ザ・グレート・展開予測ショー

追いつめられて(3)


投稿者名:aki
投稿日時:(06/ 6/ 5)

「じゃあ、明日、地下の変なフクロウの前ね。
うん、そこで待ち合わせね。12時に。うん、おやすみ」

チン!と、受話器を置いてレトロな黒電話を片付ける。
いくら見知った女の子と電話すると言っても、今日の電話は意味が違った。

でーと。
そう、デートだ。

とは言っても、特別などこかに行こうって訳じゃない。
慣れ親しんだ事務所近辺の遊び場を回ってみようという計画だ。

おキヌちゃんと二人だけで出かける。それ自体は初めてじゃないけど。
でも、買い物とか仕事じゃなくて、二人で居る事が目的なんてのは
多分初めてだと思う。

そもそも俺って、デートってしたことあったっけ?
小鳩ちゃんとタダ券でデジャブーランド行った時は、貧のヤツが一緒に居たし。
まともなデートって、実は初めてなんじゃないか!?

明日の事を考えると、少しだけ緊張する。
そもそも、一昨日のアレだって、えらく緊張したし。

結局、あの後オーバーヒート起こして流血して気絶したらしいんだよね。
気がついたら誰も居なくて。っていうか朝になってて。
帰ります、って置き手紙と朝ご飯が作ってあって。

告白した後に気絶なんて、そんなシャイなアンチクショウとは思わなかったよ、俺。

おかげで一昨日は何を言ったか、よく覚えてないけど。
なんかヤバイ事言ってないよな?
…何も、してないよな?

まあいいや、とにかく明日聞いてみればいい。寝よう。










追いつめられて(3)










朝だ。
目覚まし時計を見ると、まだ鳴り出す前。
こんなにすっきりと起きるなんて、珍しいんじゃないか?

歯を磨いてー。
顔を洗ってー。
おお、なんだか健康的だ。
これで朝飯がカップ麺じゃなきゃなぁ。




待ち合わせ場所に到着。待ち合わせの10分前、俺にしちゃ上出来だ。
と思っていたら、もう居る。
小走りでこっちに近づいてきた。

「おはようございます」

「おはようおキヌちゃん」

今日のおキヌちゃんは白いワンピースっていうのか?そういう服を着ている。
見た覚えのない服だ。

「じゃあ、予定通り、まず飯食ってから駅周辺で遊ぼうか」

「そういえば、細かい予定は決めてあるんですか?」

「そりゃあもう。初デートだからな、足りない頭絞って考えたよ。
所謂、定番コースだけどね。」

あれ、なんか赤くなったな。
ああ、そっか。デートって言葉で赤くなったんか。
かわいーなあ。くうっ。




昼食は駅の近くにある喫茶店にした。

「あ、ここは前に来た事ありますよ」

この店は特に美味しいという訳でもないが、店の小道具やメニューが
星占いの12星座をモチーフにしているのが特徴だ。

「そうそう、占いと言えば…」

おキヌちゃんによる占い講座が始まった。
正直あまり興味はないけど、女の子っていうのはこういうもんなんだろう。
六道女学園に通ってるだけあって、専門用語が出るのはさすがだけど。

占星術というのが正式名称で、古代からある一種の魔法科学なんだそうだ。
それも世界中、だいたいどこでも似たようなものはあるらしい。
ここ日本でも古くからあり、卑弥呼も一種の占い師であったそうで。
陰陽師などの術師は占い師も兼ねていて、術の中には星の力を借りるものもあるとか。

「そういや、俺の前世って陰陽師だったんだよ。
ひょっとしたら和風の占い師とか俺に向いているかも」

「へー、そうだったんですか。そういえば、私が生き返って記憶が戻ってない時に
平安時代に行ってきたんでしたね」

このあたりの話は、あまり詳しく話した事はなかったな。

「うん。でもそろそろ次へ行かない?細かく話すと長くなるからね」

それに、ややこしい事情もある。あまり話すのもどうかと思うし。

「それじゃ、まずはニャンジャタウンへ行ってみようか。行った事ある?」

仮に行った事ある場所であっても、問題はない。
一緒にいる人が違うならそれは違う場所に等しい。
何か問題があるなら、これから考えて直せばいい。
昨夜、無い頭を絞って出した結論はそれだった。

「いえ、ありませんよ。この近辺で弓さん達と遊びに行くっていっても
お買い物に付き合ったり、おしゃべりしたりするだけだから」

「うん、じゃあ行ってみようか。俺も行った事ないしさ」




大昔そこにあった代物のせいで、時たま霊障に曝されたビルにやってきた。
勿論、今ではしっかりと浄化され霊現象の欠片もない。
ここに来た目的は遊園地と水族館だ。

「なんだか、不思議な所ですね〜」

なんだこの遊園地は。
それが俺の第一印象だった。
駄菓子屋とデパート屋上の遊園地と縁日の屋台。
それらと混ぜたような印象、と言えばいいのか?

なんだかやたらと渋いアトラクションばかりだけど。

「わあ〜、変わった遊園地ですね。こういうの初めてです」

「俺もだよ…。まあ、とにかく遊ぼう」

「はいっ」

おキヌちゃんのツボに入ったのか、予想以上に喜んでくれた。
鬼の絵が描いてある板にボールをぶつけるとか。
ゴーカート以下のしょぼい車に乗ってみたりとか。

「ちょっと古くさい感じだけど、案外楽しめるもんだなー」

「そうですか?デジャブーランドと比べたら地味かも知れませんけど
こういうのも楽しいですよ。
それに、仕事じゃなくて遊びで来るのは初めてですし」

「んじゃ、大体見て回ったし、次に行ってみようか。」




次は同じビル内にある水族館だ。これも定番中の定番だろう。

「この水槽のお魚、きれいですね」

薄暗い館内で、巨大な水槽に淡く照らされて。
そんなおキヌちゃんもきれいだなー、と思ったけど。

「俺には美味しそうに見えるよ」

まあ、これも本音だし。

おキヌちゃんはペンギンやラッコを見る事ができて喜んでいた。
流氷の天使とやらの捕食シーンは、二人揃って見なかった事にした。




「ここからの眺めって、意外と良かったんですね」

このビルでの定番はもう一つある。
展望台だ。
まあ、単なるビルの屋上とも言うが。

ここから見えるものといっても、大したものは無い。
東京タワー、都庁などの高い建物くらいで明るい時に来ても面白味は無いだろう。
ただ、今は夕方。黄昏時とでも言うのだろうか。
太陽は沈みつつあり、夜景を楽しめる時間になっている。

遠くに見える東京タワーを見て、少しだけチクリとした。
嬉しかった事と、悲しかった事を、思い出したから。

「横島さん…?」

「え、なに?」

「いえ、なんだかぼんやりとしていたから」

いつの間にか、空から赤い色が消えていた。

「いや、いい景色だなって思ってさ。
ここ高いだけあって風が強いな。寒くない?」

ちょっと取り繕うような感じになったけど。
おキヌちゃんは気にした様子もなくて。

「ええ、ちょっと寒いですね」

「じゃあ、暖めてあげるよ」

「えっ…」

瞬間、おキヌちゃんの様子がおかしくなった。
…うわ、俺すげえ台詞言ったなあ。

「い、いや、これがあるからさ」

そう言って文珠を取り出す。
こういう使い方はどうなのかと思いつつも。

【暖】

「ほら、どう?」

文珠を握った手で、おキヌちゃんの手を握る。

「うわあ…あったかい。身体がぽかぽかしますね。
こんなに風が吹いてるのに、むしろ気持ちいいくらい」

「こういう使い方したのは初めてなんだけどね。
上手くいってよかったよ」

おキヌちゃんの手を握ったまま、しばらく空を見ていた。
使った文珠は、使用方法がささやかだったせいか、まだまだ持ちそうな感じだ。
今感じているのが、おキヌちゃんの手のぬくもりではないのがもったいないけど。

「今、感じている暖かさは、横島さんの暖かさなんですね」

でも、おキヌちゃんにとっては違ったらしい。
うん、これは照れるな…


ぐぅ。


ビルの屋上で風も強いというのに、いい音が響いた。
すごいぞ、腹の虫。自己主張しすぎだっての。

「ふふ、そろそろどこかに食べに行きましょうか」

「うん、そうするか」




夕食は、駅近くのパスタ屋にした。さすがに牛丼屋とかは選ばない。
かといって、高すぎる店でもない。

「今日は楽しかったです。それに、全部横島さんの奢りだなんて、初めてですね」

「いつもお世話になってるから、これくらいはね。
それに、前はあまり遊ぶ余裕も無かったし」

今の俺は、それなりの収入を得ている。あくまでもそれなり、だが。
時給は人並みかそれ以下でも、一人で請け負う仕事の場合は依頼料の一部が貰えるから
以前とは比較にならない程潤っているのだ。

…本当に、以前とは比較にならない。涙が出るくらいに。
ただ、金を稼ぐようにはなったけど、生活そのものはあまり変わっていない。




「この後は、何か予定はありますか?」

食事を終えて店を出て、どうしようかと聞こうとした所で尋ねられた。
しかも俺の手を握られて。

「特別なのは考えてないけど…少し散歩でもしようか」




そして来たのは公園。夜の公園だ。
俺が女の子と一緒に夜の公園なんぞに来る日が来ようとは。
こういうのを感慨深いというんだろうなあ。くぅ〜。

「公園で散歩っていうのも、一度やってみたくてさ」

こういう夜の公園というのもお約束で。
今の時期、少し肌寒くても問題はないっ。
いざとなったら、さっきの文珠もあるしな。

「どこかで座って話しませんか?」

こっちが提案しようとした所で、また先を越された。
手近なベンチに腰掛けると、ぴったりとくっつかれる。
ああ。神様ありがとう。
こういうシチュエーションを味わえる日が来るとは。

いやいや、浸っている場合じゃなくて。
一昨日の話をしておかないと。

「ちょっと聞きたいんだけど…」

「はい?」

「一昨日の夜の事なんだけど。
気がついたらおキヌちゃんが居なくなっててさ。」

「ええと?」

「う、あの。おキヌちゃんをこう、抱きしめた後の事が…」

「もしかして、覚えてないんですか…?」

「え。」

「ひどいです…」

…俺、ひょっとしてやっちまったのかー!!??
もったいねー!!!

いやいやいや、そうじゃない。

「お、俺、なんかマズイ事言ったりやったりしちゃった?」

そう、そこを確定させなくては!

「いえ、何も」

「は?」

「冗談ですってば。くすっ」

うう。おキヌちゃんもやるようになったなあ。

「えっと、じゃあ、あの後俺はぶっ倒れてただけ?」

なんてこった。安心したようなもったいないような。
なんだか涙が出ちゃうよ。

「ああもう、泣かないで下さい」

ここらで、そろそろ逆襲だ。
やられっぱなしじゃないぞ。

「うう。どうせ俺はこんなんばっかなんや。
セクハラ男のくせに、いざとなったら駄目なんやー!」

「本当にもう…仕方ないですね」

ぎゅう。

と、抱きしめられた。
よっしゃ!

「お、おキヌちゃん…。い、い、いいの?」

今夜は熱い夜にしちゃったりしていいのか!?

「いいも悪いもないですよ。
…大事にしてくれるんですよね?」

「そりゃもちろん!」

「浮気しちゃ、やですよ?」

うっ。

「はっはっはっ!もちろんさっ!」


乾いた笑いになっちゃうのは何故だろうな。
ああ、おキヌちゃん黙っちゃうし。



そうだ、こっちから大事な事を言っておかなきゃ。



「あのさ、おキヌちゃ「…私が、恋人になって、いいんですか?」

また、先を越されたな…。

「…ああ」

「私の他にも、横島さんの事を好きな人はいっぱいいますよ?」

「…そう…かも、知れないな」

シロは、多分、師匠と弟子とか以上に俺の事を想っていてくれている。
小鳩ちゃんも、押したら押し倒せてしまいそうな気がする。
美神さんは…どうだろう。俺の事をどう思ってるかな。
頼りない助手?情けない弟?
少なくとも、嫌われてはいないだろう。

「それでも、私を選んでくれますか?」

ああ、比べようとしてたな。駄目だ、こんなんじゃ。
それに、それでも、じゃない。そんな事言わせちゃ駄目だ。

「あの時さ。南部グループの時。失礼な事言ったけど。こーなったらもー、って。
あの時は興奮しちゃって、あんな事言っちゃったけど、違うんだ」

俺に抱きつくおキヌちゃんの手に、力が入る。

「女の子から好きって言われたの、初めてだったし。
恋愛とか、よく解らなかったし。好きな子から好きなんて言われたから
混乱したんだと思う」

そう、おキヌちゃんが、初めてだったんだ。
それなのに、ちゃんと答えてなかったから。

「俺の事を、大切に思ってるって、態度でも、行動でも
言葉でも伝えてくれたのは、おキヌちゃんが初めてなんだよ」

義理とか、そういうのが無いとは言わない。
でも、今回は気持ちを伝えたい。
…この娘には、伝える事ができるんだから。

「昔からずっと、俺の世話をして、心配してくれて。
ずっと、俺を見てきてくれたから。だから、おキヌちゃんを選びたい。
俺の恋人にしたいんだ」


ますます、おキヌちゃんの手に力が入る。
少し、風が冷たく感じるけど、暖かい。
屋上で使った文珠よりも、ずっと。


「ふふ、なんだか、横島さんらしい気がします。
ありがとう…っていうのも変ですよね。
正直に言ってもらえて、嬉しいです」

まだ、言い足りない、伝えきれていない。
でも、今はこれで精一杯…かな?

「じゃあ、私からの答えです」

ちゅっ。

「こちらこそ、よろしくお願いしますねっ。
できるなら、ずっと、一緒に歩いて行きたいです…」

軽く啄むように、優しく。
そんなキスだった。



そのまま、しばらく抱き合ったままでいた。
と言うより、動けなかった。
こうなると、なかなか離れられないもんだなあ。



「こういうのって、照れくさいもんだね」

「私は、嬉しいですよ?」

うわあ。益々照れくさい。

「…今日は確か、デートでしたよね?」

「え、うん?」

ん?今更な疑問だな?

「定番コース、って言ってましたよね?」

「ああ、普通っぽいのを心がけたつもりだけど」

「じゃあ、この後は?」

「え゛?」

この後と仰いましたかこのお嬢さんは。

確か北口にそーいう場所がたくさんあったはず。
いや待て。待て待て。

「私だって、子供じゃないんですよ?
それなりに、色々と知っているんです」

は?どういうことよ??
俺の顔を見て、察したのか、決定的な事を言う。

「今の人よりも、昔の人の方が進んでいたりするんですよ?」

そう言って笑うおキヌちゃんは、一瞬知らないお姉さんみたいに見えて。









そうして、俺達は……









朝だ。
目覚まし時計を見ると、まだ鳴り出す前。
こんなにすっきりと起きるなんて、珍しいんじゃないか?

歯を磨いてー。
顔を洗ってー。
おお、なんだか健康的だ。

今朝は一人じゃないけどなっ。

「おはようございます、今日は早起きなんですね」

「おはよう、おキヌちゃん」

…駄目だ、まともに顔が見られない。
男が照れてどうするよ。

しかし、これは聞いておかないとな。

「どうして、あんな事を?」

これだけで、何を聞きたいのか理解したようで。

「…遠慮して欲しくなかったんです。ああやって言えば、その」

そうか。
そういう事か。いつもいつも、気を使わせてるんだな…。

「あの、こういうことも含めて、一歩目から一緒に歩きたいな、って。
きゃっ」

そう言って照れるおキヌちゃんの顔は、今までと違って見えた。

とても、とても、奇麗に見えた。

そんな、気がした。




「お、おっきぬちゃーん!!」

「ちょ、また!?待って、きゃあ!」










続く

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa