、妹ができたみたいで楽しかったよ。
ちゃんと小竜姫や老師の言うことを聞くんだぞ……)


そっと頭を撫でてやると、出て行く前に布団を整えてやる。
気持ち良さそうな寝顔に別れを告げ、ジークは部屋を後にした。




















横島が嘘をついて自分達のパーティーに参加しなかったため、美神は荒れていた。
浴びるように酒を飲む隣では、既に西条が意識を失っている。
空になったワインやブランデーの瓶は既に軽く二桁に達している。


『……あの、オーナー。』


突然声をかけてきた人工幽霊に、美神がうつろな目で天井を睨みつける。


「なぁぁにぃぃ?」


目が完全に座っている美神に、おキヌやシロタマもおっかなびっくりといった様子だ。
もし刺激すれば、どこに飛び火するかわかったものではない。


『横島さんが、いらしていますが……』


その言葉が脳に浸透するのに時間がかかったのか、少し間を置いて美神が口元を歪ませる。


「ほぉぉぉぉ良い度胸じゃないの。
今更どの面下げて顔を出そうってのかしらねぇぇぇぇ。」


ゆらりと立ち上がり、ワインの空き瓶を片手に横島を出迎える準備をしている。
その鬼のような姿に他の三人は部屋の隅で身を寄せ合い、ガタガタと震えていた。
普段なら横島を助けようとするシロでさえ、美神の放つ怒気があまりに強烈で動けなかった。


「私、お葬式に出るのって初めてなのよね……喪服用意しなくちゃ……」


凶器のワインの瓶を片手に部屋を出て行った美神の後姿に、タマモがポツリと呟いてた。


次に聞こえてくるのは横島の断末魔の叫びだろうと覚悟していたのだが、意外な事に、聞こえてきたのは美神の悲鳴だった。
恐怖による悲鳴、ではなく、驚愕による悲鳴。そうまるで、美神が何よりも苦手な、あの生き物と遭遇したときのような悲鳴。
三人は慌てて部屋を出て、美神に何があったのか確認しに走った。










「ル、ル、ル、ル……」


わなわなとおキヌが体を震わせている。
予想もしなかった目の前の光景に、脳がフリーズしてしまったのだろうか。


「ルシオラさん!?」


ようやく出た言葉に、シロとタマモが首を傾げる。


「知ってるでござるか?」


「さあ?」


シロに聞かれても、タマモは肩をすくめるだけだった。






「まあ、話せば長くなるんじゃが……」


湯呑みの茶をすすり暖をとりながら、カオスが説明を始めた。


「計画自体はかなり前から進めとったんじゃよ。
当初の予定ではマリアやテレサのような機械式の義体を使おうと思っておったんじゃが、とある協力者が現れてのう。
より以前の肉体に近い、兵鬼式の義体に切り替えたんじゃ。」


「……そうか、ワルキューレ達ね?」


カオスは頷き、先を続ける。


「今日、小僧がおらんかったのは、今日が一番霊的に都合が良かったからじゃ。
じゃから、取り敢えずその凶器を置いてくれんかのう。」


カオスが恐る恐る、美神が未だに握りしめているワインの空き瓶に指を差す。
渋々ながら凶器を置いた美神に、事務所の空気が少し和らいだ。


「まあ、だいたい事情はわかったわ。でもまだ納得いかないわね。」


そわそわしている横島をじろりと睨むと、慌ててルシオラの後ろに隠れ、危機をやり過ごそうとしている。
その情けない姿に小さくため息をつきながら、不機嫌そうにジト目で頬杖をつく。


「何で一言相談しないの。私だって鬼じゃないんだから、言ってくれたら力になったのに……」


ふむ、とカオスは頷き、事情を話し始めた。
そもそも、当初の計画では成功する確率は決して高いとは言えなかった事。
そして、もしも失敗すれば、ルシオラは娘に生まれ変わる事すら出来なくなっていた事を伝える。

途中、だったら尚更説明せんかぁぁぁぁ!!と美神が爆発しかけたのだが、五・六発横島が殴られただけで、何とか穏便におさめる事ができた。
横島を殴った事でようやく落ち着いたのだろう、美神の機嫌はだいぶ良くなっていた。


「だいたいの流れはわかったわ。で、これからどうするの?
その、あんたクラスの魔族だと、このまま人間界に留まるのは……ちょっと難しいと思うんだけど。」


微妙に口ごもりながら、美神がチラリとルシオラを窺う。
気の毒だが、上級魔族クラスの力を持つ彼女を、野放しにしてくれるとは思えなかったのだ。
だが、それも想定の範囲内だったのだろう。カオスが自信ありげな笑みを浮かべた。


「ふふん、その程度の事など予想済みじゃわい。これを見るがいい!」


コートのポケットから取り出された物は、丸型のディスプレイにベルトが付けられた、どう見てもただのデジタル式の腕時計だった。
皆が一斉に胡散臭そうな眼差しを送る。


「うぬぅ、何じゃその目は。ええい、小僧腕を貸せ!」


「よ、よせ!あんたの発明品はたいていロクなもんじゃ――――って、いぃぃやぁぁぁぁ!!」


過去、ロクな目に遭ってないため必死に抵抗するが、マリアに捕まり無理矢理装着させられてしまった。
カオスの造った物の危うさを良く知る美神が、おキヌの手を引き慌てて距離をとる。
不死身の横島ならどんな目に遭っても平気だろうが、普通人の自分達はそうはいかないのだ。


「ああ、そんな!ズルいッす美神さん!」


抗議の声を上げる横島をよそに、突如室内にポーーーーンと間抜けな電子音が響いた。


『118マイト です』


続いて無機質なアナウンスが流れる。
爆発か!?それとも電流か!?と身構えていた横島が、次に起こるであろう事故に備え、身を縮める。


「ぬぅ……失礼な奴らじゃのう。
心配せずともただの霊圧測定機じゃ。何も起こりゃせんわい。」


憮然とした表情を浮かべながら、横島の手首から装置を取り外した。
それをルシオラに手渡し、同じように霊圧を測定する。


――――ポーーーーン


『52マイト です』


「ったく、安全でも壊れてちゃ意味ないじゃない。」


アナウンスを聞いた美神が呆れながら髪をかき上げる。


「壊れとらんわ!まったく、この天才の頭脳をなんだと思っとるんじゃ……」


ぶちぶち文句を言っているが、日頃の行いがアレなのだから仕方ない。


「大丈夫よ、美神さん。
今の私には下級魔族程度の力しか残ってないの。
だから、私が人間界にいてもデタントには影響しないわ。」


「兵鬼の知識も、設備の無い人間界ではあまり意味が無いらしいからのう。」


どんな知識を持っていても、材料や製造機器が無ければそれを形にする事は出来ない。
それに関してはジークとドグラが保証していた。

使い魔の方も、自分の力を超えるようなものは使役できない。
下級魔族程度の力しか持たない今のルシオラに、以前のように強力な使い魔を扱う事など不可能だった。


「義体の基盤となっておる霊基片自体が完全ではないからのう。
加えて、義体の維持にも霊力を使っておるんじゃ。それは以前と比べれば非力なもんじゃよ。
神界の方も公認とまではいかんようじゃが、取り敢えず黙認してくれるようじゃしな。
後は、アシュタロスの遺した知識を漏洩させなければ、目を付けられる事も無いじゃろ。」


滞在に関しては今のところ問題なし、と請け負う。


「おキヌ殿、そろそろ拙者達にも説明してほしいでござるよ。」


話に取り残されていたシロが、きゅーんと鳴きながらおキヌの袖を引っ張っている。
だが、言ってしまって良いものか、困っているおキヌに横島が笑顔を向ける。


「問題事も片付いたし、もう隠す必要もないよな。
いいよ、おキヌちゃん、俺から話すから。」


隠し事をされていたことに抗議の声をあげる二人をどうにか宥めると、横島はアシュタロスの事件をシロとタマモに話し始めた。






「うぅー、拙者達だけのけ者にするなんてヒドいでござる。」


「ま、何か隠してるんだろうとは思ってたけどね。」


シロは口を尖らせているが、何となく感づいていたタマモは淡々とした反応だった。


「隠してたのは悪かったけどさ。
事情が事情なんだし、わかってくれよ。」


事情が複雑なのは二人も重々承知していた。
その上、手を合わせて頭を下げられたのではこれ以上責められない。


「……わかった。稲荷寿司一年分で無かった事にしてあげる。」


「あ、では拙者は松坂牛一頭を希望するでござるよ♪」


「ま、前向きに検討させて頂きます……」


最近、雇い主の影響を受けたのか、おねだりが上手くなってきた二人に、先行きが不安になる横島だった。


「で、これからどうするの?」


シロタマへの説明が片付いたのを見計らい、美神がルシオラに問いかける。
何気ない素振りを装っているが、内心激しく動揺していた。
何故なら、ルシオラが戻ってきたという事は即ち――――


「その話の前に、ねえヨコシマ。」


呼ばれて振り向いた横島の鼻先に、すっと掌をかざす。
次の瞬間、ルシオラの掌が発光し、気を失った横島がルシオラの胸元に倒れ込んだ。


「良かった……心霊麻酔はまだ使えるみたい。」


以前のように光を操って幻影を作り出す事までは出来そうにないが、全ての力を失った訳ではないとわかり、ほっと胸をなで下ろす。


「ちょっとあんた!どういうつもり――――!」


「まあ、落ち着けい。
お主らにとっても決して悪い話ではないんじゃぞ。
小僧が起きていたのでは都合が悪いから眠ってもらっただけじゃ。」


「……どういう事よ。」


訝しむ美神に、カオスはルシオラが提案した、あの『おあずけ期間』の事を説明してやる。


「まあ、なんじゃ。
お主らも小僧には色々と思うところがあるんじゃろう?
ああ、隠さんでもええわい。そんな事は今更な話じゃろうが。」


カオスの言葉に、美神が反射的に否定しようとするが、あっさり受け流した。
色々な意味で、優位に立っている今日のカオスは一味違う。


「それで、じゃ。
小僧には気の毒じゃが、これから一年の間に、誰が一番大事なのかを選ばそうと思ってな。
適当な理由を吹き込んで、ルシオラ嬢ちゃんに一年間は手を出さんように釘を刺しておいたから、奪い取るなら今しかないぞ。」


直球ど真ん中の発言に、皆、無意識の内に他の面々に目をやる。
そこで、事務所の中で唯一、横島を異性としてよりただの遊び仲間と見ているタマモがふと浮かんだ疑問を口にする。


「でも、なんでわざわざそんな面倒な事するの?
あなたは横島の昔の彼女なんでしょ?なら、遠慮する事無いと思うけど。」


「あら、もちろん負けない自信があるからに決まってるでしょ。」


すやすやと胸の中で眠る横島の髪を撫でてやりながら、ルシオラが自信あり気な笑みを浮かべた。
その余裕たっぷりの姿に、美神のコメカミに青筋が浮かぶ。


「まあ、私には関係無い話ね。
シロとおキヌちゃんには良い話かもしれないけど。」


ルシオラに対抗するかのように、余裕のある笑顔を浮かべた。
だが、その笑顔を見たおキヌとシロは恐怖に身をすくませる。


(美、美神さん、目が笑ってません……!)


(うう、部屋の温度が10℃くらい一気に下がったみたいでござる……!)


思わぬ火種が生まれ、タマモは一人わくわくしていた。


(これから横島争奪戦が始まるって訳ね……うわ、面白そう♪)


「ま、行動するかどうかは各々の自由じゃな。
わしが口出しする事ではないのう。」


意地を張る美神の姿に、カオスがにやにやと笑っていた。

















――――人事通達。
魔界第二軍情報部所属・ジークフリード少尉。
霊力が軍の規定値を大幅に下回るため、本日付で除隊処分と致す。


それから数日後、一人の魔界軍士官が軍から追放された。

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