ザ・グレート・展開予測ショー

Mの愛劇(前編)


投稿者名:M2O
投稿日時:(06/ 6/12)

美神Side

「はぁ・・・・・・」
何度目かのため息をつく。
美神令子は自宅のベッドの上で天井を見上げながらため息をついていた。
一人で寝るには大きすぎるベッドの余白には本来ならそこで寝るべき者が居る・・・が今此処には居ない。
今頃は事務所で半期に一度の決算の為の書類整理に追われているはずだ。
「はぁ・・・・・・」
何でこんな事になったのだろうと考える。
思い起こせば二週間前、些細な事で自分が涙目で怒った事が原因だった。


美神令子23歳、横島忠夫20歳。この二人が結婚して半年の月日が過ぎていた。
一年前の事件の後、二人は結婚した。
この半年間は幸せだった。
二人は同じベッドで起き、同じ事務所で仕事をし、同じ家に帰り、同じベッドで寝る。
最初はぎこちなかったものの、そのぎこちなさすら愛しさに変えて二人は過ごしてきた。
結婚式の後、初夜の時に不覚にも痛みで涙を流してしまった。
その事を真剣に謝る彼をずっと愛し続けようと想った。
その後、行為を重ねるにつれて様々な技巧を凝らして愛される。
行為に痛みを感じなくなったのは一週間目。
行為に明らかな快楽を得たのは二週間目。
行為で上り詰めたのは三週間目。
その間、毎日のように共に夜を過ごした。
早々と行為に熟達した事を嬉しいと思う反面、何か出来すぎの様な気がしていた。
いろいろと調べたり、伝聞を聞く限り普通はそんなに早くこんな状態になったりしない用だ。
彼との相性が良いのだろうかと思ったが、母に聞いてみるとそれはやはり普通では無いようだった。
結婚した相手が普通では無い以上、納得するしか無いと思った。

その後、半年を迎えるまで仕事で仕方がない時と体調の関係で出来ないとき以外は体を重ねた。
また、どんなに疲れていても、彼の口で愛を語られ、腕で抱きしめられると拒めなかった。
それどころか、自分から彼を迎え入れたいとも思うようになるのだ。
無論、人前やTPOをわきまえない発情はきっちりと躾をしたが。

行為が無い夜も彼の腕で眠った。彼の腕の中で眠りに付くのは幸せだった。
初めて『女』としての幸せを得た気がした。
朝起きて、いきなり求められることも少なくない。
それでも拒めない自分には困ったものだと思いながらも、
最後には嬉々として受け入れている自分に気づく。もちろん、その後折檻はするのだが。
その後も彼の技巧はどんどん上達し、歓喜の中失神したのは二ヶ月目だった。

そんな蜜で煮られている様な月日だった。
それが、二週間前の出来事から止まってしまった。
毎日の甘い日々でもそれだけでは満たされない。
時にはとびっきり美味しい料理と最高の美酒に酔いながら愛を語り合いたいと思う。
そんな訳で、仕事が休みに日に海鮮料理で有名なレストランと最上級スイートに予約を入れた。
大抵は何ヶ月前からの予約が必要だったが、以前除霊したレストランの支店と言うことで、
コネを使って特別に早く予約を取ることが出来た。

衣装も特注のオートクチュールを見立てて、装飾品も持てる最高の物を合わせた。
下着もわざわざ夫に見せるために買った勝負下着を身につけた。
美容院も行き、化粧も気合いを入れて施し、最高の自分を見て貰おうと思ってその日に望んだ。

その日、夫が帰ってきて『ただいま』の一言も無いまま、着飾った自分を見みたとたん。

「令子おおおおおおおおおおおお!!!!!」

夫が切れた。飛びかかってくる夫に拳を入れたものの、勢いを殺すことが出来ずに捕まってしまった。
その後、途中まで流されかけたものの何とか夫を叩き伏せる事に成功した。
しかし途中まで流されたけた事と暴れたせいで衣装はめちゃくちゃだった。
元々夫が帰ってきた時間が遅かったため、ギリギリで大丈夫だった予約の時間も過ぎていた。

せっかく自分が一番素敵な姿を見て貰おうと一生懸命頑張ったのにこのざまだ。
夫が自分を求めてくれるのも限度がある。TPOをわきまえ無いのは言語道断だ。
拒めない自分にも、腹が立った。いつから美神令子はこんなに甘くなったのだろうか。
そんな考えが浮かんでくるにつれて目頭が熱くなってくるのを止められなかった。
「ばかったれ!!」
思い切り殴ったつもりが彼の胸からどすんと音がした程度だった。
その後、謝る彼を置いて、母の家に行ってしまった。

三日後、家に帰って彼に会うと彼は誠心誠意謝ってくれた。
何でだろ、嘘をついたり、口先だけで謝ってる時はすぐ分かるし許す気にもなれないのに、
本気で謝っている時は自然と許してあげようという気持ちになる。

「もう良いわよ。その代わり、今後同じ事をやったら離婚するわよ!」

無論、離婚のくだりは冗談に過ぎなかったが、彼は真摯に受け止めてくれた。

「分かった。令子、ごめんな。もう二度としない。本当にごめん。」

そう言って抱きしめてくれた。正直な所、こんなに真摯に謝ってくれるとは思っていなかった。
その夜に体を重ねなかったのはお互い気まずかったのだろう・・・そう思っていた。

また奇しくもこの事件が有った時には結婚して初めての決算期が始まろうとしていた。
二人の生活が、家中心になるのにつれて、累積した書類仕事の整理もあった。
それから彼は事務所に泊まり込み始めた。
決算期だといえ、除霊業務はある。二人で何件かの仕事を片付けたあと、家に帰ろうとすると。

「書類仕事が有るから整理が付くまで事務所に止まるよ。令子は先に帰って寝ていてくれ。」
「こういう疲れる仕事は男の役目だ。分からないところが有れば、明日聞くから。じゃあお休み。」
 などと言う。

経理業務を彼に学んで貰いたいのは先々から考えていた。
しかし決算管理の仕事が初めての人間に出来るわけがないと。たかをくくっていた。
翌日には不明な事ばかりで私がやる事になると思って帰った。しかしその憶測は裏切られることになった。

「この書類はこれで良いのか?令子、チェックを頼む。」

翌朝、事務所に出勤すると彼が紙の束を差し出して確認を求めてきた。
どうせ使えないだろうと思っていたが、驚いたことに、不備がほとんど無いのだ。
このことを彼に聞くと。前々から経理業務を独学で勉強していたとのこと。
仕事もして、生活(主に夜の)も激しいぐらいで、なおかつ勉強もしていたらしい。
素直に白状すると・・・これを聞いて彼に惚れ直した。

過去の決算期の書類を渡してアドバイスすると教えることが無くなってしまった。
今日も事務所で書類仕事をするつもりらしい。
前のわだかまりと気まずさも有ったので、家に帰った。

その後、二週間。除霊業務以外はずっと彼は事務所に泊まって書類仕事をしている。

「はぁ・・・」
もう何度目か分からないため息をつく。
この半年間、正確には二週間前まではほとんど毎日彼の腕の中で寝た。
彼は暖かい、彼は頼もしい、彼はとても愛しい、彼に抱かれたいと思う。
お金と友人と家族以外で初めて大切と思える「男」だ。
いつの間にか自分を追い越して、いつの間にか自分を守っていてくれて。
気がつけば自分の身も心も抱きしめていてくれた。

「・・・・・・・・・寂しい・・・・・・・・・」
ベッドの空白を見ながらつぶやく。
彼の温もりが、彼の熱さが恋しい。

たぶん、彼が泣いたことを引きずっているのは間違いない。
このまま成り行きに任せてもぎくしゃくするのは目に見えている。
これは俗に言う「夫婦生活最初の危機」と言うヤツではないだろうか。
ぶるぶるとかぶりを振る。
「そんな一般人が苦労するような物に美神令子が負けてたまるもんですか!!」

そうだ、美神の女は戦う女だ。目の前の危機とは闘わなければならない。
いや、目の前の危機と進んで闘うのが美神令子なのだ!!
目の前の危機に関して分析を開始する。障害、彼我の戦力、自武装、攻撃手段。
それらをまとめつつ、ふと自分に切り札が有ることに気づいた。
切り札はリスクが有るが致命的なダメージを与えることが出来るから切り札なのだ。
故にリスクと戦果を比較して切り札は切られる。

「見てなさいよ。横島。美神の戦いを味合わせてやるんだから。」
 かつての口調に戻った事は気がつかなかった。

クローゼットの奥深くに閉まって切り札を思い浮かべ真っ赤になりながら美神は決意した。

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