ザ・グレート・展開予測ショー

アシュタロスの影


投稿者名:NEWTYPE[改]
投稿日時:(00/ 7/ 6)

唐巣が出ていった舷側は、ランチが接舷し、物資の搬入で混雑していた。
エア・ロックが開くと、別のコンテナが押し込まれてくる。入ってくる兵たちは、全員がノーマルスーツを着込んでいた。
唐巣は、ノーマルスーツに大きなバッグを持って、エア・ロックにさしかかった。
傍らに待機した兵員が、サイドパイプをとり上げて吹こうとした。
「いいっ・・・・」
唐巣はそれを手で制した時に、小竜姫のノーマルスーツが入って来たのを見つけた。
小竜姫がバイザーをあげて近づいてくる。
「遅い!」
「申し訳ありません。何か・・・・?」
「いや、君のように優秀な部下と離れるのは非常に残念だ・・・・が・・・・君には、地球突入の切り込み隊長になってもらわねばならんから・・・・・」
「はい!」
傍らでコンテナが移動しはじめる。
何か言いたげな唐巣のまん丸眼鏡が揺れ動くが、その口元はムニッと動くだけだった。
「・・・・・・・?」
小竜姫は緊張した。
そして小竜姫の目の前で、唐巣が振り向いた。
「なんだろう・・・・・?」
小竜姫は、漠然と唐巣が自分を呼んだ理由をわかろうとしたが、思いつかなかった。
「忙しい時だから、じゃっ!・・・・小竜姫中尉・・・・」
唐巣が突然小竜姫に向いて言い、その脇を通り過ぎてエア・ロックに向かった。
「は、はいっ・・・・・」
小竜姫は敬礼を返しながら、唐巣の用事を思い出すことができなかった。
「・・・・・唐巣艦長・・・・なんの用だったのかしら・・・・・?」
振り返ってみながらも、小竜姫は髪をカットしようと思いついていた。


――――カオス教所属の大型宇宙戦艦『ドボルザーク』――――
その作戦司令室の中央の椅子に腰を下ろしたちょび髭野郎、厄珍は傍らの士官から受話器を受け取った。
「アシュタロスの逆天号と合流できたら、奴を追撃に出すアル。」
「しかし・・・・アシュタロス大尉は、大佐に会わなければ動けないと・・・・・」
「艦長クラスが何を言うアルか!実績を見せれば考えとくと言っとけアル!」
「はっ!」
「・・・・アシュタロスがMSを持ってるのは知ってるアル。奴のMSを制式採用するためにも、データを見せてもらう必要がアルね。好きにやってかまわないアル!」
「はっ!了解です!」
厄珍は通信を切るなり立ち上がって、
「アレキサンドリャーはどこアル?」
「はっ!補給完了後・・・・・」
若い作戦士官が、作戦指令用のモニターの展開図を映して、一つのポイントを示した。
横島達のコロニーと月の間である。
厄珍はそれを見て、
「艦隊は組めるアルか?」
「はっ!トレネ、ブタイは追従できます」(二つとも巡洋艦です)
若い作戦指令は冷静に答えた。
「地球軌道上にアルぞ?大気圏突入もあり得るネ。」
「はい・・・・。問題は、月から発進をしたICPOの艦艇が何隻か読めないことです。」
「三隻だけでも追撃させるアル!ジブロー侵攻を黙って見すごしたとなれば、ワシのDrカオスへの立場がなくなるアル。」
「はい・・・・・。通信兵っ!」
作戦指令の声に、脇の通信兵が応じた。


アレキサンドリャーのブリッジで、艦長の茂流田が、椅子の肘掛けを拳で叩いた。
「我々をなんだと思ってるんだ、厄珍大佐は!我々は大佐の手足ではない!」
その左脇のモニターに、巡洋艦のトレネが近づくのが見えた。
「艦長、気持ちはわかりますが、敵の動きが早いのです。」
脇の士官が茂流田を必死で宥めている。
「くそっ!」
茂流田はいまいましげな表情で受話器を握った。
「緊急事態の発生である。我が艦はICPOの新たな動きをキャッチした・・・・・。」
茂流田が艦内に作戦の変更を伝える。
「現在ただ今の補給作業が終了次第、我がアレキサンドリャーは地球に向かう。」
アレキサンドリャーのMSデッキでは、タイガーと雪之丞がその放送を聞いていた。
「地球の衛星軌道上で、ICPOのMS隊を捕捉、殲滅する作戦を実施する。」
「グッハハハッ!」
MSデッキにいあわせたパイロットたちが一斉に笑った。
「よくやるよ!」
「冗談じゃあないぜ!」
「地球軌道上の作戦なんていうの、俺たちにできるの?」
それが彼らの実感である。
「どう思う?」
雪之丞は笑いながらタイガーに聞いた。
「MSで地球に帰ることになるとは思わんかったデスノー。」
タイガーは苦笑した。
「あ・・・・・?」
雪之丞は、タイガーが茂流田の話を肯定的に受け止めているのが意外だったのだ。
「反対したって作戦は実施されるケン。覚悟するしかないでっしゃろ?」
「まだ、決まったわけじゃない。地球にたどりつく前にICPOの艦隊を捕捉して、奴らを叩けるかもしれん。」
「距離的には無理デスノー。」
タイガーは雪之丞の言葉を簡単に否定して、膝の上のパソコンで計算を始めていた。
周囲では、メカニックマンたちが、MSのマラッサ、ザックに補助のバーニア、バリュートを装備するための動きを始めていた。
「大気圏突入ったって、シミュレーションは十分にやっている。自身はあるぜ。」
タイガーはパソコンの板を振ってニヤリとした。
「実戦はやっちゃあいないデスノー。」
「そりゃ、ICPOも同じだ。」
「同感ですケン。しかし、この作戦がMK-Uを落とすチャンスかもしれないとなれば、ワシらにとっても悪い話ではない筈ジャ。」
「ああ・・・・」
雪之丞が顎だけで頷いた。
「ワシにとっちゃあ、地球に帰れるってのが嬉しいんジャが・・・・・?」
そのタイガーの言葉に、しかめっ面の雪之丞が表情を変えた。
「バリュートの調整を手伝うか?」
その雪之丞を無視して、タイガーは立った。
「女が待ってんのか?」
雪之丞の探るような言葉にタイガーは、
「グフフ・・・・」
と、大きな白い歯を見せてMSデッキの方に流れて行った。
「チッ!」
雪之丞は舌を打ってタイガーを追った。


戦艦ハリスのMSデッキをアシュタロスは士官を従えて入ってきた。
「我が艦のMSは出すなだと!?」
「そう言った。聞こえなかったのか?」
「なぜだ?」
ハリスの艦長がアシュタロスの胸元をわし掴みにした。
「私はメッソーラで出ると約束した。ならば、ここの旧式を使うことはない。」
アシュタロスは、艦長の手を払って傍らのザックの足を蹴った。
たしかに、ハリスのMSデッキにはザックが四機あった。
決して新鋭のMS隊とは言いがたかった。
「てめえっ!」
ザックのパイロットが、自分のMSを足蹴にされたので、アシュタロスに殴りかかっても不思議ではない。
が、アシュタロスはそれを簡単に避けて、パイロットを殴り返していた。
その早業は目で見ることができない。
殴られたパイロットの体が、壁に向かって流れて、同僚に押さえられようとしていた。
「私の戦い方は尋常ではないよ。メッソーラと言う可変MSの性能を見せてやる。貴官の上司、厄珍大佐にもな!」
そのせせら笑うようなアシュタロスの目つきに、艦長は黙った。


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