ザ・グレート・展開予測ショー

GS横島剣客商売 その壱


投稿者名:M2O
投稿日時:(06/ 6/17)

都内某所、地下約100m
「ちわ〜。おっさん、アレが出来たんだってな。」
横島忠夫は「ヨーロッパの魔王」の字を持つ、希代の魔術師にして錬金術師、Dr.カオスの研究室を訪れていた。
四十メートル四方の空間には様々な工作機器、実験器具が散乱している。
配線はいたる所に放置され、足の踏み場も無いくらいだ。

「YES、横島さんのご依頼の品・完成しました。」
研究室の奥からマリアが出迎えてくれた。

「そうか、いやぁ・・・裏金でこんな研究室を用意した甲斐もあったぜ。」
横島はGSは結婚前にGS業務で溜め込んだ資金を運用し増やした金を使ってDr.カオスに研究室を提供した。
以前、妻のシェルターとして使われていた部屋である。廃棄されてからこっそり工事をした。

カオスに研究室と資金を提供した目的は三つ。
一つ目は、自分が使用できる超々高濃度霊気物質の文珠の研究と解析のため。
二つ目は、特殊な霊具の試作、試験、運用のため。もちろん商売は考えていない、それ以前に商売にならないが。
三つ目は、自分の体の霊基構造解析のため。

もちろん妻には内緒だ。ばれると死ぬほど死ぬかと思う目に遭わされる。

「おっさんはどこだ?マリア。」
「YES、横島さん・Dr.カオスは置くの大規模圧縮装置の・前にいます。ご依頼の品も・そこにあります。」
「ありがとう、マリア。」

研究室の奥に向かって進む。ケーブルやコードの間を縫って行くのは一苦労だ。
奥の圧縮装置の前にDr.カオスは居た。
「うーむぅ・・・・・・ヒヒイロカネと真銀の相性が以外と良くないのは意外だったノウ・・・・・・次の作成の時の課題じゃな。」
ぶつぶつとマッドサイエンティスト特有の独り言をつぶやきながら一振りの抜き身の刀を眺めていた。

「おっさん。出来たって?・・・・・・そいつがそうか?」
「おお、小僧か。久々に納得の行く物が出来たぞ。まだ、改良の余地があるが・・・・・・小僧の要求するスペックは満たしているはずじゃ。」
そう言って一振りの刀を横島に手渡す。
刃渡り約70cm、尺に直せば二尺三寸一分。
刀身は曇り淡く光を反射していた。
反りは約一寸、直刃で鎬の表と裏には不動明王と愛染明王の梵字が彫られている。
全長二尺四寸二分、相州伝風の打刀だ。鍔は普通の大きさの物に何らかの呪文が刻まれている。
柄は約一寸二分、柄頭は大きく、柄よりやや太い。4cmほどの柄頭に大きめの丸い穴が開いている。

「刃鉄と棟鉄には超硬合金とヒヒイロカネの合金、皮鉄には神鉄と真銀の合金じゃ。」
ヒヒイロカネと神鉄は以前妙神山の修業場が倒壊した時に使っていた鎹と釘を貰った、
おそらく古金としても極まった状態の金属だろう。
真銀は以前、ワルキューレから貰った精霊石ライフルの金属を流用した。
「柄はアルミ複合材で覆ってカーボンワイヤーを巻いてある。柄頭と鍔は神鉄。刀身と柄は一体型になっとる。思う存分振り回せるぞ。」
カオスは顎を撫でながら答えた。この希代の錬金術師の満足そうな顔を見るのは久しぶりだった。

「材料は足りたのか?」
「当然じゃ、刀一本作るには十分すぎる材料じゃよ。もっとも材料から余分な神魔の属性を抜いて本来の純粋な霊力を出すのに苦労したがの。」
「前に渡した、俺の血と爪と髪、文珠は何に使ったんだ?」刀から目を離さずにカオスに問いかける。

「髪は培養してカーボンワイヤーに編みこんだ。残りの髪と爪と文珠で合金の作成じゃ、血は焼入れに使った。」
「霊具としては小僧しか性能を引き出せない欠陥品になったがの。」
「久しぶりに兵器ではなく武器を作ったのう。ワシの天才的頭脳と東洋のオカルト技術と科学技術の結晶じゃ。」
そう言って笑う。物騒な笑みだった。
「霊的耐久力と軽量化を眼目に作ってある。もう壊れる事はないじゃろう。前に試作したヤツを霊気を込めて折った時にはびっくりしたがの。」
「これならば小僧の霊力にも耐えれるじゃろう。」
前に試作した西洋風の剣は霊気を全力で込めた瞬間、折れた。耐久力が無かったのだ。

「物理的硬度も破格じゃぞ。刀身の部分にもよるが修正モース硬度で23〜28前後じゃろう。剛性も弾性も十分じゃ。鉄骨を峰で打ってもビクともせんぞ。チャンバラしても大丈夫じゃ。」
本来、刀は防御するための物ではない、斬るための道具である。それゆえ、峰を強打するとどんな業物でもあっけなく折れる。
もちろんカオスもそんなことは百も承知である。強度に自信が有るからこんなことを言うのだ。

「鞘も作っておいたぞ。アルミ複合材を神鉄でコーティングしてある。副武装としては神通昆以下じゃがの。」
「それと、研ぎは儂の所に持って来い。普通の方法じゃ絶対に研げん。」

鞘を受け取り一通り刀身を眺めた後、鞘に収めて竹刀袋に入れる。

「ありがとうよ。おっさん。材料費とそれに上乗せして幾らか出すわ。」
本来ならここの研究室を用意する見返りのつもりだったが、出来栄えは予想を遥かに超えていた。
良い物にはそれなりの金を払うのが道理だ。

「おお!!ここの器具をそろえるのに有り金使ってしまってノウ。家賃が払えるぐらい上乗せしてくれるとベストじゃ。」
この根っからの研究者である老人は研究費という概念はあっても生活費という概念は無いらしい。

「わかった、振り込んでおく。口座番号はマリアに聞くよ。」
「現金じゃ。」
当然のごとく、銀行口座など持っていないらしい。

財布にあるだけの紙幣を取り出すとカオスに渡した。
「とりあえずこれだけ、渡しておく。材料費の請求書は俺に回してくれ。残りは今度来た時に持ってくる。」

「おお!!!これだけあれば家賃滞納ともおさらばじゃ!!機器の調整したらすぐ帰るぞマリア!!バァさんにさっさと支払うんじゃ!」
「YES、Dr.カオス。家賃払う・のは124日振りです。」
かつての赤貧だった自分を思い出しちょっと涙する。

「感動してるとこ悪いが・・・おっさん。アレは直るのか?」
横島が研究室の机に置いてある、折れた刀を指差す。

「うむ。材質の性質は解析した、後は材料となる物があれば修復できるじゃろう。材料は覚えておるな?」
紙幣を数えながらカオスは答える。

「ああ、覚えてる。まだ必要な量は集まってないが・・・・もうすぐだ。また来る。」
振り向いて帰ろうとするとカオスが声をかけた。

「待て、小僧。まだ重要な事が残っておった。」
真剣な顔つきになったカオスがこちらを見ていた。
「その刀の銘はなんとする?」
戦士に魔法の剣を授ける時、魔法使いはこんな顔をするのだろうか。

「…………夕蛍だ。」

研究室のドアを開けて奥のエレベーターに乗った。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「ピエトロ・ド・ブラドーだな?」
仕事帰り、自宅である教会の前でピートは背後から男に声をかけられた。
声に明らかな殺気が有る。尾行された気配はしなかった。
黒いロングコート、黒いシャツ、黒いカーゴパンツ。全身黒ずくめだった。
男の黒い瞳は目は光を写さない。

「それが何か?」
すでに戦闘態勢を取れるよう意識を整える。
尾行されていたとしたら、吸血鬼の超感覚をくぐり抜ける恐るべき手練れだ。

「その命、貰い受ける。」
その言葉と同時に男は前屈みの姿勢でピートの眼前2mまで迫っていた。
刹那、ロングコートの左脇から光が奔った。

「バンパイアミスト!!」
相手の得物は刃物、そう思って体を霧に変えたのが失策だった。
此処で体をかわせば違う結果になっただろう。
霧に変わった体を八本の光が駆け抜ける。

「手応え・・・・・・・・・・・・・・・有り。」
黒ずくめの男が口を歪める。

「ぐはっ!」
霧への変化は解け、体から八割以上の霊力が奪われていた。
体には斬撃を受けた様な傷が多数あるのが感じられた。
跪き、うずくまる。背後の男が止めを刺しに来るのが分かるが動けない。

男は抜き身の刀を八相に構え、振り下ろす。

「主よ!聖霊よ!彼の敵を退け給え!」

刀を振り下ろそうとした男へ聖なる光が降り注ぐ。

「クッ・・・」
男は攻撃を受けながらも教会の横の道へ滑り込む。駆ける音が遠くなってゆく。
鮮やかな逃走だった。

「ピート君!大丈夫か!しっかりするんだ!!」
唐巣神父は地面に臥すピートを抱き起こす。

「先生・・・なんとか・・だいじょうぶ・・です。」
地面にうずくまりながらピートが堪えた。立ち上がれない。

地面にうずくまりながらピートは考えていた、霧と化した吸血鬼に深い傷を与える武装を。
聖別を受けた武器でも、たとえ法皇の加護を受けていたとしても神の加護も有る自分に此処までの傷を負わせられない。
どのような武器なら可能だ?・・・・・・どんな武器なら・・・・・・
そんな事を考えながらピートの意識は闇に落ちていった。

「ピート君が此処までの傷を受けるなんて・・・・・・」
意識を失ったピートを抱きかかえながら唐巣神父はこれから起こる事件へ神の加護を祈った。


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M2Oでございます。
調子に乗って長編を書いてしまいました。
自分の趣味丸出しの上に好き勝手絶頂にやらかしておりますが、どうかご了承ください。
なお、日本刀に詳しい方が見ると間違った知識等有るかも知れませんが、ファンタジーと言うことであしからずご了承ください。(ビクビク

今回はえちは少なめで行きます。・・・行けるはずです。・・・行けるといいな。・・・たぶん行けるんじゃないかな?

では、第弐話でお会いしましょう。

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