頑張ってもいいですか?
投稿者名:S
投稿日時:(06/ 5/29)
「う、わぁ 赤ちゃんですか?」
はしゃぐおキヌちゃん。いや、あの
「触ってみます?」
「いいんですか?……わぁ」
何というか……ものすごく居たたまれないような……針の筵というか……
できれば今すぐここを離れたいけど、でもそうすると男としてとてつもなくアレなレッテルを貼られてしまうような気がするっ
たまたま通りかかった公園でちょっと一息入れていこうかとおキヌちゃんに声を掛けた。
いいじゃんまだ時間余裕あるし、ジュースくらい奢るから。給料が出た俺はかなり豪気になっていた。え? 後で泣きを見るのは俺だって? うう否定できない。
結局おキヌちゃんの方から割り勘を申し出てくれた。情けないなあ ジュースと言わずファーストフードのセットくらい奢れるようになりたいけど、現実食事の面倒を見てもらってるのは俺の方だったりする。
「どうしたんですか?」
「いや、働けど働けどってさ」
「ああ、啄木ですね……ええと、横島さん、ふぁいとですっ きっとそのうちもしかしたら、あのっ」
「いいんだおキヌちゃん、俺だって分かってるから」
あはははは と、こぼれそうになった涙を缶コーヒーと一緒に流し込む。ちくしょう、しょっぱいなぁ。
「ええと、美神さん、この間横島さんのこと褒めてたんですよっ ですから次かその次かその次か、とにかく時給上げてくれるかもしれないですっ」
「ありがとう……おキヌちゃん」
たとえそれが気休めだとしてもこうして一生懸命慰めてくれてるのが分かるから俺もまた頑張ろうっていう気になれるんだ。
「ぷっ くくっ」
え?
振り向いたらすぐそこのベンチに女の人が腰を下ろしていた。
うわ、どうして気がつかなかったんだろう。もしかして俺ものすごく恥ずかしい姿を晒してたんじゃないか?
事実、口を抑えて一生懸命笑うのを堪えようとしてる。
「ご、ごめんなさい、笑うつもりなんてなかったのに」
もの凄く苦しそう。いいですから、思う存分笑ってやってください。その方がいっそすっきりしますから。
「はぁ、はぁ……あの、本当にごめんなさい」
「いえ、でも大丈夫ですか?」
「ええ、もう」
俺たちのやりとりはどうやら彼女のつぼにモロにはまってしまったらしい。散々笑われた、けど不思議と嫌な気持ちにならなかったのは、彼女の人柄なんだろうか。陰なものが欠片も感じられなかったから、なのかな。
おキヌちゃんも彼女の隣に座って背中を摩ってあげてる。というか、途中から俺たちも一緒になって笑ってたしな。
改めて挨拶を交わして、美神さんより二つ三つ年上かな? セミロングの黒髪を自然に後ろに流して、目元が優しい。
それと、妙にゆったりしたワンピース。そのせいか、身体のラインが……あれ?
俺たちの目線を感じたのか、彼女がふわりと微笑んだ。
「分かります?」
そうして、おキヌちゃんの白い手が、彼女のお腹にそっと
「……わぁ」
おキヌちゃんの顔がぱっと輝いて、彼女ととてもよく似た微笑が浮かんだ。
その瞬間、俺の胸が何故かどきんと
「今、7ヶ月なの」
「すてきですね……赤ちゃん」
おキヌちゃんの口が、いいなぁ って動いたような気がする。
男の俺が入っていけない空気。でもここにいたいような気もする。分からん。尻の辺りが無図痒くって
「少しは身体を動かした方がいいんですって。だから天気がいい日はこうして散歩するの」
「ああ、昨日まで雨でしたものね」
二人、何だか仲のいい姉妹にも見える。おキヌちゃんもあと何年かしたら、彼女みたいになるんだろうか。
こんな風に微笑んで
「あ、あの」
「はい?」
「俺も、触らせてもらっても、いいっすか?」
「ええ、どうぞ」
あったかかった
不思議と、おふくろの姿が思い浮かんだ。親父がおふくろのお腹に手を当ててた。丁度今の俺みたいに。
「ここに……いるんですね」
「ええ」
それじゃあ、お気をつけて。
ありがとう、貴方達も。
何か、ちょっと夢でも見てたような気分だ。
「すてきな人でしたね」
「ああ、きっと優しいお母さんになるよ」
そう、俺だって
「よっしゃぁっ! 俺もやるぞぉっ!」
気合を入れ直す。
俺だって、あの小さなぬくもりのためだったら、頑張れるかもしれない。親父も、爺さんも曾爺さんも、きっとそうやって頑張ってきたんだと。
「私も がんばりますっ」
むんと可愛く気合を入れるおキヌちゃん。
そうか、よく分からんが頑張れっ ええ、応援してくださいねっ
二人して、妙なところにギアが入っちゃったらしい。手を繋いで足取りも軽く。
「うふふー、赤ちゃんかぁ」「いいよなぁ、赤ちゃんって」
そのテンションのまま事務所に帰った俺たち、というか俺は、何故か真っ青になった美神さんに思いっきりしばき倒された。
「何であんたらいきなりそんな関係になってるのよーーっ!!」
そんな関係って何だっ よく分からんが誤解だ話せば分かるぎゃああああぁぁっ!!
遠ざかる意識 何故か真っ赤になってるおキヌちゃんが
あれ?
『赤ちゃんかぁ……いいなぁ』
ええと もしかして
『私も がんばりますっ』
手、繋いで あれ?
もしかして、俺
おキヌちゃんに 頑張ってもいいですか?
Fin
――――――――――――――――――――
二人の気持ち通じ合ってるのか、それとも今はまだすれ違ってるのか、その辺は謎(笑)
ちなみに美神さんは記憶ごと消し飛ばす気満々(待て)
今までの
コメント:
- 身悶える、というのはこういう時にこそ使う言葉なのでしょう。
もー床をバンバン受身のごとくあっちゃこっちゃしております。
美神さんはきっとへそくりしておいた「忘」の文珠を使うんでしょうね。 (とおり)
- 痒いですね。掻いてもいいですか?(笑
いや、またもや素晴らしい作品、有難うございます。
女性キャラよりも、横島が素晴らしいと感じた私はおかしいでしょうかw
ズキュンと胸に来ましたので、賛成票です。 (高寺)
- 存分に頑張りたまえっ!っとゴロゴロしてしまいましたよ(笑)
いやぁ、糖分どころの話じゃないですねーw
ごちそうさまでしたw (ちくわぶ)
- 当然いいに決まってます・・・て言うか頑張れ。色々と道は険しくても(笑)
何を意味する事になるか気付かないまま、何となく「頑張ろう」な気分で手を繋ぎ合ってる二人が(おキヌちゃんだけは微妙に意識してそうで)ほのぼのとイイ感じでした。 (フル・サークル)
- 頑張れ。おキヌちゃん。がんばれっ……美神さんもっ。
横島君の進歩に一票ですっ。 (ししぃ)
- これ以上は無い位甘々な雰囲気を漂わす二人が最高ですw (偽バルタン)
- おキヌちゃんだったらきっと優しいお母さんになれますね。
なんとも甘痒いお話をありがとうございます、こんちくしょう ヽ(`Д´)ノ (美尾)
- 大いに頑張りましょう(ぉ
いいなぁ、こういうほのぼのが横島とおキヌちゃんの距離を確実に縮めてくれますね。
しかもお互いテンションアップで手をつないで歩くっ (長岐栄)
- >とおりさん
感想ありがとうございます。
横島が頑張ろうと思ったのって、ラストで美神さんにしばかれたのがきっかけのような。
それってもしかしなくても美神さんの自爆(笑)
予想外の効果を見せるのが文珠ですから、きっとまた美神さんが絶叫するようなことが起こるんじゃないかなー(笑)
>高寺さん
感想ありがとうございます。
横島って変に格好つけようとしないところが書いてて楽しいし気持ちいいから、つい気合が入っちゃうのかも(笑)
>ちくわぶさん
感想ありがとうございます。
障害が大きいほど頑張り甲斐があるんです(笑)
これからもことあるごとにしばかれるでしょう。
>フル・サークルさん
感想ありがとうございます。
天然癒し系でもおキヌちゃんだって女の子ですから、そりゃ色々あるんです(笑)
>ししぃさん
感想ありがとうございます。
ですね。
何だかんだ言って横島ってこの二人に鍛えられて成長していってるぽいですから。
でも美神さんももう少し素直にならないと(笑)
>偽バルタンさん
感想ありがとうございます。
妊婦さんのお腹に手を当てて微笑んでるおキヌちゃんが書きたかったんです(ふとそのイメージを幻視しちゃったので)
やっぱり赤ちゃんってすごいと思ったり。
>美尾さん
感想ありがとうございます。
私もそう思います。
だからおキヌちゃんが好きなんですよー(笑)
>長岐栄さん
感想ありがとうございます。
はい、懐かしいチャーミー○リーンのCMを意識してました(笑) (S)
- いいですね。是非頑張ってもらいたいものですっ(力説)
大胆なようで、それでも精一杯の告白、美味しかったです。 (aki)
- 何気ない一言の中にあった彼女の思いを読み取って、忠夫君一大決心。
いやぁ、初々しいですな。こういう頑張りは大いに推奨です。
なんだかとっても変な方向に向かった結果がこういう幸せなほのぼのしたところにいくのならば。
きっと今回の彼は殴られ損ではなかったでしょうな(笑) (天馬)
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